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ちなつ「その一歩手前で」
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1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/11/03(木) 20:19:56.27 ID:FjxeqMqy0
-
「あれ、ちなつちゃん?」
不思議そうな声がして、私は手に提げていたコンビニ袋をばっと後ろに
隠した。
ゴールデンウィーク初日。しばらく結衣先輩に会えないから、それならその寂しさを紛らわすためにも
そしてなにより次に結衣先輩に会うときのためにも、練習しておこうと思って買ったちょっとしたお化粧用品。
もちろん、学校が始まってもしていくつもりなんてないし、今後のためにも、だ。
ちなつ「あ、あかりちゃん……」
あかり「わぁ、偶然だね、こんなとこで会うなんて!」
中学校に入学してから知り合った赤座あかりちゃんは、さも親しそうに声を
かけてくる。「コンビニ行ってたんだ、なに買ったのー?」とにこにこ笑いながら
手元を覗き込んでこようとするし。
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6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/11/03(木) 20:33:35.75 ID:FjxeqMqy0
-
さすがにこんなの買ってるところなんて友達になったばかりのあかりちゃんには
知られたくない。
恥ずかしい。
ちなつ「な、なんでもないよ!?」
あかり「え、そう……?
こくこくっと頷いて、「それより!」と話題を変える。
「あかりちゃん、どこか行こうとしてたの?」
そう訊ねると、あかりちゃんは「えーっと」と困ったような顔をした。
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7:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/11/03(木) 20:39:06.71 ID:FjxeqMqy0
-
あかり「どこかへ行きたいなぁと思ってお散歩してたんだけど、結局どこに行きたいか
決まらなくって」
ちなつ「そうなんだ……」
そんなに暇だったのかな。
ずっと思っていたけど、あかりちゃんって不思議な子だ。
あかり「ちなつちゃん、どこかいいとこ知らない?」
ちなつ「うーん」
あかり「というかあのね、ちなつちゃん」
ちなつ「うん?」
あかり「あかり、ちなつちゃんと遊んでみたいなって」
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10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/11/03(木) 20:43:46.71 ID:FjxeqMqy0
-
なんとも率直な。
まわりくどくない子は嫌いじゃないけど、
「ちなつちゃんともっと仲良くなりたいって思ってたんだぁ」と嬉しそうに笑うあかりちゃんを
見ながら、率直過ぎるのも照れ臭いなと思った。
ちなつ「えっと、まあいいけど……」
ほんとは帰ってからひそかに集めた結衣先輩の写真だったりを眺めて過ごしたかったけど、
こういわれれば断るわけにはいかない。
それに、時にあの京子先輩をも圧巻させるあかりちゃんのことに、少し興味が
あったから。
あかり「えへへ、やったぁ!」
ちなつ「……」
あかり「どうしたの?」
ちなつ「ううん、素直に喜ぶなあって」
あかり「よく言われるよぉ」
-
11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/11/03(木) 20:48:12.68 ID:FjxeqMqy0
-
よく言われるっていうことをにこにこしながら言うなんて。
やっぱりなんだかあかりちゃんの感覚というか、そういうのがわからない。
あかり「それじゃあどこで遊ぼっか?」
ちなつ「あっ、あかりちゃんは行くとこ決まってなかったんだっけ」
あかり「ちなつちゃんもコンビニ行って帰るとこだったの?」
ちなつ「うん、なら家に来る?」
荷物を持ったままうろうろするのも面倒臭いし、家に呼べばもっと仲良くなれると
聞いたこともある。ほんとは結衣先輩を最初に家に呼びたかったけど、まあいっか。
あかりちゃんがぱあっと目を輝かせる。
-
13:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/11/03(木) 20:51:57.59 ID:FjxeqMqy0
-
あかり「いいの!?でもでも、突然お邪魔したら迷惑じゃないかなぁ?」
ちなつ「大丈夫大丈夫、今家には誰もいないから」
そう言いながら、私は歩き出す。
あかりちゃんは「そっかぁ」と言いながら後ろを小走りについてきた。
なんだろう、あかりちゃんって子犬みたいだ。しかもいつでも尻尾をふってる
人懐っこすぎるほど人懐っこい子犬。
ちなつ「……あかりちゃん」
あかり「なあに?」
ちなつ「知らない人についてっちゃだめだよ?」
あかり「いかないよ!?」
-
14:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/11/03(木) 20:56:45.35 ID:FjxeqMqy0
-
◆
あかり「ここがちなつちゃんのお家かぁ」
家の前に着くと、あかりちゃんは「わぁ」と声を上げて家を見上げた。
「意外?」と訊ねるとうん、と返って来る。
あかり「ちなつちゃんはもっと洋風のお家かなぁって思ってたよぉ」
ちなつ「私もそういうとこに住みたかった!」
あかり「でも落ち着くしいいんじゃないかなぁ、あかり畳好きだよ」
むしろあかりちゃんってなんでも好きそうだ。
そう思ったことは秘密にして、あかりちゃんを家に招き入れる。
-
18:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/11/03(木) 21:00:24.57 ID:FjxeqMqy0
-
あかり「お邪魔しまーす」
ちなつ「どうぞ」
そう言いながらお姉ちゃんのブーツやお父さんが脱ぎ散らかしていった靴をきちんと
並べていく。
あかりちゃんとはいってもお客様なんだから、出来るだけ綺麗にしておかないと。
あかり「すごく木の匂いするねぇ」
ちなつ「そうかな?」
あかり「これがちなつちゃんの家の匂いかぁ」
玄関口ですーっとあかりちゃんが息を吸い込む。
私は慌てて「かがなくていいよ!」とあかりちゃんを中へ押し上げた。
-
19:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/11/03(木) 21:07:33.68 ID:FjxeqMqy0
-
あかり「えへへ、ごめんねー」
ちなつ「ううん、いいけど……」
いいんだけど人の家に来てあんなふうなことを言う人は初めて見たよ。
私はあかりちゃんの背中に触れていた手を離して、奥の客間に案内する。
あそこなら散らかっていないし畳でしかも縁側があるからあかりちゃんも喜ぶだろう、たぶん。
それになにより私の部屋へ案内するわけにはいかない。結衣先輩の写真やその他色々散らかり放題だし。
ちなつ「ちょっとここで待っててくれないかな?」
あかり「あ、うん、わかった!」
ちなつ「お茶でいい?」
あかり「えっ、べつにそんなのいいよぉ!」
さすがに何も出さないのはまずいでしょ。
私は「遠慮しないで」とあかりちゃんが慌てるのを無視して襖を閉めた。
-
21:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/11/03(木) 21:12:38.73 ID:FjxeqMqy0
-
――――― --
とりあえず台所で冷たい麦茶を二人分、コップに注いでさっきの部屋に戻る。
残念ながらお菓子もなにもなかった。
そういえばごらく部でも教室でも、ずっと他の誰かと一緒だったから二人で話したことって
ほとんどない。
今更ながら、二人っきりであかりちゃんと何を話せばいいのかわからなくなって
少し緊張し始めた。
なんで今更なのよ私!ていうかあかりちゃん相手に緊張する必要なんて――!
ちなつ「……」
お盆に載せたお茶を冷やす氷がカランと音をたてた。
とりあえず、中に入ってあかりちゃんにお茶出して、話はそれからだ。
なんだかいつも突然やってくる杉浦先輩になったみたいだ。
(あの人がどういうつもりでうちの部室に来ているのかはわからないけど)
-
22:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/11/03(木) 21:16:59.91 ID:FjxeqMqy0
-
ちなつ「あかりちゃんっ」
バンッ
襖を開いて、ぎょっとする。
あかりちゃんが、どこにもいない――
ちなつ「あかりちゃん?」
もう一度声をかけると、「あ、ちなつちゃーん」と間延びした声が聞こえてきた。
よくよく見れば、部屋の奥、縁側に繋がる襖にあかりちゃんの影がいた。
つかつか部屋に入ってとりあえずお盆をテーブルに置くと、その襖を控えめに開ける。
ちなつ「……」
あかり「えへへ、びっくりした?」
膝で隣のお家の猫をごろごろさせながらあかりちゃんが笑って私を見上げた。
さっきはあんなに遠慮していたのに、いつのまにこんなに家に馴染んだんだろうっていうほど
その光景に違和感はなかった。
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23:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/11/03(木) 21:20:59.20 ID:FjxeqMqy0
-
あかり「ここ、気持ちいいねぇ」
ちなつ「あ、うん……」
とりあえずあかりちゃんの隣に腰を下ろす。
少しだけ距離を置いて。あかりちゃんの膝で目を閉じていた猫が、ぴくっと薄く目を
開けた。
うっ。
思わず肩を震わせると、あかりちゃんが「もしかして猫さん嫌い?」と訊ねてきた。
ちなつ「嫌いっていうか、その猫だけは特別で……」
昔から会うたび睨んでくるし、だいたい飼い主の人にさえ懐いているかどうか
謎のこわい猫で、しかも私は嫌われているみたいだったからこうして間近で対峙するのは
小さい頃以来だ。
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25:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/11/03(木) 21:24:22.12 ID:FjxeqMqy0
-
あかり「可愛いのになぁ」
確かに間近で見ると、強面に見えたその顔も可愛らしく見えてくるものだけど。
あかりちゃんがそっと猫を撫でると、その猫はまたごろごろ喉を鳴らし始める。
こんなにこの子が誰かに懐いてるところなんて初めて見た。
しかもこの短時間の間に。
ちなつ「あかりちゃん、動物の扱い上手いんだ……」
あかり「えぇ、そうかなぁ?」
ちなつ「絶対捨て猫拾ったことあるよね」
あかり「捨て猫はないけど捨て犬はあるよぉ。だって、可哀そうだもん」
そう言いながら、あかりちゃんはその捨て犬の代わりにごろごろ喉を鳴らし続ける猫を
ぎゅっと胸の前で抱き締めた。
なんだかあかりちゃんの背中に天使の羽でも見えそう。
-
28:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/11/03(木) 21:29:31.55 ID:FjxeqMqy0
-
そのとき、「りっちぃー戻ってきなさーい!」という声が。
あかりちゃんに抱かれていた猫がびくっと反応する。
それから威嚇するようにふーっと息を荒くする。正直こわい。
あかり「あれ、怒っちゃってる?」
ちなつ「み、みたいだね……飼い主の人が呼んでるから」
あかり「あっ、飼い主の人なんだ。なら帰らなきゃいけないね」
あかりちゃんはようやく気付いたように、縁側の外に、猫を出した。
猫がにゃーと鳴いて振り向く。あかりちゃんはにこにこ笑って手を振った。
あかり「飼い主さんんところに戻らなきゃ心配されるよぉ。また会いに来るからねー」
すると、その言葉が通じたのか猫はもう一度小さく鳴いてばっと塀を乗り越えて
あっという間に消えてしまった。
あかりちゃん、すごい。
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30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/11/03(木) 21:34:12.90 ID:FjxeqMqy0
-
猫が見えなくなると、あかりちゃんは「さっき猫さんの鳴き声がしたからこっちに来てみたんだよぉ」と
膝を少し払ってから立ち上がった。
あかり「勝手にごめんね」
ちなつ「あ、ううん」
一瞬でも図々しいんじゃないかと思ってしまった私のほうがむしろ謝らなきゃ
いけないんじゃないかと思ってしまうほどに、あかりちゃんの瞳は真摯だ。
なんというか、ほんとにあかりちゃんはいい子だ。
ちなつ「お茶飲む?」
とりあえずもう一度部屋に入ると、私は氷のとけはじめたお茶をあかりちゃんに
勧めた。あかりちゃんは「ありがとー」と嬉しそうに受取る。
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32:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/11/03(木) 21:41:18.40 ID:FjxeqMqy0
-
ちなつ「普通のお茶だけど」
あかり「もらえるだけでも嬉しいよぉ」
そう言いながらあかりちゃんはずずっとお茶を口に含んだ。
こくんと飲み込んで、「やっぱりちなつちゃんのお茶美味しいなぁ」と恍惚な表情で
溜息。
ちなつ「えっ、そうかな?」
あかり「部室で淹れてくれるお茶も、いっつもすごく美味しいなぁって思ってるんだよ」
ちなつ「これ淹れたのはお姉ちゃんだけどね」
でも一応茶道部志望だった私としては、素直に嬉しいかもしれない。
それなりにこだわって淹れているお茶だから。
あかり「えっ、お姉さん!?」
ちなつ「うん、前にもお姉ちゃんいるって話してたよね」
あかり「あ、そういえばそうだねぇ……。」そっかぁ、お姉さんかぁ」
あかりちゃんはもう一度お茶を飲みながら、
「だったらちなつちゃんは、最高のお茶汲みさんだね!」と笑った。
ちなつ「えっ、なんで?」
あかり「だって、お姉さんは茶道部の人だったんだよね?それに負けないくらい、
ちなつちゃんのお茶、美味しいもん」
-
34:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/11/03(木) 21:45:30.53 ID:FjxeqMqy0
-
ちなつ「そ、そっか……ありがと」
うぅ、さすがにそんなことを真面目に言われてしまったら照れちゃうよ。
あかりちゃんが少し赤くなった私に気付いてか、「えへへ」と笑った。
なんだかんだいって、私はあかりちゃんに勝てそうにないかもなあ。
別に勝負とかするわけじゃないけど、色々と。
そんなことを思いながら、私もずずっと冷たいお茶に口をつけた。
-
36:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/11/03(木) 21:52:04.51 ID:FjxeqMqy0
-
―――――
―――――
最初の心配はどこへ行ってしまったのか、私とあかりちゃんの会話は弾む一方で、
気まずい沈黙なんてどこにもなかった。好きなものや嫌いなものはまったく違うのに、
一緒にいても苦にはならない。
前に京子先輩があかりといると飽きないって感じのことを真面目な顔で漏らしていたけど、
納得できる気がする。(ちなみに存在感薄いからかなーとぼやいていたのは忘れることにしよう)
あかり「それで結衣ちゃんがね」
ちなつ「結衣先輩が!?」
けど。
がたっと身を乗り出させると、あかりちゃんがぎょっとしたように身体を後ろへ退いた。
しまった、少し興奮しすぎてしまったみたいだ。
-
37:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/11/03(木) 21:55:54.41 ID:FjxeqMqy0
-
結衣先輩のことになると、どうしても興奮してしまうのは悪い癖だ。
さすがのあかりちゃんも、「さっきからずっと思ってたんだけど……」とおずおず
切り出してきた。
まずいっ
そう思った私は、話題を切り替えようとあたふたして。
ちなつ「あっ」
机の下にあったコンビニ袋を外に蹴りだしてしまった。しかも運が悪いことにあかりちゃんのすぐ近く。
さっきお茶をいれるときに置いてってしまったことに気付き、部屋に持って行くのも面倒臭くて
あかりちゃんに見えないように下に隠してあったのだ。
あかり「あ、これさっきの?」
-
38:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/11/03(木) 22:00:04.19 ID:FjxeqMqy0
-
ちなつ「えっ、う、うん……」
頷きながら「ごめん、こっち貸してくれる?」とさらに焦りながらあかりちゃんに
手を差し出した。あかりちゃんは「うん」と頷いて私に袋を渡してくれようとした。
なのに私ときたら。
あかり「わっ、落ちちゃったよ!」
手が滑って、袋が逆さまになってテーブルのうえにがさがさと落ちてしまった。
中に入っていた化粧品が袋から飛び出す。
さすがに一年生からこんなの持ってたらマセてるとか思われるんじゃ。そう思われるのは
別に構わないけど、なんでか恥ずかしいものは恥ずかしい。というか、悪戯が見付かったときのような
心境だ。
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39:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/11/03(木) 22:03:11.61 ID:FjxeqMqy0
-
私は観念して、ちらっとあかりちゃんを見た。
あかりちゃんと目が合う。
あかり「これ全部ちなつちゃんの?」
ちなつ「え、えーっと……」
お姉ちゃんの、と言ってもいい気がしたけど、私がこの袋を持っていたことを
知られていたからそう言っても信じてもらえない気がする。
ちなつ「ちょっと、やってみたいなあって思って……」
仕方なくそう漏らすと、あかりちゃんは「あかりも!」とぱんっと手を叩いた。
あかりちゃんは「憧れてたんだぁ」と笑う。
まあ女の子だから誰でも憧れるだろうけど。あかりちゃんの様子に、とりあえず安堵。
-
41:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/11/03(木) 22:07:38.28 ID:FjxeqMqy0
-
あかり「ねえ、あかりもお化粧、してみていいかな?」
ちなつ「えっ」
私は一瞬驚いてから、いいよと頷いた。
最初は誰かの前でするなんて恥ずかしいと思っていたけど、こうなったらむしろ
誰かと一緒にやってみたほうが楽しい気がする。
あかり「口紅だけでも塗らしてくれないんだよぉ、うちのお母さん!」
ちなつ「あ、うちもだよ!第一こんなの見付かったらすぐに取り上げられちゃうし」
あかり「じゃあすごく悪いことしちゃってるのかなぁ、あかりたち」
ちなつ「お化粧自体が悪いことじゃないし、大丈夫だよ!」
あかり「えっ……う、うん、でもそうだよね!」
そんなことを話しながら、二人で手探り手探り、買ってきたものを塗りたくって
いく。
-
45:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/11/03(木) 22:11:54.12 ID:FjxeqMqy0
-
そして数十分後、「できた!」と声が揃った。
二人で顔を見合わせる。
ちなつ「……」
あかり「……」
噴出したのはどっちが先だっただろう。
あまりにもあかりちゃんの顔がひどすぎて。そして、鏡で見直した自分の顔も
なんともひどい有様で。
ちなつ「あかりちゃん……、色々はみだしちゃってるっ!」
あかり「そ、そういうちなつちゃんだってすごいことなっちゃってるよぉー!」
-
47:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/11/03(木) 22:15:20.22 ID:FjxeqMqy0
-
面白くてしかたない。
こんなに笑ったのって、もしかしたら久し振りかもしれない。
ちなつ「でも、初めてにしちゃ上手いよね私!」
あかり「あかりだってきっと上手だよぉ!」
ちなつ「それで?」
あかり「ちなつちゃんこそ」
そう言って、また顔を見て笑ってしまう。
誰かの前で大口開けて笑っちゃうなんて、はしたないけどすごく楽しい。
ひとしきり笑い合ったあと、私たちはようやく落ち着いた。
笑いすぎて出た涙がまたひどい顔に仕立て上げちゃっているけど。
-
49:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/11/03(木) 22:20:49.07 ID:FjxeqMqy0
-
あかり「あー、びっくりしたぁ」
ちなつ「お化粧ってこわいね……」
あかり「うん、こわいね……」
また笑い出しそうになるのをこらえていると、あかりちゃんは「あとしばらくは
お化粧しなくてもいいかなぁ」と言って笑い出す。
もう、せっかく人が我慢してるのに。
あかり「こんな怖い顔になるくらいなんだったらもう少し大人になってからでいいや」
ちなつ「そうだねー」
あかり「それにお化粧しなくってもちなつちゃん、可愛いもんね」
ちなつ「なっ!?」
突然そんなこと言うなんて、あかりちゃんはやっぱりわからない。
私もだから、赤くなりそうなのをなんとかしながら「あかりちゃんだって素のほうが可愛いよ!」と
言い返してみる。あかりちゃんが「えぇっ!?」と赤くなる。
お互いそんなだから、目が合うと結局私たちはまた笑い出してしまった。
-
54:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/11/03(木) 22:36:36.98 ID:FjxeqMqy0
-
◆
洗面所でお化粧を洗い流して、ようやくすっきりした。
元通りに戻った私たちは、ほっと息を吐く。
まだなんだか変な感じだけど、面白かったなあ。
ちなつ「またやっちゃう?」
あかり「さっきもう大人になってからって言ってたのにー」
ちなつ「でも面白かったんだもん」
あかり「えへへ、やっちゃおっか」
そんなことを言い合いながら、私はコンビニ袋に仕舞いなおした化粧品を
洗面所のすぐ近くにある自分の部屋に置こうと襖を開けた。
それからはっとする。すぐ後ろであかりちゃんが「ここ、ちなつちゃんの部屋?」と
興味深々に覗いていた。
-
56:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/11/03(木) 22:40:00.68 ID:FjxeqMqy0
-
しまった、つい油断というかなんというか。
私は慌ててあかりちゃんと部屋を遮るように襖を閉めると、「う、うん!」と頷いた。
あかりちゃんが入ってもいい?というように私を見てくる。
ちなつ「ちょ、ちょっと待って!」
ここであかりちゃんを追い返すのは悪い気がして、私はそう言い置いてさっと部屋に
引っ込んだ。
とりあえずこの汚い部屋をなんとかすれば――
ちゃんと布団もたたんでゴミはゴミ箱に。
あ、それから教科書も元通りに戻さなきゃ。結衣先輩の写真は本棚の下に。
なんとか数分で終わらせると、私はとりあえず襖を開けて「入る?」と言ってみる。
あかりちゃんはもちろんだというように大きく頷いた。
-
59:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/11/03(木) 22:44:31.48 ID:FjxeqMqy0
-
あかり「ここがちなつちゃんのお部屋かぁ」
ちなつ「あ、あんまりじろじろ見ないでね?恥ずかしいし……」
あかり「大丈夫だよぉ、あかりの部屋、こんなに綺麗に片付いてないもん」
それは私だってそうで、むしろあかりちゃんの部屋よりも汚いんじゃないかって
思うほどで。
今はなんとか片付けられたからいいとして。
あかり「えへへ、ちなつちゃんの匂いがするー」
ちなつ「えっ」
端に追いやった布団をぽんぽんしながらあかりちゃんが言う。
なんというか、本当に犬かなにかみたい。
最初はぎょっとしたのに、それに慣れてむしろ可愛いとか思い始めた私も私かも
しれないけど。
-
61:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/11/03(木) 22:48:40.91 ID:FjxeqMqy0
-
あかり「今日はちなつちゃんのこといっぱい知れたような気がするよぉ」
あかりちゃんは今度は本棚を見ながらぽつりと言った。
私も、と小さく答える。
あかりちゃんのこと、まだまだよくわかんないとこもあるけどすごく楽しかったし。
いつのまにか部屋の時計はもうすぐ5時過ぎで、あかりちゃんはそろそろ家へ
帰らなきゃいけないはずだ。
ちなつ「……」
あかり「……ちなつちゃん」
帰るとき、あかりちゃんになんて言おうかそんなことを考えていたとき、あかりちゃんが
控えめに私の名前を呼んだ。その手が何かを握っていた。
-
63:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/11/03(木) 22:51:43.92 ID:FjxeqMqy0
-
ちなつ「あっ、あかりちゃん、それ……」
ばっとちなつちゃんの手から奪い取ると、
やっぱりそれは結衣先輩の貴重な寝顔写真だった。さっき片付けていたとき、うっかり
落としてしまっていたらしい。
せっかくあかりちゃんと仲良くなれたと思ってたのに――
あかり「あ、あのね、ちなつちゃん……」
ちなつ「な、なにっ!?」
あかり「さっきもずっと思ってたんだけど……」
ちなつ「……うん」
あかり「結衣ちゃんのこと、大好きなんだね」
えっ?と間抜けな声が出た。
そりゃ確かに大好きだけど。あかりちゃんの顔を見ると驚くほどにこにこ笑っている。
-
65:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/11/03(木) 22:55:13.20 ID:FjxeqMqy0
-
どうやら、あかりちゃんは私が結衣先輩の写真を持っていることも、結衣先輩に対して
異常なほど話しかけたりすることも何も疑問に思っていないらしい。
ほっとするというかなんというか。
とりあえず変な子だって引かれなくてよかった。
あかり「ちなつちゃん?」
ちなつ「えっ、あ、うん……結衣先輩のこと大好きだよ」
あかり「えへへ、そっかぁ」
ちなつ「……あ、あのね、あかりちゃん!」
あかり「うん?」
私は思い切り息を吸い込むと、結衣先輩の写真をくしゃくしゃになりそうなほど
きゅっと握って言った。
-
66:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/11/03(木) 22:57:37.02 ID:FjxeqMqy0
-
ちなつ「もしね、その好きが――他の人の好きと違ってても」
あかりちゃんはきょとんと私を見ていた。
それでも私は、言葉を止めない。
ちなつ「あかりちゃんは、私と友達でいてくれる?」
きょとんとしたまま、あかりちゃんはしばらくずっと固まっていた。
それからその意味がわかったのかわかってないのか、あかりちゃんはとびっきりの
笑顔を見せてくれた。
どうしてこんなこと言おうとしたのか、自分でもわからないけど。
あかりちゃんならきっと、こう言ってくれることがわかっていたから。
あかり「うん!あかりとちなつちゃんはずっと友達だよ!」
-
70:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/11/03(木) 23:04:13.76 ID:FjxeqMqy0
-
◆
あかり「突然来ちゃって本当にごめんね」
ちなつ「ううん、全然平気だよ」
あかり「えへへ、楽しかった」
「私もだよ」と笑い合う。
また一緒に遊びたいな、あかりちゃんと。
もっともっと、仲良くなりたい。
-
72:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/11/03(木) 23:07:40.49 ID:FjxeqMqy0
-
ちなつ「あかりちゃん、また遊んでくれる?」
あかり「あかりこそまた遊んで欲しいな」
ちなつ「わかった、じゃあ約束だよ」
あかり「うんっ」
小さな子供みたいに指きりげんまんして家を出ると、あかりちゃんは「またね」と大きく
手を振ってくれた。
私もあかりちゃんの背中が見えなくなるまで大きく手を振りかえす。
あかりちゃんとなら一番の友達になれそうな気がする。
今はまだ、その一歩手前。
それでもきっといつか、あかりちゃんも私も、お互い一番の友達になれたらいいと思った。
終わり
-
74:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/11/03(木) 23:08:41.83 ID:wnhUMfCT0
-
ほのぼのした 乙!
-
75:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/11/03(木) 23:08:49.81 ID:FjxeqMqy0
-
お詫びも兼ねて。たまにはちゃんと中学生してるちなあかもいいと思う
最後まで見てくださった方、支援保守、ありがとうございました
それではまた
-
76:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/11/03(木) 23:10:54.85 ID:r6TDLO360
-
あったかい気持ちになった
おつ!
-
82:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/11/03(木) 23:29:19.09 ID:415O3KPt0
-
乙!よかったよ

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