スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
絵里「膝に猫」
- 1 : ◆/BueNLs5lw 2014/12/04(木) 00:14:51.75 ID:hephi+Ua0
- のぞえり
ほのぼの
短い
むっちゃ亀更新
紅葉の盛りを過ぎたイチョウ並木が、
寂しげに震えていた。
「はあ……すごい」
絵里は思わず感嘆の声を上げる。
風に散らされようとも、
瓶の底にへばりつくように、
あたり一面に黄金の茵を敷く、
濡れ石のような落ち葉。
足元で、しゃくしゃくと音が鳴った。
11月も半ばに差し掛かり、
神田明神にささくれ立つような冬が訪れようとしていた。
「希、まだ境内の掃除中かしら?」
リスのように首を左右に振る。
「いないわね……」
彼女は日当たりの良い場所はないかと、
歩を進める。
「あそこのベンチで待ってよ……」
手作りだろうか。
簡易的な作りだった。
枯葉を手でさっと払い、
スカートが汚れぬようにハンカチを広げた。
トレンチコートにシワができぬよう、
多少伸ばしてから腰を据えた。
- 2 : ◆/BueNLs5lw 2014/12/04(木) 00:33:28.87 ID:hephi+Ua0
- 首元を覆うマフラーの隙間から風が入らないように、
彼女はコートの襟を立てていたのだが、
どうやら、その場所は風の通りがほとんどないようだった。
静謐を絵に描いたようだ。
森閑と佇む境内。
幼い頃にロシアの国立美術館で鑑賞した美術作品が、
ふっと脳裏をかすめた。
誰の作品だっただろうか。
覚えてはいないが。
吸い込まれるような青空の、
高い高い場所で、
一糸乱れぬ飛行機雲が伸びていたのを覚えている。
そして、その真下には、
鏡のように凪いだ海が広がっていた。
金の額縁に収まり、
当時の自分には、
その価値は分からなかったが。 - 4 : ◆/BueNLs5lw 2014/12/04(木) 00:49:53.53 ID:hephi+Ua0
- しかし、写生されたワンカットに宿るアニマには、
幼いながらに心を震わせた。
今よりも、純粋だった。
絵の中に入ることに抵抗がない。
風や気温、湿度、匂いを感じ、
夢中になれた。
「……」
何もかも、自分の思い通りにできる。
自信があった。
絵里は瞼を閉じる。
その裏に、涙を拭うアヒルの子。
白鳥にはなれなかった。
「ニャア」
「え?」
気が付くと、膝の上に猫が飛び乗っていた。 - 5 : ◆/BueNLs5lw 2014/12/04(木) 00:55:36.21 ID:hephi+Ua0
- 尻尾をふさふさと振って、
こぶし二つ分程の子猫は喉を鳴らした。
「可愛い……」
頭を撫でると、首を傾けて腕に擦り寄った。
「ニャアア……」
後ろの茂みから声がした。
椅子の下から、黒い子猫が顔を出した。
厚手のブーツに身体をこすり当てる。
「あら……兄弟?」
心地よい膝の重み。
「これじゃあ、動けないわね」
思わず笑みがこぼれた。 - 6 : ◆/BueNLs5lw 2014/12/04(木) 01:01:15.30 ID:hephi+Ua0
- 「一緒に日向ぼっこしよっか……」
と、言いかけて背後の茂みから、
再度物音。
振り返ると、3匹の子猫。
とてとて、と危なっかしい。
ベンチへ跳躍し膝の上にいた三毛を、
押しのけるように転がり込んだ。
「ちょ、ちょっと……喧嘩は止めなさい」
彼らの頭上からそう諭すが、
聞いてはいない。
いつの間にか、膝の上には子猫が4匹。
あれよあれよと、足元に2匹。
膝の上の猫は、眠りの体制に入っていた。
「……」
陽光が眩しい。 - 7 : ◆/BueNLs5lw 2014/12/04(木) 01:07:35.54 ID:hephi+Ua0
- 猫は嫌いではない。
可愛いものは好きだ。
でも、誰か助けて。
「の、のぞみ……」
周囲に視線を転じるも、
それらしき影は見当たらない。
「……しょ、しょうがない」
彼らが飽きるまで付き合ってみよう。
小さな命が、夢中になって惰眠を貪る姿は、
どこか奇妙で非現実的だ。
毛むくじゃらな身体が、
呼吸に合わせて縮んだり膨らんだりしている。
確かに、この暖かさは卑怯だ。 - 8 : ◆/BueNLs5lw 2014/12/04(木) 01:16:06.12 ID:hephi+Ua0
- そうやって、30分程そうしていただろうか。
目が覚めて、自分が眠ってしまっていたことに気がついた。
じっとしていたためか、身体が冷えてしまっていた。
「えりち……風邪引くで」
猫は一匹たりともいなくなっていた。
代わりに、希が心配そうにこちらを覗き込んでいる。
「あれ……」
「さっきまで、猫にようけ囲まれとったね」
「見てたの?」
「こっそりな」
「助けてよ、もお」
「猫に弄ばれるえりちもええなあって」
「なによそれ」
希が小さく微笑む。
「寒いやろ? お茶用意するな」
「掃除中じゃないの?」
希は手を振る。
「こんなん掃き寄ったら、夜になってしまうやん。一日1時間で十分」
竹箒とは逆の手で、私の手を掴む。
- 9 : ◆/BueNLs5lw 2014/12/04(木) 01:47:31.02 ID:hephi+Ua0
- すっかり冷え切った絵里の手には、
じんわりと染み入る暖かさだった。
「猫も、えりちの膝の上できっと心穏やかになったと思うで」
「猫もそんな心境になるのかしら」
「えりちの膝の上やからな、当たり前やん」
それはどうか分からないけれど。
この瞬間を長く長く引き伸ばして、
ゆったりと湯船に浮かべて、
彼女といつまでも、
こんな風に味わっていたい。
そう思った。
おわり - 10 : ◆/BueNLs5lw 2014/12/04(木) 01:48:05.02 ID:hephi+Ua0
- お粗末さま。
おやすみ - 14 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/12/04(木) 06:36:03.92 ID:tY7snbXho
- 乙

「ラブライブ!」カテゴリの記事
コメントする
全ランキングを表示