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女生徒A「地面に埋まった」 女生徒B「… … …」
- 1 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/07(日) 19:46:14.59 ID:dMq3QRAJ0
- 女生徒A「… … …」
女生徒B「… … …」
A「ちょっと」
B「… … …」
A「ねえ、ちょっと」
B「… … …」
A「ねえ!わざと無視してるフリしてるでしょ!?アンタよアンタ!」
B「… … …?」
A「そのわっざとらしい『私ですか?』みたいな首の傾げ方やめなさいよ!アンタだって言ってるでしょ!」
- 2 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/07(日) 19:47:10.81 ID:dMq3QRAJ0
- B「なにか用?」
A「あのねえ、用も何も…私の状況見ればわかるでしょ!?」
B「… … …?」
A「だから首を傾げるな! 今の私!!どうなってる!?」
B「埋まってる」
A「どこに!」
B「地面に。コンクリートの」
A「そう!分かってるじゃない! それなら貴方はどうするべきなの!?」
B「… … …」
A「しゃがみこんで手を合わせるなーーーッ!!」
- 3 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/07(日) 19:48:29.52 ID:dMq3QRAJ0
- A「普通この状況みたら助けようとかどうしようとか思うでしょ!?なんで素通りしようとしてたわけ!?」
B「めんどくさいから」
A「なにが!?」
B「こうやって絡まれるのが」
A「キーーーーッ!!」
B「… … …」
A「…人通りさえ多ければアンタみたいな人でなしに声なんかかけないわよ。この道、この時間だとほとんど人がいないんだから…」
B「… … …」
A「黙ってないで助け呼ぶなりレスキュー呼ぶなりなんでもしなさいよ!!人としての常識でしょ!?」
B「… … …」
A「… なによ。その物言いたげな顔は」
B「『お願いします』は?」
A「どういう性格してるのよアンタは」
- 4 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/07(日) 19:49:37.55 ID:dMq3QRAJ0
- A「アンタ… 私と同じ制服よね?何年生?」
B「2年」
A「私3年よ」
B「おー」
A「なんだその感情のない感激の仕方!?」
B「3年生」
A「そうよ!アンタの先輩!」
B「うん」
A「… … …」
B「… … …」
A「うんうん頷いて納得しながら後ずさりするな!!帰ろうとするなーーーッ!!」
- 5 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/07(日) 19:50:49.65 ID:dMq3QRAJ0
- A「あのねえ。人がコンクリートの地面に下半身が埋まって身動きが取れないのよ?しかも同じ学校の先輩」
B「うん」
A「…普通さ。人としてまず助けようって気が起きないわけ?」
B「起きる」
A「起きてるの!?意外!だったら実行してよ!」
B「わかった」
A「… … …」
B「… … …」
A「… なによ、その沈黙は」
B「『お願いします』は?」
A「… ほんっと性格悪いわね、アンタ」
- 6 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/07(日) 19:52:14.26 ID:dMq3QRAJ0
- A「お願いします、助けてください…。 …これでいい?」
B「うん」
A「…。 それじゃ、まず試しに引っ張ってくれる?」
B「そもそも自分で抜けない?」
A「さっきから踏ん張ってるんだけど… っっ…! だめ、ぴくりとも動かない」
B「もっと力入れてみて」
A「くーーーっ …!!んんんんっ …!!」
B「もっともっと」
A「ふぬうううううっ…!!ひぃいいいいいっ!!」
B「がんばれがんばれ」
A「ぐがあああああああ…!!! …っぷはぁ! だ、ダメ…ホントに抜けないの…」
B「なんだか生まれたての仔馬を応援してる気分。素敵」
A「あんたの心境はどうでもいいから助けろ」
- 7 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/07(日) 19:53:29.31 ID:dMq3QRAJ0
- B「とりあえず引っ張ってみる」
A「そうね、お願い」
B「うんとこしょ」
A「… … …」
B「どっこいしょ」
A「… … …」
B「うんとこしょ」
A「… … …」
B「しょうがない、おばあさんを呼んで来よう」
A「私の人生のピンチをカブのお話調にしないでもらえるかしら」
- 8 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/07(日) 19:54:29.08 ID:dMq3QRAJ0
- A「駄目…アンタ一人の力じゃびくともしないわ…」
B「どないしまひょかあねさん」
A「誰が姉さんだ。 …ねえ、今何時?」
B「…4時10分。夕方の」
A「…!!嘘でしょ…!さっきは余裕だと思ってたのに…!!ねえ、ちょっと、ホントに急いで誰か呼んできて!!力のありそうな人!」
B「レスキュー呼ぶとかは?」
A「時間がないの!そんな事したら間に合わなくなる!!」
B「なにに?」
A「塾!4時半からなの!遅れたら大変なんだから…!とにかく急いで!」
B「今日は休めば」
A「駄目駄目!!そんな事できない!!いいから早く!」
B「… … …」
- 9 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/07(日) 19:55:25.34 ID:dMq3QRAJ0
- 10分後
B「… だめ。人のいる気配がない」
A「あああ、もう、これだから田舎は…!!あと10分しかないじゃない…!!」
B「さっきも言ったけど、休んだほうがいいんじゃ」
A「仮に休んだとしてもすぐに家に帰ってピアノのレッスンがあるの…。それに、ママになんて言えば…」
B「それも休めば」
A「無理!ママに怒られる!」
B「…なんで?」
A「習い事サボるのよ?怒られないわけないじゃない…」
B「サボるわけじゃないんじゃ」
A「地面に埋まって出られなくなったなんて話、情けなくて出来るワケないよ…。下手に言い訳したら余計サボったと思われるし…あああ、ホントにどうしよう…!!」
B「ぷぷ、なんだか他人のピンチって蜜の味だね」
A「アンタ本当に性格悪いなーーッ!!いいからどうにかしてよーーッ!!」
- 10 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/07(日) 19:56:41.65 ID:dMq3QRAJ0
- B「お母さんに怒られるくらいどうってことないんじゃ」
A「… 駄目」
B「なんでそんなに怒られるのが嫌なの」
A「… ちゃんとしないと…私の事、捨てちゃう」
B「え」
A「… … …」
A「昔から…習い事休んだり、テストで悪い点とると…ママに怒られてた。そのたび、『そんな子はいらない』って、家の外に追い出されてた」
B「ひどいね」
A「もう私も中3だし…こんなにママの事びびってるなんて、自分でも情けないと思う。…でも、ダメなの。ママの怒った顔考えただけで…ぞっとしちゃって」
B「… … …」
A「… … …お願いだから助けてよ… 塾に行かないと…また怒られる…。お願い…」
B「… … …」
- 11 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/07(日) 19:58:00.63 ID:dMq3QRAJ0
- ・
・
・
B「119番、呼んできた。もうちょっとで来ると思う」
A「…ありがと。…でも、塾はもう間に合わないね…。はは…どうしよ…」
B「… … …」
A「…?本当にありがとう。もう行っていいよ。あとはレスキューの人に任せるからさ」
B「ねえ」
A「なに?」
B「塾、楽しい?」
A「… … …」
B「ピアノは?習い事、楽しい?行きたいと思う?」
A「… … …」
A「思うワケ、ないじゃん」
- 12 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/07(日) 19:59:34.55 ID:dMq3QRAJ0
- A「3歳の頃から習い事始めてさ。今じゃ塾とピアノに英会話にスイミング…今度はフィギュアスケートも始めさせるつもりなんだってさ、ママ」
B「すごい」
A「学校の皆は街に出て買い物したりゲーセン行ったりカラオケ行ったり…家に帰ってくつろいでる子だっているのに。私は…そんな事、した事ない」
A「ママとパパは遅くまで帰ってこない。私には習い事が保育所みたいなもの。預けておけばママは安心なの、近くに大人がいるからね」
A「小さい頃から…ずっとそうだった。友達と遊んだ事なんて…ない」
B「… … …」
A「この道だって…いつも通りたくなかった。その曲り角を右に曲がれば、また塾が始まる。大っ嫌いな、退屈な、夜までの時間が始まる」
A「折角学校が終わったのに、夜、寝るまでずっと…退屈で窮屈で息苦しい時間が、ずっと続いてく」
B「辛いね」
A「…絶対に、行きたくないのに。…はは、でもなんで私、こんなに塾に行きたがってるんだろ。おかしいよね」
B「… … …」
- 13 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/07(日) 20:01:52.87 ID:dMq3QRAJ0
- A「アンタ、急いでたんじゃないの?ホントに、もういいよ。レスキューに任せれば」
B「… … …」
A「はは、流石に人間としての情が湧いたって?」
B「人間が大根みたいに地面から抜けるとこ、見てみたいから」
A「… 地面から抜け出したら一発ブン殴るわ、アンタ」
B「やさしめにおねがいします」
A「ははは…考えとくわ。 … 今、何時?」
B「4時45分」
A「もう授業始まってる、かぁ…。 あー…久しぶりに塾休んだなぁ… この調子だとピアノも間に合わないかも」
B「嫌な気分?」
A「… … …」
A「んーん。なんかアンタに話したらすっきりしちゃった。諦めると気が楽になるもんだね。あはは、気持ちいいかも」
B「ママに怒られるのに?」
A「…それ言わないでよ、折角忘れてたのに」
- 14 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/07(日) 20:02:57.68 ID:dMq3QRAJ0
- B「… … …」
B「ピアノ、何時から?」
A「6時半。…それがどうしたの?」
B「早めに抜けれたら、その角、左に曲がろう」
A「… … … え?」
B「いつも、右に曲がって塾なんでしょ?だから、左」
A「… … …」
B「せっかく大嫌いな塾休むんだから。反対の左に行って、思い切り好きな事しよう」
A「… … …」
B「左はいいぞー。ちょっと歩けば駄菓子屋がある。懐かしのメタルスラッグも置いてあるんだ」
A「だがし、や…?」
- 15 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/07(日) 20:04:06.29 ID:dMq3QRAJ0
- B「30円のジュース買って、ポテトフライ買って、つまみながらメタスラやるのが通のやり方なのだ。私がやり方を教えよう」
A「… … …」
B「なんなら隣のぷよぷよで対戦してもいい。好きな方を選ぶがよい」
A「… なん、で…」
B「私が正しい放課後の過ごし方を教えよう。 だから、嫌な事なんて忘れろ。一緒に、左に曲がろうじゃないか」
A「… … … !」
B「な?」
A「… … …」
A「…っく…!ひぐっ…! ありがと…!っ、ほん、とに…ありがとう…っ!!」
B「なぜ泣く。そんなにアーケードでぷよぷよがやれるのが嬉しいか」
A「うわあああーーーんっ!!」
- 16 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/07(日) 20:05:20.27 ID:dMq3QRAJ0
- B「落ち着いたか」
A「…うん」
B「それじゃ、一緒に行くか。駄菓子屋」
A「… … …」
A「無事に抜けたら…行こうかな」
B「かな、じゃない。誓え、一緒に行くと」
A「あははは…わかった。行く。…行きたい。一緒にお菓子買って、ゲームして…あと雑貨屋さんとかも見たいな。可愛い小物とか、みてみたい」
B「いいだろう。付き合おう」
A「ホント!?絶対だよ! …それなら、ピアノもサボっちゃおうかな!!あははは!!」
B「お、いい心がけだぞ」
A「その代わり、付き合ってね、夜まで」
B「ああ。それじゃ、指切りだ」
A「… うん! … … …」
A「… … … え?」
A(私が指切りに差し出した腕の手首を、彼女はそっと引っ張った)
A(たったそれだけなのに、私の身体はいとも簡単に地面から抜け出してしまった)
- 17 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/07(日) 20:06:36.64 ID:dMq3QRAJ0
- B「身体は従っても、心が従わない時がある。 そういうときはずっと縛り付けられたままになってしまう」
B「大事なのは、心も従わせる事。 簡単な事なのに、なかなかこれが出来ないヤツが多い」
B「… 死んでるヤツは、特に」
A(… え …)
B「もう誰も見えないのに。誰も気にしないのに。 それに気づかないまま、何かに怯えて、動けなくなっちゃうヤツ」
B「…ずっと苦しむのは、辛いことだ」
B「面倒だから、私はあまり助けない、普段は」
A(… え、え …)
B「2日前、聞いた。この道を走ってたトラックから落ちた鉄骨が運悪く、ウチの女生徒の上に落ちて、その子が死んだって」
A(… じゃあ、私 … )
B「… 塾とピアノ、とっくに終わってたんだ。レスキューも、呼んでない。…嘘をついて、すまん」
A(… … …)
- 18 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/07(日) 20:07:45.04 ID:dMq3QRAJ0
- ・
・
・
A(私と彼女は、近くの河原に場所を変えていた。 夕日が沈む頃。私と彼女は、ずっとそれを見ていた)
B「さすがにもう泣き疲れたか」
A「あはは… 一生分泣いたって感じ。 …一生、って、もう死んでるけどさ」
B「上手い。座布団一枚」
A「… … …。 なんか、すっきりした。…もうママに会えないのは寂しいけど…でも、すっきりしてる」
B「良かったな」
A「…でも、いざ自由になるとなにしていいか分からないもんだね。大体、死んでるんだし」
B「… … …」
A「ね、これから私、どうなるの?天国とか地獄とかこの後行くとか?あ、連れてかれる感じ?天使とかに」
B「さあ。私はそういう事は全く分からない」
B「ただ、見えるってだけ。こんなふうに会話をする事は少ないから、そういう事は分からない」
A「…そう。 なんかアンタも、色々苦労してそうだね」
B「… … …」
- 19 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/07(日) 20:08:46.79 ID:dMq3QRAJ0
- A「… ねえ」
B「…?」
A「お迎えがくるかどうか分からないけどさ… くるまで、アンタの傍、いていい?」
B「… … …」
A「誰からも見えないし、誰からも気付かれないなんて…辛すぎるよ。 …お願い」
B「… … …」
A「ちょっとの間だけでいいから… この世界のコト、わかるまで…。 … …」
B「… … …」
B「よし。まずは約束通り駄菓子屋から攻める。おばちゃんに頼めばまだ開けてくれるだろう」
A「…!!! い、いいの…?」
B「安心しろ。ポテトフライはお供えしておいてやろう」
A「… … … っく…ありがと…!ありがとう…っ…!!」
B「おいおい、そんなにポテトフライが嬉しいか」
A「…っ、違うわよ、バカ…っ…!」
- 20 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/07(日) 20:09:34.05 ID:dMq3QRAJ0
- A(それが、私とBの生活の始まりだった)
A(死んだ私、Aと、死んだ人が見える、B)
A(奇妙な2人の、新しい生活)
A(死んだ世界の後に、なにが起こるかは分からない。でも)
A(とりあえず私は、死んだまま… 今でもこの世界に暮らせている)
A(どうなるかは、まだ分からない。お迎えの天使は、いまだに私のところにはやってこない)
A(でも…)
A(自由になって、吸い込んだ息は… いつもとは違う匂いがした) - 21 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/07(日) 20:14:47.93 ID:dMq3QRAJ0
- はじめまして。◆l3y7Z.NoQUというものです。
なんとなく書いたオリジナルのSSをこれから投稿させていただきます。
不慣れな面も多いのですがどうぞよろしくお願いします。
予定としては3話、一先ず構想がありますので何日か後にまた投稿させていただきます。
見て頂ける方がいてくださるととっても幸いです。
どうかよろしくお願いします。 - 25 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/07(日) 20:22:34.46 ID:aXihc25vo
- 乙乙
期待 - 27 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/07(日) 20:26:32.94 ID:cyb7NVPgo
- 面白い
頑張れ - 34 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/09(火) 20:47:33.88 ID:oGJauVLC0
- おつかれさまです、◆l3y7Z.NoQUです。
感想、ありがとうございます。上手く纏まってるかとか面白いかとか自分でも不安でいっぱいで、期待してるなど感想をいただけると涙が出そうになるくらい嬉しいです。
二話が出来ましたので投稿させていただきます。
前後編に分けようと思ってたのですがいっそ全部投稿しようと思います。
長いですがお付き合いくださいませ。
それでは。 - 35 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/09(火) 20:48:49.36 ID:oGJauVLC0
- B「うーん」
店員「… … …」
B「うーん」
店員「… … …」
B「うーん」
店員「… … … あのー、そろそろ…」
B「よし決めた。のり弁2つで」
店員「…。(30分悩んでそれかよ…)」
B「あ、お箸二つでお願いします」
店員「はい、かしこまりましたー…」 - 36 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/09(火) 20:49:58.14 ID:oGJauVLC0
- ・
・
・
B「ただいま」
A「うがーーーっ」
B「… … …」
A「ああああーーーーっ」
B「… … …」
A「あああ… くそぉ、死んだ…。 …あ、おかえり、B。いたの?」
B「随分賑やかだな」
A「まあね。やっと6までいったからね、バイオ。まさか一週間で1から6まで出来ると思わなかったわ。暇ってすごいわね」
B「ゲーム史に残る快挙かもしれないぞ」
A「しかし今のゲームってすごいわね。こんなに楽しいと思わなかったわ…」
A「でもQTEウザすぎ」
B「わかる」
- 37 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/09(火) 20:50:43.21 ID:oGJauVLC0
- B「弁当、買って来たぞ」
A「あ、ありがと。置いといて。もうちょっとやったら食べるから」
B「相変わらず食べるんだな、弁当」
A「お腹は減らないんだけどね。味は分かるから。それだけで満足なの」
B「ふーん」
A「う、またイベント… あああ。QTEホントにやめてよ…!」
B「… … …」
A「ふぬうう…!」
B「… … …あ」
A「あああああ、また死んだあああっ!もうやだああああっ!!」
B「お疲れ。ついでにピアーズ最後に死ぬぞ」
A「なんでこのタイミングでネタバレすんのよアンタはああああーーーーっ!!!」
- 38 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/09(火) 20:51:49.52 ID:oGJauVLC0
- ・
・
・
B「ムシャムシャ」
A「ムシャムシャ」
A「…しっかしアレね。アンタの部屋便利ね。幽霊の私でも物に触れるんだもん。おかげで退屈しないで済むわ」
B「なんでだろうな。私に霊感があるからか」
A「あはは、見えない人から見るとどう見えるんだろうね」
B「テレビが勝手についてゲームが勝手に動いてクリスが勝手にQTEミスってる」
A「ポルターガイストってやつだね」
B「随分ゲーム下手なポルタ―ガイストだけどな」
A「あははは」
- 39 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/09(火) 20:52:43.04 ID:oGJauVLC0
- A「ムシャムシャ」
B「… … …」
A「ガツガツ」
B「… … …」
A「… … … なによ」
B「働かないで食うメシは美味いか?」
A「しょうがないでしょ、幽霊なんだから。どう働けってのよ」
B「仕方ないな」
A「ちゃんと感謝してるわよ。ありがとね」
B「… … …」
- 40 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/09(火) 20:53:43.41 ID:oGJauVLC0
- B「… … …」
A「… ごちそうさまでした」
B「… … …」
A「なによ、まだ何か言いたいの?」
B「私、こんな感情初めてかもしれない」
A「え」
B「家族、いなかったから。ずっと。 だから、なんだかうれしい」
A「な、なによ、いきなり…!照れるじゃない…!」
B「きっと、こういう感じなんだろうな」
A「… … … 家族が?」
B「ううん、ペットの犬にご飯あげる感じって」
A「うがああああああああ」
- 41 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/09(火) 20:54:51.87 ID:oGJauVLC0
- A「… そもそも、アンタ、家族いないの?」
B「いる」
A「どこに」
B「別居中」
A「なんでよ。一緒に住めばいいじゃない」
B「あっちが拒否してる。仕送りは貰ってるし、住む理由がない」
A「拒否?なんで… アンタ、娘なんでしょ?」
B「うん」
A「だったらなんで別居なんて…」
B「気味悪がってる。 見えるって知ってるから」
A「… … …」
A「ごめん」
B「気にするな」
- 42 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/09(火) 20:56:11.83 ID:oGJauVLC0
- B「のり弁、あんまり美味くなかったな。今度はいつも通り唐揚げ弁当にしよう」
A「料理とかしないの?」
B「しない」
A「… アンタ、普段何食べてるのよ」
B「唐揚げ弁当」
A「それだけ!?そのうち絶対に身体壊すわよ!?」
B「とりあえず今の所大丈夫だし、ヘーキヘーキ」
A「今は平気でも絶対後でどうかするわよ…。よく今まで大丈夫だったわね」
B「身体は丈夫にできている。いいだろ、幽霊」
A「…どういう精神構造してんのよアンタは…」
- 43 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/09(火) 20:57:06.27 ID:oGJauVLC0
- A「… … …」
A「よし決めた。明日から私が料理作るわ」
B「え」
A「そうと決まれば買い出し行くわよ。まだスーパー開いてるでしょ。明日の朝食から三食、しっかり栄養あるものとってもらうわ」
B「マジか」
A「さ、行くわよ。何買うか私が言ってあげるから、一緒にスーパー行くわよ」
B「… … …」
A「… なによ、その人を疑うような目は」
B「トカゲのスープとかカエルの丸焼きとかじゃないだろうな」
A「アンタはどういう目でアタシを見てるのよ!! これでも生きてる頃は週一で料理教室行ってたんだからね」
B「それはそれは。美味そうなトカゲのスープが飲めそうだ」
A「… 絶対見返してやる絶対見返してやる絶対見返してやる…!」
- 44 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/09(火) 20:59:10.31 ID:oGJauVLC0
- ・
・
・
店員「ありがとうございましたーっ」
B「しかしまた、えらい量買ったな」
A「しょうがないでしょ。アンタの家の冷蔵庫、ジュースと甘い物以外何も入ってなかったんだから、買う物も増えるわよ」
B「重い」
A「がんばりなさい。アタシは持てないんだからね」
B「ふええ」
A「… … …」スタスタ
B「… … …」スタスタ
A「こうして外歩いててもさ、なかなかいないもんね」
B「ん?」
A「幽霊。 アタシと同じような人、さ」
- 45 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/09(火) 21:00:18.46 ID:oGJauVLC0
- B「そりゃあそうだ」
A「なんでよ。死んでる人なんて一日に何人もいるでしょ」
B「そいつらが全員幽霊になってたら今頃は日本全土が幽霊の満員電車だ」
A「… それもそうか」
B「たぶん、幽霊になるヤツは限られてる」
B「この世に強い未練があって」
B「それを残した形で死んでるヤツ」
B「だから、Aも幽霊になった」
A「… … …」
- 46 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/09(火) 21:01:26.38 ID:oGJauVLC0
- B「それでも、大体は勝手に消えていくものなんだ」
A「え、そうなの?」
B「気付くんだろうな、途中で。自分が死んでるって」
B「そしてそれに気づいた段階で、大抵の未練なんてものは消えてしまうんだろう」
A「… … …」
A「それもそうか」
B「それでもこの世に残るヤツは、ヤバいヤツだ」
A「ヤバい?」
B「悪霊とか怨霊とか呼ばれるヤツになっちゃうから。そういうヤツを見かけたら、近づかない方がいい」
B「見えると分かった瞬間、人間だろうが幽霊だろうが、関係なくなるからな」
A「… … …」
A「あったの?危ない事」
B「多少」
- 47 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/09(火) 21:02:46.63 ID:oGJauVLC0
- B「まあそんなわけで、野良猫みたいに幽霊がその辺で昼寝してる事なんて滅多にない事だ」
B「ましてAみたいに地面に埋まったまま自分が幽霊と気付かない呑気なヤツなんて初めて見たわけで」
B「正直、感動したよ」
A「えらく小馬鹿にした感動の仕方だね」
B「こんな風に幽霊と雑談しながら買い物来る日がくるなんて思わなかったし」
B「さらにその幽霊を養うハメになるなんて、泣けるぜ」
A「うるさいわねーっ!!アタシだって好きで居るワケじゃないわよ!!」
B「じゃあ、なんで居るんだ」
A「… … … う」
B「いつでも出て行っていいんだぞ」
A「うううううう」
A「バイオの続きやりたい…」
B「理由それだけかよ」
- 48 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/09(火) 21:03:33.55 ID:oGJauVLC0
- A「… … …」
A「… … … あ」
B「どした」
A「さっき、言ってたわよね。幽霊なんてそこらへんにゴロゴロいるわけじゃない、って」
B「ああ」
A「…あれって、幽霊よね」
B「… … …」
B「ああ、間違いないな」
B「あんな風に電信柱に全身が埋まっているオッサンはまず、この世にはいないだろうな」
オッサン「… あ?」
- 49 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/09(火) 21:04:58.85 ID:oGJauVLC0
- オッサン「なんだ、このガキ…。 …んん?なんじゃこら。 …おお?なんだこれ、動けねーぞ」
A「しかも今気付いたみたい」
オッサン「くそ、なんだ…電信柱かこりゃ…。 おい!そこのガキ!なんだかわからねーがすぐ助けろ!おい、こら!」
A「… どうする?助けてあげる?」
B「帰るぞ」
A「え」
B「見えないフリをすればあっちも諦める。とっとと行くぞ」
オッサン「おいコラ!無視すんな!おーい!!」
A「でも、かわいそうだよ」
B「… … …」
B「基本的には無視しろ。さっきも言ったが、そうすれば自然に消えるものだ」
A「でも」
オッサン「くぬうう…!!くそぉ、どうやっても出られねぇぇ…!! おい、ホントに…!!助けてくれよ!なあ!」
B「… … …」
- 50 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/09(火) 21:06:25.83 ID:oGJauVLC0
- B「野良猫より少ないとは言ったが、それでも居るところには居るものだ」
B「そいつら全員にいちいち対処していたらキリがない事くらいわかるだろう」
A「… … …」
B「行くぞ」
オッサン「くそ…!なんでこんな事に…! 俺、一体どうしちまったんだよ…!!」
A「… … …」
B「置いていくぞ」
A「… … …」
A「ほっとけないよ、やっぱり」
A「オジサン!大丈夫!?今助けてあげるからね!」
オッサン「おお、なんだ嬢ちゃん。助けてくれるのか」
B「… … …」
B「はあ…」
B「案ずるなオッサン」
オッサン「誰がオッサンだこらぁ!!」
- 51 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/09(火) 21:07:19.86 ID:oGJauVLC0
- A「B、ありがと」
B「うるせーやい」
オッサン「なあ、俺今どうなってるんだよ。まるで身動きできねぇ」
B「電信柱に埋まってて動けなくなってるからな」
オッサン「アホか!どうなったらコンクリートの柱に全身が埋まるんだ!!んなわけあるか!!」
B「実際にそうなってるのが分からんか」
A「ねえB。これ、どうやったら出れるの?」
オッサン「いいから110番でも119番でも電話して、助け呼んできてくれ!お前らじゃどうにもならんだろ!」
A「少なくともそれよりは私達の方が助けになるかもよ」
オッサン「ああ?」
B「基本的にこうなってるのは、Aの時と同じだ」
- 52 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/09(火) 21:08:08.83 ID:oGJauVLC0
- A「私と同じ?」
B「何らかの理由で死んで魂はそこに残る。死ぬ間際の目的や行動に矛盾が生じている場合、そこから動けなくなる事が多い」
A「矛盾?」
B「行きたくない場所に行く時。やりたくない事をやろうとする時。身体は従っていても、心が従っていない場合だ」
B「身体を失って心だけの状態になるんだから、当然心が優先される。だからその場から動けなくなってそこに留まる事になってしまう」
B「このエレクトリックファンキーアンクルのようにな」
オッサン「勝手にあだ名つけんじゃねえ!!」
オッサン「大体さっきから何の話してるんだ!!死んだだの魂だの…俺が死んだとでも言いてぇのか!!」
A「正直に言う?」
B「そうだな」
A「…だってさ。オジサン、死んでるのよ」
オッサン「ふざけるんじゃねえええ!!!」
- 53 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/09(火) 21:09:16.08 ID:oGJauVLC0
- オッサン「テレビの観過ぎだドアホ!俺が死んだだとぉ!?んな馬鹿な事起きてたまるか!」
A「実際に電柱に埋まってるんだから、その馬鹿な事が起きてるんだよねぇ」
オッサン「電柱に埋まってたら俺が死んだ事になるのか!」
B「死んでなきゃ身体がそんな事にならんしな」
A「かわいそうだけど、まずは受け入れないとね」
オッサン「くそ…お前らじゃ話にならん!とにかくここから出せ!!」
A「とは言ってもね…。ねえ、B、どうやったらここから出せるの?」
B「Aの時と同じ。この場所に留まっている理由を見つけて解いてやる感じ」
A「…うーん」
オッサン「ごちゃごちゃ言ってねェで早くだせえええええッ!!!」
A「難しいねこりゃ」
B「だな」
- 54 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/09(火) 21:10:19.56 ID:oGJauVLC0
- B「ほっといて帰れば自然に消えてるもんだ。行くぞ」
A「でも…」
オッサン「あ、なんだお前!?俺をほっといて帰るつもりか!?ならせめて助け呼んでこい!」
A「だから、呼んでも無駄なんだってば。オジサンの心の問題なの。分かってよ」
B「おい、帰るぞA」
A「ね、オジサン、話だけでも聞かせてよ。そしたらすぐに助け呼んできてあげるからさ」
A「レスキューとか呼ぶにしても、現場の詳しい状況が分からないとダメでしょ?」
B「おい」
A「お願い、オジサン。私、助けたいよ」
オッサン「… … …」
オッサン「分かったよ。ただ、どう話せってんだよ」
A「良かった!ねぇ、B。聞いてあげてよ」
B「… はぁ」
- 55 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/09(火) 21:11:12.53 ID:oGJauVLC0
- B「オッサンがこうなる以前の行動をよーく思い出してみて。何かなかったか?」
オッサン「何か、ってなんだよ」
B「変わったこととか、気になることとか。とにかく覚えてる限り言ってみて」
オッサン「変わった事も何も…仕事終わりにいつもみたいに呑み屋ハシゴしてただけだ」
オッサン「ありゃあ…4件目に行く途中までは覚えてるんだけどな。確かこの辺りを次の呑み屋に行くので歩いてたんだ」
A「4件目、って…いつもそんなにお酒飲んでるの!?」
オッサン「んだよ。別にいいだろ」
A「仕事終わりでしょ。家族とかいないの?普通家に帰らない?」
オッサン「… … … なんでそんなこと」
A「いいから!」
オッサン「… … … いるよ。娘も一人。丁度お前らくらいの歳だ」
- 56 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/09(火) 21:12:13.82 ID:oGJauVLC0
- A「だったら何でお酒飲み歩いてるのよ」
オッサン「… … …」
オッサン「帰りたくねぇんだよ」
A「なんで」
オッサン「… … …」
オッサン「人があくせく働いて家に帰りゃ、女房はおかえりの一言も言わねぇでテレビ観てるばっかりだ」
オッサン「冷たいだけのメシ食らってよ。食ってる途中も何も喋らねぇで、いつの間にか自分の部屋で寝てやがる」
B「… … …」
オッサン「娘は娘で、汚いだの臭いだの、俺の事を毛嫌いして近づきもきやしねえ」
オッサン「こんな時期に外周りの営業してりゃ、汗臭くなるのも仕方ねぇだろうが」
オッサン「ちょっと前まではパパ、パパって俺に抱きついてきてくれたのによ。まるで違う子ども育ててるみてぇだ」
A「… … …」
- 57 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/09(火) 21:13:10.48 ID:oGJauVLC0
- A「家帰るの、辛かったんだね」
オッサン「感謝もされねぇ。むしろ近づくななんて言われる始末だ。帰りたくなるほうがおかしいだろうが」
オッサン「…俺はなんのために働いて、なんのために頑張ってるんだよってな。一生懸命になればなるほど、あいつらとの距離が遠くなっちまう」
オッサン「…昔は、あいつらを守るために働いてたのにな」
A「…かわいそう…」
オッサン「最近は、女房にも娘にも顔合わせるのが辛かったんだ。だから…あいつらが寝た頃に帰るのが日常になってた」
オッサン「その方があいつらにも…俺にも、幸せだったんだろうしな」
A「そんなこと…!」
オッサン「あるんだよ。世の中にはそういう事も。例え家族だったとしてもな」
オッサン「… … …」
オッサン「はっ、こんな子どもに何語ってんだろうな俺」
- 58 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/09(火) 21:14:00.20 ID:oGJauVLC0
- B「… … …」
B「それで、話を戻して… 呑み屋に向かってたんだよな」
オッサン「ああ、確かこの通りを通って… ああ、えーと…だんだん思い出してきたぞ」
オッサン「このあたりは街灯が少なくて、俺は酔っぱらってフラフラ歩いてたんだ。それで… 向こうの方から灯りが近づいてきたんだ」
オッサン「それで、気付いたら…俺の目の前に、車が…」
オッサン「… … … !!」
オッサン「その車に俺は…」
オッサン「轢かれた、のか…」
A「… … …」
- 59 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/09(火) 21:14:54.51 ID:oGJauVLC0
- B「それで、吹っ飛んだ身体がこの電柱にぶつかって、ってわけだな」
オッサン「じゃ、じゃあ、俺は…」
A「… 多分、その衝撃で…」
オッサン「お、お、俺は… 死んだ、ってのか…」
A「… かわいそうだけど…」
オッサン「… … …」
B「しかし妙だな。電柱自体は壊れてるどころか傷一つないし、周りにそんな事故があった感じもしない」
A「どういう事?」
B「… … …」
B「多分、事故自体は随分前…。数か月か、半年くらい前にあったんだと思う」
オッサン「なんだと…!?」
- 60 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/09(火) 21:15:44.44 ID:oGJauVLC0
- B「死んだヤツは時間の感覚がなくなって彷徨う事が多い。自分が死んだ事に気付けないなら、なおさら」
B「数か月、一年…あるいは、何十年もその場にいる事もある」
A「そんなに…」
B「死んだ事にも、自分がどうなっているのかも分からず…多分、ずっと同じ事を思いながら、その場に居続けてしまう」
B「Aはたまたま、二日くらいだったがな。あのままいけば何か月かは知らず知らずのままあそこにいただろう」
A「怖っ…」
オッサン「じゃ、じゃあ俺は… 俺の、家族は…」
B「… … …」
B「葬式も、たぶん終わってるだろう。…今頃、オッサンの身体は…墓の中だ」
オッサン「… … …」
- 61 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/09(火) 21:16:37.36 ID:oGJauVLC0
- オッサン「ふざけんなよ…」
オッサン「死んだだなんだって人を呼んでおいて、今度は半年前だぁ…?馬鹿にするのも大概に…」
B「気付いてるんだろ、本当は」
オッサン「… … …」
B「自分の置かれている状況には気付いているけど、それを理解しようとしない。いや…できない、か」
B「当然だろう。理解すれば、オッサンの人生の観念は180°変わってしまうのだろうからな」
B「生から、死へ」
オッサン「… … …」
B「少しずつでもいい。自分の事を知っていけば、自ずとその場から離れられるはずだ」
B「だから、がんばれ」
オッサン「がんばれ、ったって… 俺ぁ… どうすりゃあ…」
B「受け入れろ。それしか、助かる道はない」
A「… … …」
- 62 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/09(火) 21:17:48.78 ID:oGJauVLC0
- A「ねぇ、オジサン。オジサンの家って… ここから、近いの?」
オッサン「… … … ?」
B「おい、まさか」
A「行ってみようよ。それで、聞いてみよう。オジサンの、お墓」
オッサン「!!」
B「… そこまでする必要が私達に」
A「あるよ」
オッサン「… え…」
A「こうして出会って、オジサンの人生を知って、今こうして助けを求められてる。だから、私達はそれをする必要がある。絶対」
A「損得とか、面倒くさいとか、他人だからとか…そんなのもう、関係ないじゃん。もうちょっとで助けられるかもしれないんだよ?助けようよ」
A「私の事を、Bが助けてくれたみたいにさ」
B「… 別に、あれは助けたわけじゃ…」
オッサン「… … …」
A「ねえ、オジサン。きっとオジサンの家、そう遠くないんでしょ?もしかしたらお墓も…」
オッサン「… … …」
オッサン「歩いて10分ってとこだ。…俺の墓もな」
A「え?」
オッサン「はは… 俺の家の裏が、先祖代々の家の墓場だ。…俺が埋まってるとすりゃ、そこしかねえ」
- 63 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/09(火) 21:18:46.49 ID:oGJauVLC0
- A「決まりだね。B、そこに行って、家族の人に話聞いてみよう」
B「聞くって…何を」
A「オジサンの話。色々」
B「… … …」
B「何にもならないかもしれないだろ。第一、もっと状況が悪くなる可能性も…」
A「それでも、何もしないよりは絶対マシ。…私は人と話せないんだから、Bにお願いするしかないの。 …お願い」
B「… … …」
オッサン「… … …」
A「オジサン。オジサンだって…奥さんや、娘さんの顔、もう一度見たいでしょ」
オッサン「そんな事あるか…!なんで俺の事を嫌ってた奴らの顔なんざ…」
A「じゃあ、オジサンはなんでここから動けないの」
オッサン「あ…?」
A「自分の事を忌み嫌ってる人達の事なんて忘れられれば、きっとすぐ成仏できるはずなんだよ。それでもオジサンがここに留まってる理由は」
A「それでも、家族の事が気になって、気になって仕方ないからじゃないの」
オッサン「… … …」
- 64 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/09(火) 21:20:00.53 ID:oGJauVLC0
- A「2人とも、お願い。手を貸して」
B「… … …」
オッサン「… … …」
B「分かったよ。…それじゃオッサン、家の場所教えてくれ」
A「!! B!…ありがとう!!」
B「あとで美味いトカゲのスープ食わせろよ」
A「作らないって言ってるでしょ!!」
B「…さぁ、オッサン。どう行けばいいんだ?私と幽霊一匹がオッサンの人生を聞いてきてやろう」
A「人をペットみたいに言うな!!」
オッサン「… … …」
オッサン「必要ねぇ」
A・B「… え?」
オッサン「案内する。 …俺の家族だ。俺が会いにいかなきゃあな」
A「!!電柱から…」
B「離れ、られた…」
- 65 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/09(火) 21:21:55.60 ID:oGJauVLC0
- ~10分後~
B「ここか」
オッサン「… … … ああ」
A「感じる?自分の… その、身体があるって」
オッサン「うっすらな。気のせいかもしれねぇが…。 … そこが、家の墓だ」
A「どう?オジサンの名前…ある?」
B「戒名じゃ分からないかもしれんがな。… … … ん?」
A「?どしたの?B」
B「誰か来たぞ」
オッサン「… !!」
A「あれって、まさか…」
オッサン「… … …」
オッサン「妻と、娘だ」
- 66 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/09(火) 21:23:06.65 ID:oGJauVLC0
- 妻「… あら?」
B「…どうも」
娘「お父さんのお知り合いの人ですか?」
B「まあ、そんなところです」
妻「わざわざお墓参りに?…ありがとうございます。丁度昨日が一周忌だったんですけど…いらっしゃいました?」
オッサン「… 一周…」
B「いえ。えーと、父の仕事の付き合いというか…遠い知り合いですので。 たまたま、ここがお墓だという事をお聞きしたので立ち寄っただけで」
娘「…ありがとうございます。…その制服、近くの中学のですね」
B「はい、2年です」
娘「… そっか」
娘「私が中学の時、お父さん死んじゃったから… なんか、思い出しちゃうな」
オッサン「… … …」
- 67 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/09(火) 21:24:07.25 ID:oGJauVLC0
- 娘「思春期、っていうのかな。たった一年前の事なのに…なんかあの頃のあたしが、どうしようもなく憎たらしくって」
B「そうなんですか」
娘「どうしてなんだろうね。周りの皆が、お父さんなんて汚いものだのなんだのって言うから…なんか、あたしまでそんな風に思ってきちゃって」
娘「臭いだの、近寄らないでだの…自分の父親の事を毛嫌いするのが、なんか、かっこよく思ってたのかも」
娘「… … …」
娘「もう…お父さんの匂いも、嗅げないのに…っ…。 お父さんに、近寄れも、しないのにっ… っ…!!」
B「… … …」
A「… … …」
オッサン「… … …」
オッサン「…そんなに、自分を責めるなよ…! 愛華…。もう、いいんだ…」
オッサン「もう、俺は… その言葉を聞けただけで…」
- 68 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/09(火) 21:25:02.35 ID:oGJauVLC0
- 妻「家族の為に一生懸命に、主人は働いてくれていました。朝は早くに出て、夜は終電近くに帰ってきて…」
妻「だから、私も娘も…なんとなく主人と疎遠になってしまって」
妻「きっと、主人もそれで家に帰ってきてくれなくなっていたんだと思います。…仕事が落ち着いても、外で呑んでいて…私達が寝静まるまで帰ってきてはくれませんでした」
妻「…当然ですよね。私が、帰り辛い家庭を作っていたんですから」
オッサン「… … …」
妻「当時はまるで、主人を他人のように思ってしまっていて…。会話しづらくて、疎ましくて…。食卓も一緒に囲まないで、遅くに帰ってくる主人と会いたくないから、先に寝室に…」
妻「本当は、もっと話したかったのに…顔を、見たかったのに…。私は、正反対の事ばかり…」
オッサン「違うんだ…真由子…。その家を作ったのは…俺なんだ…」
オッサン「家に帰らなかったのも、会話をしたがらなかったのも…全部、俺が悪いんだ…!」
妻「今更悔やんでも…もう遅いのに。…毎日、もっと主人と話せばよかったって…後悔しながら…」
妻「…ごめんなさい。貴方に言ってもしょうがない事なのに…」
B「… いえ」
妻「…不思議な感覚ね」
妻「なんだか、貴方に話していると…主人に、伝わるような気もするわ。…どうしてかしら」
B「… … …」
B「よく言われます」
- 69 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/09(火) 21:26:07.47 ID:oGJauVLC0
- オッサン「…ごめんな… 愛華…真由子…」
オッサン「俺がもっと、しっかりしていれば…。 もっと、お前たちとしっかり向き合えていれば…!」
娘「…きっと、お父さん、私達を恨みながら死んだと思う…」
オッサン「違う!!そんな事はない!!」
妻「一年… こうやって毎日、この時間にお墓に来て、手を合わせますの」
妻「…でも…なんだか都合のいい話よね。なんだか許しを乞うているみたいで… 自分が、情けないわ」
オッサン「許しも何もあるか!!お前達は俺の事なんか忘れて生きてくれりゃあいいんだ!!」
オッサン「もう、分かったから…!!お前達の事は、全部…!! だから、後悔なんかするな!!」
A「… 伝わらないって…辛いね。こんなに叫んでるのに…聞こえないなんて…」
B「… そうだな」
A「ねえ、B。…どうすればいいんだろう。これじゃ、みんな、可哀そうすぎるよ」
B「… … …」
- 70 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/09(火) 21:26:57.25 ID:oGJauVLC0
- 妻「…本当にごめんなさい。見ず知らずの貴方に、色々言ってしまって」
娘「お父さんの知り合いだったんだよね?…お父さん、きっと喜んでるよ。私達が来るより、ずっと…」
B「… … …」
オッサン「もうやめろ… やめてくれ…!後悔なんてしないでくれ…!!」
妻「そろそろ暗くなりますから…どうかお気をつけて。…本当に、ありがとうございました」
娘「ありがとう」
オッサン「愛華…!真由子…!!」
B「… … …」
B「生きていた頃の親父さんは、家族の話はしたがらなかった」
妻「…!」
娘「え…?」
オッサン「…!?」
- 71 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/09(火) 21:29:00.41 ID:oGJauVLC0
- B「酒臭くて、口が悪くて。何かにつけて文句を言ってたな」
B「ようやく家族の話をしてくれた時も、やっぱり奥さんと娘さんの文句しか言っていなかった」
妻「…そうでしたか…」
娘「… … …」
A「ちょっと、B…!」
B「それでも」
B「それでも親父さんは、文句を止めなかった。親父さんは家族の文句を言う程、悲しくて、辛そうだった」
B「きっとそれは」
B「それでも、戻りたかったからだと思う」
娘「…戻りたい…?」
B「家に。家庭に。…自分が作ってきた、自分の場所に。壊れていても、帰りたかった」
B「人間、文句を言う時ほど、それに対して憧れや執念があるものだ」
B「だから親父さんはずっと文句を言っていたんだと思う。…奥さんや娘さんの笑顔に早く会いたかっただろうからな」
B「そして、親父さん自身もきっと…自分が笑顔で家に戻れる時を、待っていたんだろう」
オッサン「…お前…」
- 72 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/09(火) 21:30:14.19 ID:oGJauVLC0
- 妻「… っ…!」
娘「ひぐっ…!!ぅ…!!」
B「後悔しても、罪滅ぼしをしても、何も変わらない。それはきっと死んだ親父さんも同じ」
B「でもそれは、多分どんな人間でも同じ事だ」
オッサン「…!!」
B「文句を言って、後悔して、懺悔して…。 きっと誰でも、そうしながら生きている」
B「生きているうちに分かち合える人達なんて…きっと、ほんの僅かだ」
B「だから、今分かち合えた貴方達の家族は、良かったんじゃないかな」
妻「… … … そう、なんでしょうか」
B「ああ」
B「死んでもなお親父さんの気持ちに気付けないなんて、親父さんも貴方達も、不幸すぎるだろう」
B「親父さんは頑張って家族のために尽くしてくれていた。…それが分かったと言ってくれただけで…親父さんは、きっと幸せだ」
オッサン「… ああ…!!」
オッサン「そうだとも…!!そうだ!!もう、俺は…十分…っ!!」
オッサン「十分、幸せだ…!!」
- 73 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/09(火) 21:31:12.54 ID:oGJauVLC0
- 娘「…お父さん…っ…」
妻「あなた…。 …本当に、今まで、ありがとう。… … …」
B「… … …」
A(娘さん、奥さん、そしてBは… お墓に向けて、手を合わせた)
妻「それじゃあ…本当に、ありがとうございました。あの、良ければ家でお茶でも…」
B「… … … いえ。本当に、遠い知り合いでしたから」
娘「じゃ、せめて名前を…」
B「… … … 失礼します」
A「…あ。待ってよ、B…!!」
妻「… … …」
妻「本当に、ありがとうございました」
娘「ありがとう」
オッサン「… … …」
オッサン「ありがとうな」
- 74 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/09(火) 21:32:34.44 ID:oGJauVLC0
- A「…あ…。B…」
B「…ん? … … …」
A(私達が振り返ると、そこには私達に頭を下げる奥さんと娘さん。そして…オジサンの姿があった)
A(その三人の姿は…まさしく、本当の『家族』だった)
A(そして、私が瞬きをした一瞬)
A(オジサンの姿は、どこかに消えてしまっていた)
B「… いったか」
A「…良かった。 …でも、どこに?」
B「さあ?でも、良かったんじゃないかな」
A「… … …」
A「うん、そうだね!」
- 75 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/09(火) 21:33:34.16 ID:oGJauVLC0
- B「分かち合えないっていうのは、罪なものだな。それだけで憎みあって、傷つけあってしまう」
A「…そうだね…」
B「オッサンの幸せなところは、分かち合えた事だな。何より、奥さんも娘さんも、オッサンも、素直だった事」
A「いい家族だったのかもね。私達が思っていたのより、ずっと」
B「危なかったかもしれないぞ。あれが拗れていたら、オッサンも悪霊になりかねない」
A「あはは、Bが上手にオジサンの気持ちを喋ってくれたからだよ」
A「… … …」
A「本当にありがとうね、B。…私の我儘に付き合ってくれて」
B「もうごめんだぞ。あんまりこういう事はやりたくないんだからな」
B「罰として明日からバイオ禁止な」
A「えええー…それだけは勘弁を…」
A「… … …」
A「でも、嬉しそうじゃん、B」
B「うるへー」
- 76 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/09(火) 21:34:25.48 ID:oGJauVLC0
- A(帰り道。すっかり暗くなった景色を見ながら、私は思った)
A(きっとBは、私が思うよりずっと…辛い経験をしてきたんだろう)
A(幽霊が見える。幽霊と話せる。その才能のせいで…きっと人より、深い傷を負っている)
A(…幽霊の私に出来る事じゃないかもしれないけど)
A(私が、少しでもBの助けになれるのなら…)
A(それが私の『生甲斐』なんだろう)
A(…いや、『死甲斐』かな?)
A(そんな事を思いながら、私はBの横顔を見て少し笑った)
B「気持ち悪いぞ」
A「うるさいっ」 - 77 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/09(火) 21:36:07.55 ID:oGJauVLC0
- 二話終了です。本当に長くなっていました…すいません。
短編集ですので次回で一旦終わりにしたいとは思っていますが…どうなんでしょう、自分でもよくわかりませんw
また数日後に投稿したいと思いますので、よろしければお付き合いいただけると幸いです。
それでは、失礼します。 - 81 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/10(水) 01:29:05.70 ID:GFmPqei1O
- 乙
よかったよ
ジーンとした - 88 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/15(月) 21:11:00.91 ID:uUwGvNPt0
- A(『それ』とは唐突に出会ってしまった)
A(Bにあれだけ注意されたのに。目を合わせるなと言われていたのに)
A(私は、目を合わせてしまった)
A(じっと私を見つめる、その視線と)
A(私の後ろでは、踏切の閉まる音が聞こえる)
A(その音が突然止まったような衝撃)
A(私は、持っていたメモを、つい落としてしまった)
A(おじいさんが私を見る目が… 恐ろしいほどに、私に向け、真っ直ぐだったから)
おじいさん「… … …」
- 89 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/15(月) 21:12:01.76 ID:uUwGvNPt0
- ――― 一時間前。
B「んじゃ、学校行ってくるから留守番頼むぞ番犬」
A「誰が番犬だ誰が。あ、そうそう、夕飯何がいい?」
B「ん?夕飯?」
A「うん、私じゃ買えないけど、何か材料見繕っておいて後でBに買ってきてもらおうかな、なんて」
B「… … …」
A「なによ、その不審な目は。この間のビーフシチュー美味しかったでしょ?」
B「なんか、死人とはいえ中学生とは思えないほど老け込んだな、A。オカンみたいになってるぞ」
A「るっさいわね!!私だって何か役に立ちたいと思ってるんだから素直に気持ちを受け取りなさいよ!!」
- 90 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/15(月) 21:13:23.40 ID:uUwGvNPt0
- B「見繕うってなにを」
A「たとえばハンバーグ食べたいなら近所のスーパー行って旬のものとか見てくるのよ」
A「あとは今安いものとかね。Bの仕送りのお金にも限度があるでしょ?それでどんなハンバーグ作るか決めるから」
A「私がスーパー行って買うものメモしておくから。それでBが買ってきてくれれば作れるし」
B「… … …」
A「何ちょっと引いた顔してんのよアンタは」
B「私…まだ一応結婚願望とかないわけじゃないし…一緒に帰って友達に噂とかされると恥ずかしいし…」
A「誰がアンタの嫁になると言った!?毎度毎度言ってるけど料理作るの得意なんだからちょっとは任せろ!!」
B「… … …」
B「でもまあ、Aだけで出かけるのはちょっとやめておいたほうがいい」
A「なんでよ?」
B「死んでるから。しかもそれにまだ慣れてない。だから、目を合わせないほうがいいヤツとも目が合う」
- 91 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/15(月) 21:14:46.43 ID:uUwGvNPt0
- A「ああ、前言ってた悪霊とか怨霊の話?」
B「… 基本的に、死んでるヤツと目が合うのはやばいんだ。自分を見えると気づいた瞬間、襲い掛かってくるヤツだっている」
B「自分の立場になって考えてみろ。誰からも無視される。誰からも気付かれない。そんな状況で自分を見つめている人がいる… どう思う?」
A「… … …そりゃ、助け、求めるよね」
B「助け求めるどころじゃない。あっちの世界に引きずりこもうとする輩もいるわけだ。腕を掴まれたら最期、ジリジリ苦しんで…ここじゃない世界へ連れて行かれる」
A「… … …」
B「私は慣れているが、Aはまだそういうの見たことないだろ。だから目の上手い逸らし方とかも分からないから」
B「Aは死んでいて肉体がない分、あっちの世界に連れて行くのが容易だ。目が合ったらアウトだと思え」
B「だから、もう少し慣れるまで一人で出かけるのはやめておけ」
A「… … … でも」
B「でももだってもない」
- 92 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/15(月) 21:15:58.09 ID:uUwGvNPt0
- A「むー」
B「安心しろ。寛大な私はお前が死んでいてタダ飯喰らいで働きもしないでゲーム三昧のナマケモノのような幽霊でも家の中に匿っておいてやるから」
A「そんな暴言に暴言を重ねたセリフに安心できるものか」
B「ここに戻ってこれなくてもいいなら別に行っても構わないぞ」
A「… … …」
B「… … …」
A「… … …」
B「… … … はぁ」
B「マンション出て、踏切超えたところのスーパー。そこまでならいいぞ。今までそういうヤツがいた事はないからな」
A「!!! あ、ありがとうB!!」
B「ええい、引っ付くな。この犬め」
- 93 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/15(月) 21:17:38.45 ID:uUwGvNPt0
- B「まあとにかく、『そういうヤツ』がいたら目を合わせない。見えないフリをしてそっと通り過ぎる」
B「基本的にあっちは思考能力が鈍ってて、Aが生きてるか死んでるかは多分分からないだろう」
B「100mも離れてないスーパーだから居る事はまずないだろうが… それだけは肝に銘じておいたほうがいい」
B「まあすでにお前の肝動いてないけどな。HAHAHA」
A「なんでアイツはこう一言一言に皮肉を挟まないと気が済まないのかなぁ…!」
A「… さ、気を取り直して。えーと」
A「自動ドアが開くの待たないで入れるのは楽だよね」
- 94 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/15(月) 21:18:49.00 ID:uUwGvNPt0
- A「リクエストは醤油ラーメン… Bらしいというかなんというか…もうちょっとお袋の味的なものできてよって感じだよね…」
A「えーとモヤシと…どうせ普段ろくに野菜食べてないだろうからいっぱい入れてやろ」
A「ほうれん草、ニンジン…へー、カット野菜なんて売ってるんだ。こりゃ便利だけどやっぱりちゃんと調理したほうがいいんだろうなー」
A「チャーシューはハムでいいよね。麺は生麺で… なにこのなんとか正麺って。なんかえらい量積んでるわね。美味しいのかな」
A「… … …」
A「うん、予算内。おさえるとこおさえればしっかり節約できるもんよ」
A「… はぁ。このまま買って帰れれば楽なんだけどなー」
A「しっかりメモしとこ」
- 95 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/15(月) 21:19:51.23 ID:uUwGvNPt0
- カンカンカンカン
A「よし、今日のお仕事終了。メモもとったし。さあて、帰って何するかなー」
A「いっそ違うのに手出してみるかな。ドラゴンクエスト1から全部やってみるか」
A「しっかしBの家ってゲームしかないんじゃないかってくらいゲームだらけなのよね。おかげで全く退屈しなくていいけど」
A「ファミコンからゲームの進化の過程を感じられるのも、今までゲームができなかった私にしか味わえない感覚よ、うんうん、幸せ」
カンカンカンカン
A「… … …」
A「って、踏切が開くの待つ必要ないんじゃん、私。あははは」
- 96 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/15(月) 21:20:36.64 ID:uUwGvNPt0
- A「… … … ん?」
A「なんだろ、あそこにいるおじいさん。具合でも悪いのかな」
A「ずーっと線路の方見てるけど…」
A「… … …」
おじいさん「… … …」
A「… … …」
おじいさん「… … …」
A(その時。 視線とは反対側から来た私の方に… おじいさんの目が、急に向いた)
A「!!!!!!」
おじいさん「… … …」
A(目が、合って、しまった…)
- 97 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/15(月) 21:21:36.09 ID:uUwGvNPt0
- ・
・
・
A「はぁっ、はぁっ、は――」
おじいさん「… … …」
A「つ、ついてきてる…!?」
A「と、とにかくどこかに逃げなくちゃ…!」
A「家に帰って… …。 ダメ!それじゃアレに家の場所が知られちゃう…!」
A「とにかく今はどこかに隠れて…!」
おじいさん「… … …」
A「な、なんで…。なんであんなにゆっくり歩いてるだけなのに追いつけるのよ…!!」
A「誰か、助けて…!!B…!!」
- 98 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/15(月) 21:22:30.71 ID:uUwGvNPt0
- A「… … …」
おじいさん「… … …」
A「…ッ! まだ、いる…!私の事探してるんだ…!」
A(公園の茂みに私は身を隠した。一応は見つかっていないみたいだけれど…まだ、おじいさんは私の事を探すように辺りをうろついている)
A(完全に、目をつけられた…)
B『Aは死んでいて肉体がない分、あっちの世界に連れて行くのが容易だ。目が合ったらアウトだと思え』
A(いやだよ… いやだよ…!)
A(私まだ… ここに… この世界に、いたいよ…!)
- 99 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/15(月) 21:24:06.19 ID:uUwGvNPt0
- A(膝を抱えて震えながら、どれくらい時間が経っただろう)
A(気づいたら、辺りは夕暮れのオレンジに染まっていた。もうすぐ日が暮れるだろう)
A(私はもう一度…茂みから少しだけ、顔を出してみた)
A「… … …」
A「いな、い…?」
A「諦めてくれたのかな…。 … よ、よかったぁぁぁ… 」
A「と、とにかく今のうちに家に帰らないと…」
A「早くBのところへ…!」
――― ―― ― …
A「… え …?」
おじいさん「 みつ、けタ… 」
A「!!!!」
- 100 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/15(月) 21:25:02.10 ID:uUwGvNPt0
- A「きゃああああ――――ッ!!!」
おじいさん「… … …」
A(やだやだやだやだやだやだ…! 早く早く…ッ!!早く家に帰りたい…!!)
おじいさん「… … …」
A(B… Bッ…! 助けて――― !!)
・
・
・
A「はぁっ、はぁ…!」
A(け、結局、帰ってきちゃった…。マンションまで…)
A(あ、あのおじいさんは…? … … …)
A「いない…?」
A「と、とにかく見つからないうちに、部屋に…!」
- 101 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/15(月) 21:25:51.05 ID:uUwGvNPt0
- A(私は勢いよく部屋に入り、鍵を閉めてドアチェーンをかけた)
A(部屋の隅まで移動して…膝を抱えて…。 一人で、情けないくらい震えていた)
A(B… まだ帰ってきてないの…?)
A「… … …」
ピ――ンポ―――ン
A「!!!!」
- 102 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/15(月) 21:26:44.96 ID:uUwGvNPt0
- A「だ、誰…?B…?」
ピ――ンポ―――ン
A「ねえ… Bなら、返事してよ…」
… ピ――ンポ―――ン
A「お願いだから… ねえ… 誰か、教えて…」
… … ピ――ンポ―――ン
A「… … …っ…」
ガチャガチャガチャガチャ!!
A(ドアノブを激しく動かす音…)
ドンドンドンドン!!
A(ドアを激しく叩く音…!!)
A(嫌だよ… 怖いよ…B…!)
- 103 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/15(月) 21:28:09.83 ID:uUwGvNPt0
- … … …
カチャッ。
A「… え… … …」
A(ドアの鍵が、開いた…?)
A(そんな、どうして…)
A(幽霊だから… 悪霊だから…?)
A(入って、きちゃう… ッ!?)
ギィィィィ…。
B「おい、ふざけんなA。なんでドアチェーンまでかけてるんだ」
A「うわあああああああああああんッ!!」
B「ちょっ、おま。いきなり抱きつくな。なんだなんだ」
- 104 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/15(月) 21:29:25.16 ID:uUwGvNPt0
- A「怖かったよ、怖かったよおぉぉぉっ…」
B「他人から見ればどう考えても幽霊に抱擁されてる私のが怖いだろ。とにかくドアチェーン外して入れろ。人間の私じゃ通れん」
A「ご、ごめん。今開ける」
B「なにがあった」
A「目が、目が合っちゃったの…!」
B「え」
A「それで、追いかけられて…! 私、必死で逃げて…!!」
A「うぇええん…っ!!ホントに怖かったよぉぉ…っ!!
B「分かった分かった。とにかく抱きつくな。ひんやりして寒い」
- 105 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/15(月) 21:30:20.43 ID:uUwGvNPt0
- B「目が合った、か」
A「うん…おじいさんの、幽霊。私の事、見えてた。あれがBのいう悪霊なんでしょ…?」
A「この辺りにはいない、って言ってたのに… どうして…?」
B「… … … なるほどな」
B「A。ちょっと外でかけるぞ」
A「え!?だ、ダメだよ!あの怨霊、まだうろついてるかもしれないよ!?見つかったりしたら、ここの場所が…」
B「いいから。ちょっとマンションの外まで行くだけだ」
- 106 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/15(月) 21:31:09.78 ID:uUwGvNPt0
- A「… … … キョロキョロ」
B「そうびびるな」
A「だって…!まだきっと、近くに…」
B「いるぞ」
A「… … … え …?」
B「お前の後ろに」
A「… !?」
おじいさん「 みつ、けタ… 」
A「きゃあああ―――――――ッ!!」
- 107 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/15(月) 21:32:08.35 ID:uUwGvNPt0
- A「あ、あ、あ…っ…!!」
おじいさん「… … …」
A「どうしてっ… どうしてぇぇえ…っ!?」
おじいさん「… … …」
A「やだよ… 私、まだ…ここにいたいよ…!いきたくないよぉ…っ!!」
おじいさん「… … …」
A「私…まだ…!! Bのそばにいたいよおおおおおッ!!!」
おじいさん「… … … (スッ)」
A「… … …」
A「… え?」
おじいさん「落し、物だ」
A(差し出されたおじいさんの手の中には)
A(私が書いて、落とした… スーパーの食材のメモがあった)
- 108 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/15(月) 21:33:11.59 ID:uUwGvNPt0
- A「え… あ… え…?」
B「マンションの前にこのじーさんがいるから、妙だと思った。話を聞いたらそういう事らしくてな」
A「そういう、事って…」
B「落し物だよ。メモ。渡そうとしたら逃げられて、困ってたらしいぞ」
A「え… … …」
おじいさん「… … …」
A「あ、ありがとう… ございます…」
A(そう言って私は、おじいさんから差し出されたメモを受け取った)
おじいさん「… うむ」
A「あ、待って… おじいさん、どこ行くの?」
おじいさん「… 元の場所へ、帰るだけだ」
- 109 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/15(月) 21:34:04.63 ID:uUwGvNPt0
- A(私とBは、おじいさんの後をついていった)
A(ついていったと言っても、ほんの何分か。…あの踏切の前までくると、おじいさんは私とあった時みたいに、ベンチに腰かけて視線を踏切の方へ移した)
A(きっとそこが、生前おじいさんの特等席だったのだろう)
A「おじいさん… いつも、ここで踏切見てるの?」
おじいさん「… ああ」
A「どうして?」
おじいさん「… 人が、見えるからな」
B「人?」
おじいさん「… 人。… 笑顔で踏切を渡る買い物帰りの母と子。… 疲れていても凛とした顔で家を目指す部活帰りの学生。… 疲れ、悲しげな顔をした会社員」
おじいさん「皆、それぞれ、何かを思いながらこの踏切を渡っていく」
おじいさん「…思い。感情。そういうものを感じられるからこそ、儂も人でいられる」
A「…ずっと、見ていたのね。生きている時も… 今も」
おじいさん「… ああ」
- 110 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/15(月) 21:35:46.50 ID:uUwGvNPt0
- B「もうじーさんも随分ここにいる。普通なら満足して成仏するか、それこそ悪霊になるか…。 でも、ずっと変わらないな、じーさんは」
おじいさん「はっはっは。… まだ儂は満足しておらんよ」
おじいさん「…もっと。…いや、もう少しでも構わん。儂は見ていたいのだ。この時代を生きて、暮らす人々がどんな表情をしているのかを」
おじいさん「世の中不景気だ、暗くなった… なんて、もう何十年も言われている。それこそ、儂が生きていた時代も。…そして今、死んでいる時代も、ずっと」
おじいさん「それでも、人はまだ笑って暮らせている。暗い顔をしているヤツも、次にここを通る時は笑っていたりもする」
おじいさん「この国が、今どんな風なのか。どう変わっているのか。 …踏切を通る奴らを見れば、何となく分かるものさ」
B「そんなもんかねぇ」
おじいさん「若いうちは分からんものだ」
A「…でも、素敵だね。人の笑顔を見れるのがおじいさんの幸せでもある、なんて」
A「…ごめんね。おじいちゃん。悪霊なんかと勘違いしちゃって」
おじいさん「構わんさ。悪霊みたいなものだからな、はっはっは」
B「踏切に死んでもなお居続ける幽霊がいるなんて、それだけ聞けばここは立派な心霊スポットになっちまうからな」
A「あははは。確かに」
- 111 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/15(月) 21:37:01.53 ID:uUwGvNPt0
- A(その後。私とBは踏切を渡ったスーパーで買い物をして、また踏切を通って帰路についた)
A(踏切を超えたところにある、小さなベンチ。 …誰も座る事のない、そのベンチ。 おじいさんはそこで、私達に小さく手を振った)
A「じゃあね、おじいさん。…メモ、届けてくれて本当にありがとう」
おじいさん「なに、どうせ暇なんだ。礼には及ばないよ」
A「…おじいさん。…また会いにきていい?」
おじいさん「ああ。いつでもおいで。 こんな年寄りでも、幽霊同士、暇潰しになるのならな」
A「あはは。幽霊の先輩だもん、色々教えてね、おじいちゃん」
おじいさん「うむ。…それじゃあな」
A(帰り道、Bが夜空を見上げて、呟いた)
B「…もう少ししたら、あのじーさんもいなくなるかもな」
A「え?」
B「…幸せそうに笑う幽霊は、旅立つ。もっと幸せになれるであろう場所に」
A「… … …」
A「そっか」
A(そういうBの表情は、いつもより少し寂しそうだった)
- 112 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/15(月) 21:38:02.37 ID:uUwGvNPt0
- A「ただいまー!あー、今日は疲れたー… …ねえ、今日はBが作ってよ。醤油ラーメン。私くたくた」
B「作れるわけないだろ。そもそもお前が作れると言うから材料買ってきたんだろうが」
A「えー…」
B「ほら、キリキリ働け家政婦」
A「あ、良かった。犬じゃなくなったんだ」
B「ランクアップしてやる。家政婦犬に。だからメシ、作れ」
A「しょうがないなー。…はぁ、頑張って作りますかー」
B「何故嬉しそうなんだ」
- 113 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/15(月) 21:39:25.39 ID:uUwGvNPt0
- A(少しして… 出来上がった醤油ラーメンを2人で啜りながら、私は思った事をBに言った)
A「…ねえ、B」
B「ずるずる。 …ん?」
A「私も… 幸せになっちゃったら、いなくなっちゃうのかな。…此処から」
B「… … …」
B「さあな。私は『見える』だけだ。それ以上の事は分からん」
A「…そっか。 … なんか、怖いな。明日になったら私、急に消えちゃったり…するのかな」
B「… … …」
A「… … …」
B「この醤油ラーメン、美味いけどちょっと味薄いぞ」
A「… え?」
B「次作る時はもっと濃く作れ。あとハムもケチらないでちゃんとチャーシューにしろ。…分かったな」
A「…!! うん、分かった!!次も私、がんばって作るからね!!!」
B「ええいひっつくな駄犬」
A(幽霊は、いつか消えちゃう。何処かへ旅立つために。…そこは、今のような幸せがある場所なのだろうか?)
A(それでも…私は、今、この自由を噛みしめていたい)
A(もう少しでもいいから… 人と幽霊が暮らす、この世界で、『生きて』いたかった)
- 114 : ◆l3y7Z.NoQU 2015/06/15(月) 21:44:06.72 ID:uUwGvNPt0
- お付き合いいただきありがとうございました。
これで書き溜めていた分は全て終了になります。
明確なラストではなく、AとBの短編集のような感じで作っていたのでこのような形になりました。
他に書きたい話も色々あるのですが、いつになるかわからないのでこれにてhtml化の依頼を出させていただきたいと思います。
お読みいただいた方、本当にありがとうございました!
【追伸(質問?)】
続きの需要がもしあるようであれば是非書きたいのですが新しいスレッドを立てるような形でいいのでしょうか…?
なんにせよ続きがいつになるかわからないもので… どなたか教えていただけると幸いです。
慣れておらずすいません(汗)

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