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綾「5年越しの卒業」

1 : 1 2015/06/23(火) 00:22:21.18 ID:8fNe10zP0
※注意事項

★きんいろモザイクの登場キャラクターの、『本編数年後の話』を描いています。
その為、オリジナル設定も多々登場し、原作やアニメの雰囲気とは基本的に著しくかけ離れています。

★男性がそれなりに登場します。苦手な方は気をつけて下さい。

★本作は綾と陽子の関係性がメインに描かれますが、
いわゆる陽綾の百合ssとも違う(と思っています)為、濃い百合を求める方は満足できないと思われます。


上記のような設定でも、大丈夫な方は、お読みいただけると幸いです。
受け付けない要素があるなら、読むのをやめるか、気をつけて読んで下さい。




3 : 1 2015/06/23(火) 00:24:35.93 ID:8fNe10zP0

2021年 7月


―――夜の町。


「―――急がないと」


私、小路綾は、広場に向かっていた。
今となってはもう見慣れた、駅前の広場。

私はこの広場を通る時に、たまに高校時代を思い出す。
しの、アリス、カレン………そして陽子。
高校時代の、私のかけがえのない友人達。

大学に入ってから、友達が全く居ないわけではなかったけど。
高校時代の頃は、毎日が輝いていた。
言うなれば、金色に……
アリスやカレンといった、金髪の美少女が居たのも、あるかもしれない。

そして何より、陽子がいた。
もちろん、しのもアリスもカレンも、皆大切な友達だ。
けれど私にとって、そこに陽子がいる事には、特別な意味があった。
………未だによく、その頃の事を思い出す。

未練があるのだ。


4 : 1 2015/06/23(火) 00:26:31.70 ID:8fNe10zP0
陽子は、私とは違う大学に行く事になった。
当然、私と陽子とでは、正直、学力の差もあるし、好きな分野だって違った。
だから、必然である。 大学の選択に後悔は無い。

だがもちろん、不安ではあった。
違う大学に行っても、陽子と今までのように、友人で居られるだろうか。
そんな不安が。


しかし、大学に行ってからも、私達は連絡を取り合った。
たまに会って遊んだりもしたし、学校が違うだけで、
大学一年の頃は、あまり高校の頃と変わらないではないか、程に思っていた。


だが、……その回数も、次第に減っていった。


5 : 1 2015/06/23(火) 00:28:53.02 ID:8fNe10zP0
時間とは、距離とは、残酷である。
いや、これは私が望んだ結果なのかもしれない。
私は、例え住む国が違っても、強い想いで好きな相手の居る国の事を勉強し、
単身でそこまで向かうほどの事が出来る子を知っている。

私は彼女……アリス・カータレットほど、強くなかった。
陽子と会う時間だって、作ろうと思えばいくらでも作れたし、
距離だって、大学は県が一つ離れている程度だ。電車を使えばいつでも会えた。
………私のこの想いだって、言おうと思えば…… 言えるチャンスは、いくらでもあった。

私は陽子の事を、恐らく一人の人として、好きなのだ。

そんな事は、とうの昔から気づいていた。
ただ、中学生の頃は、しのと私と陽子の三人、
高校の頃は、それにアリスとカレンを加えた五人……
この仲間達との居心地が良すぎて、それを壊したくなかった。

恋人になるには、私と陽子は、あまりにも近すぎた。
陽子はあまりにも優しすぎて、私はあまりにも弱かった。


6 : 1 2015/06/23(火) 00:31:04.64 ID:8fNe10zP0
―――それだけなら、まだ良かった。
一人の弱い女が、ある女を好きになり、結局、告白できずに終わり、涙を流した……
………それなら諦めがついていたかもしれないし、そんな展開の方が、不器用な私らしい。

だが、私は少々、陽子の事となると性格が変わる。
カレンにも、二人で話す時によく言われていた。

未練がありすぎる私は、ただ、
陽子の事を思い出すだけではなく―――



「……お待たせ。ごめんね、待った?」

「いえ、大丈夫です。」

「じゃあ、行きましょうか。」


「…………はい。綾……お姉さん」



―――あの頃を引きずって。

私の好きだった人の弟。
猪熊空太を―――無理矢理、繋ぎとめていた。


7 : 1 2015/06/23(火) 00:32:54.25 ID:8fNe10zP0

私達は、雰囲気の良いレストランに入った。
中々お洒落なお店で、私のお気に入りだった。
高校時代には、少々値が張るお店だったので、五人で来た事は無かったが、
私が大学に入ってからは、よくこの店に来ていた。
―――こうして、空太君と、一緒に。



綾「こうして会うのは、久しぶりね?」

空太「そうですね。最近、会ってなかったですから。」

綾「空太くんは、どう?最近。高校生活は……楽しんでる?」

空太「それなりに。
……お姉さんこそ。 お仕事は、順調なんですか?」

綾「ええ。概ね、満足しているわ。
友人も少しは出来たし…… そこそこ楽しんでる。」

空太「そうですか。 …………」

綾「………」



8 : 1 2015/06/23(火) 00:35:19.15 ID:8fNe10zP0

―――三年前―――


2018年 7月

―――大学に入って二年目。
陽子と会って遊ぶ回数も減ってきた頃だろうか。

私は大学のサークルの飲み会で、飲み屋で大いに飲んでいた。
その日は偶然、気分が良くて少し飲みすぎて、早めに店を出たのだが、
店を出た後に酔いが回って来て……

その時偶然、空太君と出会ったのが、きっかけだった。
後で聞いた所、塾でその日は遅くまで勉強していて、その帰りだったらしい。


空太「綾お姉さん!!?」

綾「………ぁれ…… あなた……空太君、じゃ、ない。」

空太「……うわ、酒臭っ!
綾お姉さん、お酒飲んだんですか!?」

綾「そうよ……うふふふふ」

空太「だ、大丈夫ですか?ふらふらしてますけど……」

綾「大丈夫………遅くなるって、親には言っといたから……きゃっ」

空太「危ないっ!!」ガシッ

綾「……ぁ……」

空太「……もう……
そんなんで、帰れるんですか……」

綾「帰れ…… ないかも……うっぷ」


9 : 1 2015/06/23(火) 00:36:11.15 ID:8fNe10zP0
空太「はあ……… ………ウチに来ますか?」

綾「えっ……」

空太「ここからなら……姉の家によく来てた綾お姉さんなら、
家が近い事、分かるでしょう?」

綾「え……良いの? そんな、悪いわ……」

空太「こんなに酔っている綾お姉さんが、無事に帰れない事の方が心配です!!」

綾「う……… ………」


―――本当は、頑張れば一人で帰れそうだった。

けれど、何となく……
その時の私は、空太君について行って、一緒に陽子の家まで帰った。

丁度、陽子と長い間、会っていなかった。
久しぶりに、陽子の家に行きたいと思った―――


10 : 1 2015/06/23(火) 00:38:39.66 ID:8fNe10zP0
空太「……ただいま」

美月「おかえり。 ……あら?」

綾「こんにちは、美月ちゃん……ごめんなさい、お邪魔します………」

美月「綾お姉ちゃん!久しぶり……どうしたの?」

空太「綾お姉さん、酔っててふらふらだったから、ここまで連れて来たんだ。」

美月「へ~…… ……羨ましい」

空太「なにがだよっ!」

綾「ごめんなさい、本当……
迷惑なら、ちょっと休んでから、帰るから……」

美月「良いよ、綾お姉ちゃんだもの。泊まっていって」

綾「え…… ………でも………」

美月「もし綾お姉ちゃんを一人で帰らせて。
何かあったら、陽子お姉ちゃんに怒られちゃう」

綾「!」


陽子………


11 : 1 2015/06/23(火) 00:39:51.93 ID:8fNe10zP0
空太「……美月の言う通りですね。今日は泊まっていって下さい。」

綾「………じゃあ、お願いするわ。」

美月「やったー、綾お姉ちゃんとお泊まりー!」

空太「遊びじゃないんだぞ、美月。」

美月「……空太も、嬉しいくせに」

空太「なっ、なんでだよ!俺は普通に、綾お姉さんを心配してだな……」


綾「……ふふふ。ありがとう。
……とりあえず…… 上がっても、良いかしら。
少し、水が飲みたいわ……」

美月「あ、分かった。持って来るね。
お父さんとお母さんは、今夜は仕事でいないから、
何も気を遣わなくていいよ。」

綾「ありがとう、美月ちゃん…」


―――美月ちゃんはリビングに走って行き、玄関には私と、空太君が残された。


空太「……」

綾「………」


その時の私と空太君の間には、変な沈黙が流れていた。


12 : 1 2015/06/23(火) 00:41:43.64 ID:8fNe10zP0
―――猪熊家のリビング


綾「……親には、連絡しておいたわ。本当にありがとう。
今日、柄にもなく飲みすぎちゃって、ちょっと疲れていたのよ…」

美月「ううん、久しぶりに綾お姉ちゃんが家に来てくれて、うれしい」

綾「……そうね。随分と久しぶり……
……私も、この家だったら、安心して泊まる事が出来るわ。
親も、陽子の家だと言ったらOKを出してくれた。」

美月「良かった。
……綾お姉ちゃん、私これから、お風呂に入ろうと思うんだけど……先に入る?」

綾「へっ!? いえ、いきなり泊まっていって、お風呂にまで入るなんて、そんなっ」

美月「大丈夫。お姉ちゃんの服、今使ってないのがあるから。」

綾「!! ……よ、陽子の服?」

美月「………」

綾「あっ!? い、いえ。
別に、陽子の服を着たいとかいう訳じゃ、全然!無いけど!!!
……でも、まあ、替えがあるっていうんなら……陽子のだし、借りようかしら……」

美月「………うふふ」

綾「!? 何笑ってるのよっ…!あ、洗ってちゃんと返すわよ!?
別に保存したりとかしないからっ!!!」

空太「いや、それは流石に当然ですよね!?」

美月「………うんうん。じゃあ、綾お姉ちゃん、どうぞ」

綾「あ……
いえ、順番なら、最後で良いわ。
私、ちょっと今、お酒がまだ回ってるから……
しばらく、ここで身体を冷ましてから入る事にする。」

美月「そう? …分かった。じゃ、私から入るね。」

綾「うん、ありがとう。」



―――美月ちゃんはそう言って、先にお風呂場へと向かって行った。


13 : 1 2015/06/23(火) 00:44:08.49 ID:8fNe10zP0
綾「………空太君?」

空太「? はい、なんでしょうか」

綾「さっきから思っていたんだけど………綾『お姉さん』なのね。
昔は、『綾のお姉ちゃん』と呼んでいたのに」

空太「………実の姉でない人にお姉ちゃん、と呼ぶのは、
流石の僕でも、恥ずかしい年頃になりました」

綾「……ふふふ、そう。
そういえば、美月ちゃんも、ちょっと変わったわね?」

空太「えっ、そう見えますか?」

綾「前より……よく喋るようになった。」

空太「あぁ……それは、そうかもしれませんね。
少しずつ、姉に似てきた気もします。
……まぁ、相変わらずマセてますけど」

綾「ふふっ、私の知る限りだと、空太君も、マセた子に見えてるけどね?」

空太「なっ?
……まあ、完全に否定はしませんけど。
でも流石に、嘘つきブラザーズのあだ名は、中学には広まってないですからね。」


14 : 1 2015/06/23(火) 00:45:48.95 ID:8fNe10zP0
綾「……そうね。空太君も、中学生なのよね……
随分、大きくなったように見える。」

空太「身長が急に伸びました。180センチくらいですね。」

綾「えええっ!!? そ、そんなに…無い、わよね!?」

空太「嘘です。」

綾「………ぷっ…!あははっ、やっぱり、嘘つきじゃない!」

空太「そんなに高かったら、また違った人生だったのかな、と考えた事はありますが。」

綾「えっ、どうして!?人生まで変わる!?」

空太「………楽しそうです。多くの人を見下して歩けます。」

綾「黒い!!」

空太「姉を『おい姉貴』とか上から呼んでみたいです」

綾「キャラ変わってない!?」

空太「ついでに妹の名前も月子になってたかもしれません」

綾「何の話!!?」


空太「………」

綾「……うふふっ、あなたは……変わってないのね、空太君。」

空太「よく、言われます。
美月は変わったと言われるのに、
僕の方は、身体が成長しただけで、相変わらずだと」

綾「そうね…… 相変わらずね。
……私が高校時代の頃を、思い出すわ…」

空太「………」


15 : 1 2015/06/23(火) 00:47:10.00 ID:8fNe10zP0
―――少しだけ、空太君の顔色が、曇ったような気がした。
しかし、酔っていた私は、それを気にしない。


綾「ねえ、空太君。陽子とは会っているの?
陽子は今、大学近くの下宿で生活していると聞いてるわ。」

空太「……たまにですね。
姉はだいたい、月に数回は帰って来るので。
その度に会っては、ゲームをしたりしています。
姉は弱いです、変化球で攻めるとすぐに僕達が勝ってしまいます」

綾「あははっ、陽子も相変わらず、単純バカなのね。」

空太「はい。
……その辺りは、綾お姉さんの知る、高校の頃の姉と、あまり変わりません。」

綾「……そうなんだ。」


16 : 1 2015/06/23(火) 00:49:09.90 ID:8fNe10zP0
空太「………姉が言っていました。
最近、綾お姉さんと会っていないと。」

綾「!」

空太「美月は、『ちゃんと会ってあげないとダメだよ。
綾お姉ちゃんは、姉ちゃんの事が大好きなんだから。』と言っていました」

綾「な、何言ってるのよ、美月ちゃん!!?
べ、べべ別に、陽子と会えなかったって、寂しいなんて……!」

空太「…美月に対し、姉は言っていました。
『私も会いたいけどな。でもきっと、綾は綾で、大学生活を楽しんでるんだよ。』
……と」

綾「……!」

空太「『大学には、高校の時とはまた違った、楽しい毎日があるんだよ』と……
姉は言っていました。
去年の後半……姉が大学一年生の頃の秋頃からだったと思います。
昔のように、『この前綾とデートしたんだ、いいだろー!』
と、僕らに自慢する回数が、減ってきました」

綾「………陽子…… ………」


17 : 1 2015/06/23(火) 00:51:39.00 ID:8fNe10zP0
空太君の話の中の陽子が、私の心を、深く抉った。

―――高校の時とはまた違った、楽しい毎日がある。
陽子は、自身もそれを楽しんでいて、
そして、私も……… それを楽しんでいると思っているのだろう。

たぶん陽子は、私が、中学、高校と、陽子から離れずに、一緒に居すぎたから。
だから、あまり高校の頃のように、会いすぎないように………意図的に、していたのだ。
そうする事によって。
高校の時と…… ……私たちの関係を変えようとしていた。

確かに、高校までの私は、正直、陽子につきっきりだった。
……それが、大学を離れて、最初こそたくさん会っていたものの、徐々に会う回数は減った。
だが、それで大学の方の友人の数が、少しずつ増えていったのも、事実だ。
もし同じ大学だったら? 頻繁に陽子と私が会いまくっていたら?
………高校までのように、陽子と、彼女を通じた友人、しか私には出来なかっただろう。

もちろん、陽子以上に……私が一緒に居て楽しい友人は、未だに居ない。
だが、高校時代に比べると、大分人とも喋れるようになっている自分がいた。
私は、未だに陽子に、未練を抱いているというのに―――

―――皮肉な事だが、自分から離す事で、
私を一人立ちさせようとする陽子の試みは、上手くいっていたのだ。


18 : 1 2015/06/23(火) 00:53:48.07 ID:8fNe10zP0
空太「……綾お姉さん」

綾「! …何?」

空太「ごめんなさい」

綾「えっ、な、何が!!?
べ、別に、空太君が謝る事なんて、何も……」

空太「泣かせてしまいました」

綾「!!!」


―――知らぬ間に、涙が零れていた。


綾「ご、ごめんなさい!わ、私こそっ……
なんだろ、別に泣くとこじゃないのに……あはは………」

空太「………綾お姉さん。……もし、よろしければ……ですけど」

綾「? 何…?」


空太「積もる話もありますので、姉の部屋で今晩、一緒にお話しませんか」


19 : 1 2015/06/23(火) 00:55:02.72 ID:8fNe10zP0
綾「……えっ??」

空太「いえ、その。
僕と美月は、それぞれの部屋で寝て、
綾お姉さんは…姉の部屋で寝てもらうことになると思うんですけど。」

綾「!! わ……私が、陽子の部屋で…!」

空太「そうです。今は使われていないので、
やや物置にもなっていますが、寝れない事はないです。」

綾「………」

空太「話したい事が、色々とありますので。少し、お時間を頂けると……」

綾「そんな、お時間を頂く、だなんて。
……私の方から泊まりに来たんだもの。
全く、構わないわ。………」

空太「ありがとうございます。
姉の事もお話しますので、綾お姉さんにも悪くはないと思います」

綾「!!! ど、どどどうして!!?
べ、別に陽子の最近の話を聞きたいとか、そんな事思ってないからっ!!!」

空太「……分かりやすいですね、相変わらず」

綾「な、何がよっっっ!!!」


20 : 1 2015/06/23(火) 00:56:28.23 ID:8fNe10zP0
ガラッ


美月「お風呂、出たよー。次、空太、入ってー」

空太「分かった。」

綾「……」

空太「……それでは、よろしくお願いします。」

綾「ええ、分かったわ。 ………」


空太君が、お風呂場へ向かっていくと同時に、
今度は美月ちゃんが入れ替わるようなタイミングで、部屋に来た。

美月「………綾お姉ちゃん!」ギュッ

美月ちゃんは、私に抱きついてきた。
お風呂上がりの湿った髪の毛から、シャンプーの良い匂いが広がってくる。
………しかし、そんな所にも、少し陽子を感じてしまったのは、流石に未練がありすぎじゃない?と思った。
自分でも、少し引いた。


21 : 1 2015/06/23(火) 00:59:10.01 ID:8fNe10zP0
綾「……美月ちゃん、あの…」

美月「わっ! 綾お姉ちゃん、お酒くさい!!」

綾「あはは、ごめんね……今日、飲みすぎちゃって。ちょっと離れて話そっか」

美月「そ、そうだね。いつもの綾お姉ちゃん、もっと良い匂いするもん」

綾「いつものって、最後に会ったのは、かなり前だったでしょう?」

美月「そうだけど、よく覚えてる。
私、綾お姉ちゃんが大好きだから、綾お姉ちゃんのにおい、よく覚えてる」

綾「美月ちゃん……… ……本当に久しぶりね。いつぶりかしら?」

美月「高校を卒業する時に……一度、五人で遊びに来たでしょ。その時以来じゃない」

綾「ああ、そうね。 確か……大学に入る前に、
皆でここでパーティーを開いたんだっけ。
懐かしいわね、あれももう二年前、か……」

美月「うん。 すごく楽しかった」

綾「そうね…… しの、アリス、カレン、陽子……
私達五人で集まったの、そういえばあれが最後だったわ。
また、あんな風に皆で集まってみたいわね…」

美月「うん。 また、皆でパーティーしよう。また、家なら貸すから」

綾「……あ、でも、今は陽子の下宿があるから、そこの方がやりやすそうね。」

美月「そっか、そうだね。
……じゃあ、皆でパーティーする時は、私達も呼んでよ。
きっと行くから。 きっと呼んでよ!」

綾「そうね。 楽しみにしてるわ。約束よ」

美月「約束!」


22 : 1 2015/06/23(火) 01:00:45.57 ID:8fNe10zP0
綾「ふふふ。………ねえ、美月ちゃん」

美月「なーに?」

綾「美月ちゃんや空太君は、お姉ちゃんが居なくて、寂しくなったりはしない?」

美月「しないよ。お姉ちゃん、よく帰ってくるから。
最近は、ちょっと回数は減ったけど、月に1、2回は帰って来てくれるんだ。」

綾「そう…… ………こっちに帰ってくる回数も、減ってるのね」

美月「うん、大学生活が楽しいみたいだよ。
私も、早く大学生になりたいなあ…… 中学生は、勉強ばかりだもん。」

綾「………」


美月ちゃんは、やっぱり変わっていた。
変わる事を恐れない、強い子だった。

陽子が家に帰ってこない寂しさよりも、
陽子が離れた場所で人生を楽しんでいる事に、憧れを持っていた。
昔は陽子が結婚しただとか、色々な嘘をつかれたりしたけど、
でも猪熊美月という子は、本当はとても純粋で、真っ直ぐな子なのだ。

私も―――この子のように。
陽子にただ、憧れているだけであったら。 どれほど、良かっただろうか―――


23 : 1 2015/06/23(火) 01:03:00.81 ID:8fNe10zP0
綾「……でも、月に数回しか、会えないんでしょう?寂しくない?」

美月「私達、綾お姉ちゃんと違って、そこまで寂しがりじゃないから、大丈夫だよ」

綾「なっ!!?べ、別に私は、寂しくなんて、思ってないわ!!」

美月「………お姉ちゃん、最近、綾お姉ちゃんとあまり遊んでないんだよね」

綾「! ………そ、そうだけど。
で、でも家も大学も離れているわけだし、そうそう一緒に遊ぶ事なんてないわよ!」

美月「……でも、一年前、姉ちゃんが大学に入学してから、
夏くらいまでは、綾お姉ちゃんの事を、楽しそうに喋っていた。
それこそ、高校の時と変わらないくらいに。」

綾「!! ………陽子が………
……あの頃は、まだ高校を卒業して、間も無かったから……ね。
少し、会って話す事も、多かったのよ。 高校時代みたいに」

美月「……やっぱり、今は違うんだね。
……姉ちゃん、最近、綾お姉ちゃんの事を話さない。
私、ちょっと、それが気になってた……」

綾「え? どうして、美月ちゃんが気になるの…?」

美月「私ね、綾お姉ちゃんの事が大好きだから。
……だから……姉ちゃんと綾お姉ちゃんには、仲良く居て欲しいから……」


24 : 1 2015/06/23(火) 01:04:14.09 ID:8fNe10zP0
綾「………美月ちゃん……
………そ、そんなに仲良くないわよ、私達。」

美月「嘘、大好きなくせに」

綾「……だ、だだ大好きなんて……
…… ま、まあ、嫌い、ではないけど?
確かにまあ、ほんのちょっと、好き、と、言えなくも、ないかもしれないけど???」

美月「………」


綾「………でもね」

美月「…」


25 : 1 2015/06/23(火) 01:06:15.36 ID:8fNe10zP0
「変わっちゃったのよ。昔とは。
………高校の頃のような関係が、いつまでも続くわけじゃないの」


私は、そう言いながら、自分の胸を抑えていた。


「………陽子は陽子で、楽しんでいるのよ。
私だって、高校の時と、違った楽しみが、一杯出来たわ。」


自分の放つ言葉が、そのまま自分の胸に刺さってくる。


「大学には………
高校の時とはまた違った、楽しい毎日があるんだよ………」


空太君から聞かされた、
自分の口から放たれる陽子の言葉が、
自分の心の、深い所を刺す。


26 : 1 2015/06/23(火) 01:06:57.47 ID:8fNe10zP0
美月「………そう、なのかな」

綾「……そうよ。
それに、私と陽子は、お友達……
少し会う回数が減っただけで、それが変わる事はないわ。」

美月「………綾お姉ちゃん」

綾「だから大丈夫よ。 ……ね?」

美月「……… ………本当?」

綾「ええ!
………む、むしろ、高校の頃は、陽子と居すぎたわ。
いや、もちろん、陽子だけじゃなくって、しの、カレン、アリスもいたけど!!

………これくらいの距離でいるのが、普通なのよ」


27 : 1 2015/06/23(火) 01:08:51.34 ID:8fNe10zP0

私は嘘をついた。


「大学の友人も、そこそこ出来たわ。だから、私は大丈夫」


また嘘をついた。


「………そろそろ、一人立ちしなきゃ。陽子だって……心配しちゃう。」


更に嘘をついた。


美月「………」

本当は、ずっと五人で居たかった。
けれど、アリスとカレンは留学生。それは叶うはずがない。
だけど……… 特別な想い………
特別な何かを抱いている陽子とは、せめて、一緒に居たかった。
そんな未練が、私を未だに引っ張っている。


28 : 1 2015/06/23(火) 01:10:06.39 ID:8fNe10zP0
これくらいの距離でいるのが普通?
『普通』とは何だ。 そんな普通の関係、要らない。

大学の友人もそこそこ出来た?
『友人』とは何だ。 私には、しの、アリス、カレン、陽子を越える友人など、未だに知らない。

一人立ち……? この私が一人で、生きていけるものか。


―――私は、自分の嘘を目の前の美月ちゃんに気づかれない様に、
自分で否定しながら、心で泣いていた。
先ほど、空太君を心配させてしまったから、涙の形は見せたくなかった。


美月「………綾お姉ちゃん」

綾「なあに?」


29 : 1 2015/06/23(火) 01:12:14.23 ID:8fNe10zP0
美月「私ね、綾お姉ちゃんに憧れてる。大人の女性……羨ましい。」

綾「お、大人の女性っ? そう見えるかしら!?」

美月「うん。 ……でもね、大人になる事は、ちょっと怖い。」

綾「美月ちゃん………」

美月「今のお姉ちゃんは、ちょっとだけ、つらそうに見える。」

綾「! そんな事………
………いえ、そうかもしれないわね。」

美月「………」

綾「でも、大丈夫。
辛い事があるから、嬉しい事があるのよ。
きっと美月ちゃんなら、良い大人になれるわ。」

美月「綾お姉ちゃん………
綾お姉ちゃんは、陽子お姉ちゃんの事、嫌いになったりしないよね」

綾「何言ってるのよ。当たり前じゃない」

美月「………絶対、絶対だね?」

綾「当然よ! ……陽子だけじゃない。
しのも、アリスも、カレンも、空太君も、美月ちゃんも、いつまでも大好きよ。」


「……………ありがとう」

美月ちゃんは、泣きそうな目をしてそう言った。


30 : 1 2015/06/23(火) 01:13:13.74 ID:8fNe10zP0
この子は、本当に、昔嘘つきブラザーズなどと呼ばれていた二人の、片割れなのだろうか?
この子に比べれば、今の私の方が、よっぽど嘘つきだ。

……陽子を嫌いになる、なんて事。
心配したって、そんな事、あるはずがない。 
自分だって、いかに陽子が好きかは自覚している。
きっと、陽子だって、ある程度くらいまでは、流石に…… 分かっているはずだ。


―――だからこそ、辛いのだ。


「ふふ、大丈夫よ………」

私は、なんだかそうしたくなって、お風呂上りで湿っている美月ちゃんの頭を、優しく撫でた。


………いつまでも大好き、ってね。
時には、嫌いになるより、つらいことなの。


31 : 1 2015/06/23(火) 01:15:00.53 ID:8fNe10zP0
その後、空太君が出て来て、最後に私がお風呂に入る事になった。


(ここが、陽子の家のお風呂場………)

………考えてみれば、お風呂にまで入る事は始めてだ。
当然だ、一緒に暮らしているしのとアリスだって、
家で一緒にお風呂に入ったという話は、最後まで聞かなかった。
こんな機会でもなければ、私が陽子の家のお風呂場に、二度と入る事はないだろう。


(………何考えてるのよ、私)

私は、自然とある事を考えていた。
カレンが居たら、『妄想中デス』などと、からかわれるのだろう。

何も、如何わしい事を考えていたわけではない。
ただ、この家に、陽子が居るような気がしてしまったのだ。
もちろん、先ほどお風呂に入ったのは、美月ちゃんと空太君だし、そこに陽子が居るはずがない。
居るはずがないのに、居るような気がしてしまった。

『あれっ、綾!入ってたのか、ごめんごめん!!』
なんて。 突然扉を開けて、言って来そうな気がしてしまった。

思ったより、重症だった。
陽子の家のお風呂で、私は確かに、陽子への未練を感じた。


32 : 1 2015/06/23(火) 01:17:24.81 ID:8fNe10zP0
―――その後、私はお風呂から上がり、しばらく美月ちゃんと空太君と遊んだ。
お話をしたり、テレビゲームをしたりした。

私はゲームが得意ではなかったが、美月ちゃんが丁寧に教えてくれた。
空太君はゲームがとても上手くて、常に1位だった。
でも、その後の話によると、美月ちゃんの方が強いらしかった。


美月「……綾お姉ちゃんと遊んでるんだから、手加減くらいしてよ、大人げない。」

空太「なっ、ゲームは楽しむものだろ? 手加減してちゃ楽しめないよ!」

美月「ふん。 綾お姉ちゃんに良い所見せようとして。」

空太「何だよ!そんなつもりないよ!」


33 : 1 2015/06/23(火) 01:19:02.85 ID:8fNe10zP0
美月「綾お姉ちゃん。
空太ね、今日は私が手加減してるから調子乗ってるの。いつもは、私が一位なんだよ。」

綾「へえ~、そうなんだ。」

空太「お、俺だって一位取ってるよ!」

美月「ビリの姉ちゃんが適当に使ったアイテムに、
私が偶然妨害されちゃった時だけでしょ~」

綾「あはは、陽子はビリなのね!」

美月「姉ちゃんが私達に手加減なしで勝った事は、一回しかないんだよ」

空太「………姉は弱いので。
負け続けて本気でへこみそうになってきた所で、僕らが手加減して、
姉がはじめて一位を取り、上機嫌なままゲームを終わらせます」

綾「まあ、自分勝手ねえ。 ……うふふ、想像出来るわ。」


―――楽しい時間が過ぎていった。
久しぶりに………心の底から、楽しいと思えた気がする。

今日、ここに来て良かったと思った。


38 : 1 2015/06/23(火) 22:13:24.61 ID:8fNe10zP0

―――その日の夜


綾「………ここが、陽子の部屋………」


私は陽子の部屋で、陽子のベッドに寝転がっていた。
しばらく使われていないようで、少し古びた感じはしたが、
ある程度掃除は行き届いている。


綾「……………陽子………」


お酒がまだ残っているのだろうか。
意外なほどに抵抗なく、恥ずかしげもなく、私は陽子の名前を呟いていた。


39 : 1 2015/06/23(火) 22:14:43.86 ID:8fNe10zP0
ごろり、とベッドの上で転がる。
床には、少し色あせた緑のクッション。
あまり知られていないが、陽子は意外と緑色が好きだ。
去年、まだ私達が頻繁に会っていた頃、一度買い物でお揃いのマグカップを買った事がある。
陽子は緑色で、私は青色の物を買った。

本棚には、漫画ばかり。ゲームの攻略本も少しばかりあった。
それと別の小さい本棚に、今は使っていないのだろう高校の教科書、ノートが詰まっていた。
昔、私が陽子と買ったお揃いのノートも入っていた。
確か、買った数日後にお茶をこぼしちゃったんだっけ。
あの時は、陽子のバカ!!と、怒ったものだ。

思えば私は、陽子に、憎まれ口ばかり叩いていた気がする。
バカ、なんて、何回言ったか分からない。
そんな私も私だが、しかしそれは、陽子がそれだけ、
私にバカと言われるような、無神経な行動をしてきたという事でもある。

そうだ、陽子はああいう風で良かったのだ。
お揃いのノートにお茶をこぼしてしまうくらいに、気を遣わない関係。
高校時代はそんな、ちょっぴり人の気持ちを分からない陽子に、私も遠慮なく『陽子のバカ!』と、言っていた。
そんな日常が、当たり前だった………


40 : 1 2015/06/23(火) 22:15:58.67 ID:8fNe10zP0

『大学には、高校の時とはまた違った、楽しい毎日があるんだよ』



「………何よ、それ」



『きっと、綾は綾で、大学生活を楽しんでるんだよ。』



「………バッカじゃないの!!?」



部屋には自分しかいないのについ、声を荒げてしまう。
しまった、隣の部屋では美月ちゃんが寝ている。

……私は声を押し殺しながら、空太君の話に出てきた陽子に、抗議した。


41 : 1 2015/06/23(火) 22:17:01.90 ID:8fNe10zP0
「……… ………ウソ……
陽子は、そんな人じゃない……!
私を気遣うような人じゃないわ。
陽子はいつだって、思ったままに行動して、
バカな事をして、それで私に迷惑をかけてれば、それで……… ……」


私は枕に倒れ伏す。


「……… ………違うわ………
陽子は、単純バカだけど………
単純バカだけど、大事なとこで、すっごく思いやりがあって………
いつだって、無意識の内に私の事を思いやって行動して………
誰よりも、誰よりも、気遣いが上手かった…… ……………」


熱い物が、瞳の奥からこみ上げてくる。


42 : 1 2015/06/23(火) 22:18:48.89 ID:8fNe10zP0
「分かるのよ……… ………
普段のあなたの気遣いが上手いからこそ、
それが気遣いじゃない事くらい、すぐわかるわ。

陽子が私と会わないのは、私への気遣いなんかじゃ、ない………
……言ってよ………正直に………
私を気遣ってるフリをしてるんでしょ………
………私の、事が………嫌いなんでしょ………陽子は………

………違う。
陽子はそんな子でもない。 ………


ほかに………



ほかに、大切な人、が……………」


43 : 1 2015/06/23(火) 22:20:38.71 ID:8fNe10zP0

コン、コンッ


綾「!!!!!」


部屋の扉から聞こえる音に、びくりと体を震わせた。


綾「……………」


しまった、完全に忘れていた。
先ほど、話し合ったというのに。


44 : 1 2015/06/23(火) 22:21:52.21 ID:8fNe10zP0

「……大丈夫ですか?入りますよ………」


―――もし、こんな状況で私に会う相手が、
しのや、アリス、カレン、陽子だったら……
私は慌てて、こみ上げる涙を拭いて、
訪問してくる『友人』を、何食わぬ顔で、出迎えていただろう。
でも、その友人たちはきっと、私が泣いた跡に敏感に気づいて、私の事を気遣ってくれるに違いないのだ。

その時の私は何も答えなかった。
全く、そこから動かなかった。
今になって思えば、この時の私のこの選択は、彼が猪熊空太でなければ、有り得なかっただろう。


45 : 1 2015/06/23(火) 22:23:12.16 ID:8fNe10zP0
空太「……綾お姉さん?
寝ている……訳では、ないですよね。 明かりがついてる」


私が高校の時からの友人の中で、彼だけは、他の子と一線を画していた。
相手が美月ちゃんであっても、私は急いで取り繕って、
来る人に対して、ちゃんと向き合って、真面目に話したのだろう。


この時の私は真面目に話す気がなかった。


46 : 1 2015/06/23(火) 22:24:40.24 ID:8fNe10zP0
空太「綾お姉さん、大丈夫ですか?お話をしても」

綾「ええ、大丈夫よ。」


私がそう言うと、静かに空太君は部屋の扉を閉めた。


空太「………と、言う割には、寝たそうですが」

綾「寝たいんじゃないわ。ちょっと、考え事をしているのよ。」

空太「姉の匂いでも、かいでるんですかね」

綾「………あははっ、そうかもしれない」


私はだんだん、考える事を放棄し始めていた。


47 : 1 2015/06/23(火) 22:29:06.58 ID:8fNe10zP0
空太「………綾お姉さん、
もしかして、泣いているんですか?」

綾「………どうして?」

空太「泣いている顔というのは、あまり見られたくないものだと思います。
だから、顔を隠して、こちらを見てくれないのでは」

綾「………うふふ、半分だけ正解」

空太「もう半分は?」

綾「当ててみて?」

空太「………綾お姉さんは、姉が好きだから、ですか?」

綾「………何よ、それ。どうしてそうなるの?」

空太「そのまま枕のにおいをかぎながら、
姉のベッドから離れたくないのでは、と」

綾「………ぷふっ! ………あははははっ!!!」


笑いながら、体を起こして私はベッドから降りた。


綾「半分の半分くらい、正解」

空太「4分の1ですか。
先ほどの半分と合わせて、75%になります。あとの25%は?」

綾「教えないわ」

空太「教えてくれないんですか」

綾「うん。絶対に」

空太「そうですか」


空太君は、別段表情を崩さず、部屋の真ん中に座った。


48 : 1 2015/06/23(火) 22:31:00.62 ID:8fNe10zP0
綾「……ごめんね?空太君。あなたは私と、お話したい事があるのよね」

空太「はい」

綾「……本当にごめんなさい。
困ったわよね? 事前に、あなたがここに来ることは話し合っておいたのに。
部屋に入ってきたら、私が動かないんだもん。びっくりしたでしょ?」

空太「少しだけ」

綾「……ごめんね。うん、もう大丈夫よ。」


私はそう言いつつ、陽子の使っていた緑のクッションの上に座って、
空太君と正面から向き合った。



空太「……綾お姉さんは、姉の情報が知りたいんですよね」

綾「うん。知りたいわ、陽子の事。」

空太「やけに素直ですね」

綾「なんかもう、意地を張ってる場合じゃなく思えて来たのよね」

空太「そうなんですか。 それはまた珍しい。 お酒が残ってるんですか?」

綾「んー、そうかも?」

空太「……もしかして、先ほどまであなたが泣いていた事に、関係がありますか?」

綾「…………… ……ああ、そういえば、そうかもしれない。」

空太「そうですか。……予感はしていましたか。」

綾「……予感、か。 してるのかも」


49 : 1 2015/06/23(火) 22:32:30.02 ID:8fNe10zP0
空太「綾お姉さん、なんだか、こういう場面では、
取り留めもない話をして、その場をしのぐのが、正しい付き合い方なのかもしれませんが、
今の僕は、そういう事を出来る気分ではないんです。それでも大丈夫ですか?」

綾「奇遇ね。 私も、そんな気分じゃないの。」

空太「そうですか。」

綾「……ふふ、私達、案外、気が合うのかもね。」

空太「そりゃあ、あなたの愛する僕らの姉の、弟ですから。
全く合わないという事は、無いんじゃないかな、と」

綾「……………それもそうね。」

空太「綾お姉さん」

綾「はい」



空太「恐らく姉には、恋人がいます」


50 : 1 2015/06/23(火) 22:35:19.30 ID:8fNe10zP0
綾「………やっぱり?」

空太「僕は、断定は出来ていません。
姉の性格なら、僕らに自慢してきてもおかしくはない。
なのに、何も言われていませんから」

綾「……………」

空太「美月とも何度か相談しました。
美月は、姉に絶対に恋人が居ると言い張っています。
家に帰ってくる回数が減ったのは、その前兆かもしれない。
去年の秋ごろからです。
改めてお聞きしますが、綾お姉さんと姉が会う回数が減ったのは、その頃ではありませんか?」

綾「………だいたい、そうね」

空太「………再度言いますが、もちろん、断定はできません。
月に1、2回は、姉は家に帰ってきます。
ですが、前より、少しずつ、少しずつですが確実に、口数が減った気がします」

綾「………」

空太「姉の性格を考えると、普通なら、
恋人がもし出来ていたとしたら、自慢してきそうなものです。」

綾「そうね。高校の頃、陽子がラブレターをもらった時も
『春が来たー!!!』って騒いでいたわ。」

空太「え、それは初耳です」

綾「まぁ、それは勘違いで、結局しののイタズラだったんだけどね」

空太「忍さんの? それはそれで気になりますが」

綾「……まあ、どうでもいい事よ。」


51 : 1 2015/06/23(火) 22:39:01.32 ID:8fNe10zP0
綾「それより、陽子の性格なら、恋人が出来たら自慢しそう、っていう話よね。」

空太「はい。
ですが不気味なほど、姉からはそういった話を聞きません。
しかし妹は、『絶対いる』と言い張っています」

綾「美月ちゃんは、どうしてそう思っているの?」

空太「まず、服装のセンスです。
最近になって、可愛い服を着てくる事が増えた、と美月は言っていました。
……僕の中では、姉の着ている服が可愛いかどうかとかは、よく分からないのですが。」

綾「……… ………そういえば、
私と会う時も、私が陽子を、妙に可愛いと思った事が増えたような………」

空太「また、何回か美月と一緒に、姉の下宿に行った事があるのですが、
思ったより綺麗でした。
姉は片付けも苦手だったはずでしたが、この前行った………3月だったでしょうか。
あの時は、すごく綺麗に部屋が整っていました」

綾「言われてみれば………
陽子の下宿に行った時、片付いていた事が、増えたような……」


52 : 1 2015/06/23(火) 22:41:15.52 ID:8fNe10zP0
空太「また、その時は、料理を振舞われました。
『私だって、料理が出来るんだよ!』と自慢顔で。
………かなり、美味しかったです。姉とは思えませんでした」

綾「……料理? 私は、振舞われた事がないわ。
………そんな事をするようにもなっていたの? 陽子じゃないみたい……
高校の時は………醤油の量すらちゃんと計らずに、適当に入れていたような子よ………」

空太「綾お姉さんには振舞っていないとすると、それも妙ですね。
………姉よりは料理が出来そうですし、
何かを勘付かれると、思ったのかもしれません。」

綾「………」

空太「あと、姉の家をちょっと調べたりしたのですが、
別段、料理書のような物が見つからなかったのも、怪しい点だと美月は言います。
携帯もマトモに使えない姉が、わざわざクックパッド等を参考にするとも考えにくいですし、
独学で姉が料理を上達させるなどは、もっと考えられません。」

綾「………すごい、美月ちゃん、鋭いわね。
………もしかして、陽子には………本当に、こ、ここ恋………人が?」

空太「………姉はガサツで単純ですが、
それ故に、好きな人には好かれそうな気はします。
大学には色々な人がいると思うので、可能性は否定できません。」

綾「………なんだ……」


53 : 1 2015/06/23(火) 22:43:05.97 ID:8fNe10zP0
空太「?」

綾「陽子、料理なんて作れるようになっていたのね。
私は、陽子よりは出来るつもりだったけど………
それなら、そうと言ってくれれば。一緒に、料理を作れたのに」

空太「………」

綾「いつも私が一人で作っていたのよ。
たまに、陽子の家に行った時に、『消費しきれなくってさー』って、
賞味期限切れの食材が溜まってたり。
………もちろん、大丈夫そうな物を選んで、
私がそれを消費する為に料理してるのを、陽子は一人で眺めていたのよ。
…………… ………」

空太「ぷっ………」

綾「………って、何言ってるのかしら、私!?
べ、別に……陽子と料理したい訳じゃ………
いや、したくない事もないけど、その、別に、
一緒に料理作るのが夫婦っぽいとか、そんな事を思ったりは!!」

空太「あははははっ………!」

綾「な、何笑ってるのよ!!?」

空太「いえ、綾お姉さん、やっぱり………変わらないなぁって、思いました。」

綾「な、何がよ!!!」


空太「本当に、姉の事が好きなんですね」


綾「……!!!」


54 : 1 2015/06/23(火) 22:44:41.31 ID:8fNe10zP0
空太「………ふふっ、姉に好きな人がいるか……
その話をしたかと思えば、いつの間にか自分達の話に………
………仲、良いじゃないですか」

綾「べ、別に!!!!!私は、そんな事!
………私がいくら想ってようが、陽子は………」

空太「………」


綾「………昔からそうなのよ。
陽子は、皆の事が好きなの。
私も、その一人。
みんなのうちの一人であるだけ。
私の事が、特別に好きなんじゃない………」

空太「………」

綾「私だって、皆が大好き。
でも、陽子は………
………やだ、何言ってるんだろ、私」

空太「………」

綾「ご、ごめんね………
私……… ………うっ………
どうして、かしら? 涙が……… っ、あっ………」

空太「………」

綾「ごめ………なさ………!
わ、私……… ………ヘンだな………
こんな、泣く、なんて、何で、だろ………?」


―――ぼろぼろと、大粒の涙が溢れ出した。


55 : 1 2015/06/23(火) 22:46:22.86 ID:8fNe10zP0
綾「………うっ、ぐす………っあ………!
陽子……… ………よう、こ………!!!」

空太「………綾お姉さん。」


空太君は、すっ、と、陽子の部屋のティッシュを差し出した。


綾「ご、ごめん、なさい……っ!!
ちょ、ちょっと………あふれちゃって………
………ごめん、なさい、空太君の前で、私ったら………」

空太「かまいません。
………同じ、姉を好きな者同士。お気持ちはお察しします。」

綾「……っ……ふふ、そう、ね………
空太君も、陽子の事、大好きだものね………うっ」

空太「………綾お姉さんのそれとは、違う感情ではありますが。
………真っ直ぐな姉は………
なんだか、見ていて放っておけないようなオーラを、感じていました。
僕も、美月も。」

綾「あははっ、どっちが、姉だか、分からない、わね……っ………」


56 : 1 2015/06/23(火) 22:47:51.64 ID:8fNe10zP0
空太「けれど最近の姉は………前より、随分と、変わりました。
料理、掃除、色々な事が出来るようになっているようです。」

綾「………そして、恋愛も、かしら?」

空太「………そこまでは。
実際に見たわけではないので、分かりませんが。
姉がこれほどしっかりしてきたのに、関わっている可能性はあるかと思います」

綾「陽子………どんどん、遠い人に、なっていく、みたい。」

空太「………」

綾「いえ、違うわね…?
私が、変われていないだけ………
私が、陽子と居た頃を、引きずりすぎている……
それだけ、なのかも………」

空太「………」


57 : 1 2015/06/23(火) 22:49:59.71 ID:8fNe10zP0
綾「うっ、ご、ごめん、なさいっ……なんだか、涙が、止まらなくって………
……ぐすっ、その。
悲しい、わけじゃ、ないの………
悲しい訳じゃ、ない、のに、なんだか………うっ………
見苦しい、わよね…… ごめん………」

空太「大丈夫です。
綾お姉さんの気持ちは、とてもよく分かります。
それに、泣いたって構いません。
綾お姉さんは、泣いていても綺麗です」

綾「え……っ………」

空太「……… ………姉なら、そう、言います」

綾「……ふふふっ、陽子は、そんな事、言わないわ…」

空太「綾お姉さんの中の姉なら」

綾「何それっ!?
い、いい言ってないわよ!?そんな事考えたりなんて……!」

空太「………姉からも聞いていました。
綾お姉さんは、たまに妄想癖があるって」

綾「………ふふっ、そうね………そうだったかも。
………妄想癖な、だけなのかもね」

空太「………」


58 : 1 2015/06/23(火) 22:51:11.97 ID:8fNe10zP0
綾「私ね、陽子が好きよ。
好きだけど、本当に好きなのかどうかは、分からないの。」

空太「………」

綾「私は陽子が好きだと思いこむ事で、
もしかすると、高校生の時のような………
不思議なときめきを、無意識の内に、追いかけていただけなのかもしれない。」

空太「………」

綾「………陽子に抱いているのは、
結局、特別な感情でもなんでもなくて、ただの、憧れ………
………かも、しれない。」

空太「………」

綾「だって私。
好きだって、思っているはずなのに、会おうともしないで、
陽子に、恋人が出来たとしても、素直に、喜べないで………
………こんな女が今更言い寄っても、陽子に迷惑だわ。」

空太「………」

綾「………はぁ。どうしてかしら。
………何だか、空太君が相手だと、全部、吐いちゃうわね、私」

空太「構いません。
元々僕から申し出た事なので」

綾「ううん…………ありがとう。
………でも、こんなに……
こんなに、私が陽子を好きでいる事に、何のメリットも無いのに……

どうして……かしら?
どうして……… ………すっぱり………
切り捨てられないんだろ…… ……………」

空太「……」


59 : 1 2015/06/23(火) 22:53:15.55 ID:8fNe10zP0
綾「………はぁ。 ………ごめんなさい。
何だか、湿っぽくなっちゃったわ。」

空太「いえ、構いません。ところで、綾お姉さん」

綾「何かしら?」

空太「僕は綾お姉さんに姉の話をして、
それに対する綾お姉さんのお話も聞けたので、
今度は僕から、個人的なお話をしてもいいですか」

綾「いいわよ!
そうよね、私が話すと、湿っぽくなっちゃうからね。
うん。今度は空太君のお話、じゃんじゃん話して!」



空太「好きです」



綾「―――――え?」


60 : 1 2015/06/23(火) 22:56:10.48 ID:8fNe10zP0
空太「綾お姉さんが好きです」

綾「………え?
そ、そう? ありがとう………嬉しいわ。」

空太「漠然とした好きではないです。恋愛感情として、綾お姉さんの事が好きです」

綾「………っ、な…… 何、言ってるのよ!そんな…… また、嘘?」

空太「僕の目を見て判断して下さい。」

綾「………う、嘘………じゃ、ない?のかしら……」

空太「大好きです。」

綾「な、何よ、そんな。
正面切って言われると、照れちゃうから、やめて……」

空太「よく、綾お姉さんの事は姉から聞かされていました。
中学校の頃から。
話を聞く度に、僕と美月は、見た事もない綾お姉さんの事が好きになっていきました。」

綾「………」

空太「………覚えていますか?
初めて、実際にお会いしたのは、一度、僕らが姉の高校にお邪魔した時。
一緒に居た綾お姉さんを見て、なんて綺麗な人なんだろう、と僕は思いました。」

綾「やだっ、流れるように嘘をつかないでよ……」

空太「僕は嘘をつく事は多いですが、本当の事はハッキリ言いたいタイプです」


61 : 1 2015/06/23(火) 22:58:46.48 ID:8fNe10zP0
空太「でも、僕と綾お姉さんでは、年齢も全然違うし、
会う機会なんてほとんど無いし………何より、姉が居ます。」

綾「………」

空太「僕は綾お姉さんをどうにかもう一度見たい日々を送っていました。
この事は、美月にしか言っていません。

ある日、僕らは、綾お姉さんを含めた姉の友人を嘘で釣り、呼び出してくる事を計画しました。
僕は綾お姉さんと一番遊びたかったですが、
美月も皆と一緒に遊びたがっていたので、利害が一致しました。

………ある日、外で遊んでいたら、アリスさんをお見かけした時に、計画を実行に移しました。
あの時綾お姉さんも偶然近くを歩いていて良かったです」

綾「え……っ、あ、あれ、
陽子が結婚したって嘘をついて私を呼んだの、そういう事だったの!!?」

空太「はい。
………ですが、綾お姉さんが姉の事を好きなのは、
一度遊びに来て下さった時によく分かりました。
綾お姉さんは、姉の事しか目に入っていない。
いや、他の人もしっかり見ているとは思いますが、やはり姉は、特別なのだなと思いました」

綾「そ、そんなに、よく分かった……?」

空太「だから、諦めようと思った。
………綾お姉さんと姉が卒業する前、
この家で開いたパーティで、全て、気持ちに区切りをつけたつもりでした。
でも………今日、偶然、綾お姉さんと、出会って………」


62 : 1 2015/06/23(火) 23:00:32.02 ID:8fNe10zP0
綾「………そう、だったの。
ごめんね、久しぶりに会った私の姿が、酔ってフラフラで……見苦しかったわ」

空太「いえ。高校の時より………一層、綺麗になられました。
あなたを今日見た時、僕は改めて、確信したんです。
やっぱり綾お姉さんが好きです」

綾「………あ………う……………
そ、そんなに………面と向かって、恥ずかしい言葉、よく、言えるわね……」

空太「素直な気持ちを言っているだけです」

綾「……… ………空太、君………」


空太「一緒に居たいです。付き合って下さい。」

綾「え、ええぇぇっ!!?
つ、付き合う、たって………
………そ、そんな……… ………」

空太「綾お姉さんが、姉の事を好きなのは分かります。
僕は、姉を越えられない。
そんな事は………よく分かっているんです。
けど、一番じゃなくてもいいから………綾お姉さんと、一緒に居たい。
僕はそう思っています。駄目ですか?」


63 : 1 2015/06/23(火) 23:02:24.28 ID:8fNe10zP0
綾「ちょ……ちょっと………待って。
整理できていないわ………思考が………」

空太「………」


綾「………空太君、私は………今の所、陽子が、好き………」

空太「知っています。なんなら、姉との仲を応援しましょう」

綾「お、応援って……… あなた、私が好きなんじゃ、ないの?」

空太「綾お姉さんが好きなので、幸せになって欲しいです。」

綾「………」

空太「僕は姉ともそこそこ会いますし、鋭い勘を持った美月もいるので、
もし姉の新情報が入ったら、僕ならいち早く綾お姉さんに届けられます。
悪い話では、ないと思いますが」

綾「………陽子の、情報………」

空太「もし良ければ、またこうして、たまに二人で会って………
姉の事についてでも、話しませんか?それだけでも、僕は構いません。」

綾「……………陽子の事………」

空太「………どうでしょう」


64 : 1 2015/06/23(火) 23:04:43.66 ID:8fNe10zP0
綾「………空太君。私のどこを、好きになったの?」

空太「見た目です」

綾「はっきり言うわね」

空太「嘘です。
見た目と、その真っ直ぐな心……それと、話しやすさです」

綾「話しやすさ?………私が、話しやすい???
そんな、それも嘘でしょう?」

空太「はい」

綾「……そうはっきり言われると、何か複雑な気分ね」

空太「嘘です」

綾「急に嘘つきキャラに戻るの、やめてくれる?」

空太「すみません。
………綾お姉さんは、結構話しやすいですよ。
姉と違って、女性らしい柔らかい物腰で接してくれるので」

綾「そ、そうかしら」

空太「はい。………あと、僕と似てます」

綾「似てる?」

空太「嘘つきじゃないですか。自分に」

綾「………言うわね?」


空太「嘘です」

綾「それも嘘っ!!?」


65 : 1 2015/06/23(火) 23:05:49.61 ID:8fNe10zP0
空太「綾お姉さんは、自分に嘘をついているのではなく、
自分の気持ちが分からなくて、悩んでいる……のだと思いました」

綾「………それは、そうね…… 多分………」

空太「………それで悩んでいるのなら、
それのお手伝いくらいはしたいです」

綾「お手伝いって………私は別に、手伝って欲しい訳じゃ………」

空太「………このまま一人で悩んでいて、姉との事が解決しますか?
完全に姉を諦めるか、それか想いを打ち明けるか、
どちらかの行動が出来ますか?」

綾「…………… ………」


―――この子は、予想以上に、私の事をよく見ていた。


66 : 1 2015/06/23(火) 23:08:12.22 ID:8fNe10zP0
空太「………すみません。言いすぎました。」

綾「いえ………その、通りね。
………私には……… ………」


―――なんて、スレた子なのだろう。
こんな私なんかの、心の奥底の汚い部分を、こんなに知っていて。
それで、私の事を、好きだなんて―――


綾「………空太君?」

空太「はい」

綾「私ね。………空太君の事は大好きだけど、
それは恋愛として、好きっていう感情じゃぁ……ないと、思うの。」

空太「言われるまでもありません」


綾「………だから、ね。
ごめんなさいだけど、私には………」


67 : 1 2015/06/23(火) 23:12:24.02 ID:8fNe10zP0
綾「………って、言ってるわ。普段なら。
だって、それが空太君のためだもの」


―――今思えば、私は彼に、自分と似た物を感じ取ったのだろう。



綾「でも、私………
よく、カレンにも言われたんだけど。
陽子の事になると、性格が変わるみたいなのよね」

空太「そうですね」

綾「………たまに、会って。
お話出来れば、あなたは満足なのかしら?」

空太「満足です。
綾お姉さんを見られるだけで十分満足です」

綾「………ふふ、歯の浮くようなセリフ、得意なのね」

空太「正直な気持ちです」

綾「………分かった。」

空太「………」




綾「付き合ってみる?私達」


69 : 1 2015/06/25(木) 21:11:27.51 ID:VoPwuy3V0
――――――――

―――――

―――


空太「綾お姉さん」


レストランで出して来られたサラダを食べていると、
ふと、空太君に名前を呼ばれた。



綾「何?」

空太「……今日、こうして呼んだのには、理由があるんですよね。」

綾「……理由……… ………別に……?
恋人が会うのに、理由なんて………」

空太「僕の事を、恋人だなんて思った事無い癖に」

綾「………そんな事はないわよ。大切に思っているわ。空太君の事を。」

空太「大切に思ってはいるけど、恋人と思った事はないですよね」

綾「大切に思っているし、恋人だと思っているわ」

空太「………そうですか。
でも、姉は越えられないんですよね」

綾「そんな事はないわ。」

空太「それは、嘘です………」

綾「嘘じゃないわ。大好きよ。
陽子も、空太君の事も」


70 : 1 2015/06/25(木) 21:12:14.36 ID:VoPwuy3V0
空太「………綾お姉さん、やっぱり、良い人ですよ」

綾「まさか」

空太「僕が告白した時から、何も変わっていません」

綾「………一応聞くけど、どこが良い人だと思っているの?」

空太「真っ直ぐな所です」

綾「………真っ直ぐ?
陽子に未だに未練を抱きながら、こうしてあなたと付き合っているような女が?」

空太「未練に真っ直ぐです。
こうして、それなりに長い間、付き合っていても………
僕の事など、欠片も考える事はない。
本当に一途なのだと、感心します」

綾「………それ、褒めてるの?」

空太「当たり前じゃないですか。
……と、何の話でしたっけ。
そうそう、今日、呼んだ理由です」

綾「そういえばそうだったわね」

空太「こうして僕を、ここに呼んだ訳は……」

綾「訳って、別に」


空太「姉の事。 知ったんですね」


71 : 1 2015/06/25(木) 21:13:42.76 ID:VoPwuy3V0
―――少し、静寂。


綾「………何の、事かしら」

空太「………」

綾「……なんて、いっても、駄目か。
……流石、見抜くのが早いわね?」

空太「嘘つき同士ですから。貴女の嘘はお見通しです」

綾「………あはは、見抜かれちゃってるのね?私。」

空太「嘘です」

綾「あら」

空太「3年間付き合っていても、貴女の全ては見抜けません。
僕よりずっと、嘘をつくのが上手い。」

綾「………そう?嘘なんて、特にはついていないけど」

空太「貴女は自分の嘘を、自分で分かっていないのでは」

綾「………結構、見抜いてるじゃない」

空太「ありがとうございます」

綾「褒めたつもりは、ないけど………」


72 : 1 2015/06/25(木) 21:14:41.17 ID:VoPwuy3V0
空太「………さて」

綾「うん、そうね。話すわ。
この前、5月のGWに……久々に、陽子と会ったのよ。」

空太「それは、何よりです」

綾「………かなり、久しぶりだったわね。
大学は何だかんだ、最後まで、就職活動で忙しかったから。
空太君にも会えなくてごめんね。寂しかった?」

空太「いえ、気になさらないで下さい。
僕は高校受験の勉強もありましたので」

綾「そういえばそうだったわね。
………陽子から、連絡が来たのよ。
GWに、どっか遊びに行かないか?って………」



――――――――

―――――

―――


73 : 1 2015/06/25(木) 21:16:19.58 ID:VoPwuy3V0

2021年 5月

―――陽子の住む町の、駅前


綾「………」



私はその日、出来る限りの一番のおめかしをして、
待ち合わせ場所で陽子を待っていた。

大学二年生の時、空太君と付き合う事になって以来も、
陽子と私が会う回数は、それまでと同じように減っていった。
全く会っていない訳ではなかったが、
『親友』と呼べるレベルで会っているとは、とても言えなかった。
単に、大学四年生時代は就活で忙しかったのも大きく、どこか遠慮していた。

―――だから今回は、特にかなり久々に会う。1年近く間が空いていた。
思えば、中学校で初めて陽子と知り合って以来、
こんなに長い間会わないのは、もしかしたら、初めてかもしれなかった。


74 : 1 2015/06/25(木) 21:17:52.30 ID:VoPwuy3V0
空太君とは、そこそこ会っている。
………何だかんだ、付き合っているのだ。
と、いっても、する事は食事に行って二人で色々な…… 主に陽子の事を話し合ったり、
空太君に連れられて遊びに行ったり、程度だ。
身体接触も、手を繋いだり、といった程度だし、
端から見た関係性は『親戚のお姉さん』と、ほとんど変わらないだろう。

空太君も、それで良いようだ。
だから彼は、必ず私を『綾お姉さん』と呼ぶ。
一度も、恋人らしい呼び方はされた事がない。
彼なりに、私の事を好きになりすぎないようの配慮?らしい。
好きになりすぎない配慮って何よ、と私が笑ったら、
『僕は姉のようになりたくはないと思っているので』と、
妙に含みのある返しをされたのを、何故か覚えている。

彼にとっては、皮肉な事かもしれないが、
空太君と付き合ってから、確かに陽子の事を思い出す回数は増えた。
しかし、その度に、私は彼女を諦めようとする。
陽子には好きな人が居るんだ、だから私の気持ちは伝えなくて良い。
今もそう思っているし、あくまで陽子と私は、ただの友達だ。


―――しかし、陽子という人間は、ずるい。


75 : 1 2015/06/25(木) 21:19:16.34 ID:VoPwuy3V0
陽子「ごっめーん!待った?」

綾「……遅いわよ!陽子!」

陽子「いやぁ、でも15分くらいなら、セーフじゃないかっ?」

綾「私は1時間近く前からここで待ってたのよ~~~!!!!!」

陽子「おおぅ、それは、ごめん………」


―――まさしく、私が高校の時から
『変われない』原因である人物に、相応しい。


綾「………あははははっ!!!」

陽子「うおっ、なんだ、急に笑い出して!?
……お、おかしくなっちゃったか?ごめん、本当に……」

綾「だ、だって………」

陽子「?」

綾「全く同じなんだもの。 私達が高校生の時と」



―――そこに居るだけで、私の気持ちはもう、あの日々に戻ってしまう。


76 : 1 2015/06/25(木) 21:20:49.32 ID:VoPwuy3V0
私達は、いろんなお店を回った。


陽子「これ!これとか、どうかな?綾!!」

綾「か、可愛い………」

陽子「着てみなって!絶対綾なら似合うよ!」

綾「………」


陽子は私の好みを、知らないようで、とてもよく知っている。
私よりも知っているのかもしれない。


綾「ど、どう、かしら」

陽子「すっげー!!
綾、めちゃくちゃ似合ってるじゃん!!可愛いよ~!!」

綾「そ、そんな事、ないわよ………!
………で、でもまあ、悪くは、ないかも………
この服、買って、みようかしら? せっかくだし………」


彼女の、全く着飾らない言動の一つ一つに、私の心が洗われていくようだった。


77 : 1 2015/06/25(木) 21:22:23.49 ID:VoPwuy3V0
―――ゲームセンター


陽子「………っしゃー!ぬいぐるみ、ゲットー!」

綾「UFOキャッチャー、上手ね、陽子」

陽子「はは、まぁねー!………はいっ、綾!」

綾「えっ!?
………そ、それ、私に………くれるの?」

陽子「綾の部屋、色んなぬいぐるみが置いてあるだろー?
これも、追加って事で!」

綾「えっ、そんな………悪いわ。
陽子の取った物をもらうなんて………」

陽子「いーの!私が綾の為に、取りたくて取ったんだよ、これは!」

綾「………!!! よ、陽子……」

陽子「……ほら、最近あまり、会えてなかっただろ?
だからさ、たまには何かこう……
綾を、喜ばせたいなー、っていうか。
これからも友達で居たいなーって思ったんだ。」

綾「陽子……………」


78 : 1 2015/06/25(木) 21:23:44.06 ID:VoPwuy3V0
ダメ。
せっかく、一人で考えている時には、何度も諦めをつけてきたつもりだったのに………

また、彼女を好きになってしまう。


陽子「まぁ、今日遅刻しちゃったし、それのお詫びもって事で!はい、綾!」

綾「……… ………」


私は彼女の取ったぬいぐるみを、そっと受け取る。
……とても可愛い、くまのぬいぐるみだった。


陽子「寂しくなったら、そのぬいぐるみを見て、
私の事を思い出してね! なんつって!」

綾「だ、だだ誰が陽子の事なんか、思い出すっていうの!バカ!!!」

陽子「はははっ」


―――私は一生懸命に、この想いに、区切りをつけようとしているというのに、
彼女は、それを許さない。
こんな可愛い、陽子が私のために取ってくれたぬいぐるみがあったら、
これからもきっと、彼女の事を………思い出してしまう。
もう、大学も卒業したというのに。
いい加減、私も高校の未練から、卒業させてよ。


………なんて、全て私が悪いのだが。


79 : 1 2015/06/25(木) 21:26:17.73 ID:VoPwuy3V0
陽子「……… ……… なー、綾」


少し会話が無くなった後、陽子は、
頭を掻きながら、目をそらしつつ名前を呼んだ。
………陽子がこういう話しかけ方をする時は、大体、言いにくい話がある時だ。
中学、高校の時は、よく勉強の事で、こういう話しかけ方をされた。


綾「何?」

陽子「ちょっと、そこのベンチで話そっか?
そういえば、私も綾も、お互いに最近の事、何も話してないじゃん。
近況報告、って感じで!」

綾「………ええ」


しかし、大学を卒業した今、
陽子が私に言いにくい話がある、とは、これまでの私達なら考えづらい。


何かあったのだ。陽子に、何かが。


80 : 1 2015/06/25(木) 21:28:56.05 ID:VoPwuy3V0
―――それはきっと………
私があの日から、空太君と付き合った日から、
最も気になっていた… 恋人に関する事だ。
そんな予感がしていた。
そんな予感を抱きつつ、その話題ではない事を祈っていた。

いつもの陽子なら、ここですっごくどうでもいいような事を真剣に話してきて、
私は、思わず、ぷっ、と、笑ってしまう、それで済むはずだ。

『実は私、留年しちゃって……卒業できてないんだよね~』とか?
いや、これはあまりどうでもよくはなさそうだが、
「全く、陽子はバカなんだから。」と、私が返して、終わりだ。
むしろ「私の職場に来る?」とか声をかけてあげたりするかも?
はっ、それもしかして、一緒に仕事をするチャンス?
なんて…… ……………


そんな、有り得なさそうな、有り得そうな絶妙な話を色々と妄想しながら、
私はベンチに、とてもゆっくりと、歩いて近づいた。

このベンチに腰かけたら、きっと陽子から、何かとてつもない話題が飛び出す。
座ってはいけない。
ここで座って陽子の話を聞いたら、彼女が戻れない所に行ってしまいそうな気がした。


けれど私は、陽子に自然とついていく。
こんな場所で、彼女からの提案を、拒否出来る訳がないのだ。


81 : 1 2015/06/25(木) 21:30:10.19 ID:VoPwuy3V0
私と陽子はベンチに腰かけた。
GWで昼過ぎのショッピングモールにしては、そこに妙に人通りも少なかった。
『実は私、恋人が出来たんだよね………』なんて。
恥ずかしげに言う彼女の表情を想像してしまい、震える。

―――いや、むしろ、よく考えれば、絶好のチャンスでもあった。
それが明らかになったならば、今度こそ本当に、陽子を諦められる。
自分の想いに、区切りをつける事が出来る―――

しかし、この時の私は、陽子のせいで高校時代にまで考えが戻っていた。
陽子に、大切な人がいる、だなんて、そんな事を、知らされたくなかった。
今までのように、私だけの陽子………

いや、みんなの陽子であって欲しかった。



お願い。
お願いだから、いつものように、どうでもいい話をして。


82 : 1 2015/06/25(木) 21:31:39.61 ID:VoPwuy3V0
陽子「綾…あのさ」

綾「なに?」

陽子「私、今まで秘密にしてたんだけどさ………」


やめて


綾「………何?
秘密にしてた事がある、なんて。陽子らしくないわね。」

陽子「あー、うん、ごめんな。」

綾「………で、何なの。それは?」

陽子「………綾は、ちょっとびっくりするかもしれない事」


やめて

やめて


綾「…な、なにそれ?
……どーせ陽子の事でしょ?大した事じゃ………」

陽子「何だよそれー!
………ほんとに、びっくりするんじゃないかって思うんだけど、私は」


やめて
やめて
やめてやめてやめて


83 : 1 2015/06/25(木) 21:32:58.60 ID:VoPwuy3V0
綾「ふーん。だったら、言ってみなさいよ」

陽子「……………いや、その。
まぁー………自分からこういう事、言うのも、何なんだけどさ。」

綾「………」



陽子「私今度、結婚する事になったんだよね」






え?


84 : 1 2015/06/25(木) 21:34:14.34 ID:VoPwuy3V0
綾「―――」

陽子「………」

綾「なに?………よく、聞こえなかった………」

陽子「この距離で聞こえないは有り得ないだろ!?
………だから、その……… 結婚………」

綾「けっ………?」


想定していた、最悪の展開の、さらに斜め上だった。


85 : 1 2015/06/25(木) 21:35:36.62 ID:VoPwuy3V0
綾「………ま、待って待って。
結、婚?そう言ったの?陽子???」

陽子「………はは。 私らしくないよな?
私、男子よりガサツだし、綾みたいに女の子らしいとこ、全然ないしさ……
自分でも、正直、信じらんないんだけど………」

綾「………ま、待って。
嘘よね…? 陽子が、結婚、だなんて………」

陽子「私も、嘘かなぁと思ってたんだけどなー。はは」

綾「……… ……………」

陽子「…あー、やっぱり、綾には、衝撃すぎた?
おーい、大丈夫かー、綾ー」

綾「……いじょっ……!」

陽子「ん?」

綾「大丈夫な訳………ないでしょ………!!!」

陽子「はは、そうだよなあ。 ………ごめんな」

綾「………に、それ」


86 : 1 2015/06/25(木) 21:36:53.21 ID:VoPwuy3V0
………確かに、陽子には恋人がいた。
それを直接、知らされたようなものだ。
これでようやく、陽子への自分の想いにも区切りがつく。
自分が望んでいた事ではないか?

しかし、いくらなんでも、
陽子の突然の『結婚する』宣言は、私の予想を超え過ぎていた。
ただの恋人と、結婚相手とは、訳が違う。

嫌でも、陽子を諦めざるを得ない。
それどころか、陽子は更に遠くに行ってしまう。
結婚をして、家庭を持ち、さらにその先へ……………


「何それ!!!」


私は思わず、叫んでいた。


87 : 1 2015/06/25(木) 21:38:36.62 ID:VoPwuy3V0
私の気持ちがどういうものか、私にも分からなかったが、
しかし『陽子が好き』である事、これだけはずっと、ずっと私の心の中で、変わった事はなかった。
そして、『陽子と私は友達』である事、これもそうだった。

だが、そんな陽子が、結婚?

………どう頑張ったって。
私のような女が、陽子にとって………
特別な存在に、なるはずがない。 なれるはずがない。
むしろ、陽子は更に遠くに行く。
『友達』なんて忘れて、人生の伴侶と、もっと遠いところまで………


―――私は置いて行かれるのだ。


陽子「だ……だから、綾には、悪かった、って思ってるよ。
これまで、その人も、秘密にしてきて………」

綾「………知らないわ」

陽子「えっ?」


―――そう思うと、これまでの私の未練を、一瞬で全否定された気がして。


綾「もう………陽子の事なんか、知らない!!!」


88 : 1 2015/06/25(木) 21:39:52.66 ID:VoPwuy3V0
陽子「あ、綾……ゴメン、本当に………
け、けどな。 結婚するって話したのは、家族以外では、綾が初めてなんだよ。」

綾「………陽子の……ばか………!」

陽子「本当に、ほんっとに悪かったと思ってる!!
………もちろん、綾は、今だって私の大切な友達だ!
だからその、伝えたくって、嘘はつきたくなくって!!
………今までは秘密にしてた…… ちょっと遅くなっちゃったけど………
もう、隠したくないって思ったから!だから、綾………っ!!?」


―――無性に腹が立ち、私は陽子にもらったぬいぐるみを、思いっきり地面に叩きつけた。


89 : 1 2015/06/25(木) 21:41:21.46 ID:VoPwuy3V0
陽子「あ、や…!」


そのまま、ベンチから離れた。


陽子「待てっ!!待ってくれ、綾……っ!!!」


―――追ってくる陽子に対して、私は振り向いて、叫んだ。



「陽子のバカ!! 大ッッッ嫌い!!!!!」


「!!!」


そのまま、私はその場を離れた。



陽子は、それ以上追って来なかった―――


92 : 1 2015/06/28(日) 17:22:13.52 ID:B2er0HfI0
――――――――


空太「………大体、納得がいきました」

綾「………」

空太「姉が結婚する事は、聞かされていましたが………
それにしては、元気のない顔でした。
………綾お姉さんが原因だったのですね」

綾「そうよ………」

空太「………」

綾「今度こそ、本当に、終わったのよ……」


93 : 1 2015/06/28(日) 17:23:03.01 ID:B2er0HfI0
空太「? 何がです?」

綾「バカみたいじゃない?
かつての友達に。 『結婚します』って報告したのに。
祝われるどころか、大嫌いなんて罵られて。
………せっかく取ってくれたぬいぐるみまで、投げ捨てられて………」

空太「ああ、あのぬいぐるみ、その時の……
………姉が、妙に可愛らしいぬいぐるみを部屋に持って行くなと思ったら、そういう事だったんですね」

綾「………今度こそ、嫌われたわ。
前々から、互いに気を遣って、高校の時とは、少しずつ離れてきていたけど………
もう、今度こそ、これで完全におしまい。
陽子に…… 嫌われて、おしまい………よね。」

空太「………」


94 : 1 2015/06/28(日) 17:24:14.73 ID:B2er0HfI0
綾「あはは。
いつも私は、陽子をバカにして………
陽子に対して、素直になれなくて、厳しい態度を取っちゃって………
おまけに今回、陽子の好意のぬいぐるみすらも、投げ捨ててきちゃった。
今度こそ完全に、陽子は私を、嫌いになったわよね。

その後でね、メールが来たのよ。………今日はごめんな、って。
でも、私は無視しちゃった。何も………返せなかったの」

空太「………」

綾「もう一ヶ月以上音沙汰なし。
たぶん、陽子ももう忘れているわ。
こんな女の事なんて……… もう忘れている。

ようやく………
ようやく今度こそ、陽子から『卒業』する事が出来たわ。


完全に、諦める事が………」


95 : 1 2015/06/28(日) 17:26:12.80 ID:B2er0HfI0

空太「『綾さん』」


綾「はっ!?
………な、なに、突然」

空太「本当にそう思っていますか?」

綾「………そりゃ、嫌われるわよ………
あんな、最低の行為を、したんだもの………」

空太「さっき、言いましたよね。
僕に結婚の話をした姉は、元気がなさそうだったと。」

綾「………」

空太「本当にそう思っていますか。

いつも素直になれない綾お姉さんに。
突然、大嫌いと言われ。
ぬいぐるみを投げ捨てられて。突然帰られて……
メールも無視された。
そんな酷い女の事、もう忘れてしまった。

僕の姉の猪熊陽子が、そうなったと。
あなたを心の底から嫌いになったと、本気で思っているんですか?」

綾「………」


96 : 1 2015/06/28(日) 17:27:38.41 ID:B2er0HfI0
空太「大した思い上がりですね。
本当に、うちの姉の事が好きだったんですか?」

綾「こ、空太君…」

空太「『小路綾さん』。
僕は、猪熊空太です。
うちの姉を侮辱するのは、そこまでにしてください」

綾「ぶ…侮辱って……私は、ただ………」

空太「本当は、分かっているんでしょう。
姉が、本気でそんな事を思うはずがないと。
………あなたは、本当は姉を信頼しているはず。
違いますか」

綾「………違わない………
違わないけどっ、でも………!
……… ……………」

空太「………全部、分かってるんですよね。綾お姉さんは。
姉と、いつも一緒に居たから。
………なら、少しくらい、正直になっても、いいじゃないですか?」

綾「でも!!!
………今更私が、どんな顔をして、
陽子に会えば……
……メールを送ればいいのか………私には、分からないの………」


97 : 1 2015/06/28(日) 17:30:38.55 ID:B2er0HfI0
空太「……高校時代なら、どうでしたか?」

綾「えっ?」

空太「……僕の予想ですけど。
高校時代なら、例えどんなに綾お姉さんと喧嘩をしようと、
姉なら、次の日には学校で会って、
きっと、いつものように話しかけて、仲直りをしていたんでしょうね。」

綾「……そう。そうね……でも、今は………」

空太「今は、もう高校時代とは違う……」

綾「………うん」


空太「確かに、綾お姉さんと姉が仲直りできていないのは、
それが理由だと、あなたは思っているのかもしれません。
しかし、本当にそうでしょうか?」

綾「えっ?」


98 : 1 2015/06/28(日) 17:34:23.66 ID:B2er0HfI0
空太「姉と綾さんは、
中学、高校時代のように、毎日会う事がなければ、
仲直りが出来ないような関係だと思いますか?」

綾「え? ………どういう事?」

空太「姉の性格を、もう一度よく考えてみて下さい。
友達と喧嘩をしたら、翌日には会って仲直りが出来る人物です。
もし、学校で毎日会う仲ではなかったら?
それならば………家に訪問して、謝りに行く、とか。
取ってもらえるまで電話をかける、とか。
好きな人に対してなら、少々出過ぎた事をしてまで、やや強引に仲直りをしに行く。
姉はそういう人だとは、思いませんか?」

綾「………確かに………
陽子なら、やりそうだけど………」

空太「それに、滅多な事は気にしない。
そんな姉が、友達の為に取ったぬいぐるみを蔑ろにされたり、
送ったメールを無視されたくらいで。
一ヶ月も、音沙汰なし。
どこか、おかしいとは思いませんか?」


99 : 1 2015/06/28(日) 17:38:53.84 ID:B2er0HfI0
綾「………でも、私がした行為は、最低の事だったし、
陽子も、私に怒っているのかもしれないわ。
本気で嫌いになってはいなくとも………」

空太「それでも、あれほど仲良しだった綾お姉さんという相手に、
一ヶ月何も動かない、というのは、明らかに不自然ですよね。
………姉がそこまで、恨み深い人だと思いますか?」

綾「………思わないわ。
空太君、何が言いたいの……?」

空太「………綾お姉さんにしては珍しく、姉の心情を、分かっていないですね。
………まあ、僕も、本当に理解したのは、ついさっき、ですけど」

綾「えっ…!? ど、どういう事!?」


空太「……………綾お姉さん。
先ほど、GWのデートでの事情は、大体聞きましたが………
最後、あなたは、『陽子なんてもう知らない』『大っ嫌い』と言ったそうですね?」

綾「………言ったわ………」

空太「本心、なわけないですよね」

綾「当たり前よ!!!
………ただ、あの時は………
結婚、なんて単語を聞く覚悟、全然、してなかったから………
私、陽子に置いて行かれちゃうような気がして………
つい………自分から、陽子を否定するような、心にも、無い事を………」


100 : 1 2015/06/28(日) 17:41:21.12 ID:B2er0HfI0
空太「そうですよね。
それを聞いた時、僕は、昔………5年前くらいですかね。
過去の僕が、初めて綾お姉さんに会ったあの時に言われた事を、思い出したんですよ。」

綾「え…?」


空太「綾お姉さんが僕らに、
『陽子は単純バカだから。』
と、諭してくれた事、覚えていますか?」


綾「!!!

………ぁ………!
あ………ああああっ………!!!」


―――何で、気づかなかったのだろう。


空太「僕の姉はやっぱり、単純バカです。
しかし本当に、今回ばかりは、本気でバカだと、心底呆れました………


姉の方が。
綾お姉さんに、本気で嫌われてると思い込んでるんですよ」


101 : 1 2015/06/28(日) 17:43:13.19 ID:B2er0HfI0
綾「そんな………!!!」

空太「一度、僕らが『お姉ちゃんの事好きじゃない』なんて言った時でさえ、
姉はひどく落ち込んでしまうような人でした。
あの時は、僕らが本心を伝えたら、姉はすぐに気を取り直してくれました。

綾お姉さん。
嫌われていると思っている相手にメールを一通送るだけでも、姉には相当勇気が要ったと思います。
あなたは、姉の事が好きで、だからこそこの現実にどう返事したらいいのか分からなくて、
それでメールを無視してしまったのかもしれませんが、
姉は、あなたが姉を嫌いだから無視したのだと思い込んでいます」


綾「そんなっ、バカな話………!!!

………バカじゃないわ………
……… ………陽子は、バカだから………

私が、バカな事をしたから………!!!」


102 : 1 2015/06/28(日) 17:44:23.41 ID:B2er0HfI0
空太「結婚の準備が進んでいるというのに、
姉はいつも、どこか曇った顔をしていました。
傍目には、毎日を楽しんでいるように見えましたが、
僕らが知っている、高校時代の時の輝かしい姉の笑顔とは、
その表情は、似ても似つかなかった。」

綾「………陽子………」

空太「姉はぬいぐるみを、今でも部屋に置いています。
これは僕の考えも、入ってしまうかもしれませんが、
ぬいぐるみを見ると、姉はその日の事を思い出してしまうのかもしれません。
綾お姉さんに向けられた『大嫌い』の一言………
それが、姉を戸惑わせ、深く絶望させて、踏みとどまらせている。

姉なら、電話を一本入れるとか、
それかどこかで待ち合わせて、一緒に話して仲直りしようとするとか、
そういう事でもしそうなものです。
実際、一度はメールを送ってくれたのですよね。

が、姉はそれ以上の事を、何もしなかった。
姉は、自分が好きな相手には一直線ですが、
嫌われていると思っている相手に、配慮する程度の気遣いは持ち合わせています。」

綾「………陽子の、バカ………!
私が、本気で……… 陽子を、嫌いになった、なんて………
そんな事、思うの………!!?」


103 : 1 2015/06/28(日) 17:47:49.53 ID:B2er0HfI0
空太「………思えば、姉が、自分から結婚するという事を明かすまで、
隠すのが下手、というか、隠せない性格の姉が、
どうしてそこまでして、恋人がいる事を隠してきたのでしょうか。」

綾「………」

空太「これは僕の見解になりますが、
恐らく、最も大きな原因となったのは、綾お姉さんの存在でしょう。」

綾「えっ!!?」

空太「姉も姉なりに、綾お姉さんの事は好きです。
そして、綾お姉さんが、しばしば妄想癖があったり、
しばしば姉に対して好意を向けている事自体には、姉も気づいていた。

だから、言えなかったのかと思います。
姉は、綾お姉さんが居たから、きっと遠慮して、
何も言わなかったのではないかな、と思っています。」

綾「……で、でも、
そうだとしたって、家族くらいには、言いそうじゃない?
空太君も………その、GW近くまで、聞かされていなかったんでしょう?」

空太「……………」


綾「空太君?」


104 : 1 2015/06/28(日) 17:49:56.23 ID:B2er0HfI0
空太「すみませんでした」


綾「………え………?」

空太「知っていました。
かなり………前から………」

綾「!!!」

空太「………申し訳ありません。
これだけは、言い出せませんでした」

綾「な………っ………」

空太「………」


綾「何よ、それっ!!!」ガタッ


空太「………綾お姉さん。周りの人が見ています」

綾「………っ!
……そうね。ごめんなさい、私ったら」


空太「………そろそろ、行きましょうか?」

綾「………そう、ね………」



空太「…大丈夫です。自分の分は自分で払います」

綾「いいのよ………あなたはまだ、高校生でしょう?」

空太「高校生なので、小遣いもある程度はあります。」

綾「……でも、今回は、私があなたを呼び出したわ。」

空太「それもそうですね。……… では、お願いします」

綾「……… ………」


105 : 1 2015/06/28(日) 17:52:04.33 ID:B2er0HfI0
――――――――

―――――

―――外


綾「……すっかり、遅くなっちゃったわね。
よく見たら、もう、10時………
ごめんなさい。こんなに遅くなるまで。気づかなくって」

空太「いえ。
親には、友達と遊びに行くから遅くなると言っていますので、大丈夫です。
こんなに遅くなるまで話せて、嬉しかったです」

綾「………空太君………」


空太「……… ………では。
今日も、ありがとうございました」

綾「待ってよ」

空太「………」


帰ろうとする空太の背中に、綾は言う。

静かに―――
だが、普段の彼女とは違う、強い口調で。


106 : 1 2015/06/28(日) 17:53:35.07 ID:B2er0HfI0
綾「待って?」

空太「………どうか、されましたか?
貴女が僕を引き止めるなんて、珍しいですね。」

綾「誤魔化さないで。私、まだ聞いてないわ。
あなたが、陽子の結婚を………」

空太「………そうですね、知っていました。
申し訳ありません。
綾お姉さんは、姉の情報を目当てに僕と付き合うような形をとっていたのに…
大切な情報を知らせもしませんでした。恋人失格ですね。」

綾「………っ………」

空太「………信用を失いましたか?
なんなら、もう別れましょうか………
僕は、どのようにしていただいても構いません」

綾「………待ってよ………」

空太「………」


綾「空太君、さっきから、すごく悲しそうな目をしているわ」

空太「!」


107 : 1 2015/06/28(日) 17:55:34.76 ID:B2er0HfI0
綾「………さっきは、ごめんなさい。
私、陽子のそんな情報、真っ先に教えてくれるものだと思ってたから、
ちょっと裏切られた気がして、叫んだりしちゃって………」

空太「裏切ったんですよ。 僕は貴女を。」

綾「違うわ。あなたは、裏切っておいてそんな悲しそうな目を出来る人じゃないもの。」

空太「………」

綾「………私ね。
あなたと付き合い始めて………
あなたが、事ある毎に連絡してきて、その度に会って。
陽子の近況、色々な話をしてきて。とても楽しかったわ。
それで、一つ気づいた事があるの。」

空太「………」

綾「あなたは純粋。
………とても、純粋な子よ。
だからこそこうやって、相思相愛ではない付き合いをしてきて、
私は何度も申し訳なく思ったりしたわ。」

空太「……………」

綾「純粋だから………
私に、言わなかったのよね?陽子が、結婚する事を。」

空太「………」


綾「……いや、言えなかった。
陽子が、私には秘密にするよう頼んだ………そうでしょう?」

空太「!!!」


108 : 1 2015/06/28(日) 17:57:19.59 ID:B2er0HfI0
綾「………」

空太「………姉が………
……… 姉が結婚する、と聞いた時………
正直、ショックでした。
しかし、綾お姉さんには伝えなければいけない。
もちろん、そう思っていました。」

綾「………」

空太「相手の情報、結婚の時期、いつから付き合っていたのか、
知りたい事がたくさんありました。
何から掘り下げようかと思っていると、
姉は僕に、注意をしてきたんです。」

綾「注意……?」

空太「『この事は、他に、絶対に秘密だぞ。
特に、綾には、絶対知られたくないからな!』と」

綾「………そう。」


109 : 1 2015/06/28(日) 17:59:53.80 ID:B2er0HfI0
綾「そうよね。
知られたくない、わよね………
面倒事、起こしそうだし。実際、起こしちゃったわけだし………」

空太「その後、姉はこう続けました。」

綾「?」

空太「『私がこれを、家族以外に伝えるのは…
一番最初に、綾に伝えるんだからな!直接、私の口から!』
……とも、言っていました」

綾「………え?
………ど、どうして………」


空太「『私、誰よりも、綾の事が好きだからさ!』らしいです」


綾「!!!!!」


110 : 1 2015/06/28(日) 18:01:52.21 ID:B2er0HfI0
綾「………あは、は………バカね、陽子。
何を言ってるのかしら?
陽子はこれから、結婚して幸せになるのに………
私の事が好きだなんて、何を………」

空太「僕は、姉のその言葉を聞いて、
どうしても、あなたにこの事実を伝える事は、出来ませんでした。
貴女の事より、姉の事を考えてしまった。」

綾「………空太君………」


空太「僕は、姉が好きです。 大好きです」

綾「………」

空太「綾お姉さんは、どうですか。
姉の事が………好きですか?」

綾「空太、君………」


111 : 1 2015/06/28(日) 18:03:04.26 ID:B2er0HfI0
空太「………いえ、なんでもありません。
………ともかく、僕が、姉の結婚をあなたに教えなかった理由は、以上です。
これで、良いでしょうか。
………そろそろ、僕も帰らないと」

綾「………」

空太「綾お姉さん、それでは………」

綾「待って、って」


くいっ


空太「………!」

綾「………そんな。
一人で、勝手に帰らなくても」

空太「………お姉さん?」


―――綾は、空太の腕を引いて、歩きはじめた。


112 : 1 2015/06/28(日) 18:04:32.21 ID:B2er0HfI0
綾「………分かった。
よく、分かったわ。 空太君の気持ち。
………空太君は、本当に、陽子が好きなのよね。
すごくよく分かった。 ………嬉しい」

空太「………なんで、嬉しがるんですか」

綾「さっきの質問の答え。
………私、陽子の事、好きよ。大好き」

空太「……… ………」


歩く途中、綾は空太の背中に、手の平を当てた。


空太「どう、したん、ですか?いつになく、距離が近い。
綾お姉さんらしくない………行動ですね」

綾「………ごめんね。
私、こういう時、どうすればいいのか、
よく、分からないのだけど……… ………」

空太「こういう時?」


綾「大切な人が、泣きだしそうな表情をしている時」

空太「!!!
なっ、泣きだしそうに、なって……なんか………!」


113 : 1 2015/06/28(日) 18:07:12.32 ID:B2er0HfI0
綾「陽子と出会った頃の私を、思い出したの」

空太「………」

綾「あの頃、私達、出会って間もなくって………
私は陽子についていって、一緒に帰ったはいいけど、
中々、言葉が出なくて。話せなくってね。
今以上に無口だった私……… 陽子もよく、あんな私に付き合ってくれたと思うわ」

空太「………」

綾「………私を見て、陽子は、
こうやって、腕を引いて、一緒に帰ってくれた。
何も言葉は無かったけれど………それだけで安心出来た。」

空太「……………」

綾「………なんて。
私がその真似をしたって、陽子みたいな安心感を感じたりとか、
空太君にとって、そんな事は、ないのかもしれないけど………」

空太「………」


綾「一緒に帰りましょう?
………一人で帰っちゃうなんて、寂しいわ。
私達、付き合っているんだもの」


114 : 1 2015/06/28(日) 18:10:25.21 ID:B2er0HfI0
空太「………綾、お姉さん………」

綾「なに?」

空太「今の綾お姉さんは、
姉がしてくれていた事を、そのまま僕にしているのですよね」

綾「………まあ、そうね」

空太「では、今の僕は、子犬に見えますか?」

綾「ええっ!? どうして!」

空太「姉が、中学校の頃、
綾お姉さんの事を、しばしば子犬のようだと言っていました」

綾「あぁ………そういえば、言ってたわね、そんな事。
………かわいいと思うけど、子犬ではないわね。」

空太「………」

綾「そうね。どちらかというと猫、かしら?」

空太「猫なんですか?」

綾「ええ。犬は、そうそう嘘をつかないもの」

空太「………言いますね」

綾「ふふっ… ………」


115 : 1 2015/06/28(日) 18:14:18.10 ID:B2er0HfI0
空太「………綾お姉さん」

綾「何?」

空太「………本日は、ありがとうございました。わざわざ、お誘いをいただき」

綾「あら、何?改まって………
いいのよ。 久しぶりに話せて楽しかったわ」

空太「………嘘つきの猫扱いはされたくないので、正直な事を話します。
僕は、綾お姉さんが好きなのは姉だという事を知っています。
だから、いつも僕の方から綾お姉さんを誘ってきた。
いつも必ず、提案するのは僕の方でした。
………初めてでしたよね。 綾お姉さんから、誘ってくれたのは」

綾「…ええ、そうね」

空太「正直、綾お姉さんから連絡が来た時。
僕は、とてつもない幸福感を感じていました。
自分が頼られている………
これまで感じた事がないくらい、嬉しかったです」

綾「………そう………」

空太「………一瞬、自分の立場を忘れました。
『綾お姉さん』ではなく………
『小路綾さん』を、もっと好きに、なりかけました………」

綾「………? どういう事………」

空太「分からなければ、それでいいです。綾お姉さん。」


116 : 1 2015/06/28(日) 18:16:07.60 ID:B2er0HfI0
綾「………… ………ま、いいわ。
それより、もうすぐで家に着くわよ」

空太「…綾お姉さんの家まで、送っていきますよ」

綾「いいのよ。
私だって、もう社会人よ?大丈夫だから」

空太「………個人的には、
綾お姉さんを一人で帰すのは、気が引けるのですが」

綾「大丈夫よ!
………私は、お姉さんなんだから。ね」

空太「………分かりました。
今日は、ありがとうございました。
この辺りで、分かれるとしましょう」

綾「そうね。……あ、そうそう、最後に一つ。」

空太「はい、なんでしょう?」


117 : 1 2015/06/28(日) 18:17:34.67 ID:B2er0HfI0
綾「陽子の結婚式って、いつ頃に行われるの?
………行くにしろ、行かないにしろ、
いつ頃かは知っておきたいなって、思ったんだけど。
………あ、でも、それも陽子は私に知られたくないのかしら…?」

空太「!?
………えっ、姉、本当に、何も言ってなかったんですか………?
何の連絡も、来てない………と?」

綾「?
………え、ええ。来ていないけど」

空太「……………やっぱり………
大馬鹿ですよ、うちの姉は………」

綾「えっ? どういう事………?」


空太「明日ですよ。 姉の結婚式は」


123 : 1 2015/06/30(火) 23:05:55.07 ID:dbhpJl6b0
―――――――


―――――


―――翌日、結婚式場



陽子「………しの!!!」

忍「陽子ちゃんっ!
わぁ~っ、会いたかったです~~~!!!」

陽子「しの、来てくれたんだなー!!!嬉しいっ、嬉しいよー!!!」

忍「もちろんですっ!
昔からの幼馴染だった陽子ちゃんが………結婚、するんですから~!!
私が、ウェディングドレスまで、作ってあげたかったくらいですー!!!」

陽子「ははは、私のためにそこまでしてもらうのは、申し訳ないよ~」


124 : 1 2015/06/30(火) 23:07:04.74 ID:dbhpJl6b0
忍「陽子ちゃん、頼んでくれれば作ったのですが………」

陽子「いやいや、しのは自分の仕事があるだろ?
………聞いたぞ、本当すごいよな、しのは。
今、世界中で、デザイナーとして大活躍中じゃん!!」

忍「………ふふ、そこまででも、ありませんよ。」

陽子「私にとっちゃ、もう雲の上の人だよ。
本当、これから『忍さん』って呼んだ方が良いんじゃないかってくらい」

忍「いえいえ!そんな事は!!!
陽子ちゃん、お願いですから、私の事は『しの』でお願いします、これからも!!!」

陽子「はは、冗談だよー!
………しの、これからもよろしくな!」

忍「はい!!」


125 : 1 2015/06/30(火) 23:08:12.27 ID:dbhpJl6b0
アリス「ヨーコ~~~!!!」

陽子「おーっ!アリスも来てくれたのか!
久しぶりに見るなぁ、しのとアリスの二人組はー」

アリス「もちろん!シノ居る所に私有り、だよ!」

陽子「ははは、ほんと仲良いな~。
相変わらずだな…… ………」

アリス「もちろんだよ!!
………そういえば、アヤはどこにいるの?」

陽子「!」

忍「あっ、そういえば、綾ちゃんがいませんね。まだ来ていないのですか?」

陽子「あー……… ………何だ、その。
綾は、来ないよ」

アリス「え………っ?」


126 : 1 2015/06/30(火) 23:09:31.04 ID:dbhpJl6b0
忍「あら、そうなんですか。お仕事か、何かですかね?」

陽子「………そう、みたいだな。
まあ、いいんじゃないか?綾も綾で、忙しそうだし」

忍「残念ですね………
陽子ちゃんが、こんなにおめでたい日に、来る事が出来ないなんて。」

アリス「そんなっ!
アヤが来ないなんて、何かの間違いじゃないの!?
………だってアヤ、ヨーコの事、大好きだったじゃない!!!」

陽子「っ………
………まー、色々あったんだよ。色々」

アリス「色々って何!!?」

陽子「………あ。
そろそろ、私、行かなきゃ。
色々と、準備があるもんでさ」

アリス「待ってよ、ヨーコ!!」

陽子「………ありがと。来てくれて、嬉しいよ。 アリス、しの」

アリス「ヨーコっ…! ………」


127 : 1 2015/06/30(火) 23:12:57.77 ID:dbhpJl6b0
忍「……陽子ちゃん、どこか、元気がなさそうでしたね」

アリス「当たり前だよ!!だって、あのアヤが来ないなんて!」

忍「確かに………綾ちゃん、どうしたのでしょう?」

アリス「アヤ……
私、アヤに電話してみる!!」

忍「アリス………」


アリスがそう言って携帯を調べ始めた所で、遠くからカレンが、忍達に近づいてきた。


128 : 1 2015/06/30(火) 23:14:42.21 ID:dbhpJl6b0
カレン「ヘーイ!
シノ!アリス!!お久しぶり、デース!!!」

忍「! カレン!!!」

アリス「………」

カレン「アリスも…ン?」

忍「アリスは今、綾ちゃんにお電話をしていますね」

カレン「アヤヤが、どうかしたデース?」

忍「綾ちゃん、今日は来ないって、陽子ちゃんが言ってて………」

カレン「エッ!?
………そんな! アヤヤが来ない!?」

アリス「………だめだ! アヤ、電話に出ないよ~!!」

カレン「………そうデスカ。それは、残念デス」

アリス「あっ、カレン!?
そうだ!カレン、何とか………何とかできない!?」

カレン「私に頼まれても………」

アリス「だって、カレンは知ってるでしょ!?
アヤはヨーコの事が大好きだった事!!
おかしいと思わない!? アヤが、こんな場に来ないなんて………!
有り得ないよ! 何かの間違いだって……!」

カレン「落ち着くデス、アリス」


129 : 1 2015/06/30(火) 23:16:36.01 ID:dbhpJl6b0
アリス「っ………
カレン、カレンはどうして、そんなに、落ち着いて居られるの!?
………カレンが、私達三人の中では、一番、アヤを分かってるはずじゃ……!」

忍「えっ、私、一応中学から一緒なんですけど………」


―――アリスの言葉に、カレンは俯いた。


カレン「………勿論デス。
アヤヤが、ヨーコを好き。そんな事は知っていマス。」

アリス「だったら……!」


カレン「だったら、何デスカ?」

アリス「えっ………」

カレン「アヤヤを、無理矢理連れて来い、と?
アヤヤが好きだったヨーコを、知らない男との結婚式に連れてきて。
ヨーコを祝えと、それを強制しマスカ?」

アリス「……………」


130 : 1 2015/06/30(火) 23:19:25.02 ID:dbhpJl6b0
カレン「アリス、アヤヤは確かにヨーコが好きデス。
それは私も知っていマスし、高校の頃、一緒に居た頃は、とても感じマシタ。
アリスの言うように、アヤヤが来ない事はおかしいと、私も思っていマス。
本当は来られるのかもしれマセン。」

アリス「………」

カレン「………でも。
私がシノやアリスより、アヤヤの事に関して、知っている事があるとすれば………

アヤヤがどうヨーコを好きなのか、
そんなものは、誰にも分からないという事くらいデス」


アリス「……………」


カレン「………恐らく、アヤヤ自身にも、分からないのデショウ。
………私は長らく会っていないので、今のアヤヤがどう思っているか知りマセンが……

来ないという事は、アヤヤが決めた事デス。
それを否定してまで………
無理に、呼び出しては、いけないと、思いマス………」


そうアリスに諭すカレンの、声のボリュームは、段々と落ちていった。


131 : 1 2015/06/30(火) 23:24:52.57 ID:dbhpJl6b0
それは、アリスの哀しそうな表情に気づいたから。


アリス「………カレンは、すごいね………
やっぱり、すごいよ………皆の事を、よく、見てる。
いつも適当に行動しているようで、
実は、人の気持ちにとっても敏感なんだよね。
昔から、そうだったね………」

カレン「アリス……」

アリス「私も、少しくらいは、大人に……
そろそろ、なってきたかなって………思った、のに……
……ダメだね。無理矢理、アヤを呼ぼうとなんかして。

カレンの方が、ずっと、大人だよ。
アヤの気持ちも、私よりずっと分かってて、ずっとよく考えてる。
私の方が、お姉ちゃんなのにね。
……でも………」


アリスが―――泣き出しそうな事に、気づいたから。



「祝いたかったな。

私達、五人で………
一緒に………祝いたかったな………

こんな日、くらい、は………」



そう言いながら、アリスは大粒の涙を、ぽろぽろと零し始めた。


132 : 1 2015/06/30(火) 23:28:48.25 ID:dbhpJl6b0
カレン「………アリス」

忍「アリス、泣かないで下さい………」

アリス「………ごめんね、シノ。
………なんだかね、ちょっと………」

忍「アリスが悲しいと、私も何だか、悲しくなってしまいます……」

アリス「ううん、悲しいんじゃ、ないんだ………
ただ、少し………
昔より少しだけ、遠くに来ちゃったなって、思っただけ、だから。」

忍「遠くに?
………確かに、ここは日本ですが………」

アリス「もう、シノったら。 そうじゃないんだよ。
この状況がね。 昔とは違うなって事」

忍「昔とは……違う?」


アリス「………やっぱり、『大人』には、色々あるのかな。

―――あの時みたいに、
皆で集まる事は、もう二度と、ないのかな………」


カレン「……!」


133 : 1 2015/06/30(火) 23:30:30.89 ID:dbhpJl6b0
忍「そんな事はありません!また、皆で集まりましょう。
また陽子ちゃんの家で、パーティーを行うんです!」

アリス「あはは………出来るといいね。」

忍「出来ますよ、絶対に!」

アリス「………でも、あのヨーコの様子だと………
絶対、アヤと、何かあったとしか………」

忍「陽子ちゃんが綾ちゃんと、何かあったか……それは分かりませんが。
でも、私は二人を信じています。」

カレン「シノ……。」

忍「何があっても、私達は皆、友達同士です!
それは、変わりません。
私、その為にみんなに、ハートをプレゼントしたんですから!」

アリス「ハート……?
ああ、そんな事、あったような………」



カレン「……… ………そう、デスヨネ」


―――忍の言葉を聞いて、カレンは頬を緩めた。


135 : 1 2015/06/30(火) 23:32:53.39 ID:dbhpJl6b0
カレン「その通りデス。
私は、私達は、大人、なんかじゃ……ありマセン。
いえ、大人になっても、きっと………」

アリス「えっ…?カレン、今何て?」

カレン「ああ、いえ。
……アリスが私を、買い被りすぎだという話デス。」

アリス「えっ??」


そう言うと、カレンは、すぅーっと、
傍から見ても分かるくらいに大きく、息を吸いこんだ。


アリス「カレン、どうかしたの?」



カレン「ああああ――――――っ!!!!!!」


忍「!!?」

アリス「!?」


136 : 1 2015/06/30(火) 23:34:27.83 ID:dbhpJl6b0
カレン「ウッカリウッカリ、ウッカリ八兵衛デス!
私、トテモトテモ大事なモノを、忘れて来てしまいマシタ!
このままじゃあ、結婚式になんて臨めない程の、大切なモノデース!!
ちょっと、取りに行って来マス!!!」

アリス「えっ、か、カレン!?どこに行くの!」


カレン「遠くに来ちゃったなら!また、戻れば良いんデス!」


アリス「……!!」

忍「あらあら、忘れ物なんて。
カレンはうっかりさんですね………何を忘れて来たのですか?」



「heart、デス!!!」


そう言うとカレンは、踵を返し、忍達から離れて行った。



忍「………って、あれ?
あっち、式場の外じゃないですよ………」

アリス「外じゃない、ってより………あっちって、控室の方?
関係者以外、立ち入り禁止なんじゃ………」


137 : 1 2015/06/30(火) 23:36:03.48 ID:dbhpJl6b0
―――式場控室


陽子「………いよいよ、って感じだな」

美月「姉ちゃん!」

陽子「おっ、空太に美月!正装だな!
オシャレな格好だなー!違和感すげえ!」

美月「えーっ、何それ!
私はオシャレにも気を遣ってるつもりだよ!少なくとも姉ちゃんよりは!」

陽子「何だよそれー!」

空太「………姉ちゃんは、ウェディングドレス、着てないんだね」

陽子「はは、着るのはもうちょっと後……式が始まる前くらいかな。」

空太「そう」

陽子「……おい、どうした、空太、何か機嫌悪そうだな?」

美月「姉ちゃん何かが結婚しちゃうのが気にくわないんだと思うよ」

陽子「な、何だよそれぇ」


138 : 1 2015/06/30(火) 23:38:02.22 ID:dbhpJl6b0
美月「だって、あの姉ちゃんが、結婚だよ?結婚。
ウェディングドレス着たら、きっと違和感がすごいよ」

陽子「言ってくれるなー!美月!!!
………まぁ、そうだな。 そんな事くらいは私にもわかるさ」

美月「あれ、珍しく弱気」

陽子「だってさー………結婚、だぜ?
未だに私にも信じられないよ。
一生、縁の無い言葉だと思ってたよ………」

空太「………じゃあなんで、こんなに早くしようと思ったの?」

陽子「突っ込んでくるなぁ。
………うーん、そうだな。雰囲気………というか。
相手がそれを望んでたし、私もまあ、いっか、てな感じで………」

美月「軽いよ!姉ちゃん!そんな軽々しく決めていいの!?」

陽子「軽々しく決めた訳じゃないよぉ!
………私だって、決断に勇気は要ったさ。
でも、何かこう……… 一緒に暮らしたりしてて………
これは結婚する事になるだろうな、みたいな、そんな気持ちは、あった」

美月「一緒に暮らしてたの!!?」

陽子「言ってなかったっけ!?
………いや、下宿を行き交ったりしてただけ、だけどさ………」


139 : 1 2015/06/30(火) 23:39:34.75 ID:dbhpJl6b0
空太「………もっと、詳しく教えて欲しい」

陽子「な、なんでだよー!
姉ちゃんの事情なんて聞いても、面白くも何とも無いぞ!?」

美月「そんな事ない。 見てるだけで面白い」

陽子「本当かよ!?」

空太「僕は面白くなくても、面白く思う人がいるかもしれない」

陽子「誰だよそれっ!!?」

美月「そうそう、綾お姉ちゃんとか!
そうだ、今度話しておいてあげよっか!」

陽子「だあああっっっ!!?
それだけは絶対にやめろーっ!!!」


空太「………やっぱ、もういいや。」

美月「え?」

空太「それより、姉ちゃん。」

陽子「おん?」



空太「どうして綾お姉さんに招待状を送らなかった?」



陽子「!!!!?」

美月「こ、空太………」

空太「………」


空太の目は真っ直ぐ、陽子を見据えていた。


140 : 1 2015/06/30(火) 23:40:56.43 ID:dbhpJl6b0
陽子「………え、送って………?
………あっれ、送ってなかったっけなぁ?」

空太「………」

陽子「そ、そういや、忘れてたような気も………」

空太「ふざけんな」

美月「え、ちょ、ちょっと空太!
………それ………言う?」

空太「今更何がバレようとどうでもいい。
姉ちゃんがバカなのも、昔からよーく知ってる。
けどこればっかりは、今回ばっかりは、流石に意味が分からないんだよ。
な、姉ちゃん」

陽子「………え、こ、空太、どうした、お前?
何を、怒って………
てか、何で知ってんの? 綾に聞いたりした………?」

空太「質問に答えろ!
何で、送らなかったんだって言ってんだよ!!!」


―――初めて見る空太の、鬼のような形相に、陽子は思わず後ずさった。


141 : 1 2015/06/30(火) 23:42:08.83 ID:dbhpJl6b0
陽子「………空太………
………ああ、送らなかったさ。
送る必要がないと、私が判断した」

空太「必要が無いだって?」

陽子「………色々、あったんだよ。私と綾は、もう………」

空太「もう………何だ?」

陽子「……前とは違うんだ。分かってくれ、空太………」

空太「分かってないのは姉ちゃんの方だろ」

陽子「何を………!
空太! お前、どうしたんだよ、いきなり!?
………これは、私達の問題なんだ………
綾の何を知ってるか知らないが、空太に何が分かるって………!!」

空太「私達って、誰だ?」

陽子「えっ!!?
……… ………そりゃ、私と、綾………」

空太「本当に、それだけなのか?」

陽子「………それだけか、って……… ………」

空太「忍さんはどうした。
アリスちゃ…… ………アリスさんはどうした。
カレンさんはどうした?
さっき、来てくれているのを見たけど」

陽子「……… ………」


142 : 1 2015/06/30(火) 23:43:59.28 ID:dbhpJl6b0
空太「姉ちゃん。
俺は、姉ちゃんの事が、大好きだったよ。

特に高校時代、綾お姉さんたちと仲良くしていた時とか、
皆でうちでパーティーをした時とか………
皆と仲の良い姉ちゃんが羨ましかった。物凄く楽しかった。

そして、これからどこに行っても、
姉ちゃんたち五人組は、いつまでも友達なんだなって………
そう、感じた」

陽子「空太………」

空太「あの頃と、何か違うのか?
………そう思ってるのは、実は姉ちゃんだけじゃ………無いのか?」

陽子「………違う、よ………
だって、綾は、もう私の事を………」

空太「本気で心の底から、綾お姉さんが姉ちゃんを嫌悪してると、思ってるのか?」

陽子「違うよ!!!
違う……… 違うけど………
違うけどな、もう………
どうも……… どうにもしようが、ない………んだ………」


―――陽子は泣き始めた。


143 : 1 2015/06/30(火) 23:45:53.03 ID:dbhpJl6b0
空太「………」

陽子「………私… 綾に、嫌いって………言われたんだよ………
私さ、全然人の事を気遣うとかいうのは苦手だけど、
でも嫌われてる相手に、ベタベタ接しないくらいの、心遣いは、あるさ………」

空太「………」

陽子「メールも送ったけど、綾からは、何も返事が来なかった………
………嫌われたんだよ!もう会わない方が、良いんだよ………きっと………
だから………だからなっ………
どうしても、どうしても……… 綾への招待状を………書いたけど………
あれだけは、送ることができなかったんだ………」


空太「……………」

陽子「………ごめんな。最低だよな」

空太「………」

美月「姉ちゃん………」

陽子「しのにも、アリスにも、カレンにも、申し訳が立たないよ。
………ははっ、まぁ、自業自得だな。
元はと言えば、私がこんな結婚をしちゃった事が、綾に悪かったわけだし」

空太「………」

陽子「でもまぁ、こうして、準備もしてきた以上。
今更やめる訳にも………いかないからさ。
………そろそろ、私は行ってくるよ。
準備とかも………色々と、あるんだ。ごめんな、空太」


そう言って、陽子は歩き出した。


144 : 1 2015/06/30(火) 23:47:32.68 ID:dbhpJl6b0
空太「姉ちゃん」

陽子「………」

空太「一つだけ。

綾お姉さんは同じだと思ってるよ。
昔も今も………同じように姉ちゃんの事が好きだよ」


陽子「………嘘つけ」

空太「嘘じゃないよ」

陽子「……… ………だったら、良いな。
………そうだったら………良かったのにな………」

そう呟いて、陽子は新婦控室の方へと、歩いて行った。



美月「………」

空太「………」


それを見た二人は、ゆっくりと控室を出て、
新婦控室とは反対の、式場の方へと歩いていく。


145 : 1 2015/06/30(火) 23:49:52.50 ID:dbhpJl6b0
空太「ごめんな。
こんなおめでたい日を、ぶち壊すような事をして」

美月「………私はいいけど………
姉ちゃん、どうするのさ………
完全に元気無くしちゃったよ………」

空太「ごめん。
けど、綾お姉さんの心情を思うと、耐えられなかった」

美月「………」

空太「だけどこれで、俺も罪人だよ。
姉ちゃんの心を傷つけるような事をしたんだしさ。

………綾お姉さんとも、近いうちに別れる」

美月「えっ!!? どうして………」

空太「元々姉ちゃんの事があっての関係だったからさ。もう必要無いよ」

美月「必要無いって………空太は好きなんでしょ…?」

空太「僕は姉ちゃんのようにはなりたくないからな」

美月「………それ、どういう………」


―――その時、二人は背後に何者かの気配を感じた。


空太「っ!?」


ガシッ


美月「誰!?」



二人の肩を掴んだ、その人物は―――


146 : 1 2015/06/30(火) 23:52:24.85 ID:dbhpJl6b0
カレン「話は全て聞かせてもらいマシタ!!」

美月「カッ……!」

空太「カレンさん!!?
聞いてたんですか!?さっきの話!!!」

カレン「ハイ、ヨーコにアヤヤの事を聞こうと思って、
控室に入ろうとしたら、何やら不穏な雰囲気ガ。
………いやぁ、入らなくて良かったデス!
どうやら私の知らない内に、面白い事になっていたようデスネ!
イノクマ一家は今、アヤヤによって分断されてしまっているようデス!!」

空太「ち、違いますよ、
面白い事ではありませんし、綾お姉さんのせいという訳では………」

カレン「コウタ!
私も気づいていませんでした、アヤヤの事が好きなのデスネ!?
しかも、別れるとかどうとか、既に付き合っているような雰囲気デス!!」

空太「う………いや、そうですけど、違うんですよ!
僕はただ、綾お姉さんと姉ちゃんの関係を応援するためだけで………!
だ、だから、絶対に他の人に口外したらダメですよ!!?」

カレン「ナルホド。気持ちはよく分かりマス。
私も、アヤヤとヨーコの仲には、もどかしい何かを感じていマシタ」

空太「え、そうなんですか?
………そういえば、綾お姉さんも言ってたような………
カレンさんが時々、話を聞いてくれるって」

カレン「そうデス!
デスカラコウタ、別れるなんて寂しい事は言わないデ………
ここはひとつ、『オトコギ』を、見せてやろうではアリマセンカ!!!」

空太「漢気………??? な、なんですか、それ」

カレン「良いのデスカ!?
このままアヤヤがヨーコとすれ違ったまま………結婚式を終えて!
ヨーコも、アヤヤも、幸せな気持ちで居られるとは、思わないデス!!」

空太「………そりゃ、そうですけど………
………でも、もうこれ以上、出来る事なんて………」


カレン「こっちに来るデス!!」ぐいっ

空太「う、うわあっ!!?」

美月「え、私も行くの…?」


148 : 1 2015/06/30(火) 23:55:02.92 ID:dbhpJl6b0
―――式場外


カレン「そろそろ、デスネ…」

空太「何がです!?」

カレン「コウタ。確認デスガ、
そもそも、アヤヤが決める以前にヨーコが招待状を出していなかった。
と、いう事で良いデスネ?」

空太「は、はい」

カレン「という事は。
アヤヤが今からここに来る事が出来る可能性は、ある」

空太「まさか………連れて来るつもりですか!?」

美月「じゃあ電話くらい入れないと…」

カレン「いえ、先ほどアリスが電話を入れましたが返事が無かったデス。
電話やメッセジを送っても、見てもらえるかは怪しい。
なにしろヨーコの結婚式。アヤヤは、ナイーブになっているはずデス。

……コウタ。私にとってもこれは、一か八かの賭けデス。
乗ってくれマスカ?」

空太「………いや、乗る、といっても、どういう事なのか………」


149 : 1 2015/06/30(火) 23:57:07.39 ID:dbhpJl6b0
ブロロロロ……


カレン「………来マシタ」

空太「!?」

カレン「パパ!!!」


一台の車が来たと思うと、窓からカレンの父親が顔を出した。


カレンパパ「いや、待たせたな」

カレン「コウタ!
賭けとは今から、アヤヤを連れて来る事デス!!」

空太「そんなっ…流石にそれは迷惑かと………」

カレン「でも、結婚式は今日しか無いデス。
私だけで行く事も考えマシタが………
アヤヤとどうやら付き合っているらしいコウタ、
アナタの力も必要だと、考えマシタ!!」

美月「え、これ、私が巻き込まれる理由なくない……?」

カレン「コウタにだって、責任はありマス!
詳しい事はよく分かりマセンガ、ヨーコに何かを言って、ヘコませたのを見マシタ!
それにアヤヤが関係するなら、もうアヤヤを連れて来るしか、ヨーコを元に戻す方法は無い。
そうは思いマセンカ!?」

空太「うっ………」

カレン「さあ!どうしマス!?
賭けに乗るのか! 乗らずにアヤヤを見過ごすのか!!!」


150 : 1 2015/06/30(火) 23:58:33.19 ID:dbhpJl6b0
空太「……メチャクチャだ………
姉ちゃん、よくこんな人と、仲良く過ごせてたな………」

カレン「何デス!?何か、けなされてる気がするデス!!」



空太「………褒め言葉ですよ」

美月「空太?」

空太「……こんな人が友達なら。退屈しなさそうだ。

カレンさん……と、そのお父さん。
綾お姉さんの家へ。向かってもらえますか?」


カレン「!!!」

カレンパパ「OK!」

カレン「さあ、乗るデス!コウタ、ミッキも!!!」

美月「わ、私も!?」


151 : 1 2015/07/01(水) 00:00:18.06 ID:A7F3R8qd0
カレン「さぁ、パパ!ぶっ飛ばすデス!!
ヨーコの結婚式が始まる前に、アヤヤの下へ!!!」

カレンパパ「シートベルトは締めたか!?しっかり、掴まっていろよ……!!!」



美月「……待ってください」

空太「ん?」

美月「先に、私達の家に寄ってくれませんか?」

空太「え? どうして……… ……あっ」


ちゃり、と音を立て、美月は笑顔で、
猪熊家の玄関の鍵を、ポケットから出した。


美月「綾お姉さんは、空太に任せたよ。

私は、姉ちゃんの忘れ物を、取ってくるから」


152 : 1 2015/07/01(水) 00:06:41.47 ID:A7F3R8qd0
※補足※
アリスが携帯電話を使って綾を呼んでいますが、
高校卒業後にでも携帯電話を買い、綾に番号を教えてもらったとかいう事にしといて下さい。


156 : 1 2015/07/03(金) 18:40:28.62 ID:8ylrSEVI0

――――――綾の家



「………はぁ。
今頃、陽子は、結婚式………かしら」


仕事の無い日だった。
綾は、一人でベッドに横たわっていた。


「………バカね。
確かに、嫌いだなんて、口に出して言ったのは、初めてな気がするけど………

………私が本気であなたを、嫌いになった事なんて………
今まで、あった?一度でもあった?
………それくらいは、分かっているような気が、したんだけどな………」


157 : 1 2015/07/03(金) 18:41:45.78 ID:8ylrSEVI0
そう呟きつつ、綾は携帯電話をいじる。
そこには『着信1件』の文字。
先ほど、アリスから来た電話を無視した跡。


「アリス………ありがとう。
きっと、私を気遣ってくれたのよね。
アリスは良い子……… 高校の時と、変わってないみたい。
でも私は……変わっちゃったのよ。
もう、陽子と友人では、居られなくなっちゃったの………」

そう言う綾の目は、潤っていた。


「………どっちにしろ。
私には、招待状すら来ていない。
今更、行った所で、迷惑にしかならない………

……何、しよっかな………」


158 : 1 2015/07/03(金) 18:43:10.76 ID:8ylrSEVI0
久しぶりに仕事から解放され、何の予定も無い日。
本来なら、一大イベントがあったはずの日………
その一大イベントに行く機会を潰してしまったのは、他ならぬ私。

―――そんな事を思いながら、綾は近くに置いてあった小説を手に取った。
………高校生の頃、読んでいた恋愛小説。
久々に、これでも読んでみるか、と、その小説の、しおりが挟んであったページを開いた。


『君を、愛してる。』


……今頃陽子は、こんなセリフを言われているのだろうか。


生涯を共にする伴侶に、こんな言葉を―――


159 : 1 2015/07/03(金) 18:44:32.52 ID:8ylrSEVI0
「綾ー!」


綾「!!?」ビクッッ


……突然名前を呼ばれ、綾は驚いたが、それは母親の声だった。


綾の母「綾ー、お客さんよ!」

綾「お客………さん?」

「お母サマ、すみません、失礼しマス!時間が無いのデス!」

綾の母「あ、ちょっと!」


ドタドタドタ………と、廊下を駆けてくる音。


それに、先ほど聞こえた声。妙にカタコトっぽい語尾。
突然人の家に入って、勢いよく廊下を走るような人物………


思い浮かぶ人物は、一人だけだ。


160 : 1 2015/07/03(金) 18:46:08.39 ID:8ylrSEVI0
ガチャッ


カレン「アヤヤーっ!!!!!」


綾「………カレン………!!!?」


勢いよくカレンが扉を開けた後、開いた扉の奥……
玄関の方から、聞き慣れた声も聞こえてきた。


『………どうも、すみません。
今のは、綾お姉さんの高校時代の親友の、九条カレンさんです。
少々事情がありまして、お話を伺いたいとの事なので………』


綾「!!空太君の声も聞こえるわ…!?あの子も来てるの!?」

カレン「………アヤヤ………!!」

綾「こ、空太君は今日、陽子の……… 一体、どうして………」

カレン「アヤヤっ!!!」

綾「きゃっ!!?」


綾が戸惑う中、カレンは突然、
有無を言わさぬほど素早く綾に飛びついて、ベッドに押し倒した。


161 : 1 2015/07/03(金) 18:47:45.24 ID:8ylrSEVI0
カレン「アヤヤ………居るんじゃ………
家に居るんじゃ、ないデスカ~~~………!!!
もう………もう二度と、会えないって、思って………
私、ワタシ、すごく、すごく心配したんデスヨ!!!!」

綾「カ………カレン………」

カレン「………アヤヤ………っ………」


カレンは泣きながら、身体を起こすが、ベッドに寄りかかる綾の服は、強く掴んだままだった。


カレン「……… グスッ、スミマセン、あまりにも懐かしくて、思わず、涙ガ………」

綾「だ、大丈夫よ………」

カレン「―――っと、今は私が泣いている場合では無いのデス!
アヤヤ、急いで、こちらに来て下サイ!!」ぐいっ

綾「ちょ、ちょっと………!」

カレン「早くっ!!!」

綾「待ってよ!!」パシッ


彼女の腕を掴んで走りだそうとするカレンの手を、綾は素早く叩いた。


カレン「っ……」

思わず、カレンは手を離してしまう。


162 : 1 2015/07/03(金) 18:49:36.90 ID:8ylrSEVI0
綾「あ………」


その時のカレンの、困惑した表情を見て、綾は自分のやった事に気が付いた。
………カレンに手を引かれた事なんて、高校時代に、何度もあった事だ。
やや強引にでも、自分の思うように行動するカレンに、綾は振り回されていた。
しかし、いくら突然の事だからと言って………
綾は、手を叩いたりしてまで振りほどこうとした事は無かった。


綾「……ごめん、なさい………」

カレン「アヤヤ………」


その時。

「………こんにちは。
綾お姉さん、いるみたいですね」

綾「!!」

カレン「………」


空太が、開いた部屋の扉から、ゆっくりと中に入ってきた。


163 : 1 2015/07/03(金) 18:51:34.37 ID:8ylrSEVI0
空太「お久しぶりです。と、言いたい所ですが、昨日ぶりでしたね」

綾「………空太君……!どうしてあなたがここに!?
今日は陽子の結婚式でしょう!!?空太君は、会場にいなくちゃ………!」

カレン「…やはり、アヤヤは知ってたデスネ」

綾「………ええ。
ただ、正確な日程を知ったのは、昨日だけど」

カレン「………どうして、行かないデスカ!?」

綾「簡単よ」

カレン「なっ!?」

綾「私には、招待状が来ていないもの」

カレン「………だ、だとしても、
昨日、コウタに聞いていたなら、今日からでも参加スレバ………!」

綾「だめよ。 陽子に迷惑がかかるわ」

カレン「迷惑………!?」

綾「陽子と私は、今、会ってはいけないのよ」

カレン「何を……言っているデス?
………そういえば、嫌いって、ヨーコに言った、とか、聞いたような………
だ、だからと言って、全く顔も合わさないなんて、寂しすぎマス!!」

綾「陽子が何を思っているかは知らない。
けど、陽子から招待状は届かなかった。
それが答え。 陽子の、私の気持ちに対する答え………」

カレン「………っ………!!!」

綾「………それに。
カレンは知らないだろうけど、私は陽子に酷い事をたくさんしてしまったのよ。
高校時代の時の、私の態度なんか目じゃない………最低の行為を。
こんな私が今更、どんな顔して陽子に会えば良いっていうのよ」

カレン「………アヤヤは!アヤヤはそれで良いデスカ!!?
このまま、今日をこの家の中で終えて………!
本当にそれで……良いのデスカ!!?」

綾「………今会っても、気まずいだけよ。
……………私、陽子にこれ以上、迷惑はかけたくないの。
だって私、陽子の事が、好きだから……」


164 : 1 2015/07/03(金) 18:53:22.89 ID:8ylrSEVI0
空太「嘘はやめて下さいよ。 綾お姉さん」

綾「………何を」

空太「あなたの感情です。
好きだから、姉に迷惑をかけたくない………だから会わない。
綾お姉さんの『好き』という感情は、その程度のものではないはずです」

綾「………仮に、会えるとして。 そんなの、ダメだわ」

空太「?」

綾「………私達、もう大学も卒業しているのよ。
もう大人だわ……… 結婚式という行事は特に。マナーというものがあるのよ。
結婚式のマナーは私、詳しくは知らないけど………
呼ばれてもいない私が突然行ったって、皆、良い顔はしないわ。
それくらいは………」


パンッッッ



綾「―――!!?」


乾いた音が、鋭く部屋に響いた。


―――カレンが、綾の頬に平手打ちをしたのだ。


165 : 1 2015/07/03(金) 18:54:41.29 ID:8ylrSEVI0
綾「………痛……っ…… ……カレン、何を………」

カレン「どうしてこんな事をするのか。分かりマセンカ?」

綾「え、ど、どうして………」

カレン「分からないなら、もう一発くれてやりマス」パンッ

綾「痛いっ!
痛い、痛いから、やめて……!」

カレン「アヤヤが泣くまで………
いや、泣いても!私は殴るのをやめマセンっ!!」

綾「ひっ、か、カレンっ………」


空太「………カレンさん、落ち着いて下さい」

カレン「無理デス。 私、頭に来マシタ」

空太「殴るのは誰にでもできます。
頭に来たなら、言葉で。どう頭に来たのかを、ぶつけて下さい。
それは、僕には出来ません。 カレンさんにしか出来ない事です」

カレン「~~~ッッッ………!」


ガシッ

綾「ひっ!? ……… ………あ」


カレンに、強い力で肩を両手で掴まれ、綾は思わず恐怖の声を漏らすが、
ほどなくカレンの表情が、怒りではなく、悲しみに包まれている事に気づいた。


166 : 1 2015/07/03(金) 18:56:34.58 ID:8ylrSEVI0
カレン「………アヤヤ………」

綾「………」

カレン「私たちが初めて会った時の事、覚えていマスカ?
……アヤヤ達4人が登校していた所ニ、駅の近くで出会って……」

綾「………? 覚えて……いるわ」

カレン「じゃあ、一緒にお祭りに行った事ハ?」

綾「覚えてる………」

カレン「一緒に、海に行った事ハ……」

綾「………覚えてる……… カレン、泣いているの?」

カレン「一緒に………色んな事、しまシタ………
私………達……… シノ、ヨーコ、アリス………アヤヤ………
みんな、とても、とてもとても仲良しデシタ………
その事は、覚えて、イマスカ………?」

涙をぽろぽろとこぼしながら、先ほどまでの気迫が嘘のように、
カレンは、震える手で綾の両肩を掴みながら、途切れ途切れに言葉を発した。


167 : 1 2015/07/03(金) 18:58:15.00 ID:8ylrSEVI0
綾「カレン………」

カレン「アヤヤ………
私は、皆と離れている時も、皆の事を思い出して………
次会える日がいつか、とても、トテモ楽しみにして………
やっと……… やっと今日会えると思って、いたのデスヨ………?
私だけじゃない……… シノも、アリスも… もちろんヨーコも、
同じ思いに………決まってる………
そうは、思いマセンか………? ………アヤヤ………」

綾「………」

カレン「ヨーコの結婚式に、行きたくない気持ちは、分かりマス。
こうして家まで押しかけられて、迷惑な気持ちも、分かりマス。
分かりマス、けど………

アヤヤ……大人になった、とか言って、
ヨーコ、アリス、シノ……… 私が!
私が………アヤヤの事を大好きな………
その気持ちまで、否定するのだけは………
やめて下サイ……… お願い、デス………」


もはや、カレンの両手が綾の肩を掴む力は、
非力な綾でさえ、少し動けば、カレンがそのまま地面に崩れ落ちてしまいそうな程に、弱くなっていた。


168 : 1 2015/07/03(金) 19:00:18.03 ID:8ylrSEVI0
綾「………カレン………」

カレン「……… ………ッ………
アヤヤ……… どうしても………どうしても、来マセンカ?
アヤヤにとって、ヨーコは、私達は………
その程度の、存在だった……… そういう、事デスカ………?」

綾「……………」

カレン「……………」


少し、静寂が続いた後。


綾「………私だって!!!
私だって、皆の事が、大好き………大好きよ!!!
今でも皆の事、友人だって思ってる!皆に会いたい!!!
本当に皆の事が大好き、だけど、私………
どうしたら、どうしたらいいの………!!?」

綾は、泣きながら叫んだ。



カレン「………」

綾「分からない………
何も、分からないわ………
私……… 私………」




ガシッ


綾「…え?」

―――突然カレンは、涙をぐっと拭い、綾の腕を掴んだ。


169 : 1 2015/07/03(金) 19:01:38.02 ID:8ylrSEVI0
カレン「アヤヤ『皆に会いたい』と、そう言いマシタネ」

綾「………え? ………う、うん………」

カレン「―――ならば、残された手段は、一つのみっ!!!
コウタ、行くデス!!!パパの車に、急いで戻りマスヨ!!」

空太「はいはい」

綾「え、ちょ、ちょっと待って!!!」


ぐいっ、ぐいっ、とカレンは、綾の手を強引に引きながら、
綾の部屋を出て、そのまま歩いていく。


カレン「スミマセン!お母サマ、アヤヤを借りていきマス!!!」

綾の母「えっ? え、ええ………」

綾「ちょ、ちょっとぉ、離してよ………!」

カレン「離して欲しいなら………
アヤヤが本当に、『大人になった』とか言うのなら!
さっきみたいにまた、無理矢理力で振りほどいてみなサイ!」

綾「………!」


カレン「今度は、私もそう簡単には、離しマセン!
―――アヤヤが何も分からないなら、
私が、私達が、分からせてやりマス!!!」


ガチャッ


カレン「パパーッ!!!
発車準備!よろしくお願いしマス!!!」

カレンパパ「OK!」

綾「え、ちょ、ちょっとおっ!!」


言いつつ、カレンは無理矢理、パパの車に綾と空太を乗せた。


170 : 1 2015/07/03(金) 19:04:13.79 ID:8ylrSEVI0
カレンパパ「綾ちゃん………だったかな。
ありがとう、来てくれて。カレンがお世話になってるね」

綾「え、いえ、どうも………
あ、あの、すみません、何か突然………」

カレンパパ「良いんだ。それより、こちらこそ。すまないね」

綾「え?」


カレン「パパ!
ヨーコとアヤヤの為に、ひとっ走り、お願いシマス!!」

カレンパパ「………と、いう事だ。
残念ながら、可愛い娘に頼まれては、断る訳には行かないんでね………!

結婚式場へ!向かうぞっ!!!」


そう言うと、勢いよく、カレンパパは車のアクセルを踏んだ!!


綾「えっ、あ、きゃあああっっっ!!?」



ブロロロロォォォ………


綾の母「………あらあら。
綾があんなに強引に、連れられて行くなんて………
………何だか知らないけど。あのカレンちゃんって子………とても嬉しそうだった。
それに、綾も……困りつつ、拒んではいなかったみたい……

あの子が一番楽しそうだった。高校時代の頃を、思い出すわ………」


171 : 1 2015/07/03(金) 19:05:57.71 ID:8ylrSEVI0
―――――――


ブゥーン キキィーッ


綾「………っ!!! と、止まった………
って、ここ、陽子の家の前じゃ………?」


綾が困惑していると、外から一人の人物が、車のドアを開けた。


美月「―――!!!綾、お姉ちゃん!!!」

空太「………ほら。連れて来たぞ」

美月「綾お姉ちゃんだよねっ!!!?
やっぱり、来てくれたんだ!!! わああぁあぁーっ!!!」

綾「み、美月ちゃん!?
あなたまで、どうして………!」

空太「美月は、先に家に帰らせて、
姉の忘れ物を、探させていたんですよ。」

綾「陽子の………忘れ物………?」

美月「ほらっ、綾お姉ちゃん、これっ!!!」


172 : 1 2015/07/03(金) 19:07:59.31 ID:8ylrSEVI0
満面の笑みを浮かべて、美月が差し出した封筒には………

『招待状』の文字!


綾「………こ、これはっ!?こ、小路綾様って………」

美月「姉ちゃんらしい、あまり上手くない字でしょ?
綾お姉ちゃんの為に、姉ちゃんが書いた招待状だよ!」

綾「………ウソ、だって……… 陽子は………」


空太「面倒くさがりな姉が、しっかり招待状一式を、自分で作る時点で。
綾お姉さん、相当好かれてると、思いませんか?」

綾「!!」

空太「姉は、あなたに嫌われてしまったと、バカな勘違いをして、
結局は招待状を出さずにおいた………
けど、作るだけは作ったんですよ。最後の最後まで、出す事を迷っていました。
………結局出さなかった訳ですけど、
それは偶然、その日の姉がナイーブだっただけかもしれませんし、
たまたまお腹が痛かったとか、そんな理由かもしれませんし、
とにかく、綾お姉さんは、姉の事を深く考えすぎなんですよ」

綾「………陽子………」


173 : 1 2015/07/03(金) 19:09:24.21 ID:8ylrSEVI0
空太「姉は単純バカなんですから。
綾お姉さんが、今突然式場に行って、姉が嫌がると思いますか?」

綾「………」

美月「『わっはー! 綾!来てくれたんだなー!!!』って、きっと喜ぶよ!!!」

空太「いや、流石にそこまで無神経に喜びはしないんじゃないか?」


カレン「……アヤヤ!」

綾「えっ?」

綾は突然、隣に座っていたカレンに、ペンを渡された。


綾「カレン、これは………」

カレン「今から、記入して下さい!
『参加』に、マルをつけるデース!!!」

綾「ええっ、今から書くの!?遅すぎるわ!!」

美月「大丈夫だよ!
陽子お姉ちゃんが、今まで何回提出物の遅延をやらかしたと思ってるの!」

カレン「ぅぐっ、私にも刺さる話デス………」


174 : 1 2015/07/03(金) 19:10:41.07 ID:8ylrSEVI0
綾「みんな………」


―――盛り上がる車内で、綾は、大切な事を思い出した。



綾「………私は………
私達は………

………友達………!」



カレン「Yeah!
アヤヤに、招待状に、heart………忘れ物は全て揃いマシタ!
後は、結婚式場まで、突っ走るだけ! デース!!!」

カレンパパ「OK!!!」


175 : 1 2015/07/03(金) 19:12:16.41 ID:8ylrSEVI0

―――式場


アリス「………会場の準備も、出来てきたよ………」

忍「カレンは、どこに行ったのでしょう。先ほどから姿が見えません」

アリス「このままじゃ、式が始まっちゃうよ!
私、カレンに電話してみるね」

忍「………あっ! あそこ!!!」

アリス「えっ?」


カレン「お待たせしマシターーー!!!!」

アリス「カレン! ………と………」

忍「あ、綾ちゃん!!?」


176 : 1 2015/07/03(金) 19:13:52.80 ID:8ylrSEVI0
綾「はぁっ、はぁっ………
ま、待って……… 走るの、速い………」

美月「大丈夫?綾お姉ちゃん」


カレン「セーフ!!!」

空太「………まだ、間に合いそうですね」

忍「か、カレン、もしかして綾ちゃんを連れに行っていたのですか?」

カレン「Yes!!!
ヤハリ、アヤヤが来れないというのは、勘違いだったみたいデス!
ホラ、こうして、元気に―――」

綾「元気じゃ、ないわよ、全く……!
無理矢理、連れて来ておいて………!!」


アリス「アヤ!!!
アヤ、来られたんだね!!!
久しぶり………すっっごく嬉しい!!!」

忍「綾ちゃんが来てくれて、本当に嬉しいです~♪」

綾「しの……… アリス………」


カレン「………ほら。アヤヤ、私達………
あの時と、何も変わっていないデスヨ?」

綾「カレン………」

カレン「………ま、それを一番、アヤヤに分からせる事が出来るのは。
私でも無く、シノでもなく、アリスでも、無い人デショウケド。ネ?」

綾「………」


177 : 1 2015/07/03(金) 19:15:38.45 ID:8ylrSEVI0
アリス「それにしても、どうして来る事が出来たの?」

忍「そうそう、陽子ちゃんは『来ない』と、はっきり言っていました。
何か、あったのですか?」

綾「それは………」

カレン「シノ、アリス、詳しい事情は後で説明しマス。
その前に、アヤヤは、今すぐ会わねばならない人物がいるデス!」

綾「えっ!?」

カレン「さあ、ヨーコの控室はこちらデス!」

綾「ま、待って!それだけは待ってー!!!」

カレン「何を今更、待つ必要がアリマスカ!?」

綾「だ、だって、会えないわよ!!!
………これ、普段着、だもの………」

カレン「あ」


空太「………気づいてなかったんですか」

カレン「コウタは、気づいていたデスカ!?
なら、アヤヤの家から、ヨソイキの服でも一着、持って来てイレバ………!」

空太「そんな事が出来るような仲ではありません。そもそも家に行くのも初めてです」

カレン「初めて!!?」

空太「今は、そんな事を言っている場合ではないでしょう」

カレン「そ、それもそうデス。
………アヤヤ? 普段着でも、ヨーコはきっと………」

綾「陽子はドレスを着ているのよ!?
咄嗟に、靴だけはパンプスで来たけど………
結婚式に、こんな格好で会うなんて、それだけは、私が許せないわ!!!」

カレン「Oh……… アヤヤは、そういえば乙女デシタ」

綾「そういえばって何よ!!!」

カレン「ムム、流石にこのまま強引に合わせるのは少し………」


178 : 1 2015/07/03(金) 19:17:24.43 ID:8ylrSEVI0

忍「衣装で、お悩みですか?」


カレン「!」

アリス「シノ……!?」

綾「し………しの?」


彼女らの見ている前で、忍は、大きなバッグの中を、ごそごそと探り始めた。


忍「それなら、結婚式に相応しい衣装が、ここにっ!」

バッグから、忍が出したのは、
滅茶苦茶に可愛いフリフリの、お姫様のような衣装だった。


カレン「オオーゥ!!!さっすが、シノデース!!!
プロのデザイナーは違いマスねー!!!」

アリス「シノ、何でそんな物を持って来てるの………」

忍「いえ。川に流されたりした時の為に、予備があればと思いまして」

アリス「結婚式で何すると思ってるの!!?」

カレン「シノの派手すぎるくらいの服装癖が、
こんな所で功を奏するとは! 素晴らしいデス!!」

忍「さあ、綾ちゃん!着てください!」

綾「い、いやっ、ちょっと待って!?
新婦には似合うかもしれないけど、私がこのドレスって、
これは流石に派手すぎじゃない!!?私、前に立つ側じゃないのよ!!!?」


179 : 1 2015/07/03(金) 19:19:34.35 ID:8ylrSEVI0
忍「大丈夫です!とっても可愛いです~!!!」

カレン「アヤヤが主役も同然デース!」

アリス「ヨーコを驚かせられるよ!」

空太「…普段着よりは、マシでしょう」

美月「綾お姉ちゃん、綺麗だから大丈夫だよ。」

綾「ちょっとー!!!」


カレン「時間が無いデス!早く、着替えないと………!
ミッキ、控え室への案内を、お願いしマス!!」

美月「分かった。 行こう、綾お姉ちゃん。」

綾「あぁっ、待って! そんな、強引な………」



忍「あ、私も………」

アリス「………ううん、大丈夫だよ、シノ。
ここは、カレンとミツキに、任せよう?
………私達の知らない所で、何か、あったみたいだし」

忍「………それも、そうですね。
あら、空太君は、着いていかないのですか?」

空太「………いや、着替えするみたいなので」

アリス「シノ………コウタは男の子だよ………」


180 : 1 2015/07/03(金) 19:21:35.90 ID:8ylrSEVI0
―――控室


美月「ここだよ。
着替え終わったら、この部屋を出て、階段を上がって、
左に真っ直ぐ行けば………姉ちゃんの控室がある。
今ならまだ、ギリギリ間に合うと思う。
式が始まっちゃうと、二人で話すのは難しいから、急いで」

カレン「さあ、着替えるデス!」

綾「ま、待ってよ、二人共。陽子に会うなんて、私、心の準備が………」

カレン「アヤヤがヨーコに、
しっかり心の準備をして話しかけた事なんて、どれくらいありマシタ?」

綾「うっ………」

カレン「大丈夫デス!
いつも、アヤヤが言いたい事を、上手く伝えられなくても、
それを受け止めてくれるのが、ヨーコだったじゃないデスカ!」

綾「………」

カレン「………私達は、友人デス。
ヨーコとアヤヤの間に何があろうと………それだけは変わりマセン。

そして、ヨーコとアヤヤも、友人デス。
いくら大人になろうと………それは、変わらないと、私は思いマス。
こんなの、元はといえば、友人同士の些細なケンカデスヨ。
正直な気持ちを伝えれば、ヨーコもきっと、ちゃんと答えてくれマス。」

綾「カレン………」


181 : 1 2015/07/03(金) 19:23:22.09 ID:8ylrSEVI0
カレン「………万が一。
それでもヨーコがアヤヤの事を、拒んだなら………
私が、そんなヨーコの事は、コテンパンにして、改心させてやりマス!
友人の為なら、クマ相手でも、私は怯みマセン!」フンスッ

美月「熊……… ………ぷっ」

綾「カレン………」


カレン「だから、心配しないで。
ドーンと、ぶつかって来ると、良いデス!!!」


綾「………ふふふ」

カレン「!」

美月「綾お姉ちゃんが、笑った………!」


綾「ありがとう、カレン。


    そして………」


――――――――


―――――


―――


182 : 1 2015/07/03(金) 19:25:09.53 ID:8ylrSEVI0
忍「………あっ、帰ってきました!」

アリス「カレン!ミツキ!!どうだった?」

カレン「とりあえず、アヤヤは着替えて、
ヨーコの控室へと、行きマシタ。
………ここからは、アヤヤとヨーコの物語デス」

美月「最後まで、あの服にだけは文句をつけてたけどね」

忍「えーっ、あんなに可愛いのに!
………あっ………!! もしかして!!!」

アリス「どうしたの、シノ?」

忍「アレを忘れていました………!
そうか、それは綾ちゃんも、文句を入れたくなるはずです!
私とした事がっ!」

アリス「アレ………?って何? 装飾品?」



忍「これですっ! 金髪のウィッグ!!!」


183 : 1 2015/07/03(金) 19:26:58.36 ID:8ylrSEVI0
カレン「……………」

忍「ああっ、これがあれば、あの服装がもっと輝いたのに!!
すみません、私、綾ちゃんにこれを届けに―――」

アリス「シノっ!それはやめて!?
ヨーコとアヤの感動の再会が、だいなしだよ!!!」

忍「ガーン、だ、だいなしって………」

カレン「………HAHAHAHAHA!!!!
シノ、全く変わってないんデスネ!!!」

忍「えっ? それはもう!
私の金髪愛は、生涯変わる事などありません!!」

空太「………いつも、こうなんですか?この人」

アリス「うん、そうなの………」


カレン「………ヤッパリ、アヤヤが思う程
私達は『変わって』など、イマセン。
………きっと、同じデス。 ヨーコだって………!」

空太「カレンさん……」

カレン「だから、きっと大丈夫デス。
私、オテントサマに……お祈りするデス!」


188 : 1 2015/07/07(火) 00:09:55.10 ID:X3lhshkB0
――――――――


――――――


―――――



私は走った。

陽子にもう一度会うために。


会って、今度こそ、本当の想いを………伝える為に………!


189 : 1 2015/07/07(火) 00:11:24.91 ID:X3lhshkB0

「ここを、左よね………
この先に、陽子のいる部屋が………」



陽子………



「陽子………!」



ガチャッ



「陽子っっっっ!!!!!」


私が勢い良く扉を開けると………


「………え?」


そこには、陽子がいた。


190 : 1 2015/07/07(火) 00:12:51.19 ID:X3lhshkB0
目の前にいた陽子は、とても美しいドレスで、身を纏っていて。
とても、私の知っている、猪熊陽子とは思えないほど………綺麗に見えた。


「あ………や?」


しかし、突然の出来事に放心し、開いた口から見える彼女の八重歯が、
それが、確かに私の知る陽子である事を、私に実感させた。



「陽子………」

「綾……… なんで、ここに………」

「ごめんなさいっっっ!!!!!」


私はまず、勢い良く陽子に謝った。


191 : 1 2015/07/07(火) 00:14:11.42 ID:X3lhshkB0
「………え、な、何が………」

「っ………」


とりあえず謝った。 そこまでは、私の考え通りだった。
だって、陽子に謝りたい事、私にはたくさんある。

たくさんあるけど………
でも、それらを一つ一つ、言おう、言おうと頭の中で、考えて………


「うっ………陽子………」


考えながら、陽子の顔を見ているうちに。
言おうと思っていた事全てを忘れて、ただ、涙が零れてしまった。


ここまで、私が見つめる事を放棄して、向かい合う事を諦めてきていた感情が、
今になって、一気に溢れだしてきた。


悲しくて、切なくて、嬉しくて、
いろいろな感情がごちゃまぜになって、
かーっと、顔が火照って、何も言えなくなる。


こんなに………こんなに、陽子と話す事って、難しかったっけ?


192 : 1 2015/07/07(火) 00:15:28.17 ID:X3lhshkB0
「……… 陽子……」


高校の時を思い出す。
私はいつも、陽子に伝えたいことを、素直になれず、伝えられずにいた。
それで私は憎まれ口を叩いてしまって、けど陽子はそれを笑って受け止めてくれた。
何だか、懐かしい思い出だ。
大学に入ってからの、互いに遠慮し合っていたような雰囲気など、最早完全に忘れていた。


「綾………」

しかし、涙でぼやけた視界に映る陽子は、
少し困ったような表情で、何を言えばいいのか分からない、
といったような表情で、私を見ていた。


―――そうだ。
カレンはああ言ってくれたが、甘えてはいけない。


193 : 1 2015/07/07(火) 00:16:50.09 ID:X3lhshkB0
陽子もまた、変わってしまったのだ。
大学を経て、結婚する事を経て、あの日の私との最低なデートを経て………
泣いている私を見て、すぐに笑顔でそれを吹き飛ばしてくれるような、私の一番好きな陽子では、ないのだ。
そして、そうさせたのは私。
今、私達の関係は、高校時代の頃とは、違ったものになってしまっている。

しかし、そんなのはただの一時的なものだ。
私が信じなければ。
私が思い出さなければ。
私が陽子に、思い出させてあげなければ。


陽子が本当は、何も変わっていない事を。
私達5人組が本当は、何も変わっていない事を。
私が………


―――私の思いが、本当に何も変わっていない事を!


194 : 1 2015/07/07(火) 00:18:32.62 ID:X3lhshkB0


「陽子のバカ!!!!!」


そう叫んで、私は、自分の目に溜まる涙を拭い、陽子の方を見据えた。



「………綾………?」

「………ごめんなさい。いきなり、バカだなんて。悪いのは私の方なのにね。

……ねえ、陽子。私は………
大学に入って、陽子と大学が別れて。
会う回数も段々と減っていって、すごく、すごく寂しかったのよ。
陽子と一緒に居たかったから。
陽子とずーっと、高校時代のような、居心地の良い関係で居たかったの。
でも、いつしかお互いに、少しずつ遠慮し合って、私達は、どんどん離れて行った。
高校時代の関係からは、どんどんと離れていってしまったわ」

「綾………」


―――勝手に、口から言葉が出てくる。


195 : 1 2015/07/07(火) 00:19:57.16 ID:X3lhshkB0
「何回かは会っていた。
会ってはいたけど、陽子は私に、本当の事を話してくれなかった。
いつも何かを隠しているようで、私は寂しかったわ。
でも………それは私の事を、考えての事だったのよね?」

「………」


―――いつもの自分とは思えないくらい、饒舌だった。


「だから………私ね!
この前のGWに、二人でデートに行った時は、本当に楽しかったのよ!
久しぶりに、心から楽しめて………本当に、嬉しくて………!
でも、あの時、私は陽子の結婚話を聞いて………
ちょっと、ビックリしちゃって、せっかく陽子にもらったぬいぐるみも、
放り投げて、帰っちゃった……… あの時は、最低な事をしたわ。
……… 最低な事を、してしまったけど………」

「………」


「だけど!
だけど陽子は、やっぱりバカよ!!!」


196 : 1 2015/07/07(火) 00:21:35.02 ID:X3lhshkB0
「私が、あんな事で、本気で陽子を嫌いになると思う!!?
本気で……… 陽子の、事を………
晴れ姿すら見たくないと思うくらいに、嫌いになると思ったの!!!!?」

「………」

「分からないなら、ハッキリ言ってあげる………!」


そう言って、私は陽子の方へと近づいて……



「私、陽子の事が、好きよ!
他の誰よりも、大好き!!!
……陽子は私の、大切なお友達で、
それが変わる事は、永遠に無いわっ!!!」


―――そう、叫んだ。


197 : 1 2015/07/07(火) 00:23:01.08 ID:X3lhshkB0
「………はぁっ… はぁっ………」

「あ………や………」

「……… …………… ………」


言ってしまった。
言ってしまったが、しかし、別段今までの何かを、変える事を言ったのではない。
だが、これが自分の本心なのだと、心からそう思えた。
私の本当の気持ちの一つの答えが、見えた気がした。


私は陽子の事を、恐らく一人の人として、好きなのだ。


と、私はそう思っていた。
だけど、私が陽子に伝えたかった想いは、これだけだった。
そう、そのままの意味で、「陽子の事が好き」。
私と陽子は、大切な友達………
ずっとそのままで居たい、私は、そう望んでいた。


私が望んでいたのは、
決して、恋人だとか、夫婦だとか……そんな言葉で表してはいけない関係。


ただ、私と、陽子。

それが私の導き出した、一つの答え。


198 : 1 2015/07/07(火) 00:25:32.45 ID:X3lhshkB0
「………ほん………と………?」

「う、うううウソで、こんな事、言わない………わ………!」

「あや………」

「………何?」


「綾っっっ!!!」

「!!!!!」


突然、ドレスを着た陽子が、私に抱きついて来た。


「ちょ、陽子…っ!!?」

「どぉして………どうしてぇっ、そういう事は、
もっと早く、言って、くれないんだ………っ!!! ……」


抱きついた後、近すぎると思ったのか、
陽子は一旦、私から離れた。


陽子は涙を流して、とても辛そうな顔で、私の方を見ていた。
………こんな陽子の姿、今まで見た事がない。


199 : 1 2015/07/07(火) 00:26:46.90 ID:X3lhshkB0
「………ごめん、なさい………」

「ごめんじゃないよ!!!
私………綾に嫌われたかと思って………」

「………それは、本当にごめんなさい………
だけど、私も私で、あまりにも最低な事をしてしまったから、
どう陽子と接すれば良いのか、分からなかったの………」

「………っ、私だって!!!
私だって、どう綾に接すればいいのか、分からなくなって………
初めて綾に会った時から、こんな事、初めてで………!!!」

「陽子………」

「綾、綾あぁっ………ごめんなぁっ………!
招待状、出さなくって、出せなくって、本当に、ごめ………!
最低は、最低なのは、私の方なんだっ!!
綾の事を信じてあげられなかった、私だっ………!!!」

「………」

「私、私な!
大学に入ってから少しして………その、今の相手と、恋仲…に、なったとき。
最初に思い浮かんだのは、綾だったんだよ。
綾は、私がもう付き合ってる事知ったら、どう思うかなとか、
もしバレたら幻滅されるかなとか、そういう事ばっかり考えちゃって、
中々、自分から綾と会おうと、思わなくなっちゃって………!!!」

「………そんな事を気にしていたの?陽子らしくないわ………」

「私らしくもなくなるよ!!!
………だって………こんな事、初めてだったからさ………
まさか、結婚まで来ちゃうとは、思ってなかったけど………」

「………」


200 : 1 2015/07/07(火) 00:28:06.03 ID:X3lhshkB0
「私、こんな人間だと、思ってなかった!
いつしか、綾と会わなくなって………
でも、私ばかりと仲が良いと、綾のためにもならないとか、
綾に嫌われちゃった後は、もう会わない方がいいのかなとか、
そんな事ばっかり考えて、綾から逃げてる私を正当化して………
綾の気持ちを! 信じてやれなかった………
しの、カレン、アリスにも、本当の事を話せなかった!!!
私は………最低な人間だったんだあぁっ………!!」

「………陽子………」

「綾っ………綾っっっ………!!!
ごめんな、ごめんな………っ………うあああぁぁっ………!」


私はそっと、私の前で泣きじゃくる陽子の頭に手を当てた。
自然と………そうしてしまった。


「………綾………」


陽子の髪は、ちょっと硬い。
いつだったか、アリスがモフモフしていたような気がする。
そういえば、陽子の髪を触った事って、ほとんど無かったような。
高校時代の頃なら、恥ずかしくて、こんな事は出来なかっただろう。

もちろん、今だって恥ずかしい。
こんな事が出来るのは、私が勇気を振り絞っている、今の間だけだ。


201 : 1 2015/07/07(火) 00:29:05.97 ID:X3lhshkB0
「………ありがとう、陽子………」

「………綾?」

「全部、話してくれて。
今の私、とても嬉しいの。
………陽子の言う通りだわ。
もっと早くに、お互い、正直になっていれば、良かったのに」

「綾………」

「ね、陽子。
自分を最低だって卑下するなんて、陽子らしくないわ。
………いつものように、笑顔で居て?
太陽みたいな笑顔の……… 陽子で、居てくれないと………
調子、狂っちゃうわ」


―――恥ずかしいような言葉が、どんどん出てくる。


202 : 1 2015/07/07(火) 00:31:08.56 ID:X3lhshkB0

「あ………や………っ!!!」


陽子は、ぐっ、と私の肩を掴んで、言った。


「綾っ!!!
私な、綾の事、大好きだ………!
世界でいちばん、大好きだ………っっっ!!!」

「よ………陽子………」

「………そして、私達………は………
私としの、アリス、カレンは………綾は………!
どれだけ離れても、絶対に離れる事はない………
友達だ………!!!」

「………」


203 : 1 2015/07/07(火) 00:32:25.91 ID:X3lhshkB0
「すごく………よく分かった………!
空太の言ってる事の意味が、ようやく分かったよ………」

「えっ? 空太君の?」

「ああ………
『どこに行っても、姉ちゃんたち五人組は、いつまでも友達なんだ』
って、言われてさ」

「空太君………」

「何か、あの時から変わっているのかって。
………その通りだよ。
変わったって思ったのは、私だけだった。
そう思って逃げてしまった………こんな事、初めてだよ。

でも本当は、何も変わってなかったんだ。
………バカだったな、私」

「陽子……… ………ええ、そうね。
………でも、変わった、って思って逃げてしまったのは、私もなのよ」

「え、そうなのか!?」

「ええ。………陽子が居ない毎日を過ごして。
もう私と陽子は、昔とは変わったって思い込んでしまっていた。
変わったと思いこんで、陽子から、卒業しようと、していた………」

「………」


204 : 1 2015/07/07(火) 00:34:03.19 ID:X3lhshkB0
「私ね、高校時代を、卒業出来ていなかったのよ。
いつも陽子と一緒に居られた………あの高校時代から。
そして私は、変わった、と思って、
………恋愛感情のような物を、抱こうとして、
陽子との関係を、白黒つけようとして、
無理に、卒業しようとしていたんだわ。」

「綾………」

「………らしくないわよね。
ロマンスの相手が、陽子だなんて。

私は、陽子の事が好き。
ただ、それだけで、白黒つけられるような関係じゃ、なかったのにね」

「……………綾」

「で、でもっ、陽子も陽子よ。
………陽子も、あんな事を言うから………」

「あんな事?」

「………綾には綾の生活がある、とか………」

「あー……… ………そうだな………
それも一つの、逃げだったな………ごめん………

って、………あれ?
それ、私、綾に言ってたっけ?」

「はっ!!!」


しまった、これは空太君情報だった。


205 : 1 2015/07/07(火) 00:36:13.90 ID:X3lhshkB0
「あ、い、いいいのよそんな事!
もう終わった事なんだし、こうして、仲直り?出来たんだから!
………ようやく、卒業出来たのよ」

「………そうなのか」

「ええ。」


実に、5年越しに………
やっと、正直になれた。
やっと、陽子へのしがらみから―――



「『卒業』出来たのよ」



「………それ、何か、別れの言葉みたいなんだが」

「違うわよ!………卒業は、別れじゃないわ。
卒業しても、これからも、私と陽子はずっと友達よ。
………もう、大丈夫」

「そ、そっか。
………はぁー、良かった………」

「そうね………本当に、良かっ………」


206 : 1 2015/07/07(火) 00:37:49.80 ID:X3lhshkB0
「あああっ!!!」

「?」

「や、やばい、もう、式の開始予定時間が、過ぎてる………!!!」

「ええっ!?」

「ご、ごめん。
私、今から会場に行くとこだったんだよ。
そ、それが、突然綾が来たから、つい喋っちゃって………」

「え、そうだったの!?ご、ごめんなさい………!!!」

「あ、あああっ、でも、い、行こうにも、
涙で………メイクが、落ちちゃってる!!」

「あああっ、二重にごめんなさい!!!
よ、陽子、ど、どうするの………?」

「………あれ、でも、時間が過ぎたにしちゃ、誰も来ないな………?」


207 : 1 2015/07/07(火) 00:38:43.36 ID:X3lhshkB0
―――そこに、アナウンスが入った。


『………ご来場の皆様に、連絡いたします。
現在、新婦の猪熊陽子様が、準備に時間がかかっているとの事で、
その間………あっ、ちょっと!』

『あ、あ、あー。』

「!?この声………!」


アナウンスから聞こえたのは、私達のよく知る声………



『こんにちは、大宮、忍です!』


「「えっ………!? しの!!!?」」

私達二人は、同時に声を上げた。


208 : 1 2015/07/07(火) 00:40:41.65 ID:X3lhshkB0
『ちょっと、シノ!!出るにしても唐突すぎるよっ!?』

「あ、アリスの声もだ!!」


『あぁ、すみません、うっかりしていました。
えーとですね、私は、大宮忍。
今日の主役である、猪熊陽子ちゃんは、
私の大親友で、私達、大好きな友達同士なんですっ!』


「しの………」


『そこで少し、余興にでも、と、
私、陽子ちゃんとの思い出を、語ろうと思います!』


「何やってんだ、あいつ………っ!」

「!!
………そうだわ、きっと、私達の為よ!!」

「ええっ!?」

「私をここに連れてきたのは、カレン、美月ちゃん、空太君………!
多分、あの子達が、何か手を回したんだわ………!
よ、陽子っ! しのがどうやるかは不安だけど、
今のうちに、もう一回準備を整えましょう!?」

「お、おうっ!!!」


209 : 1 2015/07/07(火) 00:41:41.63 ID:X3lhshkB0
――――――――


―――少し前


カレン「コンニチハ。新郎さんの方ですね?
私、ヨーコの友人の、九条カレンと、申します」

新郎「………えっ、あ、どうも………」

カレン「誠に勝手なお願いなのですガ………
現在、ヨーコは、ある友人とケンカした事を悩んでいます。
このままでは、すっきりした状態で式に臨む事が出来マセン。
そこで、その友人………アヤ、が今、ヨーコと話しています。
どうか、開場を、もう少しだけ、遅らせてもらえると………」

新郎「ええっ、何ですかそれは?突然………
あ、でも陽子が……… 友人とケンカしたって事は、聞いてるな………
しかし、遅らせるっていうのも、僕には………」


210 : 1 2015/07/07(火) 00:43:04.07 ID:X3lhshkB0
カレンパパ「横から、失礼します。
私からも、お願いできませんか?」

新郎「えっ?あ、あなたは………」

カレン「パパデス」

新郎「………え、ま、待って下さい………!
あなた、確かさっき、『九条』と………!まさか………」

カレン「その通りデス!
パパは九条グループの、とても偉い人で………」

カレンパパ「ごほん。カレン、少し下がっていなさい。
私から、話をつけようと思う。」

カレン「あ、はーい」


新郎「………よ、陽子って、
九条財閥の関係者とも、友達だったのか………?」

カレンパパ「………そういう事です。
誠に勝手なお願いである事は承知しているのですが、
どうか、少しの間でも、娘の友人に、猶予をいただけると。
もちろん、お礼は後で贈らせていただきます。」

新郎「ハ、ハイ………
そ、そうですね、陽子も、友人と喧嘩した事を、悩んでいましたし………
ハイ、それで良いのでは、ないでしょうか」ビクビク

カレンパパ「有難う御座います…」


211 : 1 2015/07/07(火) 00:44:13.28 ID:X3lhshkB0
―――――――


―――――


―――新婦控室


『陽子ちゃんと出会ったのは、小学校に入って、間も無い頃でした………』


………忍のアナウンスの中、陽子は急いでメイクを元に戻していた。


陽子「………よっしゃ、ギリギリ、
とりあえず、目立たない程度には、顔の汚れも元に戻せた………」

綾「ごめんね、陽子。
大切な結婚式を、遅らせるような真似を………」

陽子「何言ってんだよ!私がバカな事考えてたせいで、
本当だったら………今日、綾はいなくて、
私、ずっと落ち込んだまま、結婚式をするハメになってたんだよ!
………もしそんなんなってたら、一生、後悔するとこだった。
それが、今、私の気持ちは、最高に清々しい!」

綾「陽子………」


212 : 1 2015/07/07(火) 00:45:40.87 ID:X3lhshkB0
陽子「やっぱ私、綾が居ないとダメなんだよ!
………今回の事で、よーっく分かった!」

綾「よ、陽子……」

陽子「いや、こんな事なら、もっと早くに相談しとくんだったよ。
………何も言わず、結婚しちゃってごめんな?」

綾「な、何を言ってるのよ!!」

陽子「なーんて、はは、冗談だよー!
………私、この結婚をした事に関しては、後悔してないよ。」

綾「………」

陽子「でも、綾を信じてあげられなくて、
何も言ってやれなかった事は、ホントに反省してる。
………単純バカなんて言われ続けてきた私に、初めての体験だ。
きっと………一生、忘れる事はないだろう。」

綾「そんなっ………」


陽子「だからさ。
これからもその分、綾を信じる事にする。
こんな後悔なんて打ち消すくらいに………
これからも、仲良くやってってくれると………
嬉しいな? 綾」


213 : 1 2015/07/07(火) 00:48:30.94 ID:X3lhshkB0
綾「………!!!
あ、当たり前よっ!
………陽子と私は、友達。
それは、ずっと変わらないわ………

もしこれから、似たような事があっても。
今日の事を思い出すわ。
そうすればきっと、簡単には、私達の関係は、途切れないと思うから………」

陽子「ありがと、綾。私もそうするよ。
………もう、時間が無いな。じゃあ、行ってくる!」

綾「ええ、陽子。
………いってらっしゃい!」


綾がそう言うと、陽子は綾の方を一瞬振り返って、笑った。


214 : 1 2015/07/07(火) 00:50:59.51 ID:X3lhshkB0
純白のドレス………
陽子らしくないような豪華な衣装に、身を包んではいるけれど。
その笑顔は紛れも無く、太陽のように輝いていた。


綾の知っている、一番大好きな、陽子の笑顔だった―――









『………あの頃の私は、お姉ちゃんっ子でした。
陽子ちゃんと出会ったのは、その時です。
確か私が、ゴミ箱を漁っている時だったような覚えが―――』

綾「陽子、急いで!!
急いで会場に行って、しのの思い出語り、止めさせてー!!!」


219 : 1 2015/07/11(土) 20:16:34.46 ID:dxrdy9TF0
―――――――


―――新婦控え室前


美月「もう少しで、もう少しで来るから!
もう少しだけ、待ってあげて!!!」

陽子母「どういう事?美月、空太………!
この先に、陽子が居るんでしょう?
もう、開始時間は、過ぎているのよ!」

空太「ダメなんだ。
今、この時間をいい加減に、中断させてしまったら………
姉ちゃんは、一生後悔する。」

陽子父「どういう事なんだ!事情を説明しなさい!」

美月「綾お姉ちゃんが、来てるの!!」

陽子母「えっ、小路さん家の………?」


220 : 1 2015/07/11(土) 20:17:31.31 ID:dxrdy9TF0

バタンッッ


美月「!」

空太「!!!」


陽子「すまんっ!
本当にごめん、待たせた!!!」

陽子母「遅かったじゃない、陽子!」

美月「姉ちゃん………!」

空太「姉ちゃん………」


美月と空太は、出てきた陽子の目を見た。
………泣いた跡がある。 心配になって、二人は陽子に駆け寄った。


221 : 1 2015/07/11(土) 20:19:04.50 ID:dxrdy9TF0

陽子「………へへっ、詳しい事は良く分かんないけど………
空太と美月のおかげ、みたいだな?

ありがとよっ………!」ニカッ


そう言って陽子の見せた笑顔は、
二人に、全てが上手く行った事を伝えるには、十分だった。


美月「………!」

空太「………姉ちゃんのそんな笑顔、久々に見たよ」

陽子「ええーっ、そんな久々かー?」

空太「うん。
結婚式が近づいてるっていうのに、
姉ちゃんだけおめでたいムードの中、どこかどんよりしてたもん。」

陽子「ぐっ………
………も、もうそれは済んだ事だ!
そ、それより………」


『………陽子ちゃんが、お寿司の食品サンプルを、
本物だと思ってかじった時は、びっくりしました~!
食いしん坊さんなんですよね!』


陽子「急いで、しのを止めに行くぞ!!」

美月(必死だ………)

空太(むしろ、面白いからこのスピーチに関しては続けて欲しい……)


222 : 1 2015/07/11(土) 20:20:26.23 ID:dxrdy9TF0

―――会場


カレン「流石、シノデス!
予定されていなかったスピーチを、平然とこなすなんて!」

アリス「何だか、ヨーコの知られたくなさそうな思い出が、
次々と語られている気がするよ………」

カレン「読み通りデス。
シノが喋っている間、アヤヤはヨーコと仲直りする方を優先し、
一通り落ち着いたら、この語りを止めさせるために、急いで戻って来る。
そしてそこから無事、式は始まる、という寸法デス!」

アリス「そ、そうなんだ……」



烏丸「うぅぅ………猪熊さん、もう結婚だなんて………」

アリス「あれっ!?カラスマ先生! 来てたの!?」

烏丸「当たり前です!!教え子が、結婚するだなんて。
しかも、その結婚式を前に、親友の大宮さんが、これまでの思い出を語って………
ううっ、この大宮さんのスピーチ、涙無しには、聞けません!」

カレン「……からすちゃんには、すごくウケが良いみたいデスネ」


223 : 1 2015/07/11(土) 20:21:22.97 ID:dxrdy9TF0

忍『………と、いったように。
陽子ちゃんは、大好きな、私の親友です!
陽子ちゃんの好きな所は、なんといっても、あったかほかほかな―――』



「しのっっっ!!!」


烏丸「!」

アリス「!」

カレン「!!」


忍『………陽子ちゃん!来たんですね………!』

陽子「そりゃ、来るよ………新婦だもん………
………で、何してるんだ、しの………」

忍『陽子ちゃんについて語る事で、
開場までの間を持たせる計画だったようですが』

カレン「ああっ、シノそれは言ったらダメデス!!!」

アリス「っていうか、ヨーコが来たからもうマイクは離して!!」

忍『あら?』


224 : 1 2015/07/11(土) 20:22:42.48 ID:dxrdy9TF0
アナウンス『………えー、そ、それでは、
新婦の方が来たようなので、新婦の友人、大宮忍さんによる余興は、これまでとなります。』

烏丸「ありがとう!大宮さん!!!
素晴らしかったわ~~~~~!!!!!」パチパチパチパチ


陽子「………ふぅ………
すみません、遅れちゃって」

アナウンス「あ、いえ。来られたのなら、何よりです。」


陽子「………それじゃ、遅くなりましたが。

今から………開式、という事で。
よろしく、お願いします」


――――――――


――――――



―――そして、陽子の結婚式は、無事に、終わった。


225 : 1 2015/07/11(土) 20:23:59.61 ID:dxrdy9TF0
―――その後、結婚披露宴


陽子「いや~、ほんと、今までありがとうな、皆!」

アリス「ヨーコ!
ウェディングドレスを纏ったヨーコ、とっても綺麗だったよ!!!
まるで、ヨーコじゃないみたいだった!」

陽子「おいっ、何だよその言いぐさは!!!」

忍「うふふ、私も、あんまりにも陽子ちゃんが綺麗だったので、
スピーチの最中にビックリしてしまいました。」

カレン「そうデス! トテモ綺麗デシタ!!!」

陽子「おいおい何だよ、そんな。皆して褒めるなよ~~~」


綾「………とても、綺麗だったわ。」


陽子「あ、綾っ!!?綾まで私を褒めるなんて!
今日の綾、スゲーな!ツンデレデレデレだ!!!」

綾「な、何よそれ!そこまでデレてないわよ!!?」

陽子「だってすごかったじゃん。
結婚式前に、突然部屋に飛び込んできてさ………」

アリス「えっ、何それ!何があったの!?」

綾「わ―――っ!!!
その話は、その話だけはしないでよ!陽子のバカーっ!!!」

陽子「ははは~」


226 : 1 2015/07/11(土) 20:25:36.59 ID:dxrdy9TF0

カレン「………すっかり、元通りデスネ」ニヤニヤ

空太「そうですね。
やっぱり、綾お姉さんは、姉の事が一番好きなんです」

カレン「コウタ、寂しくないデスカ?」

空太「………何がです?」

カレン「ヨーコに、アヤヤを取られてしまいマスヨ?」

空太「取られるも何も、元々僕の物ではありませんし。
この様子を見る限り、もう僕は必要なさそうなので………
披露宴が終わり次第、綾お姉さんとは別れますよ」

カレン「エエッ!?
そんな! せっかく、面白くなってきたというのに~~~」

空太「………そんな、カレンさんが面白がるような関係ではありません。
僕がただ、綾お姉さんに憧れを持っていて、一緒に居たかっただけです。
綾お姉さんも、好きで付き合った訳ではありません」

カレン「ム~~~………」


227 : 1 2015/07/11(土) 20:27:44.24 ID:dxrdy9TF0
綾「何話してるの?」

カレン「ヒェッ!!?」

空太「! いつの間に……
綾お姉さん、姉ともっと喋らなくて良いんですか?」

綾「陽子には、伝えるべき事は全部伝えたから、もう大丈夫よ。
………ねえ、空太君。カレン。
それで、そろそろ、詳しく教えて欲しいんだけど」

空太「な、何をですか」

綾「何でカレンに、知られてる訳?」ニコッ

カレン「あ、アヤヤの表情が、いつになく怖いデス!!」

空太「これはですね、なりゆきです」

綾「なりゆきって………」

カレン「ぐ、偶然聞いたのデス。ミッキとコウタの会話を!」

綾「そうなの」

カレン「で、デモ、私がこれを知らなければ、
パパの車を出してアヤヤを迎えには行けなかったし、
こうしてアヤヤがここに来て、ヨーコと和解する事も、出来ませんデシタ!」

綾「………ま、それもそうね。 ありがとう、カレン」

カレン「イエイエ~!」


228 : 1 2015/07/11(土) 20:29:17.81 ID:dxrdy9TF0
空太「………それなら、綾お姉さん。
僕からも、言いたい事があります」

綾「それって………」

空太「はい。さっき話していた内容です。
もう終わりにしましょう。
姉と再度、打ち解けられたのですから、
もう僕の役目は終わりました。」

綾「空太君………」

カレン「えっ、ここで、終わらせるデスカ!?
披露宴が終わり次第って、さっき………」

空太「早い方が良いです。
それに、カレンさんに知られているとなると、
あなたの目の前で終わらせてしまった方が、色々言いふらされる心配も無くなります」

カレン「えっ、私、誰にも言いマセンよ?」

綾「嘘ね」

空太「嘘ですね」

カレン「エエエーッ、そんな、同時に否定しなくても!!!」


229 : 1 2015/07/11(土) 20:32:11.46 ID:dxrdy9TF0
綾「………でも、いいの?空太君は」

空太「元々、付き合うという関係になったのは、
綾お姉さんが、姉に対しての感情を考えるあまり、心が不安定になってしまっていたから。
一時の気の迷いですよ。
僕は、それにしてはもう十分すぎるくらい、綾お姉さんと一緒に居ました。

それに、僕は、綾お姉さんと、姉と、それを取り巻く三人………
計5人組の、皆さんの仲の良さが、大好きです。
姉が、この場に綾お姉さんを呼ばなかった事で、崩れかけましたが、
綾お姉さんと姉が元に戻った以上、もう何の心配もありません。
これからも、姉と仲良くしていただければ。それだけで」

綾「空太君………」

空太「そういう事です。
一応僕が持っていたのは恋愛感情だったので、
こういう所の区切りははっきりつけた方が良いと思いました。
終わらせましょう、綾お姉さん」

カレン「そ、そんな………」

綾「………そうね。
空太君がそう望むのなら、その方が良いと思うわ。
私も、何だか軽い感じで………あの日、陽子の部屋で。
付き合ってみる、だなんて言って、ごめんなさい。」

カレン「!? ヨーコの部屋!!?」

空太「いえ。 綾お姉さんと居られて、本当に楽しかったです。
それでは、これにておしまい、という事で。」

綾「そうね。 おしまい。」

カレン「………アヤヤ、コウタ………」


230 : 1 2015/07/11(土) 20:33:26.96 ID:dxrdy9TF0

綾「………じゃ、これからもよろしくね」



空太「………? よろしく、とは」

綾「そのままの意味よ」

空太「どういう事ですか?
おしまいにした上で、よろしく、とは………」

綾「そのまま。
だって、空太君なら分かるでしょう?
あなたは、私の大切な陽子の、弟なのよ。
付き合う、みたいなのは、おしまいで良いと思うけど、
決して完全に、途切れる事なんてないわ。
私、空太君の事も大好きだもの。」

空太「綾お姉さん………」

綾「また、時々にでも、お話しましょう。
今度は、陽子の知り合いの、お姉さん?として。
………それでも、いいかしら」

空太「……… ………綾お姉さんが、良いなら」

綾「ありがとう。 空太君」

空太「……………」


231 : 1 2015/07/11(土) 20:34:34.52 ID:dxrdy9TF0
カレン「コウタ!良かったデスネ!!!」

空太「………はい、まあ」

綾「それじゃあ、空太君も、カレンも、一緒に。
みんなでお話しましょう!
私、久しぶりに皆に会って、話したい事がたくさんあるの!」

カレン「ま、待って下サイ!
確かに、これで終わりだというのなら、私は止めマセン。
けれど何だか、二人の間に並々ならぬ事情があったように思えて、仕方ないデス。」

空太「過去の話ですよ」

カレン「過去でも良いデス!
ヨーコの部屋で、何があったのか、教えて下サイ!!
一途だったハズのアヤヤの、コウタとの禁断の恋仲………!
私、チョー興味あるデス!!」

空太「だから、そういうのではないんですって」

綾「も、もう、カレンったら!
今日は勘弁してよ! また、今度ね!!!」

カレン「エエッ、そんな殺生な~!」


綾とカレンは、笑顔ではしゃぎながら、陽子の方へ戻った。


232 : 1 2015/07/11(土) 20:36:08.65 ID:dxrdy9TF0
陽子「それにしても綾、服装ハデだなぁ……」

綾「う…… こ、これは、その………」

忍「私が着せてあげたのですよ!とても似合っているでしょう!」

陽子「え、しのが!? ……まぁ、綺麗っちゃ綺麗だけど………」

綾「う~~~、だって、急いで家を飛び出してきて、普段着だったんだもの」

陽子「あっ、そうだったのか………なんか、ごめんな。綾」

綾「いいのよ。もう」


陽子「あ、そういえば、招待状を送らなかったのに、何で綾はここに居られるんだ?」

綾「招待状ならあるわよ。ほら」

陽子「!!? な、何で持ってるんだよっ!!!」

綾「………美月ちゃんが、持って来てくれたわ。」

陽子「そ、そうだったのか。よく見つけたなあ、美月の奴……

あ、そうそう、聞きたかったんだけどさ、綾。
空太と、なんかあった?」

綾「えっ!!!?」


233 : 1 2015/07/11(土) 20:38:14.63 ID:dxrdy9TF0
陽子「いや、空太、招待状が送られてないって、知ってたし。
綾は、今でも私の事好きだとか、妙に知ってるような口調だったし……」

綾「え、それはその………」

カレン「……」ニヤニヤ

綾「えっとね、この前道で偶然会って、
それで、結婚式の事を、偶然聞いた、んだけど」

陽子「え、じゃあ道で偶然会った空太に、私の事が好きだとまで言ったわけ!?」

綾「!!!!!」ボッ

カレン「アラアラ」

綾「………う、うう、流石に、苦しいか……
も、もういいわ。終わったんだし。
あのね、陽子、実は……」


陽子「空太、ずるいぞー!!」

綾「……あら?」


234 : 1 2015/07/11(土) 20:39:34.34 ID:dxrdy9TF0
空太「何」

陽子「私が悩んでる時に、綾と道端で会えてたなんて、羨ましい!
なんで、私には言ってくれないんだーっ!?」

空太「……何の事か分からない」

陽子「空太、運良すぎだろ!
私だって、道端でばったり綾と会ってたら、何か変わってたかもしれないのに!!」

空太「……話が見えてこないんだけど」

陽子「だって、道端で会って、綾と色々話したんだろ!?
どんだけ信頼されてんだよ! 私とは口も聞いてくれなかったのに!!」

空太「道端?
……よく分からないけど。根は相変わらずだよな。姉ちゃん」

陽子「え、何が?」

空太「鈍感なとこ」

陽子「鈍感???
この話が、どう私の鈍感と関係あるんだ!」


235 : 1 2015/07/11(土) 20:40:37.33 ID:dxrdy9TF0
綾「……陽子がバカで、助かったわ」

陽子「はあっ!!?
バカって何だよー!私、もう結婚までしてるのに!!!」

綾「結婚しても、バカは治らないわよ」

陽子「酷いぞ、その言い草!!」

カレン「HAHAHA、いつものヨーコとアヤヤデス!」

忍「何だか久しぶりですねぇ」

アリス「やっぱり、アヤが来てくれて良かったよ~!」


236 : 1 2015/07/11(土) 20:41:58.94 ID:dxrdy9TF0
美月「………ん、空太、どうしたの?」

空太「………良かった。」

美月「えっ?
………あ、そっか………
ようやく、ようやく……… ………綾お姉ちゃんと、姉ちゃん。元に戻ったもんね」

空太「ああ。
………やっぱり、五人で一緒にいる時の、綾お姉さんが、一番素敵だ」

美月「本当。 ………良かったね、空太」

空太「ああ。 ………良かったよ」



姉を囲む友人たち………
今、ここに帰ってきた、素敵な五人組を。

空太と美月は、微笑みながら眺めていた―――



―――――――――


―――――――


―――――


237 : 1 2015/07/11(土) 20:43:46.98 ID:dxrdy9TF0
―――それから、数ヶ月後。


2021年 9月、とあるアパートの一室



「………そんじゃ、行ってくるねー!」

「あれ、陽子?今日、何か用事だったっけ。
たまの休みだから、一緒にどこか出かけようとか思ってたんだけど」

「あれ、言ってなかったっけ?
私、今日は綾とデートの日なんだよー。」

「えっ、そうだったのか!
………えー、今日じゃなきゃダメかい?」

「ダメダメ!
ごめんなー、こればっかりは譲れないんだ!」

「………そういえば、陽子にしては、妙に服装に気合を入れてるね。」

「妙にってなんだよ!私だって女子なんだ!
………ヘンな服で行ったら、綾に笑われちゃうからな。」

「そうなのか………
そういえばその服、滅多に着ないよね」

「おう、綾に買ってもらった服だからなー!
って事で、行ってくるー! 今日は留守番、頼むなー!」

「ああ、うん………

………仲良いんだなー………」


238 : 1 2015/07/11(土) 20:44:49.32 ID:dxrdy9TF0
――――――――




綾「………遅いっっっ!!!」

陽子「え、ええーっ、今日はちゃんと、時間通りに………」

綾「5分遅れは時間通りって言わないわ!!!
私、1時間以上前から待ってたのよ!!!」

陽子「相変わらず時間前行動が過ぎるなオイ!?」

綾「………全くもう。」

陽子「ごめんごめん~~~!」


239 : 1 2015/07/11(土) 20:48:32.24 ID:dxrdy9TF0
綾「………まぁ、いいわよ。
貴重な休みでしょ? ………来てくれただけでも、嬉しいわ。」

陽子「ん?あったり前じゃーん!
だって、今日は綾の誕生日祝いも兼ねてるんだからさ!
今日は、ぱーっとやろうぜ!」

綾「でも、そっちの生活もあるのに」

陽子「気にすんなって!全然大丈夫だよ。
私も、こうして綾と会えただけで嬉しい。」

綾「陽子………」

陽子「だって………」

綾「………だって?」



「私、相手が誰であっても。綾の方が好きだからさ!」




おしまい


240 : 1 2015/07/11(土) 20:54:49.36 ID:dxrdy9TF0
これにて終了となります。
『結婚式を前にした陽子に、自らの想いを全て吐く綾』
というシーンが書きたくて、勢いで始めた結果、やや長いストーリーになってしまいました。

この物語の裏の、忍やアリス、カレン達の話も別で何となく考えているので、
気が向いたらまた投稿をするかもしれません。

こういった長編?をここに投稿するのは初めてなので、色々と下手な点があったかと思いますが、
最後まで見て下さった方々、本当にありがとうございました!


元スレ:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1434986531/


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