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【SS】 服飾コネクション 【ことにこ】
- 1 : 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/06/24(水) 21:39:22.91 ID:Zpc3kQmM.net
- #服飾コネクション
『飾らない関係ってなんだと思う?』
思ったことを、隠さずに言い合える。
一緒にいることに疲れない、沈黙も楽しめる関係。
『じゃあ、幼馴染』
小さい頃から、ずっと一緒。
思い出だけで、一晩中語り合えることが出来る存在。
好きな歌手。苦手な先生。マイブームのお菓子。嫌いな食べ物。ちょっとした癖。
何から何まで、知っている。そんな間柄。
『μ’sは?』
楽しいことも悲しいことも、一緒に乗り越えてきた仲間たち。
かげがえのないもの。青春。私達の、みんなの夢。
『私とあんた』
幼馴染じゃないけれど、μ’sの仲間。
だから、飾らない関係で、心が通いあった大切な仲間。
『それ、本気でそう思ってる?』
…………うん。
『あんたって、正直よね』
- 3 : 映画ネタバレがちょっとあります。注意忘れてしました。(たこやき)@\(^o^)/ 2015/06/24(水) 21:40:50.86 ID:Zpc3kQmM.net
- @
(……ふぅ)
キリの良い所まで縫い終えて、一息を入れる。
周りを見渡せば、真剣な面持ちでミシンを操作している人達。
普段は、この部屋にいるはずのないスクールアイドルのみなさん。
アライズのあんじゅさんに、東京近郊のスクールアイドルの衣装担当の方たち。
みんな、イベントに向けて、一緒に衣装作りに励んでいます。 - 4 : 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/06/24(水) 21:42:25.47 ID:Zpc3kQmM.net
- (普段より集中できてないし、もっと頑張らないと)
まだまだ先は長いので、私だけが休憩に入るわけにもいきません。
それに、自分の中の工程表に照らし合わせれば、遅れが出ているのは明白で。
本来であれば、大好きな衣装作りなのですから、そうそう集中は途切れないはずなのですが。
今の私には、一つの問題がありました。
その問題が、私の集中力を途切れさせ、事あるごとにキリの良い所という名の一息を入れさせる、という状態にさせています。
諸悪の根源は部屋の中。響き渡る縫製音で感覚が狂ってしまったとか、知らない人が多くて気疲れした、などではありません。
ミシンの縫製音は、むしろ心地が良いものだと思いますし、よく知らない人にしたって、同じ衣装担当ということで親しみが持てます。
だから、私を悩ませているモノというのは、知らない人の存在ではなくて。
逆に、知っている人のことなのです。 - 5 : 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/06/24(水) 21:45:09.37 ID:Zpc3kQmM.net
- ダッダッダッダッ
しゅるっ
ダッダッダッダッ
ミシンを使おうと目線を前に向けたならば、ちらちらと目に入ってくる、美しい黒髪。
自分の真向かいの位置から聞こえて来る、規則的な縫製音と衣擦れの音。
彼女の発する音に過剰に反応してしまうところに、半覚醒的な集中状態があいまって、気がつけば、いつしかその音に聞き入ってしまっているのです。 - 6 : 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/06/24(水) 21:46:34.72 ID:Zpc3kQmM.net
- ダッダッダッダッ
しゅるっ
ダッダッダッダッ
すると意識が、薄く、広くなってきて、自分自身が彼女の布地になったかのような錯覚に陥る。
(もしかしたらこれは、ミシンの音なんかじゃなくて、私の鼓動の音なのかもしれません……)
我ながら、行き過ぎた妄想だと笑ってしまいます。
だけれど、そんな風に笑い飛ばそうにも、その幻想は消えずに、何度も何度も、繰り返し脳裏に蘇るのです。 - 7 : 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/06/24(水) 21:47:08.53 ID:Zpc3kQmM.net
- (ああ、集中、出来ない。出来るわけ、ないよ……)
部屋中に響き渡るいくつもの縫製音が。
彼女の存在が。
私に告げようとしている。
あの日、あの時、あの場所で。
彼女に向かって、『私のやりたいこと』を突きつけたことを、思い出させるのです。 - 8 : 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/06/24(水) 21:47:42.55 ID:Zpc3kQmM.net
- @
「みんな、お疲れさまニコー♪」
にこちゃんの言葉により、今日の作業は終了です。
イベントまでの日数が短いとはいえ、余り遅くなるわけにも行きません。
帰り支度を整えて、残りは自宅で続きをすることにしましょう。
他の人達も、そのつもりで生地を持ち帰っています。
「ねえ、にこさん。ちょっと」
「あっ……あんじゅさん!にこに何か用ですかぁ?」 - 9 : 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/06/24(水) 21:48:28.56 ID:Zpc3kQmM.net
- にこちゃんは、他のスクールアイドルの前なので、ずっと猫をかぶっていてアイドルモード。
だけど時折、私に話しかけようとした時に、いつものぶっきらぼうな口調に戻りそうになったりします。
その時の慌てて誤魔化そうとする姿が可愛くて、つい吹き出しそうに。
もちろん、笑ってしまうと睨まれてしまうので、我慢するしかないのですが……。
「あのねえ、お願いがあるんだけどぉ」
こしょこしょ。
にこちゃんの耳に顔を寄せて内緒話。
あんじゅさんの顔が間近になって、にこちゃんは真っ赤になっています。
彼女はアライズの大ファンなので、当然の反応なのでしょう。 - 10 : 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/06/24(水) 21:49:16.49 ID:Zpc3kQmM.net
- 「……どう?引き受けてくれる?」
「もちろんです!にこで良ければ!」
「ふふっ、ありがと。じゃあ行きましょうか……あ、そうだ」
私には関係がなさそうなので、遠巻きに眺めていると。
こちらへ近づいてきたあんじゅさんが、喜色満面といった様子で、私に囁きました。
「ねえ、ことりさん。今からにこさんでファッションショーをしようと思うんだけど、一緒にどう?」
予想だにしない言葉に、思わず、私は頷いていました。 - 11 : 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/06/24(水) 21:50:14.42 ID:Zpc3kQmM.net
- @
「や~ん♪にこさん可愛い♪」
「えへへへ、そうですか?」
あんじゅさんがいつの間にか持ってきていた、綺羅びやかな衣装の数々。
にこちゃんは取っ替え引っ替え着せ替えられる、着せ替え人形と化しています。
……ところで。
用意された衣装は、なぜかサイズが合っていました。
どうして、そんなものを用意しているのかと聞いてみると。 - 12 : 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/06/24(水) 21:51:05.50 ID:Zpc3kQmM.net
- 『ツバサに着てもらおうと思ってたんだけど、こんなに可愛いのは私のキャラじゃないって言って着てくれないのよねぇ』
『だからずっと倉庫で眠ってたんだけど。にこさんなら、体格同じだから着れるんじゃないかなって思って♪』
要するに、これまで日の目を見なかった衣装達に、少しでも光を当てたかった……ということでしょうか。
衣装担当の私には、その気持ちはとてもわかるものです。
「あーもう、にこさん可愛いわぁ!」
すりすり、と熱烈な頬ずり。
今まで見たことがない、にこちゃんの新しい魅力。
私も頬ずりしたいな、と思わせるほどの可愛さです。
当のにこちゃんは、あんじゅさんに頬ずりされて歓喜の頂点に達しているのか、恍惚の表情。 - 14 : 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/06/24(水) 21:52:08.43 ID:Zpc3kQmM.net
- 「ツバサに着せるつもりの服だったけど……。にこさんのほうが似合ってるかも」
「そんなっ!ツバサさんよりだなんて、恐れ多いですっ」
えー?そうかしら?と指を口にあてる仕草をしながら、あんじゅさんは不思議そう。
「貴女だってラブライブ優勝グループの一員なんだから、自信もっていいと思うわよぉ?」
「うっ……。あの、にこは、その、ずっとアライズのファンだったので、どうしても気後れするというか……」
そんなものかしら?と首を傾げるあんじゅさんは、ラブライブ王者の風格にあふれていました。
「うふふ。まあとりあえず、それはおいといて。ねえ、にこさん。同い年なんだから敬語はやめない?」
「そ、そんな!にこなんかが、あんじゅさんとタメ口だなんて……」 - 15 : 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/06/24(水) 21:53:38.98 ID:Zpc3kQmM.net
- 一緒に過ごすうちに、にこちゃんのことが気に入ったのでしょうか。
瞬く間に距離を詰めようとして、にこちゃんに押せ押せのあんじゅさんです。
いつもの強気はどこへやらと言った様子で、あんじゅさんの言動に一喜一憂しています。
「ダメよぉ?あんじゅさんじゃなくて、あんじゅ。ほら、『にこ』も言ってみて?」
「う、えと……。あ、あ、あん……あんじゅ……」
さん、と聴こえるか聴こえないかくらいの声量の呟きが続く。
にこちゃんの間近にいるあんじゅさんには、当然丸聞こえでしょう。 - 16 : 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/06/24(水) 21:55:11.00 ID:Zpc3kQmM.net
- 「……さん?」
拗ねたような表情で、にこちゃんの呟きを繰り返すあんじゅさん。
慌てるにこちゃんですが、どうもなかなか、さんを外すのは難しいようです。
ついに、ぷいっと顔を背けてしまったあんじゅさんに、更に慌てるにこちゃん。
こちらからはニンマリと笑うあんじゅさんが見えています。
(あんなにイジられて、手のひらの上でころころしているにこちゃんって、希ちゃん以外では初めてかも)
二人を見ていると、あんじゅさんが私よりも、にこちゃんと仲良くなってしまったような、そんな気分になります。
私は、あんな風にたわむれた経験なんてありませんから。 - 17 : 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/06/24(水) 21:56:08.88 ID:Zpc3kQmM.net
- 「そ、そんなことより!ねえ、ことり!どう、私、可愛い?」
にこちゃんからの助けを求める声が聞こえます。あんじゅさんからのイジりに耐えかねたのでしょうか。
彼女が、小動物と化したにこちゃんを逃すとは思えないので、気が進みません。
それに、もうひとつ。
(にこちゃんには、もっと毅然としていて欲しい……と思うのは、わがままでしょうか?)
私に対しては、そうするように。あんじゅさんにだって、びしっと決めてくれたら、私は嬉しいのに。
そんな風に思いながら、無駄になるであろう助け舟を出してみる。 - 18 : 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/06/24(水) 21:56:57.74 ID:Zpc3kQmM.net
- 「びっくりするぐらい可愛いよ。あんじゅさんは凄いね、にこちゃん」
「そうよねー!流石、あんじゅさんって感じよねー!」
(うん、本当にすーっごく可愛いよ。でも……)
「誤魔化されないわよぉ?今日はさん付けがなくなるまで、帰さないからね」
必死に誤魔化そうとするも虚しく、あんじゅさんは妖艶な笑みを浮かべたまま、追及の手を緩めない。
わーぎゃーわーぎゃーと賑やかに、にこちゃんのファッションショーは進んでいきました。
一方の私はといえば、二人のやりとりをニコニコと笑顔で、ずっと眺めていました。
―――私の衣装のほうが、にこちゃんを可愛く出来るもん。
―――にこちゃんは、私に、衣装しか求めてないの?
そんな複雑な感情を、胸の奥に押し込みながら。 - 20 : 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/06/24(水) 22:02:29.55 ID:Zpc3kQmM.net
- @
「それじゃぁ、また明日♪」
一通りの衣装とにこちゃんイジリを楽しんで、あんじゅさんはUTXの車で颯爽と帰って行きました。
家まで送ろうかという提案を受けましたが、申し訳ないので辞退です。いつも通りの徒歩帰宅。
他のみんなはとうの昔に帰ってしまっているので、珍しい二人だけの帰り道。
「ふぅー。大変だったわ……」
「にこちゃん、お疲れさま」
『さん』を外して呼べるようになった後にも、十数の衣装を着て、ポーズをとっては抱きつかれ。
さしものにこちゃんも中々にお疲れのようです。 - 21 : 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/06/24(水) 22:03:16.22 ID:Zpc3kQmM.net
- 「それにしても、あんじゅのセンスはやっぱり凄かったわねー。あんたも刺激受けたんじゃないの?」
「あはは、そうだね。可愛い衣装がいっぱいで、楽しかったなぁ」
あんじゅさんの用意したものは、私が作るものとはまた違った趣のもので。
それでいて、にこちゃんが衣装を見るやいなや、喜びに満ち溢れた笑顔を見せるほどに素敵なものでした。
「明日も用意してくれるって言ってたし、楽しみよねー!」
「……そうだね」
正直に言いましょう。私は、敗北感を覚えていました。
衣装に厳しいあのにこちゃんを、いとも簡単に魅了するあんじゅさんの世界。
私が引き出したことのない可愛さを、延々と見せつけられてしまって、気落ちしてしまっています。 - 22 : 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/06/24(水) 22:04:22.55 ID:Zpc3kQmM.net
- 「とっても、とっても、可愛かったなぁ……」
「……?」
私が作ったものじゃない衣装を着て、私じゃない人に満面の笑みを向けて。
にこちゃんも、私なんかよりもあんじゅさんが衣装係のほうが良かったと思っているのかもしれない……なんて。
「……どうしたのよ。なんか変だけど」
「ううん、大したことじゃないから、気にしないで」
その答えには納得がいかないようです。
私の顔を覗き込んで、もう一度質問されました。
「本当に大したことないの?あんた、今、すっごい寂しそうな顔してたけど?」
ほんの少しの動揺や逡巡も見逃さないといったように、彼女の赤い瞳が私を捉えています。 - 23 : 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/06/24(水) 22:04:56.59 ID:Zpc3kQmM.net
- 「やだなあ、にこちゃん。そんな大袈裟なことじゃないよ?ちょっと疲れちゃっただけで」
そう、大したことじゃありません。
自分の中に、思ってた以上のプライドと、少しばかりの独占欲があったことに気がついただけ。
ただ、それだけ。
「ね、早く帰ろうよ。暗くなっちゃうよ?」
「うーん……」
手を引いて、歩き出そうとしてみるものの、彼女はその場から動こうとしません。
「……にこちゃん?」
「ちょっと待って、今考えてるから」
うーんうーん、と唸り声が続くこと数分間。
考えがまとまったから言うわね、と前置きして話し始めました。 - 24 : 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/06/24(水) 22:05:56.30 ID:Zpc3kQmM.net
- 「真姫ちゃんがさ、私達は付き合いが長いから、口に出さなくても言いたいことがわかる……って言ってたじゃない」
「うん」
「だけど、私はあんたのこと、未だによくわかんないわ。自分のこと隠そうとするとこあるし」
「……うん」
穂乃果とか海未ならわかるのかもしれないけど、と呟いて。
「さっきの顔を見て、考えてみたのよ。あんたの顔がそんな風になること、何かあったかなって」
朝やったチラシ配りは順調にいったし、衣装作りだってとこどおりなく進んだと思うし。
数え上げるように、今日の出来事を紐解いていく。
「そうやって考えてみたら、最後に残ったのは、私があんじゅの持ってきた衣装を着てはしゃいでたことくらいだった」 - 25 : 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/06/24(水) 22:06:41.40 ID:Zpc3kQmM.net
- 真実へと近づいていく言葉に、口を挟むことができない。
心の何処かで、答えに行き着いてくれるのではないのかという期待が湧いてくる。
にこちゃんと繋いでいる手が、熱を帯び始めている。
「もしかして、にこがあんじゅの衣装を褒めてたことに妬いてたのかなー、なんて思っちゃったりして……」
間違ってたら恥ずかしいわよね、これ。そう苦笑しながら、私の回答を促している。
頭を覗き見たかのような言葉に、誤魔化しようがなくなって、何も答えられない。
咄嗟に、にこちゃんから顔を背けてしまった。 - 26 : 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/06/24(水) 22:07:47.76 ID:Zpc3kQmM.net
- 「お、その反応は正解みたいね」
「大方、あんじゅのほうが私なんかよりセンスが……みたいなこと考えてたんでしょ。あんたにも可愛いとこあるわねー」
フフンと得意気な顔で、さらなる答え合わせをはじめている。
(半分正解。半分間違いだよ、にこちゃん)
嫉妬していたことはわかる癖に、何に嫉妬していたかまではわかっていない。
きっと、「南ことり」が「矢澤にこ」に拘ることがあるなんて、想像したこともないんでしょう。
(私は、どんな顔をしていればいいの?)
仮面を引き剥がされて、核心に迫られると身構えたら。
にこちゃんは見当違いの方向へ行ってしまって、私の感情は宙ぶらりんになってしまった。
「さて。納得できたし、そろそろ帰りましょ」
疑問は消えたから、もう私に用はないというかの様に。
にこちゃんは、歩き始めてしまった。 - 27 : 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/06/24(水) 22:08:39.58 ID:Zpc3kQmM.net
- @
先をゆく彼女に手を引かれ、進みだした帰り道。
夕陽に暮れた空を眺めながら、物思いにふける。
(にこちゃんは、私に優しくない)
ずっと思っていたこと。改めて、その事実を理解しました。
さっきの質問にしたって、落ち込んでることの確認をしただけだった。
慰めようとすることなんて絶対にない。されたことがない。
私も、ウジウジと待ってるだけじゃなくて。自分からにこちゃんの心の内に、飛び込んでみようか。
そうすれば、もしかしたら……。ううん、ダメです。振り払われるのが怖くて、出来ません。 - 28 : 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/06/24(水) 22:09:34.60 ID:Zpc3kQmM.net
- (にこちゃんは、ずるい)
今だって、私が何か言いたげにしていることに気がついているはず。
なのに、知らないふりをして歩いている。
(でも、本当にずるいのは、待っているだけの私のほうだ)
本当に隠したかったことは隠し通せたのだから、喜ぶべきなのに。
ずるい、だなんていって、にこちゃんを非難する資格は最初から持っていません。
―――はぁ
彼女に聞こえないように、小さく溜息を吐き出す。
臆病な自分にガッカリしながら、少し歩みを早めて、にこちゃんと肩を並べる。 - 29 : 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/06/24(水) 22:10:37.92 ID:Zpc3kQmM.net
- 「……」
二人の間を沈黙が支配する。だけれど、気まずいわけじゃない。
私と彼女の基本はこうなんだと、もう慣れてしまった。
そうして、どれだけかの時間を歩いて、それぞれの家への分岐点へと差し掛かった頃。
私を引く手が、ぴたりと止まりました。
ここからは家に帰る方向が違うから立ち止まったのだと思って、にこちゃんの次の動きを待っていました。
しかし、にこちゃんは手を離すでもなく、繋いだまま立ち止まっています。
どうしたのだろう―――彼女の様子を窺ってみれば、なぜか、苦虫を噛み潰した様な表情で。
今度は、彼女のほうが何かを言いたげにしている。揺らぐ瞳から、ためらいを感じます。 - 30 : 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/06/24(水) 22:13:41.49 ID:Zpc3kQmM.net
- 「あのね」
次の瞬間には、覚悟を決めた表情に変わっていました。
「私は、あんたのこと。結局、わかることは出来なかったけど」
「本当は『ことりのやりたいこと』を聞いたあの日から」
「あんたのこと、わかるようになりたいって思ってたわ。今更何なのよって思うかもだけど」
「今の今まで、言う勇気が出なかったけど。もうすぐ、本当の終わりだから」
急に立ち止まった彼女が告げたのは、ずっと前から、私のことをわかろうとしてくれていたということでした。
「あーあ。にこったら、ちょっと感傷的になってるみたい」
「最後まで、無理なことがあるのも、当然なのにね」
「最高の夢だったから、欲張っちゃったみたい」 - 31 : 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/06/24(水) 22:14:29.90 ID:Zpc3kQmM.net
- μ’sが終わってしまったら。
私とにこちゃんが、これまで以上に濃密な日々を過ごすことはない。
だから、私達が分かり合える日は永遠に来ない。
そう、にこちゃんは思っている。私だって、そう思っていた。
「そんなことないよ!ことりは……。ことりだって、思ってたもん……」
離すタイミングを失って、ずっと繋いだままだった手を強く握りしめる。
高くなった体温と、緊張で汗がにじんで、滑りそうになる。 - 32 : 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/06/24(水) 22:15:06.12 ID:Zpc3kQmM.net
- (にこちゃんが先に勇気を出してくれた。次は、私の番だ)
何から伝えよう。
今日の、私の嫉妬の本当の理由から?それとも、にこちゃんに感じていた苦手意識?
ううん、違う。そんなことよりも、言いたくて言いたくて、けれど決して言えなかったことがある。
押し付けにならないかなって、ずっと胸に閉まっていた、私の夢のひとつ。
今なら、言える気がする。 - 34 : 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/06/24(水) 22:15:49.50 ID:Zpc3kQmM.net
- 「にこちゃん!」
「なによ……。いきなり、大きい声出さないでよ」
「あのね、私、将来ファッションデザイナーの道に進みたいなって思ってるの!」
「知ってるけど……」
みんなに多大な迷惑をかけた例の騒動。
留学は延期して、目指すのをやめたわけではないことは当然知っていてくれています。
「それで、にこちゃんはアイドルを目指すわけだよね?」
「当たり前じゃない」
そうでしょうとも。
はっきり聞いたことはなかったけれど、にこちゃんならそういってくれると思っていました。 - 35 : 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/06/24(水) 22:16:36.82 ID:Zpc3kQmM.net
- 「衣装だって、必要になるよね?」
「え……」
言葉少なに、自分の意思を伝える。
彼女は信じられないものを見るような驚愕の表情で、私を見つめている。
私はその視線に、真っ直ぐ見つめ返す。
「それ、本気でいってる?」
生半可な気持ちで、私の夢に踏み込むなら許さないから。
真剣な表情が、そう物語っています。
「もちろん、本気だよ。ことりは、にこちゃんの衣装を作りたいの」
にこちゃんだって、本気だから。
私も本気で答える。 - 36 : 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/06/24(水) 22:17:47.91 ID:Zpc3kQmM.net
- 「……ふん。やっぱり、あんたのこと、わかんないわ。どうしてそこで私にこだわるのよ」
そんなの、決まってるよ。
「にこちゃんを一番可愛くできるのは、ことりだから。それ以外の理由、必要かな?」
私の挑戦的な言葉を聞いたにこちゃんは、面食らったように一瞬停止して。
不敵に笑いだした。
「くふふ。結構言うじゃない」
―――ちょっとだけ、わかったわ。ことりのこと。
万感の思いが込められた、小さな呟き。 - 37 : 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/06/24(水) 22:18:21.86 ID:Zpc3kQmM.net
- 「いいわ、認めてあげる。いずれ世界を制覇する、この矢澤にこの衣装を作るのは。宇宙で、ただあんた一人だけよ」
その宣言は、私のことを対等の存在だと認めてくれたことの証明。
夢が交わることはなくても、寄り添うことは出来る。
私達を繋ぐ、誓いの言葉。
「にこちゃん。今まで、ありがとう」
そして、横並びに繋いだ手を、正面からの握手に握り直す。
「これからも、よろしくお願いします」
「ええ。よろしくね、ことり」
私とにこちゃんを阻むものは、もう、何もない。 - 38 : 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/06/24(水) 22:19:45.95 ID:Zpc3kQmM.net
- @
『飾らない関係ってなんだと思う?』
思ったことを、隠さずに言い合える。
一緒にいることに疲れない、沈黙も楽しめる関係。
『じゃあ、幼馴染』
小さい頃から、ずっと一緒。
思い出だけで、一晩中語り合えることが出来る存在。
好きな歌手。苦手な先生。マイブームのお菓子。嫌いな食べ物。ちょっとした癖。
何から何まで、知っている。そんな間柄。
『μ’sは?』
楽しいことも悲しいことも、一緒に乗り越えてきた仲間たち。
かげがえのないもの。青春。私達の、みんなの夢。
『私とあんた』
幼馴染じゃないけれど、μ’sの仲間。
だけど、飾らない関係とは言わないかな。
『ふぅん。私達は飾らない関係とは言わないんだ?』
うん。だって、私は衣装担当だから。
『は?』
にこちゃんを飾るのが役目だから。
飾る関係、だよ。 - 39 : 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/06/24(水) 22:20:03.07 ID:Zpc3kQmM.net
- 終わり
- 41 : 名無しで叶える物語(関西地方)@\(^o^)/ 2015/06/24(水) 22:25:15.73 ID:AKJZ3Ad7.net
- 乙 とてもよかった

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