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穂乃果「山!川!」海未「それとは少し違うような……」
- 1 : 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ (ワッチョイW 8dc3-Sbv5) 2015/11/05(木) 02:18:02.65 ID:ZWABZZ6E0.net
- 海未ちゃんは、えっちなことが嫌い。
嫌いすぎて、えっちなものどころか、全然普通のキスを見ても「破廉恥です!」って言って遠ざけちゃう。
自分がする訳じゃないのに、映画のワンシーンにも、漫画の絵にだってドキドキして仕方ないみたいで、目をきゅって閉じて、うんうん言いながら小さく頭を振って、真っ赤な顔をすると、パタン――って本を閉じちゃうんだ。
それから、泣きそうな顔をして、穂乃果を見るの。
穂乃果もえっちなのはあんまり得意じゃないけど、そんなに恋愛に免疫がなくて、海未ちゃん、今までよく生きてこられたなあって思う。
- 2 : 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ (ワッチョイW 8dc3-Sbv5) 2015/11/05(木) 02:20:56.94 ID:ZWABZZ6E0.net
- そんなこと、ことりちゃんと三人で恋愛映画を観に行ったときに、目と耳を塞ぐ海未ちゃんのとなりでぐーぐー寝息をたてて、感想を語りたがってたことりちゃんをプリプリさせちゃった穂乃果も、あんまり言えたものじゃないんだけどさ。
「今度からこういう映画には絵里ちゃんと花陽ちゃんを誘うからいいですっ」
そう言うことりちゃんに二人でぺこりぺこりと謝ったのもいい思い出だよ。
でも、この前私の家で海未ちゃんと一緒に観たアメリカのホームドラマで、ちっちゃい女の子のミシェルと、その叔父さんのおいたんが挨拶のちゅーをしてたんだけど、海未ちゃんってばそれにも目を逸らして、顔を真っ赤にするものだから、それには流石の穂乃果も笑っちゃった。 - 5 : 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ (ワッチョイW 8dc3-Sbv5) 2015/11/05(木) 02:23:33.50 ID:ZWABZZ6E0.net
- あ、勿論ドラマのほうも面白くってそっちでも大笑いしたよ。
海未ちゃんも時々、ぷふ、って手で口を押さえたり、ジョゼフがすってーんって転んじゃったときなんか、抱いてたクッションに顔を埋めて、肩をぷるぷる震わせてたりもしてたし。
そうそう、ミシェル役の娘って、今は穂乃果達よりいくつも年上なんだって!海未ちゃんが言ってたから確かだよ。
すごいよねえ。私、本当に感心しちゃった。そんなに昔の作品なのに、穂乃果達を大笑いさせちゃうんだから。
あとねえ、観ながらお煎餅を食べてたんだけどね、くふふ、そのとき海未ちゃんが――って、話が逸れ過ぎちゃった。
えへへ、穂乃果の悪いところだね。 - 14 : 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ (ワッチョイW 8dc3-Sbv5) 2015/11/05(木) 02:27:04.80 ID:ZWABZZ6E0.net
- ええと、そう!海未ちゃんの話!
それで、私達は本当にずぅっとずぅっと、うんと昔から一緒に居るんだけど、どうして海未ちゃんがそんなに"恥ずかしがり屋"なのかは知らないんだ。キスだけで恥ずかしがるっていうのは相当なことがあったと思うんだよね。
うーん、思い当たることと言えば、二人でお買い物してたらたまたま……お、大人のキスをしてるカップルに出くわしちゃったことだけど、それは一年のときの話で、海未ちゃんの破廉恥嫌いは今に始まったことでもないし、全然関係ないかな。
でも、だからと言って、キスをしたら赤ちゃんが出来ちゃうー、なんて穂乃果でも嘘ってわかるようなこと、海未ちゃんが信じてるはずもないし、キスって言葉からたくましく色んな想像をして、勝手に興奮しちゃうようなえっちな女の子でもないと思うし。 - 15 : 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ (ワッチョイW 8dc3-Sbv5) 2015/11/05(木) 02:30:06.82 ID:ZWABZZ6E0.net
- なんにしても、私の知らない海未ちゃんが居るって思うと、なんだかもやもやしたみたいな、ずっと正座してなさいって言われたみたいな、変な感じになった。
だって、私は海未ちゃんに隠し事なんてしないのに、まあしたってバレちゃうだけだけど……とにかく、海未ちゃんの知らない穂乃果なんて居ないもん。
なのになのにずるいよね? 不公平だよ。不平等だよ。不健康だよ。
ん? あはは、健康はおかしいかな。でも、このままじゃ本当に具合が悪くなっちゃいそうなくらい、嫌なんだもん。
だけど、海未ちゃんは恥ずかしがって絶対に教えてくれないと思う。その海未ちゃんはちゃんと知ってる。
たとえ言ってくれたとしても「嫌なものは嫌なんです!そ、それよりも勉強の方は大丈夫なのですか」って、すぐに穂乃果の話にすげ替えてくるのは目に見えてる。
なのに、穂乃果のちっちゃな脳みそじゃ、どれだけうんうん捻っても良いアイディアは何も出てこなくて。 - 17 : 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ (ワッチョイW 8dc3-Sbv5) 2015/11/05(木) 02:32:55.32 ID:ZWABZZ6E0.net
- ああ、これはもう穂乃果の手には負えないぞ。
そう思ってことりちゃんに相談してみたら「ことりも気になるかも♪」って、んふふと笑ってくれた。
あのね、こういうときのことりちゃんほど頼りになる人はいないんだよ。ほら、今だって眉をキリリとして、顎に指を添えて、唇をちょっぴりすぼめて。
ことりちゃんは頭が良いから、穂乃果みたいにあうあう呻かなくたってナイスなアイディアが出てきちゃうんだ。
これはもうあれだね。海未ちゃんなんかけちょんけちょんだね。
嬉しくなった私が抱きつくと、優しくて柔らかい手が私の髪を撫でて、それから嬉しい微笑みが耳を撫でた。 - 19 : 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ (ワッチョイW 8dc3-Sbv5) 2015/11/05(木) 02:35:36.50 ID:ZWABZZ6E0.net
- ***
"そよ風纏う大和撫子"
小説を読んでるときの海未ちゃんは、学校ではそう呼ばれてるの。
そよ風っていうのはいまいちわからないけど、確かに集中してる海未ちゃんは凛としててかっこいいし、ことりちゃん曰く色気もある。
一年生たちがわざわざ教室まで見にくるのも頷けるよ。
物語が面白いところに入ると、海未ちゃんは髪を耳にかける癖があるんだけど、その髪がはらりとこぼれ落ちたときなんか、きゃあ、なんて歓声があがったりして。 - 20 : 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ (ワッチョイW 8dc3-Sbv5) 2015/11/05(木) 02:38:26.49 ID:ZWABZZ6E0.net
- でもね、穂乃果の家だとそんな海未ちゃんも少し変わるんだ。
いつものクッションを抱きながらちょこんと体育座りをして、そこに口と鼻を埋めながら本を眺めるの。目は真剣そのものなんだけど、その姿はなんだかかわいくて、穂乃果も隣に座って漫画を読んだり、たまーに海未ちゃんから小説を借りたりしてる。
そうしてると隣からときたま、むふー、って感心するような鼻息が聞こえてきたり、ずず、って涙ぐむ音が聞こえてきたりして、文字たちの整列には飽き飽きしても、こうして並んで座ってることには退屈しないんだ。
穂乃果、じっとしてるのはあんまり好きじゃないはずなのに、不思議だよね。 - 21 : 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ (ワッチョイW 8dc3-Sbv5) 2015/11/05(木) 02:41:29.79 ID:ZWABZZ6E0.net
- あとね、海未ちゃんはいつも、本を読み終わると、くうう、って両手を天井に向けて伸びをするの。
その顔がすごく晴れやかなものだから「面白かったの?」って聞くと「はい!」って元気にお返事をして、それがどんなに面白かったか穂乃果にもわかるように説明してくれるんだ。
そうすると穂乃果にもその本がとっても素敵なものに見えてきて、ついつい、穂乃果も読む! ってなるんだけど、気づくとそういう本が机の上にとんとんとんっと積まれてて、えへへ、この間海未ちゃんに叱られて全部持って帰られちゃった。
だから、もうそういうことしたら悪いなと思って、最近は慣れるために少しずつ小説を読んでみるようにしてるんだよ。教養不足も良くないからね。 - 22 : 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ (ワッチョイW 8dc3-Sbv5) 2015/11/05(木) 02:44:31.94 ID:ZWABZZ6E0.net
- まあ、今読んでるのは漫画なんだけど……あ、ほら、丁度いま主人公の恋が叶って、ちゅーしてるところ。
良いシーンってやつだよ。
「…………」
私はふと思い立って、漫画をパタンと閉じた。
「ね、ンミちゃん」
「……ん……なんですか穂乃果?」
「でへへ、呼んでみただけ」
「そうですか」
海未ちゃんは読んでいた本に視線を戻そうとしたけど、気が変わったのか栞を挟んで、ふぅと息を漏らした。 - 23 : 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ (ワッチョイW 8dc3-Sbv5) 2015/11/05(木) 02:45:45.61 ID:ZWABZZ6E0.net
- 「……ね、穂乃果」
「ん」
「最近、何やらことりとコソコソしてますよね」
「な、なんのことかな」
「ことりはともかく、あなたは表に出やすいのですから」
そこまで言うと海未ちゃんはまた溜息をついて、一体何を企んでいるのですか、って私を睨んだ。
あわわわわ。 - 24 : 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ (ワッチョイW 8dc3-Sbv5) 2015/11/05(木) 02:47:25.69 ID:ZWABZZ6E0.net
- 駄目。駄目だよ。
穂乃果の脳みそは、もう痕が消えないくらいにぎゅうと絞られたあとなんだから、こんなに怖い海未ちゃんから言い逃れる名案なんて浮かぶわけないし、ああ、それよりも、怖い。怖いよ海未ちゃん。
穂乃果は海未ちゃんの眼力にぷるぷる震えながら、ことりちゃんの名前を頭の中で念仏みたいに唱えて、びびびと助けて電波を送るくらいしかできなくて。
そしたらびっくり、びびびと穂乃果の携帯が震えて、本当にことりちゃんから電話がかかってきたの。 - 25 : 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ (ワッチョイW 8dc3-Sbv5) 2015/11/05(木) 02:50:05.76 ID:ZWABZZ6E0.net
- 「あ!ごめん海未ちゃん!!電話だよ!!」
神様仏様ことり様。南無南無。
ほっと胸を撫で下ろしながらスマホを取り出すと、目の前に何かが差し出されて。
そこにあったのは指のすうっと揃えられた、絹みたいに綺麗な海未ちゃんの手。
思わず身体が固まって、ひ、と声が漏れる。だって、今の穂乃果にはなにかの妖怪の手にしか見えなかったんだもん。
「電話、貸してくれませんか?」
にっこり海未ちゃん。震える穂乃果。
ぶーぶー音鳴る携帯は、ことりちゃんも一緒に怯えてるみたいで。
「はい……」
すとん。海未ちゃんの手にことりちゃんが乗りました。 - 26 : 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ (ワッチョイW 8dc3-Sbv5) 2015/11/05(木) 02:53:44.06 ID:ZWABZZ6E0.net
- 「よろしい」
言うなり海未ちゃんは髪の毛を払うために小さく頭を振ると、私のスマホを耳にあてた。
『ぁ、もしもし穂乃果ちゃん?』
微かに聞こえてきたのは、ことりちゃんのマカロンみたいに甘い声。
けどそれは「いいえ、海未です」なんていう妖怪の一声で、可哀想な悲鳴に変わっていた。
ことりちゃんごめんね。南無南無。
でも、それからのことりちゃんの声はごにゃごにゃとしか聞こえなくて、海未ちゃんも海未ちゃんで、はい、とか、ええ、とかほとんど相槌しか打たないものだから、
だんだん穂乃果もつまらなくなってきて、海未ちゃんが読んでた本をパラパラ捲ってみたり、「ね、海未ちゃん」って海未ちゃんにちょっかいかけたりしてた。 - 28 : 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ (ワッチョイW 8dc3-Sbv5) 2015/11/05(木) 02:56:38.27 ID:ZWABZZ6E0.net
- 海未ちゃんは少しだけ困ったみたいな顔をしたけど、ことりちゃんとお話ししながら余った片手でしっかり穂乃果のことも構ってくれて、私とことりちゃんの両方を大事にしてくれてるんだなあって思うと、嬉しくて身体がムズムズした。
しばらくして、海未ちゃんはうふふと笑みを混じえて電話を切ると、海未ちゃんの太ももの間にすっぽり収まって鼻唄をふんふん言わせてた穂乃果に、抱きつくようにもたれかかった。
「ことりちゃんなんだって?」
私はそのまま見上げるように頭を預けて、自慢のまげで海未ちゃんのほっぺたをくすぐってみた。 - 29 : 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ (ワッチョイW 8dc3-Sbv5) 2015/11/05(木) 03:00:12.20 ID:ZWABZZ6E0.net
- 「三人でまた映画を観ませんか、とのことですよ」
お返しとばかりに、海未ちゃんの人差し指が穂乃果のほっぺたに沈む。
冷たくてあったかくて、そしてちょっぴり強くて、穂乃果の口は間抜けな形に開いた。ぷえ。
海未ちゃんは満足そうに吐息を漏らすと、全く、と続けた。
「そういうことなら、コソコソなんてしなくても良かったのではありませんか?」
おや、と、お馬鹿な穂乃果はようやく気づく。 - 30 : 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ (ワッチョイW 8dc3-Sbv5) 2015/11/05(木) 03:01:40.68 ID:ZWABZZ6E0.net
- 海未ちゃんが楽しくお喋りしてたから、てっきり話を逸らしてたのかと思ってたけど、ことりちゃん、うまいこと誤魔化してくれたんだ。
ことりちゃんすごい。今度パフェでも奢ってあげよう。
だけども、あんまり呑気にもしてられない。ここで穂乃果が下手を踏んだら台無しだぞ。
そう自分に言い聞かせて、あうあう頭を振り絞る。
「だ、だって、えーっと、ほら、海未ちゃんラブストーリー苦手じゃん」
机の上で無造作に放られた、さっきまで穂乃果が読んでた漫画を指差して言った。
確かあれ、最近実写映画化されたんだよね。みてよことりちゃん、穂乃果、今最高に賢いよ。 - 31 : 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ (ワッチョイW 8dc3-Sbv5) 2015/11/05(木) 03:03:52.10 ID:ZWABZZ6E0.net
- そしたら、ぎゅうと穂乃果を抱く海未ちゃんの腕の力が強まって、海未ちゃんはそのままぽつりと零すように呟く。
「……いつかのことは私も悪いと思ってます。ですが、やはり除け者は……寂しいのです」
まげを一つ隔てた先から、耳をくすぐるような声。
右肩にかかる重みに、なんだか心はぽかぽかして、ちょっと苦しいと感じるくらいに穂乃果の身体を締める両腕も、むしろ気持ちいいと思った。
「穂乃果、私に内緒のお話なんて、しないでくださいよ」
甘えん坊な海未ちゃんって、結構かわいいんだよね。 - 46 : 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ (ワッチョイW 8dc3-Sbv5) 2015/11/06(金) 00:26:10.83 ID:9DrZyd/q0.net
- ***
「穂乃果ちゃん、またほっぺにクリームついてるよ」
ぐにぐに、かわいいアルパカのハンカチに穂乃果の頬が形を変えて。
照れ笑いしながらお礼を言うと、すぐに微笑みが返る。
穂乃果達は無事に映画を観終わったあと、近くのクレープ屋さんに寄ってクレープを食べてた。
無事にっていうのは、今度は二人ともことりちゃんをプリプリさせずに済んだって意味。
原作の漫画は穂乃果も好きなやつだったし、主人公が恋を叶えるまでのお話だから、海未ちゃんが縮こまっちゃうようなシーンもラスト以外はなくて、結構みんなで楽しめたよ。ほっ。 - 47 : 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ (ワッチョイW 8dc3-Sbv5) 2015/11/06(金) 00:28:07.47 ID:9DrZyd/q0.net
- 「ことりちゃんのやつ、美味しそうだねぇ。一口貰ってもいい?」
「うんっ、穂乃果ちゃんのも美味しそ~」
「じゃあ、食べさせっこだね! 海未ちゃんも!」
「私もですか? ふふっ、わかりました」
お店の中でポップスを聴きながらもいいけど、こうして外のベンチでぽかぽか陽気を浴びながら三人並んで食べるのも、乙なもんだよね。 - 48 : 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ (ワッチョイW 8dc3-Sbv5) 2015/11/06(金) 00:30:37.38 ID:9DrZyd/q0.net
- くしゃりくしゃりと道行く人が秋を鳴かせたり、時々からんからんと落ち葉が走ったり。その吹く風は少し冷たかったけど、寒さはすぐに太陽が拭ってくれた。
調理場からは色んな種類の溶けるような甘い香りが漂って、イチゴじゃなくてチョコにすれば良かったかな、なんて思いながら、穂乃果を挟んで飛び交う映画の感想を聞く。
穂乃果の心がぽかぽかしてたのは、眠たくなるような太陽の温もりのお陰でも、じわと掌に伝わるクレープの熱によるものでもなくて。
ふふ、と幸せを溢すと、赴くままにぷらぷら動く両足はそのままに、またクレープに齧り付いた。
とっても甘いな、と思った。 - 49 : 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ (ワッチョイW 8dc3-Sbv5) 2015/11/06(金) 00:33:24.47 ID:9DrZyd/q0.net
- 「はぁあ、私もあんな恋がしたいなぁ……。ね、穂乃果ちゃん」
浸るようにぽわぽわと桃色の雰囲気を纏いながら、ことりちゃんが言う。
ピクリ、海未ちゃんの身体が一瞬固まるのが見えた。
ことりちゃん、その台詞は、あんまり良くないかも……。
「そうだねぇ。やっぱり女の子なら、誰だってああいうのに憧れるよね。雪穂もおんなじこと言ってたよ」
私はそんな言葉でお茶を濁して、そういえば、と話題を変える。
「あのさ海未ちゃん」
「ふぁい?」
クレープで少し頬を膨らませたまま応えた海未ちゃんは、返事をしてからはしたないと思ったのか、ちょっぴり慌てた風に口のものを飲み込んで、一つ咳払いをしてからもう一度返事をし直した。 - 50 : 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ (ワッチョイW 8dc3-Sbv5) 2015/11/06(金) 00:34:57.94 ID:9DrZyd/q0.net
- 「海未ちゃんって、どうしてちゅーとか見ると恥ずかしくなっちゃうの?」
あ、とことりちゃんの声が聞こえて。
あ、と海未ちゃんのお口が少し開いて。
「穂乃果ちゃん……」
「えへへ、ごめんねことりちゃん」
不安げに穂乃果を見つめることりちゃんに、私ははにかんで返した。
海未ちゃんは握ったクレープに視線を落として。
中のクリームが少し盛り上がったのが見えた。
「海未ちゃん、実はね、コソコソしてたのってそのことなんだ。海未ちゃん恥ずかしがって絶対に教えてくれないだろうなって思って、ことりちゃんとどうしたらいいか相談してたの。
でも、海未ちゃんに内緒話はやだって言われて、確かにそうだなって思った。だから、その、寂しい思いをさせちゃってごめんね」
ちちち、どこかで鳥さんが鳴くのが聞こえた。 - 51 : 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ (ワッチョイW 8dc3-Sbv5) 2015/11/06(金) 00:37:05.24 ID:9DrZyd/q0.net
- 海未ちゃんは何かを考えるみたいに瞼を少し落として、それから僅かに瞳を震わせて穂乃果を見た。
「穂乃果、本当に思い出せませんか……?」
…………お、思い出す?
突然予想もしてなかった言葉をぶつけられて、穂乃果の頭は海未ちゃんの意味深な物言いにも、隣でおろおろしてることりちゃんにも全く構わず、今さっき摂ったばかりの糖分を全部使い果たしちゃうんじゃないかってくらい、ぐるぐるぐるぐる回ってた。
「あうあう」
それはもう、本当にそんな言葉が口から飛び出しちゃうくらいで、きっとそのときの穂乃果は絵里ちゃんよりも賢くなってたと思う。 - 52 : 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ (ワッチョイW 8dc3-Sbv5) 2015/11/06(金) 00:39:14.84 ID:9DrZyd/q0.net
- だって、海未ちゃんが悲しい顔をしてたから。
もしもそれが、穂乃果が海未ちゃんの恥ずかしがり屋の理由を忘れてることが原因なら、どうあっても思い出さないといけないって思ったから。
だけども、そうこうしてる内に、いよいよ海未ちゃんの目は本格的に潤んできて。
ああ、こんなことなら、来るときにほむまんをもう二つくらい余計に食べてくるんだった。
それとも、もしかしたらクリームとあんこは和と洋だから、相性が悪くて――。
和と、洋……。日本……アメリカ……?
穂乃果の頭に浮かんだのは、ウェーブのかかった金髪をてっぺんで結んだ、よく毒を吐いてお客さんの笑いをとるちっちゃな女の子。
……なんで、ミシェル?
――――あ!! - 53 : 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ (ワッチョイW 8dc3-Sbv5) 2015/11/06(金) 00:41:54.48 ID:9DrZyd/q0.net
- ***
『うみちゃあん!』
『あ、ほのか、おはようございんむぐっ!?』
『ぷはっ、えへへ、おはよー!』
『? !? ど、どうしていま……』
『あのね! アメリカではね! あいさつはちゅーでするんだって!』
『えっ、そうなのですか。し、しらなかったです……。でも、ここはニホンですよ?』
『? にほんだとちゅーしちゃいけないの?』
『ごうにいってはごうにしたがえ、ということばがあるのですよ』 - 54 : 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ (ワッチョイW 8dc3-Sbv5) 2015/11/06(金) 00:45:28.45 ID:9DrZyd/q0.net
- 『んみちゃんよくそんなむずかしいことばしってるねすごい!』
『おかあさまにおそわりました』
『へー、ほのかにはよくわからないや。……でも、べつになんでもいいんじゃないかな?』
『ええ?』
『ほら! うみちゃんもやってみればいいよ! ちゅー!』
『……ぅ、んぅむ……ちゅ、ちゅー……』
『んっ、えへへ、なんだかとってもなかよしー! ってかんじがするでしょ?』
『……………………ぁ…………はい……なんだか……すごく……』 - 55 : 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ (ワッチョイW 8dc3-Sbv5) 2015/11/06(金) 00:48:37.34 ID:9DrZyd/q0.net
- ***
閃き落ちて来たのは、穂乃果たちがまだ小さい頃の、そんな会話。
あ、あー……こんなようなことが、あったような……。
そうだよ、穂乃果、あのドラマをちっちゃい頃にも観てたんだよ。それで、「キスはあいさつ」ってことだけ覚えて、しかも何故か口と口でするものって勘違いもしちゃったんだ。
確か、あのあと海未ちゃんはお家で同じことをしようとして、驚いてひっくり返った海未ちゃんのお母さんにこっぴどく叱られて
(当時は、次の日に目を真っ赤に腫らしてきた海未ちゃんを見て、ごめんなさいって思うのと同時に、そんなに怒らなくてもいいのに! って思ったけど、
今考えてみると、娘が間違った貞操観念を持たないように敢えて厳しく躾けたんだってわかるよ。余計にごめんなさいだね……)。 - 56 : 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ (ワッチョイW 8dc3-Sbv5) 2015/11/06(金) 00:52:44.39 ID:9DrZyd/q0.net
- 穂乃果は穂乃果で、ことりちゃんにキスをしようとして「めっ!」って怒られちゃったし、海未ちゃん家から話を聞いたお母さんにも軽く叱られて
(二人とも貞操観念がどうというより、ファーストキスは大事にしなさいって言ってた覚えがある。穂乃果のファーストキスはとっくにお父さんに奪われてた訳だけど……)。
それで、次の日穂乃果は一生懸命海未ちゃんに謝って、まあこの通り仲違いにはならずに済んだけど、お義母さんの教育の成果で幼い海未ちゃんの中ではもうすでに"破廉恥=悪"っていう公式ができあがってて。
それで――今に至る……ってこと?
だよね? うん、そう。そうだよ! - 57 : 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ (ワッチョイW 8dc3-Sbv5) 2015/11/06(金) 00:56:27.49 ID:9DrZyd/q0.net
- 「思い出したよ!」
ずわっと立ち上がって海未ちゃんの正面に立つ。勢い余ってクレープを落としそうなった。危ない危ない。
「穂乃果が海未ちゃんのファーストキスを奪ったからだ!!」
穂乃果が叫ぶ。
そしたら、赤色が漫画みたいに海未ちゃんの首からおでこまでを駆けて。
「わ、わざわざ大きな声で言う必要がありますか!? こんな公衆の面前で!!」
海未ちゃんは驚きの余りベンチから立って、穂乃果を叱りつけた。
でも、その顔はほっとしたような、どこか嬉しそうにも見えた。 - 58 : 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ (ワッチョイW 8dc3-Sbv5) 2015/11/06(金) 00:58:15.81 ID:9DrZyd/q0.net
- 「穂乃果ちゃん……海未ちゃん……」
ことりちゃんの声にふと冷静になってみると、周りの視線はみんな穂乃果達に向いていて、クレープ屋さんのお姉さんに至ってはクスクスと笑ってすらいた。
そうなると流石に恥ずかしくて、二人であせあせとベンチに戻ると、誤魔化しにクレープを齧った。
頭に触れることりちゃんの手の温もりよりも、顔の熱さのほうが気になって。
「あのね穂乃果ちゃん、実はことり、海未ちゃんに言っちゃったんだ」
けど、その熱も、ことりちゃんの一言ですぅと消える。
賢い穂乃果にはその言葉の意味がわかったからね。
うーん、なんてこった。まさかことりちゃんが海未ちゃん側だったとは――――って。
「え、ええ~!!」 - 59 : 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ (ワッチョイW 8dc3-Sbv5) 2015/11/06(金) 01:06:27.37 ID:9DrZyd/q0.net
- ことりちゃんを見れば、ごめんね、と眉を下げて。
海未ちゃんを見れば、熱をまだ少し残したままこくりと頷いて。
「じゃあじゃあ、穂乃果が頑張って考えた作戦も、ことりちゃんが提案してくれた作戦も、全部海未ちゃんの手のひらの上だったってこと!?」
「うん、騙しててごめんね穂乃果ちゃん。でも、大事なファーストキスのことを忘れられてるなんて、流石に海未ちゃんが可哀想だったから……」
「ま、まさか、あのタイミングを見計らったかのような電話も……!?」
「いえ、あれは本当に偶然ですよ。まあ、話した内容は、穂乃果に思い出しそうな兆しがあるか等の現状報告でしたが」
そ、それじゃあ、映画を観るって言うのだって二人が通謀してたってことじゃん!
穂乃果、脳みそ捻り損じゃん! - 60 : 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ (ワッチョイW 8dc3-Sbv5) 2015/11/06(金) 01:09:06.19 ID:9DrZyd/q0.net
- 「ふ、二人とも酷いよ~!」
「酷いのはどちらですか! 乙女の大事なファーストキスを奪った挙句、あまつさえそのことを忘れてしまうなんて!」
「うっ……それを言われると、返す言葉もありません……」
「あはは……でもね穂乃果ちゃん、海未ちゃんは穂乃果ちゃんのことを騙したかもしれないけど、それは穂乃果ちゃんに自分の力で思い出してほしかったからなんだよ。そのことはわかってあげてね」
「うん、穂乃果がもし海未ちゃんの立場だったら、とっても悲しむと思う。海未ちゃん、ごめんなさい」
「……直接尋ねてきたときはどうしようかと思いましたが、結果として思い出してくれたので、まあ、良しとしましょう」 - 61 : 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ (ワッチョイW 8dc3-Sbv5) 2015/11/06(金) 01:10:59.63 ID:9DrZyd/q0.net
- 海未ちゃんはそう笑って、またクレープを食んだ。安心した穂乃果も真似をして、クレープの残りを口に放りこむ。
全部すっきりしたから、プラスでうまい!
と、思ったのも束の間――――。
突然ことりちゃんのお目々がしゅいんと妖しく細まって。
そのまま人差し指を穂乃果のほっぺに近づけると、いつの間にかついていたクリームを拭い取って言った。
「ところで、穂乃果ちゃん、海未ちゃん。 ……ことりもぉ、二人に内緒のお話をされるのは、ちょっと嫌かなぁ~」
そして、ふわり微笑みながら、指についたクリームを、ちゅっと音立てて舐めた。
「"ね、穂乃果ちゃん" "ね、海未ちゃん"」 - 62 : 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ (ワッチョイW 8dc3-Sbv5) 2015/11/06(金) 01:14:56.28 ID:9DrZyd/q0.net
- ドッキン――心臓が凍りつく。
あわわわわわわわわわ。
やっぱりことりちゃんにはバレてるよおぉ……。
こ、これは、あれだ。お……おやつにされるってやつだね。
ギギギと錆びついたロボットみたいに海未ちゃんの方を向けば、黒目を小さくしながら唇を一の字に閉じて、ひぃふぅみぃと冷や汗を転がす海未ちゃんがそこに居た。
他のみんなは知らないけれど、ことりちゃんは一度怒ると――――とぉっても怖い。
ぱちとアイコンタクトをして、せえので立って深々と腰を折る。
それから辺りに響き渡った私達の誠心誠意精一杯の謝罪。
クレープのお姉さんの、小さく笑いを溢す声が聞えた。 - 63 : 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ (ワッチョイW 8dc3-Sbv5) 2015/11/06(金) 01:18:07.12 ID:9DrZyd/q0.net
- ***
ギシリ――ベッドに腰掛けたまま両手を後ろでつくと、いつもの格好でクッションを抱いた海未ちゃんの身体が隣で微かに揺れた。
「……私は、いつまでもことりに言わずにいるということには、些か疑問を抱いてましたし」
誰に言い訳をしてるのか、海未ちゃんはそう呟く。
「あっ、ずるい。私が言おうって言っても恥ずかしいって嫌がったのは海未ちゃんじゃん」
「……すみません」
言うなり海未ちゃんはクッションに顔を埋め込んで、背中を丸めた。
「でも、許してくれて良かったね。今まで黙ってた分として『チーズケーキワンホール』を献上することにはなったけど」 - 64 : 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ (ワッチョイW 8dc3-Sbv5) 2015/11/06(金) 01:20:09.27 ID:9DrZyd/q0.net
- 「……どこで買います?」
体制はそのまま、海未ちゃんは顔だけ穂乃果に向けた。はらり前髪が海未ちゃんのおでこを擦る。
きゃあ、なんて歓声はあげないけど、普段と違ってちんまりとした海未ちゃんは、それでもいつもみたいにかわいい。
「そうだねぇ……。あ、この間三人で行ったショッピングモールは? あそこにあるケーキ屋さんを通り過ぎてくときに、ことりちゃんが商品棚のチーズケーキをじぃと見つめてたの穂乃果見たよ」
「ああ、あれですか。確か、中々名のしれたお店だったような気がします。少々値は張りますが、致し方ありませんね」
「穂乃果のお小遣いが消し飛ぶ」
「ふふ、お互い自業自得、ですよ」
そう言って、海未ちゃんはくうぅと伸びをすると、足だけベッドから降ろして、膝の上のクッションをふかふか弄ぶ。 - 65 : 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ (ワッチョイW 8dc3-Sbv5) 2015/11/06(金) 01:22:54.13 ID:9DrZyd/q0.net
- 「ねえ海未ちゃん、話は変わるんだけどさ」
「はい?」
「海未ちゃん、内緒話はやだって言ってたでしょ?」
「それがなにか?」
「ことりちゃんと通じてたなら、海未ちゃん、自分でそういう状況をつくったんじゃないの?」
む、と海未ちゃんの手が少しの間止まる。
「……それは、そうなのですが……その、恥ずかしながら……」
海未ちゃんはそうして途中まで言いかけたけど、お口をもにょもにょ動かして、次にへの字に噛んで、そして結局、もういいではありませんか! って有耶無耶にすると、クッションをまたふかふかふかと波打たせた。 - 66 : 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ (ワッチョイW 8dc3-Sbv5) 2015/11/06(金) 01:24:26.56 ID:9DrZyd/q0.net
- その姿を見てると、自然とほっぺが緩んで、ぽーっと頭に靄がかかったようになって、胸にじゅわーと暖かい何かが広がった。
えっと、こういうのを"愛しい"って言うんだっけ?
「あとさ、もう一個いい?」
「もうっ、なんですか」
「どーして海未ちゃん、穂乃果とならキスできちゃうの?」
一瞬流れる沈黙。
言ってから、しまったと思った。 - 67 : 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ (ワッチョイW 8dc3-Sbv5) 2015/11/06(金) 01:27:27.60 ID:9DrZyd/q0.net
- だって、ちょっと考えればわかることだよ。
穂乃果は「穂乃果とキスできる海未ちゃんがどうして"恥ずかしがり屋"なのか」って疑問に思った訳だけど、
普通は「"恥ずかしがり屋"の海未ちゃんなのに、どうして穂乃果とならキスできるのか」て、そう考えるよね。そのほうがよっぽど自然だよ。
ああ、しまった。そもそもの出発点からして間違えてたんだ。
やっぱり穂乃果はお馬鹿のままだったみたい。
「……どうして、でしょうか」
ぽむん、ぽむん。海未ちゃんは弄ぶ手を随分ゆっくりさせて、しばらく考え込む。
それから、思い立ったように穂乃果に"合図"を送った。 - 68 : 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ (ワッチョイW 8dc3-Sbv5) 2015/11/06(金) 01:30:24.01 ID:9DrZyd/q0.net
- 「ね、穂乃果」
それが私達の合言葉。
欲しいときは「あのね」でも、「ねえ」でもなくて、「ね」って声をかけるの。
そこにはyesもnoもなくて、返事は必ずキスじゃなくちゃいけない。
どちらかが提案した訳でも、二人で話し合った訳でもなくて、いつの間にかそうなってたんだけど、なんだかそういうのって特別って感じがして心地良かったから、そのまま使ってる。
ギシリ――ベッドが軋んだ。 - 69 : 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ (ワッチョイW 8dc3-Sbv5) 2015/11/06(金) 01:32:26.21 ID:9DrZyd/q0.net
- 「ぷは、どう? わかりそう?」
聞いてはみたけど。
あ、これは駄目だなって、すぐにわかった。
だって、海未ちゃんはもうすっかり目を蕩けさせて、「穂乃果の匂いがするから」ってお気に入りだったクッションも投げ出して、ただ頬を火照らせながら私の名前をうわ言みたいに繰り返していただけだったから。
「ね、穂乃果っ。ね、ね、ね」
海未ちゃんは一度スイッチが入ると、いつもこうだ。
いつもより早い気がするのは、二人だけの秘密じゃなくなった開放感で、ちょっとタガが緩んじゃったのかな?
えへへ、実は穂乃果が、そうなんだ。
ギシリ――ベッドが大きく軋んだ。 - 70 : 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ (ワッチョイW 8dc3-Sbv5) 2015/11/06(金) 01:36:13.85 ID:9DrZyd/q0.net
- 穂乃果が思うに、もしかしたら、やっぱり海未ちゃんってすごくえっちな女の子なんじゃないかな。
だってさ、破廉恥が悪いことって思ってるなら、普通は怖がるか、それとも嫌悪を示すかするでしょ?
確かに海未ちゃんも怖がるんだけど、海未ちゃんの場合は悪いものだから怖いんじゃなくて、恥ずかしいから怖がってるんだよ。
その証拠にほら、投げキッスとかは平気でするし。もし本当に忌み嫌ってるなら、たかが投げキッスと言えどできたものじゃないはずだよ。
それに、もうひとつ、海未ちゃんがえっちな女の子だっていう大きな証拠。
あの日初めて目にして、ぐすぐす泣いてしゃがみこんじゃった――大人のキス。
それだって、穂乃果となら、みて、こんなにも簡単に出来ちゃってる。
「んむっ……っは……ほのかっ……ほのかぁ……」 - 71 : 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ (ワッチョイW 8dc3-Sbv5) 2015/11/06(金) 01:38:02.33 ID:9DrZyd/q0.net
- どうしてだろうね?
穂乃果とすることなら破廉恥じゃなくなるとか? そんな訳ないよね。
今、すごくえっちなことしてるってことくらい、穂乃果でもわかるよ。なにせ大人のキスだもん。
うーん、わからない。困った。穂乃果の知らない海未ちゃんだ。
「ふあ……ぅんみっ…ちゃん……」
海未ちゃんは、えっちなことが嫌い。
だけど、もしこの調子の海未ちゃんがその先を知ってしまったら、どうなっちゃうのかはわからない。
それもまた、海未ちゃん自身はもちろん、穂乃果も知らない海未ちゃんだから。
……ねえ、穂乃果が知らない海未ちゃんなんて、居ちゃ駄目だよね?
ギシリ――ベッドは軋み続ける。 - 72 : 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ (ワッチョイW 8dc3-Sbv5) 2015/11/06(金) 01:39:22.75 ID:9DrZyd/q0.net
- ごめんねことりちゃん。
折角二人のことを打ち明けたのに、また内緒のお話ができちゃいそうだよ。
でも、許してほしいな。
この海未ちゃんは、私だけの海未ちゃんだからさ。
かわいくて、かっこよくて、愛しい海未ちゃん。
全部、見せるから。
全部を、見せて。
「ね、海未ちゃん」 - 73 : 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ (ワッチョイW 8dc3-Sbv5) 2015/11/06(金) 01:39:34.91 ID:9DrZyd/q0.net
- おしまい

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