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勇者「魔王を倒すのに剣など不要、鉄の盾があれば十分だ」
- 1 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/15(水) 01:54:16.24 ID:x29Stwv4o
- ― 魔王城 ―
魔王「ついにここまでたどり着いたか……忌まわしき勇者よ」
勇者「魔王……世界の平和のためにお前を倒す!」
魔王「ククク、しかしどうやら貴様は剣を持っておらんようだが……?」
勇者「お前を倒すのに剣など不要、この鉄の盾があれば十分だ」
魔王「強がりを抜かしおって……その思い上がり、すぐに叩き潰してくれる!」
- 2 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/15(水) 01:58:16.79 ID:x29Stwv4o
- 魔王「ゆくぞぉっ!」ギュオッ
魔王は高速で接近し、長く鋭い爪で勇者を引き裂こうとする。
勇者「……」バッ
盾を構える勇者。
魔王(やはりそうくるか!)
魔王(だが、盾は一つ! ワシの両手の爪を防ぐことはできんッ!) - 4 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/15(水) 02:01:13.36 ID:x29Stwv4o
- ――ドギャアッ!
次の瞬間、勇者の盾が魔王の顔面を強打していた。
魔王「がっ……!?」ヨロッ…
勇者「残念だったな……盾は守るだけの道具じゃないのさ」
魔王「ぐっ……!」キッ
魔王(これは……たしか『シールドバッシュ』という戦術! ぬかったわ……!) - 5 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/15(水) 02:04:45.33 ID:x29Stwv4o
- 魔王「たしかに今のは効いた……だが!」ババッ
跳躍し、勇者と距離を取る魔王。
勇者「!」
魔王「部下の報告によれば、貴様は魔法を一切使えんと聞く」
魔王「つまり、この間合いでは貴様には攻撃手段はない!」
魔王「ワシの地獄の炎で、一方的に焼き尽くしてくれるわッ!」ゴォォッ
魔王の右手に炎が召喚される。 - 6 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/15(水) 02:08:08.63 ID:x29Stwv4o
- 魔王「炎に焼かれ、もがき苦しみながら……地獄へ堕ちるがよい!」
ゴオォォォォォッ!
激しい炎が勇者を襲う。
勇者も咄嗟に盾でガードするが――
勇者「ぐうっ……!」
魔王「ほう、溶けぬとは……見かけによらず、なかなかいい盾だな」
魔王「だが、完全には防ぎ切れなかったようだ」
勇者「……」プスプス… - 7 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/15(水) 02:12:39.50 ID:x29Stwv4o
- 魔王「ワシに一撃を浴びせた罪は重い。この間合いからじわじわ命を削ってやる」
魔王「覚悟せいッ!」
勇者「……いや」
勇者「お前の炎を浴びる……これこそが俺の勝利への道筋だったのさ!」
魔王「なにィ!? どういうことだ!?」
勇者は魔王の炎をガードした盾を床に置く。
そして―― - 8 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/15(水) 02:17:14.82 ID:x29Stwv4o
- 勇者「これだけ熱ければ、いい焼き肉ができそうだ」ガサゴソ…
魔王「えっ……肉!?」
勇者は皮袋から肉を取り出すと――
勇者「俺は故郷では焼き肉店を経営しててね……その肉を持参してきたのさ」ジュゥゥ…
魔王(こいつ……焼き肉を始めやがったッ!)
勇者「熱があるうちに、どんどん焼かないとな」ジュゥゥ…
魔王「……」ゴクッ - 9 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/15(水) 02:19:16.77 ID:x29Stwv4o
- 勇者「そろそろひっくり返すか」ヒョイッ ジュゥゥ…
魔王「……」
魔王「な、なぁ……」
勇者「なんだ?」
魔王「あの……ワシにも食わせてくれんか?」
勇者「もちろんいいぞ!」ニコッ
魔王「おお……ありがとう!」 - 10 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/15(水) 02:22:18.38 ID:x29Stwv4o
- 勇者「ほれ、これなんかどうだ?」ヒョイッ
魔王「はふっ、はふっ、おお……うまい!」モグモグッ
勇者「これもよく焼けてるぞ」ヒョイッ
魔王「かたじけない!」モグモグッ
勇者「こっちも……まだ少し赤いけど」
魔王「ワシ……ちょっと生ぐらいの方が好きなんだよね」ハフハフッ - 11 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/15(水) 02:25:19.74 ID:x29Stwv4o
- 勇者「ほら、どんどん食べてくれよ」ジュゥゥ…
魔王「うむうむ」モグモグ
魔王「あー、うまい」ガツガツ
魔王「こりゃたまらん! 白米とビールが欲しくなるな!」ムシャムシャ
魔王(勇者め……実力では敵わんから、焼き肉でワシを懐柔するつもりか!?)
魔王(敵ながらやりおるわ!)ハフッハフッ
勇者「お、こっちも焼けてきた」ジュゥゥ… - 12 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/15(水) 02:29:34.50 ID:x29Stwv4o
- やがて、鉄の盾に宿っていた熱もすっかり冷め――
魔王「いやぁ~……食った、食った」ゲフッ
魔王「結局、ワシばかり食ってしまってすまんな」
勇者「なあに……いいってことさ」
勇者「ところで、魔王」
魔王「ん?」
勇者「俺は故郷を旅立ってからここにたどり着くまでに三ヶ月かかった」
勇者「この意味……分かるか?」
魔王「……!」 - 13 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/15(水) 02:32:52.41 ID:x29Stwv4o
- 魔王「ま、まさか……まさか貴様……!」
勇者「そのまさかだ」
勇者「みごとに全部平らげてくれたな……三ヶ月前の肉を……」
魔王「はうぅぅぅっ!」ギュルルルッ
魔王(や、やられた……!)
魔王(こいつの狙いは……シールドバッシュでワシを倒すことでも……)
魔王(焼き肉でワシを懐柔することでもなかった……!)
魔王(ワシを“食中毒”にすることだったのかぁぁ……!) - 15 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/15(水) 02:36:55.63 ID:x29Stwv4o
- 勇者「じゃあな……魔王」
勇者「大勢の人間を苦しめた分、せいぜい苦しんでくれ」クルッ
鉄の盾を拾い上げ、魔王に背を向ける勇者。
魔王「ま、待てっ……! 待ってくれぇ……!」
魔王(ダメだ……! 襲ってくる……! 猛烈な吐き気と……腹痛がッ!)ウエッ
魔王「ゆ、勇者ァッ……! 勇者ァァァァァッ!!!」ギュルルルルルッ
魔王「ウギャアァァァァァ……!!!」 - 17 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/15(水) 02:39:56.47 ID:x29Stwv4o
- こうして、勇者はみごと魔王を滅ぼし、故郷に凱旋を果たした。
人間界を覆っていた暗黒の霧は跡形もなく消え去り、人々の顔には笑顔が戻った。
しかし、勇者がこの勝利のために支払った代償は、決して軽いものではなかった……。 - 18 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/15(水) 02:45:03.22 ID:x29Stwv4o
- ― 城 ―
国王「勇者よ……よくぞ魔王を倒した!」
国王「おぬしの功績には、多大なる名誉と財宝で報いることを約束しよう」
勇者「ははーっ! ありがたき幸せ!」
国王「――しかし!」
国王「おぬしの焼き肉店は、食中毒を起こした罪で無期限の営業停止処分とする!」
勇者「トホホ……」
<おわり>

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