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穂乃果「鬼殺し」
- 1 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/07/31(日) 22:28:41.41 ID:swZZo0+H.net
- …………
………
……
穂乃果『というわけで、将棋棋士について取材してこいって言われちゃって……』
にこ「へえ、穂乃果も立派に社会人やってるわけね。じゃ」
穂乃果『ちょっとちょっと切らないで~!』
にこ「断わればよかったじゃない」
穂乃果『お願い! にこちゃんだけが頼りなんだよ~』
にこ「こっちも今取り込み中なんだけど」
穂乃果『!! スクープの予感!』
にこ「ただのプロ棋士にスクープもなにもないでしょ」
穂乃果『じゃあどうしたの?』
にこ「……師匠がまた弟子連れくるのよ」
穂乃果『ほぇ~~! 希ちゃん相変わらずだね! というわけで、今から希ちゃん家行くね!』
にこ「来なくていいから!」
穂乃果『じゃね~!』プツッ
- 2 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/07/31(日) 22:31:09.00 ID:swZZo0+H.net
- 希「穂乃果ちゃんから? どうしたって?」
にこ「ウチに取材くるらしいわよ」
希「将棋の?」
にこ「ええ」
希「うわぁ……。穂乃果ちゃんから取材される日がくるなんて、世の中わからんもんやね」
にこ「それより師匠!」
希「どうしよ? 和服着る? 取材なんやからちゃんとした格好しとかなあかんよね」
にこ「普段着でいいわよ。和服はタイトル戦のために取っときなさい。……ってそれより!」
希「あ、そろそろ凛ちゃん来る頃やん。どないしよ。やっぱり和服でもてなした方が……」
にこ「そうそれ! なんなのよ内弟子っていきなり!」
希「??」 - 3 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/07/31(日) 22:34:20.82 ID:swZZo0+H.net
- にこ「?? じゃないわよ! 普通そういうのって弟子の承認も得るもんじゃないの!?」
希「……しょうがないやん。凛ちゃんが弟子になるの、昨日決まったばっかなんやもん」
にこ「むぅ……」
希「急で悪いけど諦めて。それに……」
にこ「それに?」
希「まだ10歳だけど、凛ちゃん、強いよ? 将棋」
にこ「へえ……」
希「それにめっちゃいい子やし。仲良くなれると思うで?」
にこ「それはいいけど。花陽には話した?」
希「うん。明後日帰ってくるって」
にこ「それならまあ、いいけど……」
\ポンペイオ-ン/
希「お、凛ちゃんかな?」
にこ「気の抜けるチャイムね……」 - 4 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/07/31(日) 22:34:57.08 ID:swZZo0+H.net
- ガチャ
凛「こんにちは! 星空凛です! 今日からお世話になります!」
希「やっ、こんにちは凛ちゃん」
凛「ししょー! よろしくお願いします!」
希「ふふっ、そんな固くならんでええで? リラックスリラックス」
凛「はい!」
にこ「……へえ、コイツが新しく入ってくる内弟子ね」
希「凛ちゃん、こちら、ウチの最初の内弟子。矢澤にこ」
凛「矢澤、にこ」
にこ「ぬぁによ」
凛「弱そうだにゃ、にこちゃん」
にこ「あ"?」 - 5 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/07/31(日) 22:35:33.07 ID:swZZo0+H.net
- 希「あ、あはは……」
凛「最初の弟子だからって調子乗るんじゃないにゃ! 絶対絶対ぜーーーったい凛の方が強いもん!」
にこ「……………………」プルプルプル
希「あー、その、にこっち?」
にこ「…………が」
凛「凛負けないもん! 師匠の一番は凛だもん!」
にこ「上等よこのガキがぁ! 奨励会員舐めんじゃないわよ!?」
凛「がるるるる!!」
にこ「ぐるるるる!!」
希「えーと、まずはお茶にせーへん? 凛ちゃんも長旅で疲れたやろうし」
にこ「将棋!」
凛「将棋!」
希「いや、あの、2人とも?」
にこ「師匠! 将棋盤持ってきて! 七寸盤! 脚付き!」
凛「コテンパンにしてやるにゃー!」
希「ああもう、なんやこれ……」 - 9 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/07/31(日) 22:40:23.59 ID:swZZo0+H.net
- にこ「…………」パチッ
凛「…………」パチッ
希「2人とも落ち着こ? ほら、これから一緒に住むわけやし」
にこ「師匠は黙ってて」
凛「ってちょっと! なんでにこちゃんが『王将』なの!?」
にこ「なによ。なんか文句あんの?」
凛「凛のが強いもん! 凛が『王将』使う!」
にこ「はっ。笑わせるわね!」
凛「ぐぬぬぬぬ!」
にこ「べっべー!」
\ポンペイオ-ン/
希「お、穂乃果ちゃんかな? 出てくるねー」
希(なんやあの2人……。混ぜるな危険? 助けて穂乃果ちゃん……) - 11 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/07/31(日) 22:43:35.16 ID:swZZo0+H.net
- ガチャッ
穂乃果「こーんにーちはー!」
希「ああっ、穂乃果ちゃん。よう来てくれはったなぁ……」ウルウル
穂乃果「くれはった!? あの、希ちゃん? どうしたの?」
希「まあまあ、上がって。お菓子食べる? 荷物持ったげるね。疲れてない? 今お茶淹れるからね」
穂乃果「いっそ不気味なくらいのおもてなし! ほ、ホントにどうしたの希ちゃん!」
希「……来ればわかる」
穂乃果「うわっ、家上がるの嫌になってきたんだけど」
希「まあどうぞどうぞ」グイグイ
穂乃果「わわっ、押さないでよ希ちゃん」 - 12 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/07/31(日) 22:46:30.69 ID:swZZo0+H.net
- 凛「りーんーがーおーうーしょーうー!」
にこ「それは私に勝ってから言いなさい。歳も強さも私のが上なんだから」
凛「凛のが強いもん!」
希「うわ……、まだケンカしてる」
穂乃果「お、知らない子だ」
希「はーい2人ともいったんストーップ!」
穂乃果「ストーップ!」
にこ「あ、穂乃果じゃない。早いわね」
穂乃果「おっはよー!」
凛「?? だれにゃ?」
希「紹介するね。こちら高坂穂乃果ちゃん。雑誌のライターやってるウチの知り合いなんよ」 - 13 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/07/31(日) 22:47:38.48 ID:swZZo0+H.net
- 凛「強いの?」
にこ「いや、コイツは将棋に関しては素人よ」
凛「そうなんにゃ」
希「んで、この子が今日から入ってきたウチの内弟子なんよ」
凛「星空凛だにゃー!」
穂乃果「よっろしくぅ! それでそれで? さっそく将棋打つの?」
にこ「穂乃果、将棋は打つじゃなくて指すよ」
穂乃果「ふぇ? そうなんだ」
凛「ちなみに囲碁が打つなんだよ」
穂乃果「ほえぇ。メモメモ。凛ちゃん物知りなんだねっ!」
凛「えへへ……///」
にこ「ぬぁーに照れてんのよ。常識よ常識こんなん」
凛「あ"?」
にこ「あ"?」 - 17 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/07/31(日) 22:57:15.99 ID:swZZo0+H.net
- 専門用語も時々ありますので、分からない単語があったら遠慮なく聞いてください
鬼殺しー将棋の戦法の一つ
内弟子ー師匠の家に居候し将棋を学ぶ弟子のこと
奨励会員ープロ棋士の養成機関、兼、プロ棋士の登竜門。ここを好成績で通過することでプロ棋士になれます。アマチュア五段で奨励会5級相当 - 18 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/07/31(日) 23:07:24.95 ID:swZZo0+H.net
- 希「まあまあ落ち着いて。ほら、穂乃果ちゃんも来たしお茶にしよ?」
にこ「対局終わったらね」
凛「10分で終わらせるにゃ」
希「ケンカするほど仲がいい……?」
にこりん『よくないっ!』
穂乃果「息ぴったりだね! ねえねえ早くっ。勝負見てみたい!」
にこ「じゃあ先手あげるわよ。さっさと指しなさい」
凛「ふん! 後悔してもしらないにゃ!」
希「あの、手合いはどうするん?」
にこりん『平手でぶちのめす!』
穂乃果「息ぴったりだね!」 - 21 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/07/31(日) 23:24:08.00 ID:swZZo0+H.net
- 凛「…………」パチッ
にこ「…………」パチッ
穂乃果「ほえぇ。2人とも気合い入ってるねー」
希「……将棋指しは、将棋が命やからね」
穂乃果「い、命……?」
希「ふふっ、あんまり誇張でもないんよ? だいたい空気、水、食べ物、将棋。くらいの優先順位やから、将棋指しは」
穂乃果「ほへー」
希「あはは。まあ将棋分かんないと、そんなこと言われても分かんないよね」
穂乃果「正直なところ、そうだね!」
希「ということで、せっかくだからウチが解説してあげる」
穂乃果「わくわく」 - 23 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/07/31(日) 23:36:35.50 ID:swZZo0+H.net
- 希「まず、二人の初手は角道を開ける▲7六歩、△3四歩からやね」(先手を▲、後手を△で表します)
穂乃果「……ごめん、さっそくだけど日本語で説明してもらえる?」
希「えっとね、駒って種類が9つあるんよ。歩兵、香車、桂馬、とかいろいろね」
穂乃果「ふむふむ」
希「その中でもメチャクチャ強い『角行』って駒を活用するための手なんよ。▲7六歩と△3四歩は」
穂乃果「ふむふむ」
希「角行っていうのは、斜め方向ならどこまででも進める駒。……拳銃とかも安全装置外さな発砲できへんやろ? これはつまり、角行の安全装置を外す手なんよ」
穂乃果「ほへー。ってことは、開戦の合図ってこと?」
希「そういうこと!」
- 30 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/01(月) 00:46:11.99 ID:gwJ5tp2a.net
- 希「で、次の凛ちゃんの一手は……」
凛「……んっ!」パチッ
にこ「んなっ!?」
希「▲7七……っ」
にこ「桂跳ね!」
希「あはは、これまた凄い手やね」
穂乃果「?? なんでにこちゃんも希ちゃんも驚いてるの?」
希「……これは、いわゆる『鬼殺し』っていう戦法を狙った手なんよ。防御なんて考えない攻めの戦法」
穂乃果「鬼殺しっ! すごいね! 強そう! だからあんなに驚いてるんだ!」
希「いや、そうじゃなくてね」
穂乃果「ふぇ?」
希「鬼殺しっていうのは、奇襲戦法の一つなんよ。ハメ手、奇襲戦法、B級戦法、初心者殺し。いろいろ言われてるけど、あんまりいい指し方やない」
穂乃果「へー、そんな強そうなのにB級戦法なんだ」
希「これはね、じゃんけんでグーを出すって宣言するようなものなんよ」
穂乃果「ええ!? ダメじゃん! 負けちゃうよ!?」
希「破壊力はバツグン。だから初心者のにわか仕込みのパーならどかんと殴り飛ばせちゃうんよ」
穂乃果「ほえー」
希「でもグーだからねぇ。強い人のパーにはまず勝てない。故の初心者殺し。だからプロの公式戦じゃあまず使われない。……それに」
穂乃果「それに?」
希「ほら、角の安全装置つけ直しちゃってるやろ?」
穂乃果「ホントだ! 開戦拒否だ!」
- 42 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/01(月) 11:47:04.91 ID:gwJ5tp2a.net
- 希「棋は対話なり、って言葉があってね」
穂乃果「きはたいわ?」
希「そう。強い人同士はね、言葉を交わさなくても盤上で意思の疎通ができちゃうんよ」
穂乃果「テレパシー!」
希「ちゃうちゃう。相手の一手一手から、考えを汲み取るの。……凛ちゃんの▲7七桂は、言わば挑発の手」
穂乃果「挑発? ケンカ売ってるってこと?」
希「そう。あなたは初心者ですかー? ってね。プロボクサーのほっぺたぺちぺちする感じ」
穂乃果「めっちゃ挑発的だね!」
希「で、そんな煽りの▲7七桂に対して、大人気ないにこっちは当然……」 - 43 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/01(月) 11:50:40.63 ID:gwJ5tp2a.net
- にこ「…………ふぅ」
凛「…………」
にこ「…………ん」パチッ
凛「……。…………」パチッ
希「△7三歩に▲6五桂」
穂乃果「ほえー。これはどういう手なの?」
希「……凛ちゃんの挑発に、にこっちが挑発で返して、それをまた凛ちゃんが煽ってる感じ」
穂乃果「めっちゃ仲わるいね!」
- 45 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/01(月) 14:24:03.99 ID:gwJ5tp2a.net
- 希「にこっちも涼しい顔して、心中は穏やかじゃ無いやろねえ。自分より8つ年下の子供に挑発されるんやから。しかも、将棋で」
穂乃果「ねえ希ちゃん。なんか凛ちゃんが前後に揺れてるけど、あれなに?」
希「読みのリズムをとってるんよアレは」
穂乃果「へ? なにそれ?」
希「貧乏ゆすりみたいのもんやね。対局中に扇子ぱちぱち鳴らしてるの見たこと無い? あれと似てるかも」
穂乃果「へー。そういえばお父さんも家にたくさん扇子置いてたよ」
希「穂乃果ちゃんのお父さんもめちゃくちゃ強いで? あんまり高坂八段と将棋の話しないん?」
穂乃果「んー、お父さん無口だし」
希「まあ、そんなもんなんかなあ」 - 46 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/01(月) 14:38:45.41 ID:gwJ5tp2a.net
- 希「ともあれ、もうこの対局の骨の部分は出来上がったかな」
穂乃果「骨?」
希「そう。これからは凛ちゃんが攻める将棋。ひたすら攻めて攻めて攻めまくる」
穂乃果「にこちゃんは?」
希「にこっちは受けて受けて受けまくる。ひたすら防御やね」
穂乃果「てことは凛ちゃんが勝ってるってこと!?」
希「いや、そうでもないんよ」
穂乃果「?? ほえー?」キョトン
希「元々鬼殺しは攻める将棋やからね。凛ちゃんが責めるのは当然。……問題はにこっちがそれを受け止めきれるかどうか、なんやけど……」
- 49 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/01(月) 17:43:32.55 ID:gwJ5tp2a.net
- 穂乃果「だいぶ進んだけど、どっちが勝ってるの?」
希「……この局面やともう、先手優先やね」
穂乃果「えっと、先手って…….」
希「凛ちゃん」
穂乃果「ええ!? 凛ちゃん勝ってるの!?」
希「肉を切らせて骨を断った感じかな。凛ちゃんも痛いけど、にこっちはもっと痛い」
穂乃果「ほえー」
希「所詮小 学生と甘く見たか、研究が外れたか、読み落としか」
穂乃果「凛ちゃんも強いんだねえ」
希「せやね。…………でも、ここからはちょっと、一筋縄じゃいかないと思うよ?」
穂乃果「……えっ?」ゾワッ
にこ「…………」シュルッ
凛「…………っっ」
穂乃果「髪留めを外した……?」 - 50 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/01(月) 19:10:03.27 ID:gwJ5tp2a.net
- 希「あれはにこっちの本気モードやね」
穂乃果「えっと、……実は重さが30キロくらいあって、落としたらドゴッってなるやつ?」
希「あっはっは」
穂乃果「ものすごく雑に笑われたっ」
希「まあ確かに、似てるっちゃ似てるかな? あんね、自慢やないけど、棋士ってめちゃくちゃハイスピードで脳を回転させてるんよ」
穂乃果「ふーん?」
希「『アイルトン・セナは時速300キロの世界に神の存在を見たと言ったが、将棋にも思考の最中、時速300キロの世界がある』」
穂乃果「へ? アイルトン・セナってだれ?」
希「天才F1レーサー。車でビュオーンてするやつ」
穂乃果「説明ざっくり!」
希「そういう、それこそ100メートルを1.2秒で駆け抜けるような速さで思考する棋士にとって、自分が極限まで集中できる環境を作り出すのってすごく大事なんよ」 - 51 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/01(月) 19:35:58.03 ID:gwJ5tp2a.net
- 穂乃果「それがにこちゃんにとっての、髪留めを外すことってこと?」
希「そういうこと。冷えピタ貼ったりとか、メガネを拭いたりがスイッチの人もいるよ」
穂乃果「…………わあ」
にこ「……………………」パチッ
凛「……………………」ユラユラ
穂乃果(にこちゃんが覆い被さるみたいに、盤面をのぞき込む)
穂乃果(ストレートになった髪をかきあげて、一心不乱に、読む)
穂乃果「にこちゃんのあんな真剣な姿、見たことない……」
希「にひひ、かっこええやろ?」
穂乃果「……うん」
希「こうなったにこっちの『受け』はホント粘り強いから。……ウチでもちょっと、攻めあぐねる」 - 52 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/01(月) 21:00:21.67 ID:gwJ5tp2a.net
- 穂乃果「え? でも希ちゃんて……」
希「うん、これでも一応、プロ。六段」
穂乃果「それなのに?」
希「にこっちは、性の根っこからガッチガチの受け棋風やから」
にこ「……奨励会員、なめんじゃないわよ」パチッ
凛「ぅぅ……」
希「ここから先は、にこっちの土俵」
…………
………
…… - 53 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/01(月) 21:17:25.67 ID:gwJ5tp2a.net
- 凛「……負け、ました」
にこ「ありがとうございました」
凛「…………」
にこ「…………」
穂乃果(それから十数分。息の詰まるような時間を経て、ようやく対局が終わって)
穂乃果(ていうか、……うわわわわ。なんかしゃべれる気配じゃなーー)
にこ「……うふふふははっ、勝った勝ったー!」
凛「むにゃーーー! うるさいうるさいうるさーーい! 」
穂乃果「急に明るっ!?」
にこ「ふっふっふ! これで内弟子の序列がはっきりしたわね! 今後生意気な口きくんじゃないわよ!」
凛「ぐぬぬぬぬぬぅ! もう一回! もう一回やる!」
にこ「あーん? まあ駒落として指導対局ならしてやってもいいけどー?」
凛「平手に決まってるにゃー! 次こそ勝つもん!」 - 55 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/01(月) 21:57:27.86 ID:gwJ5tp2a.net
- 希「こらこら二人とも、感想戦はやらなあかんよ? 先にそっちやりなさい」
にこ「はーい」
凛「はいにゃ……」
穂乃果(二人がぺちぺちと駒を並べだす)
穂乃果「希ちゃん、感想戦てなに?」
希「んーとね、反省会みたいなもんかな」
にこ「今の対局の流れを、一手一手最初から最後までトレースするのよ。それでどの手が悪かったのか、どの手が良かったのかを振り返るってわけ」
穂乃果「ほえ……。それって、つまり」
希「何手目にどの駒をどこに動かしたのか、覚えとかないとあかんね」
穂乃果「なにそれこわっ!?」 - 56 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/01(月) 21:58:35.50 ID:gwJ5tp2a.net
- 凛「7六歩」ペチッ
にこ「3四歩」ペチッ
凛「7七桂」ペチッ
穂乃果「ちょ、ちょ、ちょっと待って!? それ、普通はできないよね!? できて当たり前の技能とかでは、ないよね!?」
希「棋士やから」
穂乃果「あの、凛ちゃん……」
凛「にゃ?」
穂乃果「ホントに覚えてるの……?」
凛「7六歩、3四歩、7七桂、7三歩、6五桂、5二飛、7八飛、7二金、7五歩、6四歩、7四歩、6五歩、4八ぎょーー」
穂乃果「わかった! わかったもう大丈夫!」 - 57 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/01(月) 23:05:43.08 ID:gwJ5tp2a.net
- 穂乃果「将棋する人って怖いね……」
希「あはは、怖いって酷いなぁ」
穂乃果「ってことは、お父さんも感想戦? ってやつできるのかな?」
希「高坂八段? そりゃもう。ウチらより断然強いし、息するように並べられるんちゃう?」
穂乃果「ほえええええ……。ちょっとお父さん、見直したかも」
希「家帰ったら、たまにはお父さんに将棋教わってみたら? きっと嬉しがると思うでー?」
穂乃果「そうしよっかなぁ」
にこ「ここで歩の垂らしはあったんじゃない? どうせ駒足りなくなるのは目に見えてたわけだし」
凛「同銀としてどうするの?」
にこ「同銀以下、7二飛、6二金、7四歩、」
凛「あーあーあー! そっかぁ……なるほどにゃー」
希「どれどれ、ウチもまぜてー♪」
穂乃果「将棋するひとって、すごいなぁ……」 - 58 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/01(月) 23:36:06.98 ID:gwJ5tp2a.net
- ~その夜~
ほのパパ「…………」モグモグ
穂乃果「そういえばお父さん」モグモグ
ほのパパ「…………」??
穂乃果「仕事の関係で将棋について話訊きたいんだけど……」モグモグ
ほのパパ「…………!!」コクコク
ほのママ「こら穂乃果、話すか食べるかどっちかにしなさい」
穂乃果「はーい」
雪穂「それにしてもお姉ちゃんが社会人なんてねぇ……」
穂乃果「どういうことそれー」
雪穂「天変地異」
ほのママ「驚天動地」
穂乃果「酷い言われようだね……」
ほのパパ「…………」モグモグ ゴックン
ほのパパ「…………」ゴチソウサマデシタ
ほのママ「あら? お父さん食べるの早いわね」
ほのパパ「…………♪」ショ-ギバン ダシテクル
穂乃果「お父さん、めっちゃ嬉しそうだったね……」
ほのママ「私もだけど、穂乃果も雪穂もぜんぜん将棋やらないからねぇ」
雪穂「私お風呂入ってこよーっと」
雪穂「ってうわっ、お父さんその将棋盤めちゃくちゃ高かったやつじゃなかった!?」
ほのパパ「…………」ヨッセ ホイセ
雪穂「お、落とさないでよ……?」
ほのパパ「…………♪」 - 61 : 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/08/02(火) 00:57:45.33 ID:zQT5oXeO.net
- 高坂穂乃果ー雑誌のライター。周囲に将棋棋士が多いせいで将棋の記事を任されるが、本人は駒の動きもよく知らない。父に高坂ほのパパ八段を持つ。
東條希ー史上初にして唯一の女性プロ棋士。段位は六段。タイトル経験、一般棋戦優勝回数、共に0。振り飛車党。華麗な捌きを得意とし、決め台詞は「スピリチュアルやろ?」
矢澤にこー東條希の内弟子。奨励会1級。居飛車党。好きな囲いは矢倉。あるこだわりから343戦法を鍛えていた時期があったが、断念。252戦法を開発できないものかと頭を抱えたりする時期も。
星空凛ー10歳。東條希の弟子となるため、遠路はるばる親元を離れてやって来た不屈の小 学生。得意戦法は力戦調の将棋。
高坂ほのパパー将棋プロ棋士。八段。居飛車党。 - 66 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/02(火) 11:38:29.57 ID:Iw6CzpL+.net
- * * *
穂乃果「うみちゃ~ん! ことりちゃ~ん!」
海未「おはようございます、穂乃果」
ことり「穂乃果ちゃんおはよっ♪」
穂乃果「おはよー! ごめんね遅くなって。仕事が長引いちゃってさー」
海未「……穂乃果が、仕事?」
穂乃果「……驚天動地とか言わないでね?」
海未「では、空前絶後で」
穂乃果「違うボキャブラリーで表現してって意味じゃないけど!」
ことり「まあまあ、とにかくお茶でもしながら話そ?」 - 68 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/02(火) 18:32:19.88 ID:Iw6CzpL+.net
- 海未「なるほど、それで将棋を」
穂乃果「ホント酷いよー? お父さん張り切っちゃって寝かせてくれなかったし!」
海未「なっ!? 寝かせっ///」
ことり「意味違うよ?」
海未「わかってますっ」
穂乃果「おかげで寝不足だよー」
ことり「たくさん教わったんだ?」
穂乃果「うんっ。駒の動きはマスターしたかな。あと用語も。詰み! 詰めろ! 必死! 腹銀! 遠見の角! 一間龍!」
海未「……ほう? では穂乃果、試しに私と対局しませんか?」
穂乃果「……ほえ? 海未ちゃんできるの?」 - 69 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/02(火) 18:33:27.70 ID:Iw6CzpL+.net
- 海未「祖父に教わりました」
ことり「海未ちゃんのおうち、そういうの得意そうだもんね」
穂乃果「わぁぁ、やるやる! やるったらやる! お父さんに教わった修行の成果、見せちゃうよーっ!」
海未「園田家の威信にかけて、負けられません!」
ことり「というわけで、ここに磁石でぺたぺたできる将棋盤があります」
ほのうみ『どっからでてきたの!?』
ことり「じゃあ私は審判やるね?」
穂乃果「審判てなに!? なにする人!?」
ことり「よーい! スタート~!」
海未「そういう競技じゃないですって!」 - 71 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/02(火) 18:51:39.74 ID:Iw6CzpL+.net
- …………
………
……
海未「……負けました」
穂乃果「ありがとうございました」
海未「…………」
穂乃果「……あの、なんていうか」
海未「……はい」
ことり「ぐだっぐだだったね!」
ほのうみ「やめて!?」
ことり「ことり将棋のルールわかんないけど、でも、伝わってきたよ! 二人の熱いハート!」
ほのうみ「だからやめて!?」
海未「ぅぅ……」
穂乃果「なんというか悲惨だったね……」
海未「王手放置3回、駒の動かし間違い2回、ニ歩2回……」
穂乃果「気づいたミスだけでこれだからね……」
海未「ぐぬぬぬっ、穂乃果! こんなんではダメです! もう一回! キチンと将棋しましょう!」 - 73 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/02(火) 19:03:32.50 ID:Iw6CzpL+.net
- 穂乃果「待って海未ちゃん! 感想戦は忘れちゃダメだよ!」
海未「感想戦ですか?」
穂乃果「今の勝負をもう一回並べ直すんだよ!」
ことり「ふぇ? どうして?」
穂乃果「お父さん曰く、将棋を強くなりたいなら絶対やんないとなんだって! 勉強も復習しないと身につかないでしょ?」
海未「ふむ、一理ありますね。では並べなおしましょう」
穂乃果「…………」
海未「…………」
穂乃果「あのさ……」
海未「……はい」
穂乃果「……どっちが先手だっけ?」
海未「…………」
ことり「ぐだっぐだだね!」
ほのうみ「ホントね!!」 - 76 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/02(火) 20:10:56.24 ID:Iw6CzpL+.net
- * * *
ほのパパ「…………」パチッ パチッ
穂乃果「ねえお父さん」
ほのパパ「…………?」
穂乃果「お父さんてどのくらい強いの?」
ほのパパ「…………?」ドノクライ?
穂乃果「今日海未ちゃんと戦ってみたけどすごいグダグダでさー」
ほのパパ「…………」ウンウン
穂乃果「それで、実はお父さんてすごいんじゃないかって思って」
ほのパパ「…………///」テレテレ
穂乃果「てれてれじゃないよー! どのくらい強いのかって訊いてるの!」
ほのパパ「…………?」ウ-ン
ほのパパ「…………」タイキョクスル?
穂乃果「ふぇ?」 - 77 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/02(火) 20:25:00.81 ID:Iw6CzpL+.net
- ほのパパ「…………♪」パチッ パチッ
穂乃果「い、いやいや無理だって! 勝てるわけないでしょそんなの!」
ほのパパ「…………♪」ダイジョ-ブ
穂乃果「……ってお父さんこれ」
穂乃果「王様と金だけ!?」
ほのパパ「…………♪」
穂乃果「これで勝負するの?」
ほのパパ「…………」ウン
穂乃果「……もしかして舐められてる?」
ほのパパ「…………?」
穂乃果「せめてもう一枚金増やすとか、しないの?」
ほのパパ「…………?」
穂乃果「むぅぅ! もういい! 穂乃果怒ったもん! コテンパンにしてあげるからね!」
ほのパパ「…………」スゥゥウ
ほのパパ「よろしくお願いします」
穂乃果「…………っっ!?」ゾクゾクッッ!
穂乃果「…………ぇ、ぁ、よろしくお願いします」
穂乃果(なに、今の気迫……) - 82 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/02(火) 21:06:34.88 ID:Iw6CzpL+.net
- ほのパパ「…………ッ!」初手▲5八金!
穂乃果(と、とりあえず△8四歩!)パチッ
穂乃果(飛車と角を使うのが将棋の鉄則! このまま飛車先の歩をついていく!)
穂乃果(このままと金作るのは許せないだろうから、玉と金が右側に寄ってきて、えっと……)
穂乃果(そうだ! そこで角の安全装置を外して、えっとえっと……?)
ほのパパ「…………ッ」▲4八玉
穂乃果「ふぇ? お父さん、これと金出来ちゃうけど……?」
ほのパパ「…………」コクン
穂乃果「もう、知らないからね!」△8五歩
- 84 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/02(火) 21:30:31.39 ID:Iw6CzpL+.net
- 穂乃果(と金を作れる、飛車も成れる。あとは角道を開ければ角も成れる!)
穂乃果(こんなので負けるわけがないよ!)
…………
………
……
雪穂「あれ、お姉ちゃん勝負してるの?」
穂乃果「うん!」
雪穂「どう? どのくらい負けてる?」
穂乃果「なんで負けてる前提なの! 勝ってるよ! ……たぶん」
雪穂「へ? うそ」
ほのパパ「…………」ユラユラ
穂乃果「ねえお父さん! 勝ってるよね!?」
ほのパパ「…………」ユラユラ
雪穂「……晴天の霹靂?」
穂乃果「なんでっ!?」
ほのママ「ほのかー、勝ってるって言ったってハンデありでしょ?」
穂乃果「うわっ、お母さん見てたのっ?」
ほのママ「そりゃ居間で対局されたら見えちゃうわよ」
雪穂「なんだハンデありなんだ」
穂乃果「で、でも勝ってるものは勝ってるんだもん!」
ほのパパ「…………」ユラユラ - 85 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/02(火) 21:52:29.95 ID:Iw6CzpL+.net
- 雪穂「それで、今どんな感じなの?」
穂乃果「今、飛車が成ったとこ、ろっ!」パチッ △8八飛車成
雪穂「ふーん? ……ってうわっ、お父さんの陣地スカスカじゃん! どんだけハンデ貰ったの!?」
穂乃果「飛車でしょ? 角でしょ? 歩が1.2...9枚に金1枚、銀桂香2枚、かな?」
雪穂「……それでよく「こっちが勝ってる!」なんて誇れるね」
穂乃果「うっ……。盤上に愛はないんだよ! 勝ちか負け! それだけなの!」
ほのパパ「…………」ユラユラ
雪穂「まあいいけどね」
ほのパパ「…………ッ」パチッ!
穂乃果「うわっ!? なんか金が突進してきた! えーっと、これはマズイから銀上がって……」
ほのパパ「…………ッ」パチッ
穂乃果「えっと、この歩は取るしかないよね?」ヒョイッ
ほのパパ「…………」パチッ! ▲2三金!
穂乃果「うぇえええ!? あっ、あれれ!?」
- 87 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/02(火) 23:02:10.10 ID:Iw6CzpL+.net
- 雪穂「お姉ちゃんどうしたの?」
穂乃果「…………ええと」
雪穂「あ、分かった。なんかミスしたんでしょ?」
穂乃果「ええとね、バトル物の漫画に例えると」
雪穂「いや例えなくてもいいけど」
穂乃果「コイツ、速いっ……!? 一瞬で懐にっっ! ……みたいな感じ」
雪穂「……要するにミスしたってことでしょ?」
穂乃果「ぅう……。……で、でもまだ圧倒的に優勢だし! ……たぶん」
ほのパパ「…………」
ほのママ「あら? ちょっとお父さん。明日対局あるんじゃなかった?」
ほのパパ「…………」ユラユラ - 88 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/02(火) 23:09:09.80 ID:Iw6CzpL+.net
- ほのママ「ちょっとお父さーん」
ほのパパ「………! ………?」
ほのママ「明日対局あるんじゃないの? 竜王戦の7局目ってスケジュール帳に書いてあるけど」
穂乃果「りゅーおーせん?」
ほのパパ「…………」カッタラ 4200マンエン
穂乃果「…………は?」
雪穂「…………は?」
ほのママ「あらあら、明日に備えて早めに寝たら?」
ほのパパ「…………」ダイジョ-ブ
ほのゆき「…………い」
ほのパパ「…………?」
ほのゆき『い、いやいやいやいや大丈夫じゃないでしょ!?』
ほのパパ「…………?」ドウシタノ?
穂乃果「どうしたのじゃないよ! よっ、よよよよんせんにひゃくまんて! よんせんにゃくまんてどゆこと!?」
雪穂「そうだよ! 明日そんな大事な試合あるなら早く寝なよ!」
ほのパパ「…………」...ヤダ
穂乃果「いや、やだって……」
ほのパパ「…………」コレオワッタラ ネルカラ - 89 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/02(火) 23:18:31.02 ID:Iw6CzpL+.net
- ちょっとミスです
タイトル戦のような重要なイベントは対局場が地方の有名旅館になることが多く、そのため前日までには会場に着いて宿泊するのが一般的
対局当日に家を出るのでは間に合わないことが多いのです - 90 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/02(火) 23:34:17.00 ID:Iw6CzpL+.net
- ほのパパ「…………」ユラユラ
穂乃果「…………ぁ」
希『そういう、それこそ100メートルを1.2秒で駆け抜けるような速さで思考する棋士にとって、自分が極限まで集中できる環境を作り出すのってすごく大事なんよ』
希『読みのリズムをとってるんよアレは』
穂乃果(本気なんだ)
穂乃果(本気で穂乃果に、勝とうとしてるんだ)
穂乃果「…………っ」ゾクッ
雪穂「お父さん! 寝たほうがいいって! ほら、お姉ちゃんも言ってやーー」
穂乃果「……ふっ、ふふふふふっ!!」
雪穂「お姉ちゃんが壊れたっ!?」
穂乃果「上等だよ! 絶対! 絶対絶対ぜーーーーったい負けないもん!」
雪穂「お姉ちゃん!?」
ほのママ「あらあら」ニコニコ
ほのパパ「…………」パチッ!
穂乃果「…………!!」ユラユラ - 92 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/02(火) 23:56:17.84 ID:Iw6CzpL+.net
- …………
………
……
穂乃果「…………っくぅ!」パチンッ!
ほのパパ「…………」ヒョイ
穂乃果「まだ……っ!」パチッ!
ほのパパ「…………」スッ
穂乃果「…………うぅ!」
穂乃果(こっちのが優勢、……のはず)
穂乃果(何枚か駒は渡しちゃったけど、こっちは飛車も成れてるし角も成れてる。持ち駒もある)
穂乃果(それに対してお父さんの玉は、守り駒が一枚もない完全な無防備……!)
穂乃果(なのに……っ、なのに……!)
穂乃果「なんでっ、……捕まらないのっ!」パチッ
ほのパパ「…………」スッ
穂乃果(一見簡単に詰みそうな玉が、落とした駒の分だけ広い盤面を最大限に活用して、ぬるぬると滑り上がるように逃げていく)
穂乃果「…………っく!」パチッ!
穂乃果(堪えが効かなくなって深く考えずに指した、それが敗着)
ほのパパ「…………」フゥ
ほのパパ「…………」パチッ
穂乃果(玉をひたすら逃していたお父さんの手が、おもむろに私の陣地に伸びてきて)
穂乃果「え? ……あ、あれ?」
穂乃果「…………これ、詰み?」 - 93 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/03(水) 01:34:05.64 ID:j8WuamsV.net
- …………
………
……
希「あはははは! 高坂八段容赦ないなぁ!」
穂乃果「笑い事じゃないよぉ! 20枚中18枚駒落としてもらって負けるって、そういうことあり得るの!? あり得ないよね!?」
希「くくくっ、ぷふはははっ!」
穂乃果「ちょっ、笑わないでよぉ~!」
希「いやぁ、ごめんごめん。べつに穂乃果ちゃんのこと笑ったわけやないんよ?」
穂乃果「ふんっ、いいもん。どうせ弱いですよーだ。雪穂にもさんざんバカにされたし……」
希「ふふっ、あのね穂乃果ちゃん」
穂乃果「なにさー」プンプン
希「知ってるかもしれないけど、実はプロ基準の段級位とアマチュア基準の段級位ってレベルが全然違うんよ」
穂乃果「ほぇ?」
希「穂乃果ちゃんは『将棋五段』てどのくらいだと思う?」
穂乃果「五段? めちゃくちゃ強そうだけど。お父さん八段なんだよね?」
希「この前ウチに弟子入りしてきた星空凛ちゃん覚えとる?」
穂乃果「? うん」
希「あの子五段」
穂乃果「えええ!?!? 五段!?」
希「アマチュアのね」 - 94 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/03(水) 01:45:03.68 ID:j8WuamsV.net
- 穂乃果「……あ、プロとアマチュアで違うってそういうこと?」
希「そう。同じ五段でも、アマチュア五段とプロ五段じゃ強さが全然ちゃうの」
穂乃果「じゃあアマチュア五段てプロ何段?」
希「四級」
穂乃果「…………は?」
希「だいたいだけど、アマチュア五段でプロ基準の四級」
穂乃果「ええっと、四級って……」
希「四級からどんどん、三級二級一級初段二段三段と強くなっていって、四段から正式なプロを名乗れるの」
穂乃果「……それでお父さんは、八段」
希「ちなみに穂乃果ちゃんは、アマチュア10級」
穂乃果「そりゃ負けるよ!!!!」
希「くふふふふはははっ! しゃーないしゃーない。高坂八段、あれで負けず嫌いだから。娘に負けて舐められるのは嫌やったんやろな」 - 96 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/03(水) 12:58:13.29 ID:j8WuamsV.net
- 希 「そうだ。そろそろ竜王戦始まるから穂乃果ちゃんも見ない?」
穂乃果「竜王戦? お父さんが出るやつ?」
希 「テレビじゃあないんやけど、動画配信サイトでパソコンから中継見れるんよ」パソコン カチカチ
希 「お、映った映った」
穂乃果「…………ぁ」
穂乃果 (お父さん、和服着てる……)
希 「凛ちゃーん! にこっちー! 竜王戦始まるよー!」
にこ凛「はーい! 見る見る見るー!」ドタバタ
穂乃果「竜王戦ってそんなにすごいの? 賞金がすごいのは聞いたけど」
希 「賞金は二の次」
穂乃果「ほえ?」
希 「最強の棋士である竜王の称号は、4200枚の万札よりも重いんよ」
穂乃果「さい、きょう……? お父さんが?」
希 「名人のが格式は高いけどね。その竜王の称号が、今日と明日で決まる。
将棋指しにとっては年に一回か二回の大イベント」
穂乃果「そんなに……」 - 101 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/03(水) 17:14:40.89 ID:j8WuamsV.net
- 現竜王「よろしくお願いします」
高坂八段「よろしくお願いします」
パシャパシャパシャッ!!
凛「始まったにゃ!」
穂乃果「なんか、すごいカメラで撮られてるけど……」
にこ「最初だけよ。挨拶と、あとは一手目二手目を撮影したら記者たちは退室」
希「こんなに撮られたまま対局はできないからね」
穂乃果「そっか……」
穂乃果(初めて見たけど)
穂乃果(お父さんは、こういう世界で生きてるんだ……)
高坂八段「…………」パチッ
パシャパシャパシャ!!
希「高坂八段の先手、▲7六歩」
凛「普通の初手だにゃ」
にこ「ここで竜王が△8四歩なら矢倉か角換わりか、△3四歩なら横歩取り?」
現竜王「…………。…………」パチッ
パシャパシャパシャ!!
凛「△8四歩!」
希「矢倉!?」
にこ「矢倉は先手厳しいんじゃない? 後手左美濃急戦がーー」
穂乃果(なにこれ意味わかんない……) - 102 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/03(水) 17:34:54.25 ID:j8WuamsV.net
- 希「穂乃果ちゃん。これは戦型の予想をしてるんよ」
穂乃果「矢倉とか?」
希「そう。現竜王も高坂八段も、両者居飛車党やからね」
にこ「考えられる戦型は矢倉、角換わり、横歩取り、合いがかりの4つ」
凛「凛は相矢倉見たいにゃー。左美濃急戦なんて邪道!」
にこ「あんたは色んな戦型勉強しなさい」
穂乃果「……ほえー」
高坂八段「………………」ス- ハ-
希「それにしても高坂八段、なかなか指さんね」
にこ「そりゃ大一番の舞台だし緊張するでーー」
高坂八段「…………。…………ッッ!」パチッ!!▲5六歩 - 103 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/03(水) 17:35:30.37 ID:j8WuamsV.net
- にこ「は?」
希「は?」
凛「は?」
穂乃果「ん?」
パシャパシャパシャパシャパシャパシャ!!!!!!
のぞにこりん『はああああああああああああ!?!?』
穂乃果「ひえっ!?」
のぞにこりん『ゴキゲン中飛車!?』 - 104 : 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/08/03(水) 19:11:49.55 ID:m/gcl9I4.net
- 穂乃果「なに!? どうしたの!?」
にこ「あんたのお父さんが振り飛車の戦法使おうとしてんのよ!」
凛「竜王戦最終局の、絶対負けられないこのタイミングでゴキ中!? ど、度胸がどうにかしてるにゃー……」
穂乃果「ど、どゆこと?」
希「えっとね、将棋の戦法は大きく分けて『居飛車』と『振り飛車』の二つなんやけど」
穂乃果「あ、わかった。居飛車のお父さんが振り飛車使ったってこと?」
希「そう!」
穂乃果「それがそんなに驚くことなの?」
希「まあ、このあたりは将棋ささない人には分かりにくいかも……」
にこ「驚くことよ! ただでさえ最近は『振り飛車は不利飛車』なんて揶揄されるくらい下火の戦法なのに! それをこの大舞台で! 高坂八段ホントにちゃんと研究してきてるんでしょうね!?」
希「ちょっ、にこっち? ウチが振り飛車党ってこと忘れてへん……? ちょい傷つくで?」
凛「例えるなら、ピカチュウがロケット団に寝返ったくらいの衝撃にゃ」
穂乃果「ほえー」
にこ「凛、いい? 穂乃果がほえーって言う時はだいたい理解してない証拠だから」
凛「覚えとくにゃ」 - 105 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/03(水) 19:53:27.61 ID:j8WuamsV.net
- 希「穂乃果ちゃんは心当たりない? 高坂八段がゴキゲン中飛車採用した理由」
穂乃果「心当たりって言われても、穂乃果ゴキゲン中飛車なんて初めて聞いたし。……そもそもゴキゲン中飛車ってなんでそんな名前なの?」
にこ「ゴキゲンだからよ」
希「ゴキゲンやからね」
凛「ゴキゲンだからにゃ」
穂乃果「……ほえー」
にこ「理解を放棄したわね」
希「まあ諸説はいろいろあるんよ。この戦法の発案者がいつもニコニコ顔のゴキゲンだったからとか。ゴキ中を指す人は、その戦法のあまりの優秀さに思わず機嫌がよくなるからとか」
穂乃果「ふーん。それで、心当たり?」
にこ「そうよ。なんかないの? いつもと様子が違ってたとか」
穂乃果「うーん、強いて言うなら」
凛「言うなら?」
ほのパパ『…………♪』ニコニコ
穂乃果「昨日穂乃果と将棋してるとき、すごくゴキゲンだったよ」
にこ「いや、それは関係なーー、な、な」
凛「関係ないとは言い切れないにゃ……」
希「穂乃果ちゃんが将棋に興味持ったのが嬉しくてって、……そんな理由ある?」
穂乃果「穂乃果に言われてもわかんないよ~」 - 106 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/03(水) 20:36:21.17 ID:j8WuamsV.net
- 希「まあなんにせよ」
竜王「…………」パチッ
高坂八段「…………♪」ユラユラ
希「ゴキゲンやねぇ」
にこ「どうよ穂乃果。ちょっと将棋の相手しただけでこんな機嫌よくなるなんて、娘冥利につきるんじゃない?」
穂乃果「……うん」
穂乃果(ゴキゲンだとか言われてもよくわかんないけど、でも)
ほのパパ『…………』ユラユラ
穂乃果(今、画面の中で扇子を片手に読みを入れるお父さんの姿は、昨日の将棋とまるっきり同じで)
穂乃果(それは、穂乃果との勝負に手を抜かず付き合ってくれた、証で)
穂乃果「ねえ、希ちゃん。穂乃果ももっと将棋指したい。強くなりたい」 - 107 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/03(水) 20:50:10.33 ID:j8WuamsV.net
- 希「どしたん急に?」
穂乃果「なんとなく、お父さん見てたら、そう思って」
希「ふふっ、じゃあ教えたげる。この東條希六段が直々にね」
穂乃果「お願いします! 師匠!」
にこ「うわっ、師匠また弟子とったわけ?」
凛「むぅっ。凛のが先輩なんだからね! 敬うにゃー」
希「弟子といっても非公式のだけどね?」
穂乃果「うん!」
希「高坂八段が帰ってきたら、今度こそ勝てるようにしないとやね?」
穂乃果「もう希ちゃんのいじわるっ!」プンプン
希「じゃあ丁度いいから、このゴキゲン中飛車について教えてあげよっかな」
穂乃果「はーい!」
…………
………
…… - 108 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/03(水) 20:54:18.90 ID:j8WuamsV.net
- * * *
ほのパパ「…………」タダイマ-
シ-ン
ほのパパ「…………?」
ほのパパ「…………」ミンナドコ?
パ-ン!
ほのゆきママ「おめでとーーー!!」
ほのパパ「…………!?」ビックリ! - 109 : 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/08/03(水) 21:03:33.23 ID:vUQo0zZy.net
- 穂乃果「お父さんお疲れ様ー!」
雪穂「ささっ、お父様、肩をお揉みしましょう」
ほのママ「今日はお父さんの好物たくさんにしておきましたからね」
ほのパパ「…………?」キョトン
穂乃果「もうお父さん! なにボケーっとしてるの! 勝ったんでしょ!?」
ほのパパ「…………」ウン
雪穂「だから私たちからお祝い! ってうわ! お父さんの肩すごっ!? めっちゃ凝ってるんだけど!」
ほのパパ「…………」スワリッパナシダカラ コリヤスイ
ほのママ「お風呂入ってきちゃったらどう? 沸いてるわよ?」
ほのパパ「…………」デモ…
穂乃果「ねえねえお父さん! もう一回将棋しよ!」
ほのパパ「…………!」コクン!
雪穂「はっ? ちょっとお姉ちゃん? お父さん疲れてるんだから……」
ほのパパ「…………」ショ-ギバン モッテクル!
雪穂「お父さん!?」
ほのパパ「…………♪」
ほのママ「あらあら。そんなに好きなのねえ、将棋」 - 111 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/03(水) 21:17:42.25 ID:j8WuamsV.net
- ほのパパ「…………」パチパチ
穂乃果「…………」パチパチッ
雪穂「まったく……、ほんとに始めちゃったよ二人とも」
ほのパパ「…………」ハジメヨウ
穂乃果「ふっふっふ! 今の穂乃果は、お父さんに18枚落ちで負けた時の穂乃果とは違うんだからね!」
ほのパパ「…………♪」
穂乃果「よろしくお願いします!」
ほのパパ「よろしくお願いします」
雪穂「二人とも、ゴキゲンだねぇ」
ほのママ「そうねえ」
穂乃果「くらえっ! 凛ちゃん直伝、鬼殺し!」
ほのパパ「…………」ヒョイ
穂乃果「あれえ!?」ガ-ン - 112 : 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/03(水) 21:19:05.01 ID:j8WuamsV.net
- 了
ありがとうございました

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