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妹「ふふっ、ほら、あたしの前でシて見せてよ……」
- 1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/21(水) 02:32:18.92 ID:YyqW8Vz30
- 妹「ほぉら、は、や、く」
兄「……」
妹「そう、ちゃんと握って……」
兄「……」
妹「当てがって、ゆっくり引いて……」
兄「……」
妹「さあ!」
兄「……っ」スッ
妹「あ……あは、あはは!ほんとに切ってる!手首、切っちゃってる!」
兄「うっ……くそ、これで満足かよ……」
妹「んふっ、血、たくさん出てるよ……舐めてあげる」ぺろぺろ
兄「お、おいよせ……っ」
妹「ほら、早く止血しないと……ふふっ」
- 2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/21(水) 02:33:06.60 ID:JtDeH8AQ0
- 開いてはいけないスレを開いてしまった
- 3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/21(水) 02:33:29.36 ID:4h0po+b/0
- これはこれで
- 8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/21(水) 02:47:29.57 ID:YyqW8Vz30
- 兄「事の発端は、遡ること1ヶ月前」
兄「妹が今まさに手首を切らんとしている現場に、俺は出くわしてしまった」
兄「俺は当然止めた。妹の、剃刀を持った左手(彼女は左利きなのだ)を掴んだが、直ぐに振り払われてしまった」
兄「暴れる妹を押さえつけようとするうち、妹の振り回した剃刀は俺の手首に」
兄「妹ははっとしたようで、剃刀を取り落とした。俺は、その隙に剃刀を取り上げた」
兄「へたり込んだ妹は、そのまましばらく黙っていたのだが、ふと俺を見やり、傷は痛まないかと訊いてきた」
兄「傷はじっさい浅かった。俺は、このくらい何とも無いと言ったが、妹の目は俺の右手首の傷を見据えていた」 - 9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/21(水) 02:59:35.58 ID:YyqW8Vz30
- 兄「妹は、俺の腕を取った。俺は妹の一挙手一投足に注目したが……あろう事か、妹は俺の、もう乾いてしまった傷口を舐め出した」
兄「俺は言葉も出なかった。気持ち悪いとさえ思った」
兄「舐められる度、傷口はくすぐったく、また、ぴりりと痛んだ。傷口を舐められている間、俺は押し黙ったまま、妹のなすがままにされていた」
兄「ようやく妹は傷口から口を離し、手首を掴んだまま、顔を上げた」
兄「そして、えへへ、と笑った」
兄「俺はぞっとした。屈託なく笑う妹は、
とても美しかった。口元には薄っすら血がついていて、妹の白い顔とあいまってまるで……」
兄「直後、妹は笑みを消すと、俺の腕を乱暴に離し、口元を袖でこれも乱暴に拭った」
兄「それから妹は、何で止めたんだと俺をなじった」
兄「俺は、手首を切るなんて駄目だ、そんな事はしてはいけない、と至極真っ当な事を言って諭した」 - 12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/21(水) 03:08:44.15 ID:YyqW8Vz30
- 兄「妹は、何度止めても無駄だ、絶対に手首を切る、と言って聞かなかった」
兄「俺と妹はしばらく問答を続けたが、終に妹は折れなかった。しかし、妹はある条件を出してきた」
兄「それは、妹がリストカットしたくなったとき、自分はしない代わりに、妹の目の前で俺がリストカットする、というものだ」
兄「馬鹿げている!」
兄「しかし、頑として折れない妹を見ているうち、だんだんそれでもいいような気もしてきた」
兄「そう、これは我が身と妹の身、どちらを差し出すかという話だ」
兄「俺は、妹のリストカットを止めてしまった。その時から、もう決まっていた事だったのだ……」
兄「あるいは、妹が俺の傷口を舐めた時から……」 - 13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/21(水) 03:28:06.09 ID:YyqW8Vz30
- ---
兄「おい、朝だぞ」
妹「ん……」
兄「飯出来てるから」
妹「……何で勝手に入ってきてるわけ」
兄「お前が起きないからだよ」
妹「ふぅん。ねぇ、あたしの寝姿見て、興奮した?」
兄「そんな事より寝癖がついてる……?」
妹「お兄ちゃんの手って綺麗だよね。特に薬指なんてたまんないね」
兄「……おい離せ」
妹「……んっ」
兄(妹は俺の薬指を口に含んだ。そのまま、しばらく舐めていた)
兄(しかし、次の瞬間、妹は犬歯を立てたかと思うと) - 14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/21(水) 03:28:48.69 ID:YyqW8Vz30
- 兄「痛っ」
妹「……んふふ」
兄「お前なぁ……」
妹「んっ……じゅる、ぷはぁ。ごちそうさま」
兄「……」
妹「ご飯は要らない。シャワー浴びてくるね。お兄ちゃんは先に行ってて良いよ」
兄「……何なんだよ」
兄(薬指は、酷く痛んだ) - 15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/21(水) 03:42:43.87 ID:YyqW8Vz30
- 兄「妹は学校でいじめられているわけではないらしい」
兄「部の後輩が妹と同じクラスだったので訊いてみたが、そのような事は無いと言っていた」
兄「また、妹さん可愛いですよね、とも言っていたので、無視した」
兄「ただ、妹はクラスに馴染めていないようだった。友達もいないみたいだ」
兄「昔から陰気な奴だったが、はっと息を飲むような美人だった」
兄「妹のやる事なす事は絵になる」
兄「その美しさは快活なものではなく、むしろ寒色の、物哀しい美しさだ」
兄「何かいけないものを目にしてしまったような……直視してはいけないけれど、でも見たくなる、そのような感触がある」
兄「妹に友達が出来ないのは当然の事のように思えた」 - 17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/21(水) 03:58:16.23 ID:YyqW8Vz30
- ---
兄「おい、×××」
妹「!」
兄(しん、と妹のクラスは静まり返った。放課後だったが、クラスには半分ほどの生徒が残っていた)
兄(妹は日直だったのだろうか、日誌に向かっていた)
兄(声をかけて、一緒に帰ろうと思った)
兄(ここのところ、妹はどうにも危なげだ。目を離した隙に消えてしまうような、そんな……)
兄(妹は日誌をぱたんと閉じて教卓に置くと、カバンを持って近寄ってきた)
妹「……」ぎゅっ
兄「……帰ろうか」
妹「……うん」
兄(教室内を見渡すと、皆こちらに注目しているようだった)
兄(会釈をして教室を出た) - 19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/21(水) 04:10:33.45 ID:YyqW8Vz30
- 妹「……何で迎えに来たの?」
兄「何となくだ」
妹「何となく……」
兄「ああ、何となく」
妹「……ふふ、そっか」
兄(そう言って俺の腕に抱きついてきた妹は、俯いていて、表情は伺えなかった)
兄(しかし、たぶん、笑っていた)
妹「帰ったら、話があるの」
兄(……今朝噛まれた薬指が、熱を持った気がした) - 21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/21(水) 04:18:59.59 ID:YyqW8Vz30
- 妹「昨日の傷口、見せて」
兄「……ああ」はらり
妹「……うわぁっ」
兄(初めて傷の出来た日から一ヶ月、傷は5つに増えていた)
兄(昨日の傷は癒えていなかった。とうぜん血は止まっていたが)
妹「……んっ、ちゅっ」
兄「……!」ぞくっ
妹「んん……ふふっ、んっ」
兄「……」
兄(妹がリストカットをしたくなったら、代わりに俺が手首を切り、その様を妹が見る)
兄(傷口を、妹は舐めたがった。俺はそれを拒む事はなかった。そうするのは自然なことのように思えた)
妹「んっ、ぷはぁ……」
兄(ただ、気持ち悪いと思った)
兄(美しい妹が、傷口を舐める姿も)
兄(俺がそれを受け入れている事も!) - 23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/21(水) 04:28:01.26 ID:YyqW8Vz30
- 兄「こんな事を言うのも何だが、俺と妹は情愛の関係ではなかった」
兄「まあ、傷口を舐めり、舐められる行為は肉体的な関係と言えない事もないが……」
兄「ではこの関係は何なのか?」
兄「俺は、妹に傷をつけまいと、自らの体を差し出した」
兄「妹は、その傷口を舐める」
兄「俺は妹に何を与え、妹は俺に何を与えているのだろう?」
兄「そこに邪なものはないようにも思える。ただ、行為があり、それをお互い受け取っている」
兄「だから、深く考えるべきではなかったし、何を与えて、与えられているかに気づくべきではなかった」 - 26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/21(水) 05:39:13.12 ID:YyqW8Vz30
- 兄「俺と妹は、もともとそこまで仲良くはなかったし、会話もあまりなかった」
兄「物心ついたときからそうだった」
兄「しかし、このところその関係にも変化が訪れている」
兄「それはたぶん、リストカットを止めたあの日からだろう」
兄「あの日に、俺は罪を負ったのではないか?」
兄「だとしたら、その罰とは、傷を作る(!)事だろうか?」
兄「あるいは……」 - 28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/21(水) 06:18:48.90 ID:YyqW8Vz30
- ---
兄「んん……そろそろ寝るか」
兄「まだ11時か」
ガチャ
兄「?」
妹「お兄ちゃん、ちょっといい?」
兄「……どうした? 手短に頼むよ、もう寝ようと思っていたし」
妹「つれないなぁ」
兄(そう言いながら、妹はベッドに寝転がり、靴下を脱いだ)
兄(妹の足が、ベッドに投げ出された)
兄「何してるんだ?」
妹「……ねえ、一緒に寝てもいいかな」
兄「……」
兄(……綺麗な足だと思った) - 29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/21(水) 06:27:46.88 ID:YyqW8Vz30
- 兄「……ここ最近のお前は変だ」
妹「そうかな、そうでもないと思うな。どこが変だと思うの?」
兄「……」
兄(全部変だ。手首を切ろうとするのも変といえば変だが、むしろそれはいい)
兄(俺に手首を切らせるのも変だし、急に馴れ馴れしくしてくるのも変だ)
兄(しかし……しかし、それを受け入れてしまっている俺も変だ)
兄「まあいい。とにかく、お前は自分の部屋で寝ろ」
妹「あたしの事、嫌いになったの?」
兄「……そうじゃないさ」
妹「じゃあ一緒に寝て……あはっ、もしかしてお兄ちゃん、あたしが怖いの?」
兄「何を……」
妹「急に"病気"づいちゃった妹に、何かされるのが怖いんでしょ?
でもそれ以上に、自分がそれを受け入れてしまいそうで、それが怖いんだ。
受け入れたら、自分もそうなっちゃったら、そうなっちゃうから、だから怖いんだよね」
兄「……」 - 30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/21(水) 06:33:44.95 ID:YyqW8Vz30
- 妹「あはは、はぁ……でも大丈夫。何も起こらないよ。何も起こらない」
兄「……好きにしろよ」
妹「良かった。お兄ちゃん」
兄「何だ」
妹「大好きだよ」
兄「そうか」
妹「大好きだよ」
兄「……そうか」
妹「じゃあ、寝よ?」
兄「……そうだな」
兄(何も起こらない……)
兄(妹は何もわかっていない。何か起こるのが怖いわけじゃない)
兄(俺は、俺の中でこの1ヶ月育ち続けてきたとある感傷に気付くのが怖かった)
兄(つまり、妹によって、何かが起こるのならまだいい。それは妹のせいにできるからだ)
兄(何も起こらない事によって、何か起こるのを期待している自分に気付くのが、ただ怖かった) - 40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/21(水) 08:59:17.22 ID:YyqW8Vz30
- 妹「……まだ起きてる?」
兄「……ああ」
妹「手首、痛い?」
兄「……別に」
妹「痛いよね」
兄「……」
妹「痛いよね。でも、その痛みは、必要な痛みなんだよ」
兄「……」
妹「あたしの事好き?」
兄「……」
兄(俺の手首の痛みは、妹が望んだからだ)
兄(しかし同時に、この痛みを手放したら、俺は、俺達は終わりだと思った)
兄(この痛みは、無償の愛だ)
兄(……無償ではない)
兄(しかし、惜しみなく与う愛ではあった) - 42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/21(水) 09:05:13.96 ID:YyqW8Vz30
- 妹「……手首、出して」
兄「……」
妹「……切ってみせて。あたしの前で」
兄(俺は無言で従った。午前0時半の事だった)
兄「……っ、はぁ、はぁ……」
妹「ああっ……血が流れてる」
兄「そう、だな……」
兄(これは二人の行為である!)
妹「あ、シーツに垂れちゃった……もったいない」
兄(妹は、ベッドのシーツに垂れた血をちゅうちゅう吸った)
兄(それから、俺の新しい傷口に口をつけた)
妹「んむ……んんっ……」
兄「うっ……」
妹「ん……」 - 43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/21(水) 09:14:23.15 ID:YyqW8Vz30
- 兄「っく……」
妹「……ぷは、痛い?」
兄「あ、ああ、痛いよ……」
妹「……嫌だ? こんな事、したくない、って思う?」
兄「……」
妹「思わないよね、だってあたしの事好きだもんね。あたしに『される』の、好きだもんね」
兄「……」
妹「お兄ちゃんは、自分の身を、何の見返りもなくあたしに差し出すような人じゃないもんね。
兄妹だからよくわかるよ。お兄ちゃんも、受け取ってるんでしょ?」
兄「……」
妹「だから、もっと差し出してよ。あたしももっとあげる。いくらでもあげるよ。
だって兄妹だもんね。それが自然なんだよ。すごく、すごく自然なんだよ……」
兄(俺は何も言えなかった。月の見えない、暗がりの深い夜だった) - 44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/21(水) 09:17:50.52 ID:YyqW8Vz30
- 兄(デスクライトに照らされた妹の顔はいやに白く、口元には血が付いている)
兄(ああ、これは、俺の血だ、俺の体液だ)
兄(俺は何も言えなかった。妹は優しい目をしていた)
兄(妹の唇に指をそっと触れると、妹は静かに目を瞑った。俺は妹の口元の血を指で拭った)
兄(それから、指についた血を舐めると、鉄の味がした)
兄(妹は、俺の新しい傷口に消毒液を吹きかけ、ガーゼを貼り、包帯を巻いた)
妹「好きだよ、お兄ちゃん……」
兄「……俺は」
妹「うん?」
兄(俺も妹を愛している)
兄(これは、情愛よりも浅く、むしろ寒色の、物哀しい愛だ)
兄「……もう寝るよ」
妹「そうだね」
兄「おやすみ」
妹「おやすみ、お兄ちゃん」 - 49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/21(水) 10:06:30.33 ID:YyqW8Vz30
- ---
兄「それから、いくたびも俺は手首を切り続けた」
兄「それから、いくたびも妹は俺の手首を舐め続けた」
兄「まず、手首に消毒液を塗ったガーゼを擦りつける」
兄「その後、煮沸した剃刀をあて、横に引く」
兄「動脈めがけて思い切り縦に引く(刺す)と出血の勢いは凄まじく、おそらく死ぬだろう。
それはリストカットではなく自殺だ。俺は(妹は)自殺したいわけではなかった」
兄「重要なのは痛みを感じる事だ。そして、さらりと血液が流れること」
兄「リストカットは生へと向かう衝動だった」
兄「生を感じる事で、俺と妹は繋がっていた」
兄「これは、ある意味性行為である」 - 50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/21(水) 10:10:22.21 ID:YyqW8Vz30
- 兄「この奇妙な蜜月(?)はしばらく続いた」
兄「そうして、おおよそ1年が経った」 - 51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/21(水) 10:17:38.36 ID:YyqW8Vz30
- ---
兄「妹は、学校以外ではほとんど外に出たがらなかったが、それでもたまに二人で散歩をした」
兄「家の近所の川沿いを歩く間、妹は俯いたまま、俺の手首を柔らかく掴んでいた」
兄「ふと妹が立ち止まり、土手の斜面をじっと見つめた。男女が一組座り、仲良さそうにしているのが見えた」
兄「妹はため息をついた。俺も同じ気持ちだった」
兄「ああ!」
兄「あのような普遍の幸福を、俺も妹も知らずに、一生を終える気がした」 - 52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/21(水) 10:20:44.52 ID:YyqW8Vz30
- 妹「楽しそうだね」
兄「そうだな」
妹「でもね、意味がないんだよ」
兄「……」
妹「意味がないの。本当だよ」
兄「……そうだな」
妹「見て、あの男の子。手首。傷がない」
兄「……」
妹「何も残してないんだ。可哀想に」
兄「……そうかな」
兄(妹は俺の目をじっと見つめた。長いまつげが二度揺れた)
兄(それから薄い笑みを浮かべてみせた)
妹「帰ろう」
兄「そうだな」 - 65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/21(水) 12:10:25.04 ID:YyqW8Vz30
- ---
兄「日々には、いつか終わりが来るはずだ」
兄「終わりが来ても傷は残る……それが愛なのか?」
兄「そんな単純な話なのか?」
兄「下世話な例えだが、キスマークと一緒だ。情事の証、ただの痕跡」
兄「もっと言えば、犬のマーキング」
兄「そんな事のために俺は、痛みを差し出しているのか?」
兄「……そう考えた途端、急に手首が痛み始めた気がした」
兄「俺は何をしているのだろう。妹は、俺に何をさせていた?」
兄「俺は妹を愛していたのか?」
兄「受動的な自虐に酔っていた?」
兄「ああ!」 - 72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/21(水) 13:08:38.89 ID:YyqW8Vz30
- 兄「……もうやめよう」
妹「……どうして? あたしの事、嫌いになった?」
兄「……そうじゃない。こんな行為には終わりがない事に気づいたんだ」
妹「終わらないよ。これが終わる時は、二人が死ぬ時」
兄「死?」
兄(突然、全てが陳腐に思えた。死という言葉は一番出してはいけない言葉だった)
兄(俺達は、もっと深い部分の愛を交換していたはずなのに)
兄(それが取るに足らない、「死」という言葉によって、表に引き摺り出され、笑いものにされているような気がした)
兄(俺はひどく狼狽してしまった) - 73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/21(水) 13:10:15.39 ID:YyqW8Vz30
- 兄「それは……ああ、死……その程度の……」
兄(妹も、言ってはいけないことを口にしたというのがわかったらしく、口をつむぎ、俯いた)
兄(俺は妹の頭を撫ぜようと手を伸ばしたが、その行為はさらに陳腐であった)
兄(手を伸ばしかけてやめたので、妹は顔を上げ、俺の目を見た)
妹「……うん、そうだよね。もう終わりにしなくちゃね。こんなの、良くないもんね」
兄「……」
妹「お兄ちゃんと私は、どこまで行ってもお兄ちゃんだもんね。だから終わらないし、終わらせないと終わらないよね」
兄「……」
妹「ごめんね、お兄ちゃん、ごめんね……」 - 75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/21(水) 13:31:32.15 ID:YyqW8Vz30
- ---
兄「それから、俺達は急速に離れていった」
兄「もう手首に傷が付くこともないし、また、妹が傷口を舐める事はない」
兄「どこまで無益で、ぐるぐると回り続ける愛があり、それが終わった」
兄「だけれど、終わりから1ヶ月たって最後の傷が癒えても、何だか手首は痛む気がした」
兄「完全に閉じて乾いた傷口が、何故だかじくじくと痛む気がして、自分で傷口を舐めてみるが、
そこに感傷はなく、塩辛い汗の味がするだけだった」
兄「嫌な痛みだと思った」
兄「あの日々の痛みとは違う、硬質の痛みだ」 - 77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/21(水) 13:48:04.52 ID:EycJMVwR0
- まさかの展開
- 78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/21(水) 13:48:58.44 ID:1rndUs8r0
- どうしてこうなった
- 79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/21(水) 13:52:05.19 ID:YyqW8Vz30
- 兄「もしかしたら、妹は自分の手首を切りつけるのではないか、という懸念はあったが、それは杞憂だった。
1ヶ月経ってもまるでその徴候はまるでなかった」
兄「ただ、以前にもまして妹は色白になった気がした。妹の存在は、儚く、希薄になっていくように思えた」
兄「俺の血を舐めた時の、まるで蜂蜜を舐めたような(甘さに顔をしかめつつ恍惚となるような)その表情は、
もう今の妹のどこにも認められなかった」
兄「苦しんでいるのでは、とも思えたが……しかし、思えば『蜜月』においても妹はたぶん苦しんでいた」
兄「苦しみながら愛を受け、苦しみながら与えていた」
兄「それは俺も同じだ。苦しみながら傷を作り、苦しみながら愛を与えられた」
兄「二人は、息の詰まる愛に溺れていただけだ!」 - 106 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/21(水) 18:10:31.48 ID:YyqW8Vz30
- 兄「それは、祝福の日々であり、紛れもなく真実の愛だったと思う」
兄「兄妹愛とも、異性愛とも違う、純粋な愛の交換だった」
兄「純粋な愛は、行為は、ただそこにあるもので、始まっても終わってもいなかった!」
兄「一番新しい、最後の傷から1ヶ月、俺はそれをようやく認識した」
兄「午前3時だった。妹は寝ているだろうか? 妹と、話さなくては、愛を」
兄「また、祝福の日々を続けよう」
兄「妹の部屋のドアを開けたが、誰もいなかった。机の上には置き手紙が、そこには」
妹『愛をありがとう』
兄「俺は、家を飛び出した。いなくなった妹を探すというその行為の陳腐さ、
取るに足らなさに愕然としながら、俺は歩き続けた。夜明けは近い」 - 109 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/21(水) 18:19:09.35 ID:YyqW8Vz30
- 兄「いつだか、二人で散歩をした川沿いの道に辿り着く」
兄「どこまでも陳腐で、それでも純粋な俺達であったなら、またここで(どうせ)出会えると思った」
兄「街灯がちらちらと川の流れに反射していた。夏が始まろうとしている。木々は明け方の風に揺れている!」
兄「妹は、土手の斜面にちょこんと体育座りをしていた」
兄「それはちょうど、以前『男女』が談笑していた場所だった」
兄「そこは、お前には似つかわしくないのに……」 - 114 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/21(水) 18:48:56.54 ID:YyqW8Vz30
- 兄「何してるんだ?」
妹「!」
兄(後方から不意に声をかけられた妹は、びくんと肩を震わせた)
兄(片手で簡単に握りつぶせる紙っぺらのような、弱々しさがあった)
妹「……お兄ちゃん」
兄「こんな所で何をしてたんだ」
妹「……死のうと思って」
兄「……」
妹「死のうと思って。川に入って、死のうと思って」
兄「……そうか」 - 115 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/21(水) 18:55:14.14 ID:YyqW8Vz30
- 兄(川は、お世辞にも入水自殺できるような深さではなかった)
妹「ふふ、信じてないよね? 確かにこんな浅い川じゃ死ねないと思うでしょ?」
兄「……俺は、お前の事をいつも信じてるよ」
妹「いいんだよ。しょうがないもんね。もうすぐ雨が降るよ。Yahoo!の天気予報で見たから間違いないんだよ。
もうすぐ雨が降ります。すると、水かさが増します。すると、川の勢いが増します。そこであたしは川に入ります」
兄「もういいよ、もうわかった」
妹「あたしは死のうと思えばいつでも死ねるんだよ」
兄「……そうかな」
妹「……何それ。信じてないんじゃん。嘘つき」
兄「そういう事じゃない」
妹「じゃあ――」
兄「お前が死のうとすれば、俺が止める。傷を作っても止める」
妹「……っ、でも」
兄「俺が止めて、例えば今なら川だけど……もうすぐ雨が降って、水かさが増して、川の勢いが増して、お前が川に飛び込もうとしたら、
俺がお前を抑えつけて、それで何故だか、俺が代わりに飛び込んで、お前はそれを見て、だから、その、たぶん、おそらくだけど、お前は死なないと思う」
妹「……そんなの」 - 117 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/21(水) 19:02:41.23 ID:YyqW8Vz30
- 兄「そんなの、おかしくはない。そうするよ。だって、そうしただろ?」
妹「……」
兄「俺は、お前のために、何度でも手首を切ってあげる」
妹「……あたしのために?」
兄「そうだ。そして、俺のために。俺に、お前がくれるからだ。
お前がくれるから、俺は、お前の目の前でしてやる」
妹「……あたしの事、愛してるの? 好き?」
兄「愛してるよ。純粋に愛してるよ」
兄(思えば、俺は妹に口で愛を表明した事はなかったような気もするし、あったような気もした)
兄(ただ、妹は驚いていた)
兄(まるで、俺が妹を愛してるなんて言わないと思っていたみたいに!)
兄(ああ、これは、妹が俺の事を信じていなかったという事ではない)
兄(むしろ、俺が俺自身の妹に対する愛情に気付くとは思っていなかった、という予想を裏切られたからだ)
兄(俺は心変わりしたわけではなく、最初から持っていたものに気づいただけだ)
兄(妹が手首を切ろうとした日、俺が初めて傷を作った日に手に入れたものを!) - 120 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/21(水) 19:11:25.90 ID:YyqW8Vz30
- 妹「……ふふ、じゃあ死ねないんだね、あたし」
兄「死ねないな」
妹「でも、いいんだよね。終わらないんだよね」
兄「ああ」
妹「じゃあ、まだ生きられるよ」
兄「そうか」
妹「あたし、お兄ちゃんが好きだよ、『純粋』に」
兄「……そうか」
妹「この1ヶ月、ずっと、実は、どうやってやり直そうか考えていたんだけどね」
兄(驚いた)
兄(妹は、何というか、そういう、その、未練というか)
兄(そういうものを持たないし、持っていても、それを認めたがらないと思っていた) - 123 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/21(水) 19:18:06.10 ID:YyqW8Vz30
- 妹「でも、やり直さなくてもいいんだよね。今まではそこにあるものを無視していただけで、
……だから、終わっても始まってもいないんだよね」
兄「そうだな」
妹「だから、ただ、戻ろう」
兄「そうだな」
妹「……ふふん、あたし、お兄ちゃんに嘘をついたんだよ。だから、謝るね」
兄「?」
妹「雨なんて降らないよ。今日は1日中快晴だって」
兄(朝日が眩しかった。風が広い空へ抜けてゆき、生活が動き出す)
兄(夜が明けていた)
兄(確かに快晴だった) - 125 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/21(水) 19:26:03.48 ID:YyqW8Vz30
- 兄「俺と妹の関係は、もしくは形が変わるだろう。変わらないかも知れない。俺はまた、傷を作るかも知れない」
兄「あるいは、もう二度と、傷を作らないかも知れない」
兄「それはやり直しではないし、始まりでもない」
兄「どうあれ、たぶんそれは、自然な事だ」
兄「形を変え、色を変え、重さを変え、味を変え、匂いを変えて、愛はそこにあり、息づいているはずだ」
兄「だから、無償の愛を与えよう」
兄「だから、無償の愛を受け取ろう」
兄「ああ!」 - 128 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/21(水) 19:36:43.80 ID:YyqW8Vz30
- ---
兄(まぶしい、新しい朝の、流れの弱く浅い川の土手で、俺と妹は並んで座っていた)
兄(まるで、いつだかの『男女』のように!)
兄(俺と妹は、戻っていく)
兄(そして俺と妹は、変わっていく)
兄(ように思えた)
妹「ねえ、手首、見せて」
兄「……ああ、いいよ」
妹「あ……ふふっ、まだ一番最初の傷、跡残ってるね」
兄(妹は、綺麗な指の腹で、俺の最初の傷跡を優しく撫ぜた)
兄(こそばゆい)
兄(そうして、俺はぞくりと身震いしてしまった)
終わり - 132 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/21(水) 19:43:48.56 ID:dJw1k61n0
- 乙です!
- 135 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/21(水) 19:45:52.72 ID:c6svQtfNO
- 乙
なかなか好きだった - 138 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/21(水) 19:54:46.95 ID:LvdSqXLY0
- 乙!
こういうの好きだ

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