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唯「無色透明」

1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/14(水) 18:54:32.56 ID:4m8os5NAO
【プロローグ】

しゃぼん玉が好きだった。
無色なのに虹色に輝くから。
しゃぼん玉が嫌いだった。
すぐに、ぱあん!ってわれちゃうから。

昔、公園でしゃぼん玉を作った。
憂や和ちゃんはそのうち飽きちゃって
わたしはひとりでふわふわを追いかけていた。
二人はベンチに座りアイスをなめながら
そんなわたしを見て笑った。
「笑っちゃダメだって!」
誰かの笑い声でしゃぼん玉はわれちゃう。そんなことをあの頃のわたしは本気で信じてたんだ。
だから、真面目な顔してひとり、しゃぼん玉を追い続けた。
 




2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/14(水) 19:12:59.75 ID:4m8os5NAO
【天才だった頃のわたし】

人「よお、無職」

『サッカー君』がわたしに向かって手を振ってきた。
わたしは気づかないフリをした。
大学なんて行かなきゃよかったな。
って呟いた。
もちろん、ホントにそう思ったわけじゃないけどさ。
まあでも、そんな風にしてわたしは
色んなことをやりすごしてきたんだろうなあ。
どうにかなるって思ってたんだ。
だから、大学を卒業した今も無職でさ。



3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/14(水) 19:18:20.40 ID:4m8os5NAO

人「なあ、無視すんなよ」

『サッカー君』がわたしの肩に手をおいた。
ちぇっ。
舌打ちを口笛で誤魔化した。

唯「あ、ごめんっ。気がつかなかったよー」

人「まあいいけど。それよか今日俺と遊ばない?
なんだかんだいって一回も遊んでくれないじゃん」

唯「いやあ。実は今日も用事があるんだー。
わたし忙しくって」

人「暇だろ。無職だし」

唯「失礼な。
今から友達のとこ行くんだよ」

人「じゃあ。そこまで」

唯「……いいよ」



4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/14(水) 19:22:18.97 ID:4m8os5NAO

『サッカー君』とは大学2年のとき合コンで知り合った。
そのとき、自分のサッカーの自慢ばっかりしてた。
だから、『サッカー君』。
その日一緒に帰ろうって誘われたけど断った。
悪い噂をよく聞いた。
良い噂(サッカーのことだけど)を聞かなかったわけじゃないけど。

そういえば、『サッカー君』は大学卒業したあとどうしたんだろ?
忘れちゃった。
それとも、最初から知らなかったんだっけ。
まあどっちでもいいけど。


5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/14(水) 19:25:09.58 ID:4m8os5NAO

人「あのさ……俺、唯のこと好きなんだ」

唯「ごめんっ……って、前にも言ったよー」

人「でもさ、一度もまともに話きいてくんないじゃん。
他の男がいるわけでもないみたいだし」

唯「あっ、ここだから!じゃあね」

人「おい待てよっ……」



6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/14(水) 19:28:32.81 ID:4m8os5NAO

逃げるようにしてあずにゃんの部屋にわたしは飛び込んだ。
あずにゃんはわたしたちと同じ大学に進み今は4年生だ。

梓「あ、こんにちは……ふあぅ」

あずにゃんは眠そうで、あくびをした。

梓「先輩ってもてるんですね」

唯「見てたの?」

梓「ふあい」

またあくび。



7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/14(水) 19:31:22.29 ID:4m8os5NAO

唯「見てたんなら助けてよっ」

梓「いやだって、どうすればいいんですか」

唯「スーパーヒーローみたいに。ばきゅーんってさ」

梓「あの人、悪人なんですか?」

唯「別にそういうわけじゃないけど……」



8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/14(水) 19:34:22.69 ID:4m8os5NAO

梓「じゃあ誰です?」

唯「ええと……その合コンで……知り合ったていうか」

梓「へえー。唯先輩って合コンとかいくんですね」

唯「えっと……その、付き合いだってば、てばっ。
あ、あずにゃんさんはいかないのでしょうか?」

梓「ないですよ。もうすぐ大学ぼっちで卒業できますって」

唯「うっ……」

梓「あーあー」



9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/14(水) 19:39:07.79 ID:4m8os5NAO

まあ、いいんですけど。
あずにゃんは言ってから、
寝間着をするりと脱いで服を着た。

梓「で、なんで来たんですか?」

唯「だって、今日、あずにゃん、
うちの掃除してくれるって言ったから」

梓「じゃあなおさら部屋で
ゆっくりしてればよかったじゃないですか」

唯「あずにゃん遅すぎだよっ」

わたしはあずにゃんに抱きついた。
眠いとあんま嫌がらない。
だから、眠そうなあずにゃんがわたしは好きだ。



10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/14(水) 19:39:58.86 ID:4m8os5NAO

唯「よしっあずにゃん分も補給したし行こうか!」

梓「はい」


11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/14(水) 19:45:44.54 ID:4m8os5NAO

外に出た。
屋上に向かって階段があって、いいなあってわたしは思った。
わたしのとこにはない。
小さいころから屋上は好きだった。
透明になれる気がしたんだ。

唯「あずにゃんのとこは屋上があっていいな」

梓「でも、エレベータはないですよ」

唯「行こうよ?」

梓「立ち入り禁止です」

唯「えー。こっそり行けばへいきだよっ」
梓「そんな子どもな」

唯「むー」

梓「それに一度見たことありますけどつまんないとこですよ。
下からわからずらいくらいで」

唯「スナイパーがいそうだねっ。ばきゅんっ」

手で作った鉄砲であずにゃんの頬をぐりぐりした。

梓「ひたいひたい」

唯「えへへ」


12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/14(水) 19:59:20.50 ID:4m8os5NAO

わたしの部屋に二人で向かった。
並んで歩くとあずにゃんは小さかった。
途中、宗教のパンフを渡された。
わたしたちは幸福に向かって進んでいるらしい。
振り返ると、さっきの人が自販機で買った缶コーヒーで手を暖めていて
なんだかわたしは嬉しくなった。



13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/14(水) 20:00:26.20 ID:4m8os5NAO

唯「あめいる?」

梓「どうも」

あずにゃんは口の中であめをもごもごやった。

梓「いつもなんで大きいあめばっかくれるんですか?」

唯「こう、あずにゃんがあめを必死になめてるのを見るのが好きなんだよね」

梓「嫌な趣味ですね」

あずにゃんは笑った。



14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/14(水) 20:03:22.66 ID:4m8os5NAO

わたしのアパートまでたどり着いた。
あずにゃんを部屋にあげた。
一人で住むには大きすぎて二人で住むには小さすぎる部屋だ。

梓「うわー。見事ですね」

唯「だってその。忙しくて……」

梓「何が忙しいんですか。
毎日ぶらぶらしてるくせに」

唯「わ、わたしだってバイトとかしてるもんっ」

梓「あたりまえです」

唯「むぅ……」



15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/14(水) 20:08:08.51 ID:4m8os5NAO

梓「それにカップ麺とかそういうのばっかじゃないですか」

唯「あはは。料理めんどくさくて」

梓「あっ、これ昨日スーパーで三個百円で投げ売りされてた」

唯「うっ……おかあさんにはそれなりにちゃんとやってるって言ったから
しおくりとかもらってないし家計が大変なんだよ!」

梓「家計とか言わないでくださいよ。
これじゃあ憂が心配するわけです」

唯「ですよね」

梓「憂によろしくって頼まれてるんですから
しっかりやらせますよ」

唯「うへー」



16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/14(水) 20:16:04.19 ID:4m8os5NAO

五時間くらいかけて部屋をとてもとてもキレイにした。
例えば、あのわたしの大嫌いな掃除機のCMに使えそうなくらいに。

唯「ふう……いえい!いえい!いえい!
おわったあーっ」

梓「あ、そういやさっき見つけたんですけど
なんで水鉄砲なんてあるんですか?」

唯「あ、それ。かっこいいでしょ」

梓「はあ」

唯「いやあ、あそこのスーパーってさ
いつも変なものが安く売ってるよじゃん
それで買っちゃった」

梓「ああ。買う人いるんだろうかって思ってましたけど
そういう人が買うんですね」

唯「夏がきたら、遊ぼうね」

梓「ばかなんですか」

唯「そんなあー」



17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/14(水) 20:20:52.17 ID:4m8os5NAO

わたしは冷蔵庫から今日のために買っておいた
ペプシ・コーラを二本出した。
それを見ていたあずにゃんが言った。

梓「唯先輩はお酒は飲まないんですか?」

唯「うーん。家じゃ飲まないなあ。
他の人が飲むなら飲むけどさ。
なんか炭酸のほうがいいんだよね」

梓「なんでですか?」

唯「なんたって骨が溶けるほどおいしいからねー」

梓「いい線ついてるじゃないですか」

唯「子どもだっー」

梓「お互い様ですよ」

唯「えへへ。そうでした」



18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/14(水) 20:25:24.23 ID:4m8os5NAO

ぷしゅっ。
炭酸のはねる音がした。
缶をぶつけて乾ぱーいってした。
甘いって思った。

梓「冷たいですよね」

唯「何が?」

梓「缶が」

あずにゃんは自分のほっぺたに缶をあてた。
真似した。
ひんやり。
もう一口飲んだ。
わたしはキレイになった部屋のことを考えた。

掃除するとさ、どーでもいいものと一緒に大切なものまで
捨てちゃったような気がしてなんか切ないよね。
言おうとしてやめた。
なんとなく。


19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/14(水) 20:38:30.99 ID:4m8os5NAO
【てーたいむ】

何ヵ月かがたった。
わたし個人についていえば、色んなことに奔走させられて忙しかったのが落ち着いてきた。

三丁目のわたしはおいしいと思ってるんだけどあずにゃんには大不評なたい焼き屋を右に曲がり澪ちゃんを怖がらせることで有名な墓道を通りすぎたところにあるガレージにわたしは来た。
ここはもう使われていなくて
わたしたちが安い値段で借りて練習場所にしている。

ボタンを押した。
ごおおぉぉぅ。
大袈裟な音をたててシャッターが上がった。

律「ムギ、絶対はなすなよー」

紬「りっちゃんこそはなしたらぶつわ」



20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/14(水) 20:43:55.77 ID:4m8os5NAO

中に入った。
りっちゃんとムギちゃんは太いゴムを両側から引っ張りあっていた。

律「そっちこそはなしたらぼこぼこにするからなぁーっ」

紬「はなしたらはなしたら。おでこ真っ赤にするわよっ」

律「あ、これやべえんじゃね」

紬「ああっ」

律紬「うわっ!」



21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/14(水) 20:44:27.79 ID:4m8os5NAO

ぱっちん。
ゴムが切れた。

澪「あ、いてっ」

押さえを失ったゴムは澪ちゃんにあたった。

澪「おーい。ゴムぱっちんしたの誰だー」

律「ふっふっー♪」

紬「らららーっ」

澪「みてたよっ」

律紬「いたっ」


24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/16(金) 21:32:03.59 ID:375BF6UAO

紬「えへへ……いたいわね」

律「だろー?」

梓「やれやれ」



25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/16(金) 23:23:39.20 ID:375BF6UAO

唯「澪ちゃんさっきまで何見てたの?」

澪「あ、これ? これはさポイントカードの交換表だよ。ほらあの駐車場の狭いスーパーのさ」

律「澪は昔っからそういうの好きだよな。ポイントとか」

唯「へええ。なんかいいのあったー?」

澪「そりゃもういろいろ。なんだってあるよ。
テレビとかぬいぐるみとかまでさっ」

律「このぬいぐるみかわいくないだろー」

澪「商店街のマスコットキャラだぞ知らないのかーりつ……あーでも少ないポイントのやつをちょっとずつもらうっていうのもいいよなあ」

律「かわいいか?」

梓「律先輩的なかわいさです」

律「意味深だなあ」



26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/16(金) 23:25:36.59 ID:375BF6UAO

紬「で、澪ちゃんはどのくらいポイントがあるの?」

澪「え、いや、最近会員なったばっかなんだあはは」

唯「えー」

律「澪はいつもそうだ。夢だけ見て結局は成就しないんだよなー」

唯「澪ちゃん……こんなにちっぽけな夢が叶わないなんてどんまいっ」

澪「うるさいうるさいっー」

澪ちゃんが吠えた。



27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/16(金) 23:27:50.94 ID:375BF6UAO

梓「じゃあそろそろ演奏でもしましょうか」

律「ティータイムしたらだな」

梓「そんなこと言って今回もしないぱーてぃんですよね。
これで四回連続ですよ」

律「まあまあ、高校の頃はもっと練習しない日が続いたじゃん。
たしか最高は二十連続くらい? もっと?」

紬「二十八連続よ」

律「そうそう。な」

梓「そんなのずるいですよー。
高校のときは毎日部活あったけど今は一週間ごとにしか集まれないんですよ」



28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/16(金) 23:29:58.28 ID:375BF6UAO

律「よしっ。じゃあ多数決だ」

梓「わかりましたわかりましたティータイムにしましょうか。
その代わり律先輩は砂糖なしです」

律「いやおかしーし」

梓「もうビターな大人ですもん」

律「あ、じゃあ、梓は浮くまで砂糖いれろよー。
こんなにちっちゃいからなあ」

梓「むぅっ……上等ですよ。甘いの好きですし」




29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/16(金) 23:33:24.88 ID:375BF6UAO

そんなわけでお茶をすることになった。
今では、お菓子はムギちゃんひとりじゃなくて、みんなが順番に持ってくることにしていた。
今日の当番はりっちゃんで、ポテチとかそんなスナックをわたしたちは食べた。
こういう風なティータイムも悪くないなあってわたしは思った。



30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/16(金) 23:34:03.52 ID:375BF6UAO

ブラックを飲んだりっちゃんはしかめ面をして、砂糖水を飲んだあずにゃんはむせてごほごほと咳をした。
そんな風景にわたしたちはちょっとだけ笑った。



31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/16(金) 23:35:14.09 ID:375BF6UAO

紬「そうだ澪ちゃん歌詞は書けた?」

澪「ごめんまだ……。」

紬「そっか。あ、別にあせらなくてもいいのよ?」

澪「うん」

唯「スランプ?」

澪「なんだろなあ。昔みたいな歌詞が思いつかなくなっちゃったんだ。かといってかっこいい歌詞書けるってわけじゃなくさ」

梓「最近、書いてたじゃないですか」

澪「あはは……なんかよく見たらさ他の真似って感じなんだ」

律「ま、そういうときもあるって。さ、演奏しよーぜ」



32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/16(金) 23:37:15.70 ID:375BF6UAO

ギー太をアンプにつないだ。
わたしの立ってるこの位置はずっと変わっていなかった。
じゃかじゃかじゃっじゃべんべんべーんぴろぴろぴろどんどんがしゃぁんぽろろろろ。
音をだす。
大学時代は曲もあんまり作んなかったから、演奏するのは高校時代の曲が大半だ。
一時間半もすると、一通りすんでしまったような気がしてわたしたちは楽器を床に下ろした。

今日は普段よりはやく集まったせいか中途半端に時間が余った。
何かするには短くて、でもバイバイって手を振るには惜しいようなそんな感じ。
外の景色が窓から見えた。
夕暮れの少し前の曇り空。
ちょっとヘヴィな空気。
なんだか時間がたつのが遅いなって思った。



33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/16(金) 23:40:11.78 ID:375BF6UAO

律「灯りつけなきゃな」

りっちゃんが言った。
みんな、くたあ、って床の上だとか壁だとか椅子に身体をあずけて何をするともなしにどこかを見てた。
さっき食べたポテトチップの油が胸のあたりに残ってる気がした。

唯「じゃあ、りっちゃんつけてきておねがい」

律「ええー。じやあんけえんぽんっ……おいっ、なんか出せよっ」



34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/16(金) 23:41:28.85 ID:375BF6UAO

澪「まあ、こういうときもあるよ」

紬「こういうときってどんなとき?」

澪「なんていうか……どうしようもない?」

律「たいくつ」

唯「とうとうりっちゃんは口に出してしまったのでありました」

澪「あーあ」

紬「おしまい、ちゃんちゃん」

律「もうっ、わたしはこういうのに耐えられないっ」

紬「こういうのって?」

律「たいくつ」

唯「とうとうりっちゃんは」

澪「あー」

紬「ちゃんちゃんっ」

律「いいからっ」

唯「むー」



35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/16(金) 23:43:20.00 ID:375BF6UAO

律「なんかしよう」

唯「じゃあわたし澪ちゃんのまねするよ」

紬「おおー」

澪「だめ」

律「なんで?」

澪「著作権法違反だ」

紬「それ著作権?」

澪「おほんっ……とにかくだめ。
どうせあれだ。怖がってみるだけだろ。
そんなのわたしにだってできるよ。
ミエナイキコエナイ、な」

唯「おおっ似てる」

律「ばか」

唯「でも、わたしのは違うよ」

律「やってやって」

唯「ふんす」

紬「唯ちゃんは目をつりあげた」

唯「わたしは澪ちゃんだよっ!」

律「……ばか」

唯「あれれ」



36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/16(金) 23:44:37.58 ID:375BF6UAO

唯「ねえ、つまんなくなったのは何のせいなのかな」

澪「うーん……でもさっきのは、唯だな」

唯「えー?」

律「あれは唯」

紬「どんまいよ」

唯「ひどいっ」

わたしは言った。
どこか遠くから笑い声。

律「でもホントは誰のせいでもないんだろうなあ」

澪「困るよなあ」

紬「うん」

唯「じゃあ……帰ろっか」



37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/16(金) 23:47:46.06 ID:375BF6UAO

わたしたちはガレージを後にした。
交差点まで一緒に歩いた。
りっちゃんが、じゃあなって言った。
澪ちゃんが小さく手を振った。
あずにゃんが道を曲がった。
ムギちゃんが口笛を吹いて、かすれた音が聞こえた。
わたしはちょっとさみしくなった。

ねえ、つまんなくなったのは大人になったからなのかな。

ほんとはそうやって聞こうとしたんだ。
でも、聞けなかった。
どうしてだろ?
それとも、思い出が、無駄に綺麗に見えちゃっだけかもね。
どっちにしたって切ないなあ。

不意に、ガレージの床に落ちた切れて弛緩したゴムのことを思い出した。
わたしたちは、停滞したまま叶うわけない夢を見ているんだ。
いつか前に進む日が来るのかな。
停滞夢。
呟いてから、つまんないって気づいて苦笑した。
信号が青になるのを予測してわたしはフライングする。



38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/17(土) 00:08:38.74 ID:yv+CigzAO
【落書きを消そう】

三日後、よく晴れた日だった。
実はわたしは新しく仕事に就いていて、あずにゃんに会ったのはまさにその最中だった。
時刻は3時をちょっと過ぎたくらいでわたしは公園の大きな時計台の下にいた。

梓「何やってるんですか?」

あずにゃんは目をまんまるくして言った。

唯「何って仕事だよ仕事!」

梓「こんなとこで?」

唯「こんなとこでだよほらっ」

手に持ったモップみたいなブラシみたいなそれのもっと小さいやつをあずにゃんに見せる。

梓「清掃ですか?」

唯「おしいっ」



39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/17(土) 00:13:11.31 ID:yv+CigzAO

梓「じゃあ何ですか?」

唯「落書き消しだよっ」

梓「落書き消し?」

唯「うん」

わたしは携帯でさびれた時計台に描かれた落書きを撮った。

唯「こうやって、街にある落書きを見つけては証拠写真を撮って消すんだ」

ブラシみたいなやつをバケツの液体に浸して、それから落書きをこする。
落書きは少しずつ消えていく。



40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/17(土) 00:21:58.20 ID:yv+CigzAO

唯「この液はね、特別製だからよく落ちるんだよ」

梓「へえ」

唯「落書き消しの人なんてなかなか見つけられないよっ」

梓「そりゃそうですけど。収入とかあるんですか?」

唯「消した分だけもらえるんだ。市から依頼を受けてるから。
大変だったんだよー仕事にこぎつけるのはさ」

梓「それはすごいですけど。
落書きってそんなにあるもんですかね」

唯「これが結構あるみたいなんだよね。
地下トンネルの壁一面に大きくかいてあったりさ。
そういう連絡があるとわたしに伝わるようになってるんだー」



41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/17(土) 00:30:32.39 ID:yv+CigzAO

あずにゃんはわたしが落書きを消すのをじっと眺めていた。
なんだか寂しそうに見えたのは気のせいだろうか。

梓「それなら教えてくださいよ」

唯「えへへごめん。
だってまだはじめたばっかだし、もう少しちゃんとしてからと思ったんだ」

梓「そうですか」

唯「ってわけで今日は遊べないね」

梓「別に唯先輩と遊びにきたわけじゃないです」

唯「でも、あずにゃん、うちに遊びにくるときいつもここ通るじゃん」

梓「だからってそうとは限らないですってっ」

あずにゃんは顔を真っ赤にした。



42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/17(土) 00:38:38.26 ID:yv+CigzAO

梓「じゃあ行きますから」

唯「またねっ」

梓「じゃあ」

唯「うん」

梓「行きますよ?」

唯「あずにゃん」

梓「冗談ですよ冗談っ。
あ、そうです。
なんで落書き消そうなんて思いついたんですか?」

唯「たまたま、あの液がよく落書きを消すのを発見したからかなあ」

梓「なんでそんな液体作ってんですか」

唯「企業秘密だ」

梓「何ですかソレ」

今度こそあずにゃんは歩いていった。



43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/17(土) 00:46:54.75 ID:yv+CigzAO

そのあとも、わたしは落書きをせっせと消していった。
高校生の頃、掃除が嫌いだったわたしがこんなことしてるのもおかしな話だなあって思った。

道を通りすぎようとした女の人がわたしのほうをじぃっと凝視してきた。
そんなに変かなあ。
やってきそうな劣等感を押さえ込んでわたしは落書きを消し続ける。



44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/17(土) 01:18:01.74 ID:yv+CigzAO

家に帰って、携帯を見てみたら知らないアドレスからメールが来ていた。
大学の男友達からだとわかった。
メールアドレスを変更したらしい。
でも、もうこの人とはこれから先も連絡をとらないんじゃないかなって思った。
わたしの友達にはそんな人がたくさんいる。



45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/17(土) 01:22:14.66 ID:yv+CigzAO

小さい頃、色んな人に「唯ちゃんはたくさん友達作れてすごいね」って言われた。
わたしは、それを信じたまま大人になった。
わたしのアドレス帳にはあずにゃんのアドレス帳の六倍の人が登録されてる。

少なくともあずにゃんはいろんなのことに対して、真摯に向かい合ってきたんだと思う。
真面目すぎるくらい。
だから、わたしたちが高校を卒業したときも泣いた。
いろんなことに真面目でいるっていうのは幼いことなんだろうな。きっと。

布団に寝転がった。
携帯の画面にはメールの受信画面が映っていた。
バックする。
待ち受けは笑ってるわたしたち五人。
何もこんなときまで笑顔じゃなくてもいいのにね。
技術の最先端はきらいだ。



46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/17(土) 02:16:51.16 ID:yv+CigzAO
【心配性】

それから、二ヶ月くらいたったある日曜日。
週末はみんなが集まる日だったのに、今日ここにいたのはわたしとりっちゃんだけだった。

律「みんな忙しいんだってさ。実家帰ったりいろいろ」

唯「そっかあー。なんだか寂しいね」

律「まあ、しかたないんじゃね」

唯「うん」

律「唯って心配性だよなというより考えすぎ?」

唯「そーかな?」



47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/17(土) 02:18:12.04 ID:yv+CigzAO

律「うん。しかも余計なことばっかりだ。梓もだけど」

唯「あずにゃんはさみしがりやさんなんだよ。
あと、ちょっーと泣き虫」

律「あ、そーかも。そういや、唯も泣いたよな学祭のときに」

唯「あれはだよ。その……」

律「いやあ、でも今思うとけっこう恥ずかしかったよな。
たくさん人いたし。
思い出すとあーってならない?」

唯「なる。思い出させないでよーっ」

律「ははっ。唯、顔、真っ赤ー」

唯「ひどいひどい」

りっちゃんをつかまえておでこにデコピンをくらわせた。

律「いてて」



48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/17(土) 02:18:41.12 ID:yv+CigzAO

唯「あーあ、わたしってかっこ悪いかなあ」

律「ちょっとな」

唯「ちぇっ」

わたしは持ってきた廉価アイスをなめながら紅茶を飲む。



49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/17(土) 02:20:22.29 ID:yv+CigzAO

唯「大人になると泣かなくなるのかな」

律「どうだろ。でも年とると涙もろくなるって言わない?
てか紅茶にアイスってひどくね」

唯「りっちゃんも食べてるくせに」

律「まあね。あ、さっき考えたんだけど年とるとさ映画とか子どもの成長とか見てなくけど自分のことで泣かなくね」

唯「たしかにそうだ。
涙を見せないようにしてるのかなあ」

律「たしかにいい大人が泣いてるとなんか変な感じするもんな」

唯「よく考えたら、わたしたちも大人なんだよねー」

律「たしかに」

りっちゃんが笑った。
わたしはアイスをなめた。
甘い。冷たい。



50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/17(土) 02:25:37.81 ID:yv+CigzAO

そんな風にだらだら過ごしていたら、夕方になって、家に帰ることにした。
りっちゃんと並んで歩いた。
真っ赤な夕日に影がだらしなく伸びていた。
商店街の入り口を避けるように左に曲がったらりっちゃんが言った。

律「歩く床ができるんだって」

唯「え?」

律「商店街のさ歩道が動くようになるんだってさ」

唯「へぇー。あ、それって隣にでっかいデパートができたからかな?」

律「だろうなあ」

落ちてた石ころをわたしは蹴った。
石ころは転がって穴に落っこった。



51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/17(土) 02:42:42.51 ID:yv+CigzAO

唯「りっちゃん仕事は大変?」

律「ぼちぼちな」

唯「そっかあー」

律「唯はどう?」

唯「えーとね、最近仕事はじめたよ」

律「よかったじゃん。どんな?」

唯「えー、まだひみつ」

律「なんでだよっ」

唯「だってさ……」

あの仕事が嫌いなわけじゃなかった。
でも人に言うにはなんだかカッコ悪い気がしたんだ。



52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/17(土) 02:47:09.52 ID:yv+CigzAO

律「まあ、いいや。唯が教えたくなったら教えてくれればさ」

唯「ありがと」

律「でも、どんな仕事だっていいと思うよ唯がいいならって話だけど。


わたしたちは歩く。
迷子の犬が横を通りすぎた。
公園で三人の男の子がえっちな本を囲んで騒いでいた。
夕暮れなんだって思った。

律「無色だよ」

唯「えー」

律「違うよ色の話。ずっと、唯は無色だった気がするよ」

唯「どういうこと?」

律「うーん……ばかっぽいってこと?」

唯「ひどいっ」

りっちゃんはわたしを小突いた。
体がへこんだ。



53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/17(土) 02:54:07.55 ID:yv+CigzAO

街灯が点くのが見えた。

唯「前に落書きしたの覚えてる?」

わたしは言った。

律「ああ。ペンキで壁に描いたよな」

唯「やっぱりあれはさ、いけないことだったんじゃないかな」

律「なんだよー。描こうって言ったの唯じゃん。あそこは誰も通らないって」

唯「最近、毎日のようにそこに行くけど誰もいたことないよっ」

律「でもまあ、そうかもな。
誰かが描いた落書きは誰かが消さなきゃだもんな」



54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/17(土) 02:56:40.74 ID:yv+CigzAO

唯「ちっちゃい子って落書き好きだよね」

律「ああたしかに。わたしたちの落書きはどうなってた?」

唯「消されてたよ」

律「そっか」

りっちゃんは空に目を向けた。
わたしも顔を上げたけど何も見えなかった。
少年が二人自転車で通りすぎて、パトカーがそれを追いかけていた。

それはこういうことかもしれない。
子どもの頃した落書きを消すのは大人になった自分なんだ。

サイレンが聞こえた。



55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/17(土) 03:13:16.30 ID:yv+CigzAO

りっちゃんと別れた後、わたしはあの場所に行った。
全く人気はない。
近くに小さな橋があったけど、隣に大きな橋ができたせいで誰一人通らない。
そこから、わたしはしたの方の壁を見下ろした。
みんなで落書きをしたあの壁だ。
仕事をはじめて一番最初に消した落書き。
今では別の落書きが描かれていた。
わたしがそれを消した一週間後に見つけた。
しかも、不思議なのはわたしがそれを消すたびに新しい絵が描かれることだ。
その落書きにはいつも赤、緑、黄色の三色のスプレーが使われていたから、きっと同じ人が描いてるんだろうと思った。
そのせいでわたしは仕事のはじめにいつもこの絵を消すんだけど、次の日の朝にはまた別の絵が描かれている。
でも、いつの間にかそれがわたしの楽しみになってたんだ。
今日はどんな絵が描かれてるのかなあって。




56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/17(土) 03:14:23.30 ID:yv+CigzAO

今日の絵を見るー
中央の一番目立つところにくらげがいた。
真っ赤で大きなくらげ。
懐かしいって思う。

なんでだろう?
こんなくらげ見たことないのに。
少し後で気づいた。
わたしがホントに懐かしいのは、好きなのはこの絵全部が含む何かなんだ。
それが何なのかはわからなかったのだけど。



57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/17(土) 03:28:21.98 ID:yv+CigzAO
【迷子の少女徘徊中】

あの落書きを描いてるのが誰で何で描いてるのがのかを知りたくなったわたしは、次の日の深夜、部屋を出た。

夜の町。
遠くでネオンが光っているのが見えた。
広告塔のディスプレイは現実より綺麗が売りで、空気清浄機のCMが流れていた。

『綺麗な部屋は人の心を綺麗にします』

あの綺麗な部屋の押し入れはきっと汚いんだ。
ってわたしは思った。
あずにゃんが部屋を掃除してくれたけど押し入れは汚いままだってことを思い出した。
そういえば、そのせいで水鉄砲がどこかいっちゃったな。



59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/17(土) 03:39:27.00 ID:yv+CigzAO

自販機が夜道を照らしていた。
ペプシ・コーラを売っている自販機はこの町にはなくなったと思ったから驚いた。
硬貨を入れて、屈んでコーラをとりだした。
買ってから寒いなあって思った。
ずいぶんラフな格好で来てしまった。
プルタブを思い切り引き抜いて、炭酸を一気に飲んだ。
舌がひりひりした。



60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/17(土) 03:49:02.00 ID:yv+CigzAO

夜の道は昼間と違って何度か迷いそうになったけれど、橋の下までたどり着いた。
風が吹いた。
震えた手をポケットに入れた。
携帯を落としたことに気づく。
これだから、技術の最先端は嫌なんだよ。


61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/17(土) 03:49:53.17 ID:yv+CigzAO

壁の前で誰かが動いていた。
スプレーを吹き付けて、引いて、の繰り返し。
まるで踊ってるみたいだってわたしは思った。
長い間、その動きに見惚れていた。
不意に、我に返って恐る恐る前に歩く。
あたりは暗かった。
でも、見えた。
だから、好きだったんだ。
あの落書きがさ。
そうなんだ。


「あずにゃん」



63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/17(土) 04:02:26.25 ID:yv+CigzAO

影が目の前で振り向いた。
服はスプレーで汚れていた。

梓「唯先輩?」

唯「えへへあずにゃんは悪い子だねー」

梓「あの……これは……そのですね」

唯「あのね、あずにゃんはわたしが小さい頃よくした落書きに似てるんだよ」

梓「ん……」

唯「机とかノートの端っことかいろんなところに描いた落書きにさ。
変な話だよね。わたしは落書きを消す人になって、なんでかあずにゃんは落書きをしてる。
なーんてさ。
とりあえず座ろうよ、ね?」

梓「はい」



64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/17(土) 05:42:59.05 ID:yv+CigzAO

壁に持たれるようにして腰をおろした。
わたしたちの間にはほんの少しだけの隙間があった。

唯「あずにゃんが毎日描いたの?」

梓「……すいませんっ」

唯「ううん。わたしは怒ってないよ。
わたしはあのあずにゃんの描いた落書きが好きだったんだよ」

梓「ほんとですか?」

唯「うん。毎日、楽しみにしてたよー」

梓「……そうですか」

あずにゃんは下を向いた。

唯「照れてる」

梓「ないです」

唯「そっかあー」

梓「……少し」

唯「えへへ」

梓「むう」



65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/17(土) 05:43:37.22 ID:yv+CigzAO

唯「ね、なんで描こうと思ったのー?」

梓「唯先輩の給料が上がるんじゃないかなあって」

唯「うそっ?」

梓「うそです」

唯「くそぅ」

梓「ふふっ」

あずにゃんは笑った。
ずるいっ。
わたしも笑った。



66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/17(土) 05:44:13.27 ID:yv+CigzAO

梓「消えてほしくなかったんです」

唯「え?」

梓「みんなで描いた落書きが。子どもですよね」

唯「ちょこーっと、ね」

梓「それに唯先輩が遠くなった気がしたんです」

唯「あずにゃんと遊べなくなったから?」
梓「他の先輩に比べて唯先輩は軽いんですよっ」

あずにゃんがわたしの鼻をぱこんってやった。

唯「いちっ」



67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/17(土) 05:45:16.18 ID:yv+CigzAO

梓「唯先輩に伝わるかなあって。
子どもでいたかったんですよっ……」

唯「そっかあ」

梓「別にわかんなくてもいいですよ」

唯「わかるよ。わたしもずっとそのこと考えてたから。考えすぎらしいよ」

梓「ふむ」



68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/17(土) 05:46:18.87 ID:yv+CigzAO

唯「そういえば、なんでいつも赤、緑、黄なの?」

梓「信号機。信号機の色ですよ。緑は青ですけど」

唯「しんごう?」

梓「子どもの頃から信号機が好きだったんですよ」

唯「なんで?」

梓「ほら、信号機が赤なら大人も子どもも誰でも止まるし、青なら一斉に歩き出すじゃないですか。
あれを見るのが好きだったんです」

唯「でも、誰かが信号無視したら?」

梓「わたしがこらしめてやりますよ」

唯「おねがいしますっ」

梓「えー」

唯「ほら、あずにゃんに許してもらいたいんだよ」

あずにゃんはもう一度わたしの鼻をぱこんってやった。

唯「いていっ」



69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/17(土) 05:49:59.25 ID:yv+CigzAO

ずっと向こうの高架線の上を車が走っていた。
ヘッドライトの光が行列をつくって、海になった。

唯「わたしさ、はやく大人になりたいって思ってたんだよ」

梓「唯先輩が?」

唯「大人になれば楽しいことがいっぱいあると思ったんだ。でも、ダメだよ。ぜんぜん。
かっこよくなろうとしていらないもの捨てようとしたら、いつの間にか大事なものまで捨てちゃうところだったんだ」

わたしはあずにゃんのほっぺをぐりぐりした。

唯「あずにゃんがいてよかったな」

梓「……どうもです」



70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/17(土) 05:52:44.74 ID:yv+CigzAO

唯「みんながいたから……つまんないのがね……好きになれたよ」

梓「先輩?」

唯「……わたし、いろんな恐ろしい目にもあったよっ……誰にも言わなかったけど……
退屈なのが怖くて耐えられない気がしたんだ……」

あずにゃんがわたしとの最後の隙間を埋めた。

唯「でも、よかったんだ……あずにゃんがいたから……
あずにゃんはみんなよりずっとちっちゃくて子どもだから……
わたしも子どものままでいられたんだよ」

あずにゃんは何も言わなかった。
幼い子どもみたいに、ただ話を聞いていた。
わたしがずっと憧れた大人は実はまるで子どもみたいで、わたしが思ってた子どもは大人のことだったんだ。



71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/17(土) 05:54:05.58 ID:yv+CigzAO

唯「わたし勝ったんだ。大人になりたい自分に。
あずにゃんのおかげだねっ」

わたしはあずにゃんに向かって笑いかけた。
あずにゃんは照れた顔を見せて、すぐに真剣な顔を作ったけど、それは崩れて笑顔になった。
わたしは泣き出してしまう。
押さえても押さえても涙がこぼれた。
声を上げた。
あずにゃんがわたしを抱き締めた。
ちっちゃいから寒さからわたしを守ってくれたりはしない。
でも、いいんだ。



72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/17(土) 05:56:48.50 ID:yv+CigzAO

そのまま黙ってしまう。
そんな予定調和が嫌だったから言った。

唯「あずにゃん、知ってる?最先端の空気清浄機は人の心まで綺麗にしちゃうんだ」

梓「わたしはできないですよ」

唯「知ってる。あずにゃんはしてくれないんだ。いじわるだから」

梓「ばあか」

あずにゃんは強く強くわたしを抱き締めた。
わたしはへこんだ。
くにゃり。
でこぼこになる。

唯「ぺしゃんこだあ」

梓「えへへ」



73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/17(土) 06:04:15.27 ID:yv+CigzAO

二人で残りの絵を描いた。
時間が足りなくて壁の半分しか埋められなかった。
天使を描いたつもりだったけど、なんだかそれはあずにゃんに見えた。

梓「いいんですか描いちゃって?」

唯「どうせわたしが消すからいいんだよっ」

消しても大丈夫なんだ。
もう。
ちゃんと覚えてるから。ちゃんと。



75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/17(土) 06:14:47.32 ID:yv+CigzAO
【エピローグ】

朝遅く、ていうともうお昼みたいなもんだけど、わたしは家を出た。
昨日の落書きを消しにいかないといけない。
信号が点滅していたのであわてて横断歩道を渡った。

人「おいっ無職」

後ろから呼ばれた。
振り返った。
『サッカー君』が赤信号を無視してわたしのほうにやって来た。

人「あのさ、唯……」

唯「信号無視した」

人「いーじゃん別に車もないんだし」

唯「バチが当たるよー」



76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/17(土) 06:23:36.97 ID:yv+CigzAO

人「そんなことよりさあ、今日こそ……」

唯「わたしのコレ嫉妬深くてさ、ごめんっ」

いたずらっぽく小指をたてた。

人「はっ?……うわっ。いてっ」

『サッカー君』の顔面にすごい勢いの水が命中する。

人「はあ。なんだ?」

『サッカー君』はその原因を突き止められないみたいだった。
わたしも周りを見回したけど、特に何も見つからなかった。

人「おい待てよ……うわっマジでなんだよこの水。服にかかったし」

唯「そうそうわたし、もう無職じゃないんだよね。バイバイ」



77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/17(土) 06:29:43.43 ID:yv+CigzAO

わたしは走り出す。
右に曲がって、ぶつかった建物の階段を駆け上り立ち入り禁止のフェンスをジャンプで飛び越えた。
屋上に出る。

梓「あ、おはようございます……ふぁあ」

やっぱりあずにゃんは眠そうであくびをした。

唯「その水鉄砲あずにゃんが持ってたんだっ」

梓「ああ。けっこうすごい勢いで出ますねコレ」

唯「あの人撃っちゃってよかったの?」

わたしはわざと聞いた。

梓「だって、あの人信号無視したじゃないですか」



78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/17(土) 06:36:58.57 ID:yv+CigzAO

昨日の壁に向かう。
二人で並んで歩いた。
あずにゃんが眠そうだったので水鉄砲で起こしてあげたら、ほっぺをつねられた。

梓「そういえば。さっき、小指立ててましたけど、何なんですかアレ? 挑発するのは中指ですよ」

唯「し、知ってるよっ。あれはわたし流の挑発なのです」

梓「へえー」

唯「信じてないね?」

梓「ぜんぜんです」

唯「ホントの意味知りたい?」

梓「いや別にいいですけど」

唯「あーっ」

梓「どうしたんですか?」

唯「携帯あった……ジュース買った時に落としたんだあ」



79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/17(土) 07:07:03.35 ID:yv+CigzAO

携帯には二件着信があって、そのうち一件には留守電が入っていた。
歩きながらそれを聞いた。
電話は二回ともりっちゃんからだった。

律『もっしもーし、唯ー。あっれーでないぞあいつ。なあ出ないんだけど。
うん。えー、わたし留守電苦手だから紬頼むっ』

紬『唯ちゃん驚かないでよ……』

梓「唯先輩見てくださいっ。すごいですよっ」

唯「どしたの? ……あっ!」

壁一面に
『放課後ティータイム』
の文字がペンキで書かれていた。

さらにその周りには楽器の絵とか、よくわかんないものが描かれている。



80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/17(土) 07:08:59.78 ID:yv+CigzAO

紬『ってわけなの。澪ちゃんっ』

澪『あーあー  律『マイクのテストじゃないんだぞっ』  唯? 実はさ、律が消されたからもう一回落書きしに行こうって言い出してさ、唯と梓は電話しても出ないから、とりあえず三人で行ったら、唯たちがいてびっくりって話なんだよー。
ってか留守電入れるほどでもなかったなあ。あはは。
えっ、ああ。ムギに代わるね。』

紬『あとね、いい忘れたんだけど、ホントはコレいうために電話したんだけどね。
ごめんなさいっ。
唯ちゃんの仕事大変にしちゃったみたいだから。
あ、なんで唯ちゃんの仕事知ってるかっていうとね。わたしの会社の後輩で唯ちゃん知ってる子がいてわたしに教えてくれたの。時計台の落書きを消してたって。あとね澪ちゃん歌詞できたんだって。
唯ちゃんと梓ちゃん見てたら歌詞が思い……  澪『わたしの話はいいよっ』  はいっりっちゃんも一言』



81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/17(土) 07:12:24.68 ID:yv+CigzAO

律『一言って言われてもなあ。
あそうだ。泣いてただろ? カッコわるい。ちょーっとだけ』

ぷっちん。
電話が切れた。

唯「ひどいっ」

わたしは言った。
そのあとで笑った。
ちょっとだけね。



82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/17(土) 07:19:59.41 ID:yv+CigzAO

唯「あずにゃんこりゃ消すの大変だよー」

梓「嬉しそうですね」

唯「そうだ。あずにゃんさ、そのさ、大学出たらわたしといっしょに働かない?」

梓「うーむ」

唯「わたしがんばるからさっ。もっといろんな場所で仕事できるようにするし。しっかり働きますからあー」

梓「なんで唯先輩が懇願してるんですか……でもそうですね。考えておきますよ」

唯「やったあーっ。ありがとっあずにゃん!」

わたしはあずにゃんに飛び付く。

梓「まだ誰もいいとか言ってませんしっ」

唯「すりすりー」

梓「うわっ」



83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/17(土) 07:30:39.82 ID:yv+CigzAO

唯「そうだっ。新入社員のあずにゃんにいいことを教えてあげよう」

梓「もう入社してるし……」

唯「この激落ち液はとっても割れにくいしゃぼん玉を作ることができるのです」

梓「あっ。そうやって見つけたんですか」
唯「びんごっ」



84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/17(土) 07:35:39.32 ID:yv+CigzAO

わたしはポケットからしゃぼん玉を吹く筒を出した。
液をつけてしゃぼん玉をつくる。
できたしゃぼん玉を軽く指でつついた。

唯「ほらっ、つんつんしてもわれないよっ」

梓「へえ」

今度は息を思いきり吐いた。
いくつものしゃぼん玉が空に向かってあがっていく。
透明なしゃぼん玉は光を反射して虹色に輝いた。
くちびるに人差し指をあてて、静かにってあずにゃんに合図した。



しゃぼん玉が好きだった。

だから、われないでほしいって思ったんだ。

しゃぼん玉が空のむこうのむこうに消えてしまったあとで、わたしたちは大声をあげて笑った。



85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/17(土) 07:36:20.10 ID:yv+CigzAO
おわり!


87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/17(土) 10:47:31.46 ID:if6eVsh10
乙!


88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/17(土) 10:59:56.37 ID:xktPIxYWo

いいなぁ


89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/18(日) 01:37:50.88 ID:DSZvv14SO
面白かった乙
まさに雰囲気SSだった


90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/03/22(木) 21:57:07.69 ID:KgNjYUF+o
すてきなSSを読んだ


元スレ:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1331718872/


けいおん!! 108マイクロピース 唯と梓 M108-096
けいおん!! 108マイクロピース 唯と梓 M108-096

TVアニメ「けいおん! ! 」劇中歌集 放課後ティータイム II
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