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吸血鬼「アナタの血をいただくわ」格闘家「なんだと!?」
- 1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 19:50:19.55 ID:eRjtIBs70
- 格闘道場──
ある夜、格闘家は一人きりで遅くまで鍛錬をしていた。
といっても、この道場に所属するのは道場主である彼一人だけなのだが。
格闘家「──せいいっ!」
バシィッ!
格闘家の蹴りで、サンドバッグが揺れる。
格闘家「……ふう」
格闘家(長い戦いの末、ようやく世界チャンピオンへの挑戦権を得られた……)
格闘家(俺の最強を証明するためにも、この道場を立て直すためにも、必ず勝つ!)
彼は一週間後に大一番を控えていた。
- 3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 19:53:53.24 ID:eRjtIBs70
- 格闘家「!?」ピクッ
格闘家(──今、なにやら気配を感じた!)ザッ
格闘家「だれかいるのかっ!?」
シ~ン…
格闘家「……気のせいか」
吸血鬼「気のせいじゃないわよ」
格闘家「!?」
吸血鬼「こっちこっち」
格闘家(──上っ!?)サッ - 5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 19:56:29.24 ID:eRjtIBs70
- 女が天井に立っていた。
格闘家「なっ……!」
(ど、どうなってるんだ!?)
吸血鬼「よっと」スタッ
格闘家「君は……何者だ!? どうやって天井に立っていた!?
……いや、どうやってここに入った!?」
吸血鬼「アタシは吸血鬼。ちょっと栄養が足りなくてね」
格闘家「吸血鬼!?」
吸血鬼「アナタの血をいただくわ」
格闘家「なんだと!?」 - 7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 19:59:25.04 ID:eRjtIBs70
- 格闘家は身構えるが、得体の知れない相手に心は引けていた。
吸血鬼「どうしたの?」
格闘家「なにっ!?」
吸血鬼「抵抗しないの? アナタ、鍛えてるんでしょ?」
吸血鬼「ま、大人しく吸われてくれるんなら、それに越したことはないけど」スタスタ
格闘家「ち、近づくな!」
吸血鬼「どして?」
格闘家「俺は女性を……殴りたくない!」
吸血鬼「クスクス……」スタスタ
格闘家(くっ、やむを得ない!)
「とりゃあっ!」
ビュッ! - 11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 20:06:39.61 ID:eRjtIBs70
- ──ピタッ
拳は寸止めだった。
吸血鬼「あら、優しいのね……クスクス」
格闘家「……くっ!」
吸血鬼「でも優しいだけじゃ、自分の命は守れないわよ?」
格闘家「いいから消えてくれ!」
吸血鬼「イヤよ」
吸血鬼「……もしかしてアナタ、怖いんじゃないの?
吸血鬼(アタシ)に自分の技が通用しないかもって……」
吸血鬼「だからパンチを当てないことで情に訴えようとしたり、
口で説得しようとしてるんでしょ?」
吸血鬼「見た目に反して、ずいぶんと女々しいヒト……ガッカリね」
格闘家「な、なんだと……!」 - 13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 20:10:22.75 ID:eRjtIBs70
- 格闘家(ここまでいわれて黙っていられるか……やるしかない!)
吸血鬼「あら、やる気になったみたいね。さ、どうぞ」
格闘家「はぁっ!」
ズガァッ!
格闘家の手刀が、吸血鬼の肩に炸裂した。
吸血鬼「フフ……攻撃を通して、アナタの怯えが伝わってくるわ」
格闘家(笑ってる……!? 俺の手刀が、効いてないのか!?)
吸血鬼「肩を狙ったのは、やっぱりアナタなりの優しさなのかしら?
でもどんどん攻撃しないと、一滴残らず吸われちゃうわよ?」
格闘家「うぅっ……!」
格闘家「うわあぁぁぁっ!」 - 16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 20:15:16.63 ID:eRjtIBs70
- ドボォッ!
吸血鬼の腹に、格闘家の拳がめり込む。
吸血鬼「クスクス……」
格闘家「うぐぅ……!(やはり全然効いていない!)」
格闘家「せりゃあっ!」
脇腹への回し蹴り。
ドガッ!
肩への正拳突き。
バキッ!
さらには顔面へのヒジ打ち。
ベキッ!
しかし、これだけの攻撃をもってしても、吸血鬼の微笑みを消すことはできなかった。 - 18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 20:22:14.94 ID:eRjtIBs70
- 格闘家(なぜだ……たしかに攻撃が柔肌に食い込んでいる感触はある。
なのに、なぜ効いていないんだ!?)
吸血鬼「フフ……もう終わり?」
格闘家「うっ……」ギクッ
格闘家「ま、まだだァッ!」
敗北すなわち死。
格闘家は己の格闘人生の全てを賭して、猛ラッシュを仕掛けた。
鍛え抜かれた拳足が、吸血鬼の全身を打つ。
バキッ! ドゴッ! ガスッ! メキッ! ドスッ!
吸血鬼はかわすことも守ることもせず、全てを受け入れた。
不敵な笑みを浮かべながら。
10分後──
格闘家「はぁっ……はぁっ……!」
吸血鬼「……ん、もう終わったの?」
格闘家(ダ、ダメか……!)ドサッ
無駄を悟った格闘家は、大の字になって崩れ落ちた。 - 19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 20:26:13.40 ID:eRjtIBs70
- 吸血鬼「よく頑張ったわね。じゃあ、さっそく──」
血を吸おうと、吸血鬼が横たわる格闘家に近づく。
すると──
格闘家「……うぅっ」グスッ
吸血鬼「あらあら、死ぬのが怖くなっちゃったの? クスクス……」
(安心なさい。アナタを殺すつもりはないから……。
ちょっとだけ血をもらうだけだから……)
格闘家「ぢ、ぢくじょう……」グスッ
吸血鬼「?」
格闘家「おれのわざ、全然きがなかった……」グスッ
格闘家「おれの今までのじんぜいは、なんだったんだ……!」グスッ
吸血鬼「…………」 - 21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 20:30:14.01 ID:eRjtIBs70
- 吸血鬼「よいしょ」スッ
吸血鬼は涙を流す格闘家の頭を、膝枕の上に置いた。
格闘家「な、なにを……?」グスッ
吸血鬼「ごめんなさいね。少しやりすぎてしまったみたい」
吸血鬼「アタシはアナタを殺すつもりはないし、
ましてやアナタの人生を否定するつもりなんて毛頭なかった」
吸血鬼「アナタは強そうだったから、
ちょっとからかってみたかっただけなの……本当にごめんなさい」 - 23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 20:36:13.06 ID:eRjtIBs70
- 格闘家「君は……人の血を吸って生きているんじゃないのか?」
吸血鬼「別に血を吸わなくても生きてはいけるわ。
アタシが血を吸う時は、本当に命が危ない時くらいよ」
吸血鬼「それに……アタシは人を殺したことはないわ」
吸血鬼「血を吸うといっても、献血の量よりずっと少ないくらいだし」
吸血鬼「吸う前にはちゃんと下調べをして、
吸っても健康に影響がない人間だと判断した上で吸うわ」
吸血鬼「吸った後にこちらから魔力を注入しなければ、
アナタに呪いが移るということもないしね」
格闘家「──ってことは、俺のことも……?」
吸血鬼「えぇ、とても大きな試合を控えている格闘家さんでしょ?
ちゃんと調べてあるわ」
吸血鬼「アナタは強い……それにものすごく努力している。
だからアタシに勝てなかったからって、気に病む必要なんてないのよ」 - 24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 20:39:33.87 ID:eRjtIBs70
- 格闘家「……なぜ俺の攻撃は、君に効かなかったんだ?」
吸血鬼「人間とアタシたちじゃ、肉体の頑強さがちがいすぎるわ。
たとえ銃でもアタシに傷一つ付けることはできない」
吸血鬼「生身でアタシを倒そうというなら、それこそ大地を割るくらいのパワーか、
あるいは拳に魔力を付加する、とかしないと無理でしょうね」
吸血鬼「もちろんそんな術、格闘家であるアナタが知るはずがない」
吸血鬼「だから……気にしないでいいの」
吸血鬼「アタシは下調べした時、修業するアナタにずっと見とれてた。
とてもかっこよくて、美しかった……」
格闘家「かっこよくて美しい……? まるで君に歯が立たなかった俺が?
なにをバカな……」 - 25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 20:45:29.99 ID:eRjtIBs70
- 吸血鬼「あらそう?」
吸血鬼「一生懸命努力している姿って、とても尊いじゃない」
吸血鬼「それともアナタは、アナタより弱いヒトが一生懸命練習してるのを見て
俺より弱いくせにってバカにするの?」
格闘家「いや、そんなことは……ない、けど」
吸血鬼「でしょ?」
吸血鬼「実力はたしかに大事だけど、努力している姿はそれだけでも美しい。
少なくともアタシにとってはね」
格闘家「…………」
格闘家「さっきまで、俺は君のことを非常識な存在だと思っていた」
格闘家「……しかし、だんだんと親しみを持ってきたよ。
俺なんかより、よっぽど正しい心を持ってるしな」
吸血鬼「ありがと」 - 26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 20:48:12.40 ID:eRjtIBs70
- 格闘家「なぁ……もう一度、改めて俺と勝負してくれないか?
君が勝ったら……俺の血を吸ってもいいってことでどうだ?」
吸血鬼「えっ?」
格闘家「むろん、勝敗は分かり切っている」
格闘家「君との差を……知りたいんだ」
吸血鬼「……分かったわ」
二人とも立ち上がる。
格闘家「行くぞっ!」ダッ - 27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 20:51:18.28 ID:eRjtIBs70
- シュッ!
格闘家の右ストレートを、吸血鬼は指一本で止めた。
格闘家「…………!」
吸血鬼「じゃあアタシから……」
ピンッ
なんの変哲もないデコピン──
ドガァン!
しかし、百戦錬磨の格闘家はなんの変哲もないデコピン一発で、
壁まで吹き飛ばされ、ノックアウトされた。 - 30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 20:55:28.10 ID:eRjtIBs70
- 格闘家「デコピンでKO、か……」
吸血鬼「……本気でやらなかったこと、怒ってる?」
格闘家「いいや」
格闘家「君が本気を出してたら、俺は今頃三途の川にいるだろう」
格闘家「俺の君との差は、それだけのものがあるってだけのことだ。
怒る理由なんか、あるはずがないさ」
格闘家「もちろん、もう自分の人生を否定したりはしない。
君には通用しなかったが、俺は俺なりに精一杯やってきたんだからね」
格闘家「さぁ、俺の血を吸うといい」
吸血鬼「……うん」 - 31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 20:59:13.91 ID:eRjtIBs70
- 格闘家は首筋を差し出した。
吸血鬼「いただきます」カプッ
吸血鬼の牙が、首筋に甘く刺さる。
吸血鬼「…………」チュルッ
吸血鬼「…………」ゴクゴク
吸血鬼「──っぷはぁっ」
格闘家「え、もういいのか?」
吸血鬼「えぇ、これだけで十分よ。いったでしょ、献血よりずっと少ないって」
格闘家「変な質問だが、俺の血の味ってのはどうだった?」
吸血鬼「クスクス……気になる?」
格闘家「いや、まぁ……変な味だったらやっぱりイヤだしな」
吸血鬼「血の味なんか、だれでも大差ないわよ。
少なくともまずくはなかったわ。安心して」
吸血鬼は嘘をついていた。 - 33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 21:07:15.65 ID:eRjtIBs70
- 吸血鬼(な、なんて……)
吸血鬼(なんて力強く、濃厚な味……!)
吸血鬼(こんな血を飲んだのは、生まれて初めて……。
ああ、アタシの全身にこの人の炎のような闘志が浸透していく……!)
吸血鬼(体内でこの人の赤い血が、縦横無尽に暴れ回っている……!)
吸血鬼(スゴイ、なんてスゴイんだろう!)
吸血鬼(ああ、全て飲みたい……この人の血の全てを!)
吸血鬼(でもダメ……アタシには自分で決めたルールがあるんだから……)
吸血鬼(拳ではアタシにダメージを与えられなかったけど、
アナタの血はまちがいなくアタシに大ダメージを与えたわよ。
……格闘家さん) - 34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 21:10:19.77 ID:eRjtIBs70
- 吸血鬼「ねぇ」
格闘家「ん?」
吸血鬼「アナタ、ここに住んでいるんでしょう? アタシをしばらく置いてくれない?」
格闘家「かまわないが」
吸血鬼「えっ、ホント?」
格闘家「ああ。世界チャンピオンとの試合の前に気が立ってたところに、
君のおかげでだいぶ気がほぐれたしな」
吸血鬼「ありがとう……」 - 37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 21:16:20.53 ID:eRjtIBs70
- 吸血鬼「ところで、なんでこの道場ってアナタ一人なの?」
格闘家「元々はオヤジが建てたんだ」
格闘家「オヤジは強かったから、どんどん人が集まってきたんだが、
絶望的なまでに教え方がヘタでな」
格闘家「厳しい上に分かりにくかったら、ついてくる人間なんているわけない」
格闘家「門下生は一人、また一人と去っていき、残ったのは息子の俺だけだった」
格闘家「……で、意外に繊細なとこもあったのか、急に体を悪くして
今はお袋と一緒に田舎で暮らしてる」
格闘家「そして後を継いだ俺が、道場の立て直しを図ってるってわけだ。
俺もそれなりに有名になったが、オヤジの悪評も根強く残ってて
入門してくるヤツは一人もいない……」
吸血鬼「……イヤになったことはない?」
格闘家「辛い時はあるが、イヤになったことはないな。好きでやってることだし」
吸血鬼「やっぱりアナタってステキね」 - 41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 21:20:27.62 ID:eRjtIBs70
- 格闘家「じゃあ今度は俺から質問だ」
格闘家「吸血鬼ってのは君以外にもいるのか?」
吸血鬼「もちろんいるわ」
格闘家「……ってことは、家族も?」
吸血鬼「えぇ、父と母と兄がいる。
もっとも、もう何十年も会っていないけどね……」
格闘家(何十年……そうか、若く見えるけど人間よりずっと長生きなんだな)
格闘家「なぜ、離れ離れになってしまったんだ?」
吸血鬼「アタシたちは常に人間の“ハンター”に狙われてるわ。
ひと固まりになっているワケにはいかないの」 - 43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 21:26:12.22 ID:eRjtIBs70
- 吸血鬼「実はね……ここに来る前にも、アタシ狙われてたの」
格闘家「ハンターってヤツにかい?」
吸血鬼「そうよ」
格闘家「君ほどの力なら、そんなヤツら簡単に倒せるんじゃないのか?」
吸血鬼「彼らの装備は万全の魔物対策をしてあるから、アタシは絶対に勝てないの。
アタシの攻撃は彼らに一切通用しないわ」
格闘家「そういうもんなのか……」
(なるほど……そいつらとなにかあって、俺の血を欲してたってワケか)
吸血鬼「もし興味があったら、コンタクト取ってみたら?
アタシを倒せるようになるかもよ」
格闘家「……興味ないな」
格闘家「あくまで俺は人間としての最強を目指すよ」 - 45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 21:28:22.27 ID:eRjtIBs70
- 夜が更けてきた。
格闘家「──さて、俺はそろそろ寝るが、君はやっぱり箱の中で寝るのか?
棺桶とか……。ロッカーならいっぱいあるんだけど」
吸血鬼「アナタたちと同じよ。フツーでいいわ」
格闘家「そうか。じゃあ向こうの部屋に布団を敷いておくよ」
格闘家「おやすみ」
吸血鬼「えぇ、おやすみなさい」 - 48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 21:33:12.68 ID:eRjtIBs70
- 明朝から、格闘家は黙々と鍛錬を続けた。
格闘家「──せりゃあっ!」
ビュババッ! ババッ!
吸血鬼「………」
吸血鬼(キレイ……)
吸血鬼(この人は、一人きりのトレーニングで、世界チャンプに挑めるまでになった。
よほど血のにじむ努力をしてきたんでしょうね……)
吸血鬼「ねぇ」
格闘家「ん?」
吸血鬼「もしジャマでなければ、アタシにも手伝わせてくれない?」
格闘家「かまわないけど……吸血鬼なのにこんなに朝早くて平気なのか?」
吸血鬼「夜じゃない時はたしかに動きは鈍るけど、大した影響はないわ」 - 49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 21:37:28.19 ID:eRjtIBs70
- 格闘家「つおぁっ!」
格闘家の繰り出す拳を、ミットで受ける吸血鬼。
バシッ! バババッ! バシィッ!
吸血鬼(拳を通じて、この人の熱いハートが伝わってくる……)
吸血鬼(昨日のこの人の攻撃には焦燥と困惑しかなかったけど、
今日のこの人の攻撃は熱い……!)
吸血鬼(闇に生きるアタシには、熱すぎるくらい……!)
吸血鬼(んもう……ダメだったら……そんなに激しくしちゃ……!)
格闘家(妙にニコニコしてるな。そんなにミット打ちが面白いのか……?
なんにせよ、練習相手になってくれるのはありがたい。
彼女なら、怪我させる心配もないしな)
シュババッ! バシッバシッ! - 50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 21:43:16.05 ID:eRjtIBs70
- …
……
………
格闘家「はぁ、はぁ、はぁ……」
吸血鬼「ねぇ、アナタってなんで世界チャンピオンになりたいの?
やっぱり道場を立て直すため?」
格闘家「それもあるが……俺は今のチャンプを尊敬している。
尊敬してるからこそ、勝ちたいんだ」
格闘家「なにしろデビュー戦以降、無敗……。
そんな相手とようやく戦えるんだ、悔いのない試合をしたい」
吸血鬼「ふうん……」 - 51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 21:48:12.85 ID:eRjtIBs70
- 吸血鬼と格闘家の奇妙な同居生活は続いた。
吸血鬼「ねぇ、なんでカーテン全部閉めるの?」
格闘家「え、だって太陽の光とかマズイだろ」
吸血鬼「平気よ。暗所の方が好きだから浴びないに越したことはないけど、
浴びたって体がどうなるわけじゃないしね」
格闘家(けっこう俺が考えてた吸血鬼とはちがうんだな)
~
格闘家「せいぃっ!」
バオッ!
格闘家「つぁりゃっ!」
ブオンッ!
吸血鬼(いいわぁ~……この人のトレーニング姿って、ホントドキドキする) - 52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 21:51:30.56 ID:eRjtIBs70
- ワー…… ワー……
吸血鬼「なんのビデオを見てるの?」
格闘家「今度の対戦相手、つまりチャンピオンの試合だ。もちろんチャンプが勝つけど」
吸血鬼「えっ……」
格闘家「どうした?」
吸血鬼「いえ、すっごい険しい顔してて強そうだなぁ、と思って……」
格闘家「このチャンプは無口でいつも険しい顔してるけど、最後には勝つんだよ」
吸血鬼「負けてもめげないでね」
格闘家「お、おいおい……」
~
吸血鬼「ちょっと、何やってるの!?」
格闘家「ニンニクだよ。精がつくからな」ポリポリ
格闘家「食う?」
吸血鬼「やめて、絶対近づけないで! アタシ、ニンニクだけはダメなのっ!」
格闘家「わ、分かった、分かった。悪かったよ」
(そういやニンニクって、吸血鬼の弱点だっけ)ポリ… - 53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 21:55:18.63 ID:eRjtIBs70
- ついに試合前日となった。
格闘家「これがチケットだ。けっこう貴重品なんだぞ」
格闘家「──といっても、貴重品なのはチャンプのおかげなんだけどな。
他にも数試合あるが、客の目当てはチャンプただ一人だろう」
格闘家「俺の勝利を予想してるヤツなんて、ほとんどいない。
いたとしても、競馬の大穴くらいに思ってるにちがいない」
格闘家「だからこそ……勝つ」
格闘家「……最前列の特等席、必ず見に来てくれよ」
吸血鬼「えぇ、絶対行くわ」
吸血鬼「……頑張ってね」
格闘家「もちろんだ」 - 54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 21:59:15.03 ID:eRjtIBs70
- 格闘家「俺は君と出会えてよかったよ」
吸血鬼「どして?」
格闘家「一週間前まで、俺は自分が世界でトップクラスに強いと本気で思っていた。
チャンピオンにだってなれると思っていた。
それが誇りでもあり、また重圧でもあったんだ」
格闘家「しかし、君に出会い──」
格闘家「世の中には俺なんか到底敵わないような存在がいると知った」
格闘家「泣きベソをかくくらいショックだったが、なんかとても気が楽になったんだ。
肩の荷が下りた気がした」
格闘家「こんな気持ちで明日の試合に臨めるのは、君のおかげだ」
格闘家「ありがとう」
吸血鬼「……こちらこそ」 - 59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 22:06:13.52 ID:eRjtIBs70
- 格闘家「……なぁ」
格闘家「明日の試合、もし俺が勝ったら──」
格闘家「この道場もきっと忙しくなる。
そしたら、少しの間だけでいい。俺を手伝ってくれないか?」
吸血鬼「……ん、考えとく」
こうして二人は試合当日を迎えた。 - 60 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 22:10:14.67 ID:eRjtIBs70
- 翌日──
吸血鬼「いよいよね……」
格闘家「よし……行くか!」
格闘家「じゃあ俺は、試合の準備とかがあるから先に会場に行ってる。
リングの上で……待ってるからな」
吸血鬼「うん……分かった」
格闘家は道場を後にした。 - 61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 22:14:08.21 ID:eRjtIBs70
- 会場 選手控え室──
通常、選手には誰かしらスタッフがつくものだが、格闘家には誰もいない。
一人で黙々とストレッチを行う。
格闘家(なんだか気持ちがとても楽だ……)
格闘家(これも彼女のおかげで、自分が世界最強だのという自惚れから
解放されたおかげだ)
格闘家(彼女の見ている前で、恥ずかしい試合はできない……)
格闘家(いや、勝って彼女の前に立ってみせる!) - 63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 22:18:13.71 ID:eRjtIBs70
- 会場 観客席──
最前列の席で、格闘家の試合を待ちわびる吸血鬼。
数試合が終わり、次が格闘家と世界チャンプによる試合(メインイベント)である。
観客の盛り上がりも最高潮に達している。
ワアァァァァァ……!
吸血鬼(いよいよ次ね……)
しかし──
「こんばんは」 - 65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 22:24:15.22 ID:eRjtIBs70
- ワアァァァァァ……!
ハンターA「お元気そうでなによりです」ニコッ
吸血鬼「アナタたちは……!」
吸血鬼「!」ビクッ
吸血鬼(体が……動かない……!)
吸血鬼(くぅっ……!?)ビクッ
ハンターA「おっと、話しかける前にあなたの肉体と魔力は封じさせてもらいました。
もうあなたは人間の女性よりも無力な存在です」
ハンターB「格闘家の道場に逃げ込んで、たらしこむとは考えたもんだな。
俺たちは対魔物には万能だが、人間相手じゃ分が悪い」
ハンターB「だが、ヤツはまさにこれから試合のハズ……助けに来られるはずがない。
もう前みたいに逃げられないぜ」
ハンターC「逃げられないぜぇ~」 - 66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 22:29:25.37 ID:eRjtIBs70
- ワアァァァァァ……!
ハンターA「……多少あなたを動けるようにしました。さぁ、我々についてきて下さい。
この騒がしさの中では、いくら叫んでも無駄ですよ」
ハンターA「もっとも、あなたがそんな見苦しい真似をするとも思えませんが」
ハンターC「思えませんがぁ~」
吸血鬼「分かったわ……」スッ
(ごめんなさい。アナタの試合……見られそうにないわ)
ワアァァァァァ……! - 68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 22:35:15.23 ID:eRjtIBs70
- 司会『お待たせいたしました!』
司会『いよいよ本日のメインイベント、チャンプVS格闘家です!』
ワアァァァァァ……!
司会『青コーナーより挑戦者、格闘家選手の入場ですっ!』
声援に応えながら、リングインする道着姿の格闘家。
だが、すぐに気づいた。
格闘家(──いないっ!?)
いるはずの特等席に、吸血鬼がいない。
格闘家(そんな……どうしていないんだ!?)
同じように、赤コーナーからチャンピオンが入場してきた。 - 71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 22:39:20.51 ID:eRjtIBs70
- リング上──
何年もの間、対戦を熱望してきた世界チャンピオンと向き合う格闘家。
しかし、彼の心は、一週間寝食を共にしただけの吸血鬼でいっぱいだった。
実況『お~っと、挑戦者の格闘家、チャンプと目を合わせようともしない!
これは臆してしまったのか!? はたまた挑発の類でしょうか!?』
ワアァァァァァ……!
格闘家(どうしていないんだ!?)
格闘家(来てくれなかったのか……? いや、そんなハズがない!)
格闘家(彼女は絶対来る! ……だが、現に来てないじゃないか!)
格闘家(なら……何かがあったとしか──)
格闘家(何か……。まさか、彼女がいってたハンターとかいうのが来たのか!?)
格闘家(しかし今さらどうしようも──!)
格闘家(とにかく早いとこ試合を終わらせて、彼女を探しに行こう!)
ワアァァァァァ……! - 73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 22:45:21.96 ID:eRjtIBs70
- カァンッ!
ゴングが打ち鳴らされた。
ワァァァァァ……!
格闘家(早く──早く終わらさねば!)
格闘家「つおぉっ!」
チャンプ「…………」
ガガッ! バシッ! ドカッ!
試合は打撃アリ、関節技アリ、寝技アリの総合格闘技ルール。
格闘家もチャンプも打撃を得意としており、両者立ったまま戦いを繰り広げる。
お互い一歩も引かぬ攻防──といいたいが、明らかに格闘家が押されていた。 - 75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 22:50:20.16 ID:eRjtIBs70
- 格闘家「はぁっ!」
格闘家のハイキックをガードしたチャンプが、右ストレートでの反撃。
ガッ!
格闘家「……ぐっ!」
格闘家(ダメだ……こんな心持ちじゃ、とてもかないっこない!)
チャンプ「…………」
チャンプ「君は……」
チャンプ「なにか……重大な問題を抱えているようだな」
格闘家「!?」
滅多に口を開かないといわれるチャンプが、よりにもよって試合中に口を開いた。 - 76 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 22:53:16.49 ID:eRjtIBs70
- 格闘家「な、なんのことだ……試合中だぞ」
チャンプ「口で語らずとも、拳で語らえば分かるというもの。
君の拳からは焦りしか伝わってこない」
ドヨドヨ…… ガヤガヤ……
審判「コラッ、両者減点するぞっ!」
チャンプ「黙れ」
審判「……は、はいっ!」
格闘家「……だったらなんだというんだ。アンタにゃ関係ないだろう。
人間、誰だって重大な問題を抱えているもんだ」
チャンプ「迷いのある挑戦者を打倒しても、なんの価値もない……」
チャンプ「行け」 - 77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 22:56:36.85 ID:eRjtIBs70
- 格闘家「行け……っていわれても……」
チャンプ「東だ」
チャンプ「東へ向かえ」
格闘家「東……!? なぜ分かる……!?」
チャンプ「王者としての……本能(カン)だ」
格闘家「…………」ゴクッ
格闘家「分かった……。ありがとう、チャンプ……!」
格闘家はリングの外へ飛び出した。
当然、会場は大騒ぎになる。
実況『どうしたんでしょう!? 挑戦者の格闘家、リングから飛び出してしまった!』
ザワザワ…… ドヨドヨ……
「どうしたんだァ!?」 「試合放棄か!?」 「逃げちまったぞ!」
すると── - 78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 22:59:11.94 ID:eRjtIBs70
- チャンプはマイクも使わずに、凄まじい大声を発した。
チャンプ「たった今っ!」
チャンプ「試合中ではあるが、挑戦者が重大な問題を抱えていることが分かった!」
チャンプ「私とて、100パーセントの力が出せぬ相手に勝っても嬉しくはないっ!」
チャンプ「だから私はチャンピオンとして、彼がリングから降りることを許したっ!」
チャンプ「だが案ずるなっ!」
チャンプ「彼は30分もすれば必ず戻るっ!」
チャンプ「ゆえに、しばしの休戦をお許し願いたいっ!」
ワアァァァァァ……!
チャンプのド迫力に巻き込まれ、観客は大盛り上がりとなった。
こうして異例の試合中断が成立してしまった。 - 82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 23:03:15.18 ID:eRjtIBs70
- 格闘家は走る。
体を鍛えてきたのはこの時のためだ、とばかりに走る。
もはや彼に、試合のことなど頭になかった。
格闘家(東へ──)
格闘家(東へ……)
格闘家(東へっ!)
格闘家(きっと彼女はそこにいるっ!) - 84 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 23:09:13.25 ID:eRjtIBs70
- 吸血鬼は三人のハンターに連行されていた。
ハンターB「チンタラしやがって、さっさと歩け!」
吸血鬼「アタシは……どうなるの?」
ハンターA「我らが拠点に連れて行き、身も心も浄化してあげますよ」
ハンターB「テメェの薄汚れた魂をキレイにしてやるんだ。感謝しろよ」
ハンターC「感謝しろよぉ~」
吸血鬼(つまり、魂ごと焼き尽くされるってワケね)
「分かったわ、もうジタバタしない。連れてって」
ハンターA「ふふふ、潔いですね。
大抵の魔物は、動きを封じてもわめき散らすものなのですがね。
さすがは誇り高き吸血鬼、往生際がよろしくて助かりますよ」
ハンターA(女とはいえ吸血鬼をハントすれば、私の名も上がるというもの……。
組織内での待遇もよくなる……!) - 85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 23:13:33.30 ID:eRjtIBs70
- 吸血鬼「最後に……一つだけいい?」
ハンターA「なんでしょう?」
吸血鬼「さっきの試合……結果が分かったら、教えてくれる?」
ハンターA「気になるんですか?」
吸血鬼「…………」
ハンターB「あの格闘家もとんだバケモノに惚れられたもんだな! こりゃ傑作だ!」
ハンターC「傑作だぁ~」
ハンターA「まぁ、結果は分かり切ってますがね。おそらく──」
「試合再開後、挑戦者である格闘家が勝つ、だ」 - 88 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 23:19:27.83 ID:eRjtIBs70
- ハンターA「なっ!?」
吸血鬼(どうしてここに!? まさか試合を放棄して──)
格闘家「間に合った……ようだな」ハァハァ
ハンターB「この野郎、試合はどうしたんだよ!」
格闘家「チャンピオンの協力で、一時中断してもらった」ハァハァ
ハンターA(そんなバカなコトが……!)
格闘家「……さて」
格闘家「彼女を渡してもらおうか。
ハンターってのがなんなのかはよく知らんが、素人を殴りたくはない」
ハンターA「あなたは……人間なのに、吸血鬼の味方をするおつもりですか?」
格闘家「俺は人間の味方でもなければ、吸血鬼の味方でもない。
──同じ釜の飯を食ったスパーリングパートナーの味方だ」 - 89 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 23:22:27.86 ID:6POHMTyOO
- ヒューカックイー!
- 90 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 23:25:15.54 ID:eRjtIBs70
- 格闘家「どうするんだ?」
ハンターA「たしかに我々は魔物にはめっぽう強いですが、
同じ人間相手には大した戦力を持たない……」
ハンターA「なにしろ魔物の味方をする人間などレアケース……。
対人間など想定する暇があったら、魔物対策をしていますからね。
……が、今日はちがいます」
ハンターA「なぜなら、我々の組織きっての武闘派である彼がいますからね!」
ハンターB「頼むぜ、お前の怪力を見せてやれ!」
ハンターC「見せてやるぅ~」ドドドッ
格闘家「…………」
ガシィッ! - 93 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 23:28:10.54 ID:eRjtIBs70
- ハンターCの猛突進を、格闘家は真っ向から受け止めた。
ハンターC「ふぅぅぅぅ~!」グイッ
ハンターA(いくら格闘家でも、彼には手こずるはず……! そのスキに吸血鬼を──)
ハンターC「う、うぅう……」グイグイ
ハンターC「う、動かないぃ~……」グイグイ
格闘家「どうした、こんなもんか」
ハンターA「ウ、ウソ……」 - 94 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 23:32:16.37 ID:eRjtIBs70
- ゴッ!
顎へのジャブ。ハンターCの巨体が崩れ落ちる。
ハンターA「こんなハズが……」
ハンターB「マジかよ……!」
格闘家「魔物退治もけっこうだが……俺は人間を倒すのが得意なんだ。
ずっとそればっかやってきたからな」
格闘家「お前たちは彼女には勝てても、俺には絶対に勝てない」ズイッ
ハンターA「う……くっ……」ジリ…
ハンターB「こっち来るな!」ジリ…
格闘家「今すぐ彼女にかけた呪縛だかなんだかを外して、ここから消えろ。
今度彼女に近づいたら、格闘仲間全部集めてお前らを叩き潰すぞ」
(格闘仲間なんていないけどな)
格闘家「彼女は俺の大事なパートナーなんだ」 - 96 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 23:36:17.36 ID:eRjtIBs70
- ハンターA「……正気ですか!?」
ハンターA「吸血鬼など助けても、いつかあなたは餌にされるのがオチですよ!?」
格闘家「かまわんさ。俺はすでに命懸けで挑んで敗れている。
たとえ体中の血を吸い尽くされようと、悔いはないし、文句もいえない」
ハンターA「…………!」
格闘家「だが……俺はそうなっても、彼女の血となって彼女をお前らから守る」
格闘家「もう一度だけ忠告する」
格闘家「彼女の力を戻して、ここから消えろ。そして、二度と現れるな」 - 97 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 23:40:31.36 ID:eRjtIBs70
- ハンターA「…………」ギリッ
ハンターA「ま、まぁ……いいでしょう」
ハンターA「この女吸血鬼は人間への危険度としては、ほとんどゼロのようです。
たしかに吸血鬼は惜しいですが、やっきになるほどの獲物でもありません。
我々も忙しいですからね」
ハンターA「引き上げますよ」
ハンターB「お、おう」
格闘家(色々言い繕ってはいるが、ようするに降参ってことか)
格闘家「よし、彼女の力を戻して、とっとと消えろ!」
ハンターたちは吸血鬼を呪縛から解放すると、夜の闇に消えた。 - 100 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 23:46:37.71 ID:eRjtIBs70
- 格闘家「……大丈夫か?」
吸血鬼「ありがと……まさかアナタに助けられるなんてね」
格闘家「君より遥かに弱い俺が……不思議なもんだ。
俺と君とヤツらの関係は、ジャンケンみたいなもんなんだろうな」
格闘家「これで最初に会った時の醜態はチャラ……って感じかな?」
吸血鬼「クスッ……」ケホケホッ
格闘家「……だいぶ弱らされたようだな。血を吸え」
格闘家は腕を差し出した。
吸血鬼「ダメよ。アナタ、今から戻って試合をするんでしょう?」
格闘家「関係ない。吸え」
吸血鬼「ダメ……」
格闘家「ダメじゃない。吸え」 - 103 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 23:51:01.79 ID:eRjtIBs70
- 吸血鬼の脳裏に、ハンターたちの言葉がよぎる。
『あの格闘家もとんだバケモノに惚れられたもんだな! こりゃ傑作だ!』
『吸血鬼を助けても、いつかあなたは餌にされるのがオチですよ!?』
吸血鬼「──ダメなのよ……!」
吸血鬼「アナタの血を飲んだ時……アタシ、あまりの美味しさに気が狂いそうだった。
少しタガが外れただけで、全部飲んでしまいそうだった!」
吸血鬼「こんなんじゃ、いつかアタシはアナタを殺してしまう!」
格闘家「よかった……美味かったのか」
吸血鬼「え?」
格闘家「これでも俺は、なんとなく自分の血に自信があったからな。
“血なんてみんな同じ味”っていわれた時は正直ショックだったんだ」 - 105 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 23:53:20.17 ID:eRjtIBs70
- 格闘家「吸え」
格闘家「大丈夫……俺だって死にたくはない。
もし君が俺の血を全部奪いに来たら、返り討ちは無理だろうが、
なんとか逃げ切ってみせる。約束する」
格闘家「俺は君を助けたんだ。一回くらいいうことを聞いてくれよ」
吸血鬼「強引なんだから……」
吸血鬼「…………」カプッ
吸血鬼「…………」チュルッ
吸血鬼「…………」ゴクゴク
吸血鬼「──っふぅ」
格闘家「回復したか?」
吸血鬼「えぇ、ありがとう」
格闘家「よし、俺も頭に血が上ってたからちょうどよくなった。会場に戻ろう!」 - 106 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 23:56:25.45 ID:eRjtIBs70
- 吸血鬼(ちがう……)
吸血鬼(前とはちがう……)
吸血鬼(前はこの人の熱すぎる血が私の中で暴れ回ったけど……)
吸血鬼(今度は……優しく全身を撫でてもらってるような感触だわ。
私、この人に抱擁されている……)
吸血鬼(とても優しくて、温かい血……)
吸血鬼(ありがとう……格闘家さん)
吸血鬼(試合、頑張ってね)
吸血鬼(でもアタシは……結果を知っているの。アナタは──) - 109 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/06(金) 23:59:16.51 ID:eRjtIBs70
- 試合会場──
チャンプ「来たか」
格闘家「待っててくれて、ありがとう」
チャンプの予告通り、格闘家は30分で戻ってきた。
会場のテンションは、試合中断によってかえって高まっていた。
ワアァァァァァ……!
実況『さぁ、挑戦者である格闘家、トラブルを解決してきたのでしょうか!?
前代未聞の試合中断を経て、いよいよ試合再開ですっ!』
「やったれー!」 「待たせやがって!」 「つまんない試合すんなよー!」
観客の声援にも力が入っている。 - 112 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/07(土) 00:07:19.10 ID:tBl9+NFg0
- カァンッ!
ゴングが鳴る。先ほどとは見違えるような動きで、格闘家が攻める。
左右の拳でのラッシュで防御を上げさせ、ローキック。
動きが止まったチャンプに、アッパーカットが炸裂した。
ガゴォッ!
実況『格闘家の強烈なアッパーが決まったぁっ!』
ワアァァァァァ……! - 113 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/07(土) 00:11:10.77 ID:XD+V7SoC0
- だが、さすがはチャンプである。
すぐに態勢を立て直し、幾人もの猛者を倒してきた重い打撃を振るう。
ズドンッ! ドゴォッ! ドカンッ!
実況『チャンプも負けてはいなーいっ! 象でも倒せそうな猛ラッシュだっ!』
防御に徹する格闘家。
が、重い打撃の間隙を突いて、的確に反撃を与えていく。
観客が息を飲むような、一進一退の攻防が続く。
まったくの互角。
実況『お互いに激しく打ち合いながらも、有効打を許しませんっ!
リングの上で、まるで将棋のような読み合いが展開されているっ!』
これは判定決着になる──誰もが思った。 - 115 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/07(土) 00:17:16.21 ID:XD+V7SoC0
- しかし、試合が動く。
チャンプが勝負に出たのだ。
蹴りのフェイントから、全身を駆動させての右ストレート。
だが、格闘家はこれをかわし、同じく渾身の右ストレートでカウンターを決めた。
バキィッ!
チャンプ「ぐぉ……っ!」
顔面へクリーンヒット。チャンプが勢いよく前のめりに倒れた。
カウントを数えるまでもなく、審判が試合を止めた。
カンカンカンカンカンカン……
ワアァァァァァ……!
会場が沸く。この瞬間、格闘家が新しい世界チャンピオンに決定した──
実況『チャンピオンの不敗神話がついに破れましたァッ!
──と同時に、新チャンピオンの誕生だァーッ!』
しかし、この勝利を信じられない者が、この会場に二人いた。
吸血鬼(ウソ……どうして……!?)
格闘家(なんでだ……)
試合は大盛り上がりの末、幕を閉じた。 - 117 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/07(土) 00:20:00.68 ID:XD+V7SoC0
- チャンピオンの控え室──
敗れたチャンプは一人、後片付けをしていた。
コンコン
チャンプ「どうぞ」
ガチャッ
チャンプ「……君か」
格闘家「……アンタ」
格闘家「なんで、わざと負けた?」 - 120 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/07(土) 00:24:00.18 ID:XD+V7SoC0
- チャンプ「わざと……とは、どういうことだ?」
格闘家「奇しくもアンタがいったことだ。拳で語らうと分かることがある」
格闘家「試合中断前は、気持ちが焦っていて分からなかったが、
再開後はすぐに分かった」
格闘家「アンタ──吸血鬼だろ」
チャンプ「……よく、気づいたものだ」
格闘家「最近、吸血鬼と交流があってね。そうでなきゃ絶対気づかなかっただろう」 - 122 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/07(土) 00:28:33.69 ID:XD+V7SoC0
- 格闘家「アンタの異常な強さ……不敗神話もこれで説明がつく。
アンタが試合中、いつも険しい顔をしていたのは、
手加減が大変だったからだろう?」
格闘家「指一本でヒトを殺せるようなヤツが、
相手を殺さないように、なおかつ格闘しているようにするのは、
とんでもない難作業だったろうからな」
チャンプ「……ヒトに混ざった私を、責めるか?」
格闘家「いいや。アンタにはアンタの事情があるんだろう」
格闘家「ただし、アンタなら俺なんかいつでも倒せたハズだ」
格闘家「お情けでもらったチャンピオンベルトなんてまっぴらだ。
アンタの答え次第では、すぐに返上させてもらう」 - 125 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/07(土) 00:32:31.07 ID:XD+V7SoC0
- チャンプ「……我々吸血鬼は常に人間のハンターに追われている。
ハンターの目を紛らわすのに、もっともいいのが人に紛れることだ」
格闘家(……ハンター、か)
チャンプ「私は格闘家として生きることを選んだ。
まさかヤツらも、闇に生きるべき吸血鬼が光に照らされたリングの上で
活躍しているとは夢にも思わないだろうからな」
チャンプ「身分を偽証し、強さを見せつけ……瞬く間に世界一となった」
チャンプ「しかし、もう疲れたのだ……。
君の言うとおり、人間と戦うのは非常に繊細な作業だ。
私はこの試合を最後に、再び闇に消えることに決めていた」
格闘家「……ただ消えるだけなら、別に俺に負ける必要はなかったはずだ。
なぜ俺に勝ちを譲った!?」
格闘家「俺が先に出会った吸血鬼は、人間(おれ)と吸血鬼(アンタら)の差を
きちんと思い知らせてくれた。だが、俺はむしろそれがありがたかった」
格闘家「アンタのやったことは……ただの侮辱だ!」 - 129 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/07(土) 00:37:20.76 ID:XD+V7SoC0
- チャンプ「たしかに……私は勝って姿を消すこともできた」
チャンプ「最後の試合で君に勝ちを譲ったのは……せめてもの礼だ」
格闘家「礼?」
チャンプ「同族を助けてくれた……君に対する、な」
格闘家「…………!」
チャンプ「私は会場内に私とは別に、吸血鬼がいることを察知していた。
その同族がハンターたちに捕まり、どの方角に連れ去られたかまでな」
格闘家(王者としての勘じゃなかったのか……少しショック) - 130 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/07(土) 00:40:06.42 ID:XD+V7SoC0
- チャンプ「吸血鬼同士がひと固まりになることはご法度……。
同族が私を見に会場に来るなど、絶対にありえない。
だから、あの吸血鬼は君と縁がある者だとすぐに分かった」
格闘家「そうか……。だからアンタは俺に仲間を助けさせるために……
試合を中断させたのか……」
チャンプ「私では、ハンターには絶対勝てないからな」
格闘家「……安心してくれ。ちゃんとアンタの仲間は助けた。
二度と近づかないよう脅しもつけといた。多分……大丈夫だ」 - 134 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/07(土) 00:47:12.56 ID:XD+V7SoC0
- チャンプ「そうか……やはり君に託して正解だったようだ」
格闘家「…………」
チャンプ「あとは君の心ひとつだ。チャンピオンの座を、返上したくばすればいい」
チャンプ「君の実力であれば、空位になったチャンピオンの座を
すぐモノにできるだろうしな」
格闘家「俺は……」
うつむく格闘家。
チャンプ「最後に一言だけ」
チャンプ「妹を助けてくれて……ありがとう」
格闘家「!」
格闘家が顔を上げると、チャンピオンは部屋から姿を消していた。
格闘家(チャンプ……) - 135 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/07(土) 00:50:40.51 ID:XD+V7SoC0
- その後、格闘家は吸血鬼のところに向かった。
格闘家「……やぁ」
吸血鬼「おめでとう、新チャンピオン」
格闘家「……ありがとう」
格闘家「君も知っていたんだろう? チャンプの正体を──」
吸血鬼「…………」
吸血鬼「えぇ、ビデオを見て一目で分かったわ。兄さんだって。
だから正直……アナタは勝てないと思っていた」
格闘家「だろうな。多分、君の兄さんは君よりも強いんだろうから」 - 136 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/07(土) 00:53:32.85 ID:XD+V7SoC0
- 格闘家「譲られた勝利、はっきりいって気持ちがいいものとはいえない」
格闘家「だがきっと、俺は彼に託されたんだろう」
格闘家「だから、俺は世界チャンピオンとして生きていく」
格闘家「……だから……」
格闘家「約束通り……君にも、手伝って欲しい……」
吸血鬼は笑った。
吸血鬼「クスクス……いいわよ。いつまでとは約束できないけど……。
これから忙しくなりそうね」
格闘家「……ああ!」 - 139 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/07(土) 00:56:42.92 ID:XD+V7SoC0
- 三ヶ月後──
世界チャンピオンとなる道を選んだ格闘家。
彼の格闘道場は大勢の門下生でにぎわっていた。
世界チャンピオンの名声に加え、世界最強という地位におごらぬ格闘家の謙虚な態度や
指導の上手さもあり、道場の評判は上々だった。
「えいっ!」 「やぁっ!」 「とぉっ!」
格闘家「もっと声を大きく!」
「せやぁっ!」 「ていっ!」 「はあぁっ!」 - 140 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/07(土) 01:00:18.50 ID:XD+V7SoC0
- 格闘家(やれやれ、指導やら経営やらで大忙しだ)
格闘家(有名になるってのも、考えものだな。
かといって、まだ人を雇えるような段階じゃないし……)
格闘家(……彼女がいてくれて助かるよ、ホント)チラッ
この道場が人気になった理由はもう一つあった。
道場主をサポートしている、美人のパートナーがいるからだ。
門下生(ここは練習は厳しいけど、的確に欠点を指摘してくれるから、
やりがいがあるな……)ハァハァ
吸血鬼「……疲れたでしょ、はいトマトジュース」
門下生「(嬉しいけど、なぜトマトジュース……?)あ、ありがとうございますっ!」 - 141 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/07(土) 01:06:05.84 ID:XD+V7SoC0
- だが、人々は知らない。
夜中に密かに二人きりで行われている鍛錬を──
ドカァンッ!
格闘家「く、くそっ……やはり勝てない……!」
吸血鬼「クスクス……でも今のはけっこういいセンいってたわよ」
格闘家「本当か!?」
吸血鬼「ウソよ。熱い攻撃だったけど、痛くもかゆくもなかったわ」
格闘家「ようし、もう一回だ!
君と戦うのは、どんな修業よりも修業になるからな!」
吸血鬼「……今夜は疲れちゃったから、もう一回だけよ」
格闘家「じゃあラストだ! 勝負っ!」
世界チャンピオンのパートナーは、世界チャンピオンよりも強いということを──
~おわり~ - 142 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/07(土) 01:06:43.69 ID:Rx7uWkSG0
- 乙
- 149 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/07(土) 01:10:48.14 ID:6n3uZZqM0
- 爽やかで良かった
乙 - 152 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/07(土) 01:12:38.02 ID:Y12oa1rc0
- 夜中の格闘だと・・・
エロ乙 - 156 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/07(土) 01:17:10.29 ID:k62tqtKG0
- 夜中に密かに二人きりで行われている鍛錬
これで変な想像するなという方が無理なわけで - 159 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/07(土) 01:29:42.13 ID:9dEI1qy90
- 楽しかったありがとう!
- 160 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/04/07(土) 01:40:19.76 ID:v05y9Lw3O
- 乙
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