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【デレマスSS】錆びた車輪
- 1 : ◆uYNNmHkuwIgM 2017/04/22(土) 00:51:27.55 ID:cq2rck6c0
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ガタゴトガタゴト
今日も馬車は少女たちを乗せて走る
目指すのは遠い遠いお城
ギーギーと軋む音を立てながら回る車輪は
静かに動きを止めるときを迎えていた
- 2 : ◆uYNNmHkuwIgM 2017/04/22(土) 00:53:05.70 ID:cq2rck6c0
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ちひろ「プロデューサーさん、長い間お疲れ様でした。次の職場でも頑...いえ、幸運を」
長らく共に仕事をした彼女は『頑張ってください』と言いかけて言葉を変えた。
鏡に映る自分をみて一人溜息をつく。
目の下のクマ、白毛の目立つ髪、見た目の年齢はすっかり生きてきた年月をおいていってしまったようにみえる。
そんな人間に『頑張れ』とはそうは言えない。職場への気配りを欠かさない彼女ならなおさらだ。
- 3 : ◆uYNNmHkuwIgM 2017/04/22(土) 00:54:18.78 ID:cq2rck6c0
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フロアに戻り、仕事の資料を整理する。
去って行く窓際社員に声をかける奇妙な者はフロアにはいない。
机に並べてあったファイルをパラパラとめくると、かつて担当したアイドルたちの姿があった。
自分が担当した子は、絶対にトップアイドルにすると誓った。彼女たちの夢を叶えるため、全てを費やした。
資料を眺めながら、惨めなプロデューサー生活を振り返る。
- 4 : ◆uYNNmHkuwIgM 2017/04/22(土) 00:56:04.16 ID:cq2rck6c0
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少女の夢を叶えるため、グルグルと回る馬車の車輪のような毎日。
初めはただただ進んでいく景色が楽しかった。
しかし、お城への道のりは長すぎた。
車輪が一回転するたびに大きく揺れる馬車に耐えられず、振り落とされるものたちが後を絶たなかった。
道に投げ出され、助けを乞う少女を置き去りにして進む馬車。
彼女たちを救うため一つの車輪が回転をやめてしまうと、馬車はバランスを崩して全ての少女が振り落とされてしまう。
魔法使いは道端の少女を哀れむ車輪に言う。
『そのまま走り続けなさい。一人でもお城にたどり着けば上出来なんだ』
自分の使命と心が対立する。
その葛藤はじわりじわり錆となって、車輪自身を侵していった。
その錆を見ないふりして、軋む痛みを感じないふりして、ギーギーと響く不快な音に耳を塞いで、車輪はただ走り続けた。
それしか生きる方法を知らなかったから。
- 5 : ◆uYNNmHkuwIgM 2017/04/22(土) 00:56:53.37 ID:cq2rck6c0
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片付けを終え一人事務所を後にする。
トップアイドルを何名も抱える多忙なアイドル事業部だ、去っていく窓際社員への送別会など予定されてはいない。
最後に担当していたアイドルは、後任のプロデューサーと仕事に出ている。
事務所をやめることを告げた時、彼女たちは悲しみ、労りの言葉をくれた。
どうか彼女たちは馬車から振り落とされず、お城にたどり着けますように。
錆びついた車輪には、それを遠くから願うことしかできない。
- 6 : ◆uYNNmHkuwIgM 2017/04/22(土) 00:58:19.86 ID:cq2rck6c0
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一人、行きつけのバーでウイスキーを煽る。
喉を焼くようなアルコールが、沈んでいく心を世界にとどめてくれる気がする。
背中では、しゃがれた声が世界の美しさを歌っている。
その歌を聞き流していると、店の入り口でひとつカランと鳴った。
それと同時に、聴き馴染んだ声が聞こえた。
???「プロデューサーさん」
その声のする方に視線を向けると、かつての担当アイドルがいた。
茶色がかったウエーブの髪は肩までかかるくらいの長さ。
昔は編み込んだ髪をサイドで束ねていたが、3年前くらいからそれを解いている。
年齢を重ねるごとに顔つきはしっかりと大人の女性になり、溌剌とした可愛さと大人の優雅さがその瞳には宿っている。
デレP「...どうした?卯月...?」
- 7 : ◆uYNNmHkuwIgM 2017/04/22(土) 00:59:16.90 ID:cq2rck6c0
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卯月はすぐにその言葉に応えず、隣に座ってマスターに注文をする。
卯月「グラスホッパーをお願いします」
注文を終えると、こちらを向いて言葉を返した。
卯月「今日最後の勤務日ですよね、送別会です」
そういってニコッと微笑む卯月。
かつての日に見た笑顔とは全く違った輝きを放っていた。
- 8 : ◆uYNNmHkuwIgM 2017/04/22(土) 01:00:23.35 ID:cq2rck6c0
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今やメディアに出ない日がない島村卯月。
彼女をスカウトして、アイドルとして軌道にのるまでプロデュースしたことは、数少ない誇れる仕事のひとつだ。
卯月が軌道に乗ってからは、他のプロデューサーに担当を変わった。
錆びついて不快なバランスで走る車輪では、彼女の舞踏会行きを遅らせてしまうだけだったから。
他の社員から蔑まれ窓際に追いやられた男を、卯月はずっと慕って気にかけてくれていた。
だからこそ、彼女は押しも押されぬトップアイドルになれたのだろう。
- 9 : ◆uYNNmHkuwIgM 2017/04/22(土) 01:02:13.43 ID:cq2rck6c0
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楽しそうに卯月は昔話を懐かしんでいる。
それに耳を傾けながら、時に相槌を打つ。
昔と変わらない距離感が、胸にあたたかさと寂しさを呼び起こす。
そうして幾らか時が経ったのち、卯月の声色が変わる。
迷ったような、困ったような、悲しいような声。
卯月「私、一度だけアイドル辞めちゃおうかなって思ったときがあったんです」
そのような話は初耳だった。
卯月はずっと笑顔で、ずっと輝きを増し続けていたから。
- 10 : ◆uYNNmHkuwIgM 2017/04/22(土) 01:03:05.97 ID:cq2rck6c0
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卯月「昔プロデューサーさんが担当してた⚪︎⚪︎ちゃん、覚えていますか?」
そう尋ねられ、その子の顔が浮かぶ。
養成所時代からの卯月のアイドル仲間だ。
卯月とともにその子も担当していた。
卯月はアイドルとして成功した一方で、その子はアイドルを辞めてしまった。
こちらの表情をみて察した卯月が言葉を続ける。
卯月「⚪︎⚪︎ちゃんが辞めちゃった後、私思ったんです」
卯月「私がどんどん階段を登っている足元には、たくさんの不幸や悲しみがあるんだって」
卯月「そう思うと怖くなったんです。夢を叶えていくことが」
- 11 : ◆uYNNmHkuwIgM 2017/04/22(土) 01:04:14.32 ID:cq2rck6c0
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卯月がグラスに口をつけてひと息おく。
ミントとカカオの甘く爽やかな香りが鼻をくすぐった。
そして卯月は言葉を続ける。
卯月「そうやって悩み始めていくらか経った後に、⚪︎⚪︎ちゃんに偶然会って、私泣いちゃったんです」
卯月「⚪︎⚪︎ちゃん心配してくれて、私全部話しました。このまま前に進んでいいのかなって」
卯月「そしたら、怒られちゃったんです。『私を勝手に不幸な子みたいにしないで』って」
卯月「『アイドルの夢が叶わなかったとしても、私は新しい夢に向かって頑張る!幸せになる!』って」
卯月「『今卯月を迷わせているのは、他でもない卯月自身だよ』って」
卯月「⚪︎⚪︎ちゃんがそう言ってくれたから、きっと今日まで頑張ってこられたし、明日からも頑張れると思います」
- 12 : ◆uYNNmHkuwIgM 2017/04/22(土) 01:05:14.05 ID:cq2rck6c0
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卯月は何か閃いた顔をして、言葉を止める。
足元からカバンを引っ張り出し、中からスマホを取り出して言った。
卯月「知っています?⚪︎⚪︎ちゃん、一昨年結婚して去年子供が生まれたんですよ!」
ぐいっとこちらに向けられたスマホには生後数ヶ月くらいの子供が写っていた。
目がくりくりっとして、とても愛らしい子だ。
卯月「⚪︎⚪︎ちゃんに会うたびに『旦那さんカッコいいー子供可愛いー』って自慢してくれて、とっても幸せそうなんです」
- 13 : ◆uYNNmHkuwIgM 2017/04/22(土) 01:05:54.20 ID:cq2rck6c0
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そこまで言って、卯月はひとつ深呼吸をする。
何かを決意するように、自分を励ますようにゆっくりと。
それを終えると、しっかりとこちらの目を見て卯月は言った。
卯月「だから、プロデューサーさん。自分で自分を不幸にしないでください」
- 14 : ◆uYNNmHkuwIgM 2017/04/22(土) 01:06:45.09 ID:cq2rck6c0
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知らなかった。
お城だけを目指して走り続けるだけの車輪には想像ができなかった。
道端に投げ出された少女は、ただそこで泣き続けるわけではない。
泣き止んだら歩き出す。
自分の足で。
お城ではない新しい場所へ。
その場所は、もしかするとお城の舞踏会よりもずっとずっと輝く場所かもしれない。
そんな当たり前のことを、知らなかった。
- 15 : ◆uYNNmHkuwIgM 2017/04/22(土) 01:07:53.91 ID:cq2rck6c0
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############
『どうかお元気で』という言葉を残し、卯月は店を後にした。
もう会うこともないかもしれない、大事な人のその言葉をしっかりと受け止められなかった。
卯月の話を聞いた後、頭を殴られたような衝撃がずっとまわっている。
俺は空っぽだった。
ずっと抱き続けた葛藤は、ただの空虚な空回りだった。
笑い話にもならない。
- 16 : ◆uYNNmHkuwIgM 2017/04/22(土) 01:08:31.58 ID:cq2rck6c0
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残りのウイスキーをグイッと飲み干し、会計を済ませて店を後にする。
空虚な心にすーっと風が流れる。
湿っぽい新しい季節の匂いがして、それが吐き気がするほど心地よかった。
END
- 17 : ◆uYNNmHkuwIgM 2017/04/22(土) 01:09:08.57 ID:cq2rck6c0
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終わりだよ~(AA略
誰かのGood Endは誰かのBad Endだけど、エンドロール後も時間が流れるならそれはBad Endのまま終わってほしくない的なお願いをゴチャゴチャしたやつでした。

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