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花咲か紳士
- 1 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/05/19(金) 23:10:43.43 ID:NqxSfLu20
-
紳士「私は紳士。百合が大好きな紳士だ」
紳士「私は指パッチンを鳴らすことで、2人の人間を恋に落とす事が出来る」
紳士「どれ、今日はこのコーヒー喫茶で、美しい百合の花を咲かせてみせようじゃないか」
カランコロン…
マスター「いらっしゃいませ」
紳士「ブレンドコーヒーを1つ」
マスター「かしこまりました」
- 2 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/05/19(金) 23:11:51.00 ID:NqxSfLu20
-
紳士「ふむ……」
紳士(落ち着いた色合いの店内に、小洒落たテーブルと椅子が並んでいる。なるほど、いかにもコーヒー喫茶らしいな)
紳士(そして、その雰囲気をぶち壊すように大音量のダブステップが流れている)
紳士(……うるさい。何だこれは。この店の選曲センスは一体どうなっているんだ)
マスター「お待たせしました」
紳士「ああ、ありがとう」ズズッ
紳士(まあいい。今日のお目当ては窓際に座っているあの2人だ)
女子A「ね、ここのコーヒー美味しいでしょ? 私の最近のお気に入りなんだ」
女子B「う、うん。 ……ちょっとうるさいけどね」
- 3 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/05/19(金) 23:12:26.12 ID:NqxSfLu20
-
紳士(明るい笑顔のポニーテールの女の子と、アホ毛が特徴的なメガネの女の子。見たところ、高校の同級生と言った所だろうか)
紳士(コーヒーを飲みながらお喋りする様子は何とも微笑ましいが、2人の百合の花はまだつぼみレベル)
紳士(よし、ここは私の指パッチンの力で、それを満開にしてあげよう)
パチンッ
女子A「それでさー……あれ?」
女子B「どうしたの?」
女子A「いや、何て言うか……カナって前からそんなに可愛かったっけ?」
女子B「ふぇ!?」
- 4 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/05/19(金) 23:13:14.23 ID:NqxSfLu20
-
女子A「髪型とか目元とか、すごく私の好みなんだけど」
女子B「き、急に何言い出してるの!?」
女子A「もしかしてカナ、彼氏でも出来た?」
女子B「いやいやいや! そんな、彼氏なんて……」
女子A「そんなこと言って、実は居るんじゃないのー?」
女子B「居ないよ!」
女子A「ふーん……そっか」
女子B「……えっ。もしかして、居て欲しかったの?」
女子A「ううん。そうじゃなくて、私が男子ならカナみたいな子、絶対ほっとかないのになーって」
女子B「へ!?」
- 5 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/05/19(金) 23:13:55.22 ID:NqxSfLu20
-
女子A「まったく世の男子共も、見る目が無いですなー」
女子B「え、えっと、それって……」
女子A「ん?」
女子B「まちちゃんは私と付き合いたいってこと?」
女子A「そうだよ?」
女子B「……っ!」ドキッ
女子A「ま、私が男子だったらって話だけどね! 流石に女の子同士で付き合うのは無理でしょ」ケラケラ
女子B「……いいよ」
女子A「え?」
女子B「まちちゃんなら、別に、付き合っても」
女子A「え……」
- 6 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/05/19(金) 23:14:28.59 ID:NqxSfLu20
-
女子B「……」カァァ
女子A「……い、いやいやいや。どうしたのよ急に」
女子B「……」
女子A「今日のカナ、なんかちょっと変じゃない?」
女子B「へ、変なのはまちちゃんの方でしょ!?」バンッ
女子A「うぇっ!?」ビクッ
女子B「か、可愛いとか、付き合いたいとか、変なことばっかり言って……!」
女子A「い、いや、それは、言葉のあやというか……」
女子B「じゃあ!」
女子A「」ビクッ
- 7 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/05/19(金) 23:14:57.22 ID:NqxSfLu20
-
女子B「……私と付き合うのは、嫌?」
女子A「え?」
女子B「どうなの?」ズイッ
女子A「や、ちょっ、顔近っ……」
女子B「……」ジーッ
女子A「い、嫌じゃないけどさ! けど、女の子同士でしょ? そんなの……」
女子B「関係ない」
女子A「えっ」
女子B「女の子がどうとか、関係ない。だって私、まちちゃんの事が好きだもん」
女子A「はああ!?」カァァ
- 8 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/05/19(金) 23:15:41.97 ID:NqxSfLu20
-
女子B「だから、私はまちちゃんと付き合いたいの」
女子A「……う、嘘でしょ? カナ……」
女子B「嘘じゃない」ギュッ
女子A「っ!」
女子B「私が今まで、まちちゃんに嘘付いたことあった?」
女子A「……ない、けどさ。でもこれは……」
女子B「まちちゃん」ギュッ
女子A「っ……な、何?」
女子B「私のこと、好き?」
女子A「えっ……」
女子B「……」ジッ
女子A「えっと、その……」
- 9 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/05/19(金) 23:16:10.37 ID:NqxSfLu20
-
女子B「……」ジーッ
女子A「……うん」
女子B「そっか。 じゃあ問題ないよね」ニコッ
女子A「うっ……」
女子B「……」ニコニコ
女子A「……」
女子B「……」ニコニコ
女子A「……あーもー! 分かったわよ!」
女子B「!」
- 10 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/05/19(金) 23:17:19.66 ID:NqxSfLu20
-
女子A「付き合えばいいんでしょ付き合えば!」
女子B「わーい!」ギュッ!
女子A「ちょっ、危ないって……!」ガタッ
女子B「えへへー」スリスリ
女子A「……まったく、いつからこんな強引になったんだか」
女子B「ねーねー、付き合った記念にちゅーしよ?」
女子A「調子に乗るな」ペシッ
女子B「いたっ!」
- 11 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/05/19(金) 23:17:52.68 ID:NqxSfLu20
-
女子A「ほら、さっさとコーヒー飲んで行くよ」
女子B「え、どこに?」
女子A「私の家。ここじゃうるさいし、ゆっくり出来ないでしょ」
女子B「……!」
女子A「それとも他の場所が良かった?」
女子B「ううん、そんなことない! 早く行こう!」
女子A「はいはい」
- 12 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/05/19(金) 23:18:49.78 ID:NqxSfLu20
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紳士「……」ズズッ
紳士「……ふふふ、素晴らしいな。今日もまた、大輪の百合の花を咲かせてしまったようだ」
紳士「2人の可憐な少女が紡ぎだす、色鮮やかな百合の花……この後彼女達がどうなっていくのか、想像するだけで心が潤うようだよ」
紳士「まったく、愛し、愛し合う女性ほど尊いものはない……そうは思わないか? マスター」
マスター「そうですね」
紳士「……」ズズッ
- 13 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/05/19(金) 23:19:19.54 ID:NqxSfLu20
-
紳士「ところでマスター」
マスター「はい」
紳士「私は百合が好きなのだが、実は男もイケるクチでね」
マスター「はい?」
紳士「正直な所、貴方みたいな男性は私の好みなんだ。だから……」
パチンッ
マスター「!?」ドキッ
紳士「私と、恋に落ちてはくれないか?」
マスター「お、お客様……?」
- 14 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/05/19(金) 23:19:50.78 ID:NqxSfLu20
-
そう言って私は、戸惑うマスターの手の上に、そっと自分の手を重ねた。
紳士「……」
マスター「……」
どちらともなく、視線を交わし合う2人。期待と不安の入り混じった空気が、にわかに周囲を満たしていった。
触れ合う手から、マスターの体温を感じる。見つめ合う視線から息づかいを、心の高ぶりを感じる。けれどそれだけでは物足りなくて、私は立ち上がり、カウンター越しに身を乗り出して、少しでも彼の元へ近付こうとした。
少しずつ狭まっていく2人の距離。マスターは後ろに下がって逃げることも出来るはずだが、そのような素振りは一切見せない。それが何故かは、言うまでもないだろう。
それから私が彼の顎に手を置き、此方へ引き寄せようとした所でやっと、彼は私に抵抗してきた。
- 15 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/05/19(金) 23:20:28.07 ID:NqxSfLu20
-
マスター「い、いけません。お客様……このようなことをされては」
紳士「そんな事を言って、本当は胸が高鳴って仕方がないのだろう?」
マスター「……」
紳士「分かるぞ。私も同じだからな……」
しかしその抵抗も長くは続かない。私が力を強めると少しずつ、少しずつ、マスターの顔が近付いてくる。
彼の潤んだ瞳が、上気した頬が、私の感情を高ぶらせる。興奮し、早まる鼓動の音をダブステップの重低音が掻き消してくれる。
そんな空間に心地よさを覚えながら、私はついに、彼の顔まであと数センチという所にまで近付く事が出来た。
マスター「……」
紳士「……」
- 16 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/05/19(金) 23:21:00.83 ID:NqxSfLu20
-
互いの息が、触れ合う距離。
もはや言葉は要らない。マスターは観念したようにその瞳を閉じ、此方に全てを委ねてきた。
私も同じように瞳を閉じ、残り数センチの距離を名残惜しむように埋めていく。
紳士「マスター……」
マスター「……」
あとどれくらいで辿り着くのだろうか?あるいは、もう既に辿り着いたのだろうか?そんな事を考えながら、暗闇の中で彼を手繰り寄せていく。
やがてついに、2人の口が重なり、念願の逢瀬が果たされた。
マスター「んっ……」
紳士「……」
- 17 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/05/19(金) 23:21:34.06 ID:NqxSfLu20
-
吐息が混ざり合い、心が溶け合い、私とあなたの境界線が曖昧になる。
まるで消えてしまいそうな儚さの中で、確かにあなたがここに居る事を確かめるように、何度も何度もその行為を繰り返す。
1分でも、1秒でもいい。少しでも長い間、この幸せに浸っていたい。そんな思いが、2人の結び付きをより強固な物にしていった。
紳士「……はぁっ」
マスター「……」
暫くして、2人の口が離れる。そうしてまた、互いに見つめ合う形に戻る。
先程の余韻を感じながら、私はそっと、自分の唇に触れてみた。
彼とした初めての口付けは、少し苦い、コーヒーの味がした。
-HAPPY END-

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