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聖良「降りやんだ雪。氷原に射す陽の光」
- 1 : 名無しで叶える物語 2017/06/06(火) 23:40:49.39 ID:FZH1ypkL.net
- 「第12回ラブライブ! 優勝は――、」
理亞「……」ギュッ
聖良「……」グッ
「――……ですッ!」
理亞「っ!?」
聖良「……、ふーっ」ガクッ
理亞「ぅ、……くぅ、ぅ」グスッ
聖良「理亞……」
理亞「う、うぅぅぅ、ひぐっ、ぅぅぅっ」
聖良「……」ギュッ ナデナデ
聖良「……今日まで私に付いて来てくれて有難う。よく頑張りましたね、理亞」
- 2 : 名無しで叶える物語 2017/06/06(火) 23:41:38.06 ID:FZH1ypkL.net
- 理亞「っ、」
理亞「く、う、あ、……あああぁぁああっ! ああぁああぁあ!」
理亞「うあああああああああん!」
聖良「……」ナデナデ
聖良(高校3年。冬季ラブライブ。私の青春はその日、終わりを告げた)
――――
―― - 3 : 名無しで叶える物語 2017/06/06(火) 23:42:26.99 ID:FZH1ypkL.net
- ジリリリリリ! ジリリリリリリン!
ジリリリ、パシン
理亞「……ふぁ」
理亞「んー……」グシグシ
理亞「……起きよ。運動着……」
モゾモゾ、シュル、パサッ
ギュ、グッグッ、グィッ
理亞「よし。行こうかな」
理亞「姉様は……休みたいよね。もうスクールアイドルも、終わったんだし」
理亞「じゃあ、行ってきま――、」
聖良「理亞?」
理亞「え……姉様?」
聖良「おはよう。今から走るの? 少しくらい休んでいいと思うけど、理亞は真面目ね」
理亞「姉様こそ、その格好……」
聖良「日課だったから、急にやめてしまうのも落ち着かなくて。一緒に走らせてもらってもいい?」
理亞「……うん」 - 4 : 名無しで叶える物語 2017/06/06(火) 23:43:24.31 ID:FZH1ypkL.net
- タッタッタッタッタ…
聖良「……」
理亞「……」
タッタッタッタッタ…
聖良「理亞と、こうして走れるのもあと何回かしらね」
理亞「……うん」
聖良「はーあ。もうすぐ私も東京都民か、怖いわ。大学選び、失敗したでしょうか」
理亞「だったら地元の大学にすれば良かったしょや」
聖良「これからのこともありますから、ね……。こればっかりは」
タッタッタッタッタ… - 5 : 名無しで叶える物語 2017/06/06(火) 23:44:20.25 ID:FZH1ypkL.net
- 聖良「これからと言えば、理亞はこれからどうするの? さしあたって、スクールアイドルは」
理亞「スクールアイドル部の活動は続けるよ。ただ……」
聖良「ただ?」
理亞「スクールアイドルとしては、もう活動しないと思う」
理亞「ラブライブ本選出場の経験を活かして、部のみんなのサポートに回るつもり」
聖良「……理亞は、それでいいの?」
理亞「私はSaintSnowの鹿角理亞だから」
聖良「……そう」
タッタッタッタッタ… - 6 : 名無しで叶える物語 2017/06/06(火) 23:45:37.60 ID:FZH1ypkL.net
- 理亞「……LINE、するからね。絶対返事してよ、姉様」
聖良「もちろん。私も、理亞が一人で泣いていないか気が気じゃありませんし」
理亞「泣いたりしないよ、もうっ!」
聖良「あら。どうでしょうね」
理亞「姉様こそ、東京で一人で寂しく泣いてるんじゃないの」
聖良「……そうかも。だから、電話もたくさんしましょうね」
理亞「……姉様はずるい」
タッタッタッタッタ… - 7 : 名無しで叶える物語 2017/06/06(火) 23:46:40.97 ID:FZH1ypkL.net
- 理亞「姉様は、東京へ行ってどうするの?」
聖良「どうって、勉強よ。そのための大学ですもの」
理亞「分かってるけど。そうじゃなくて」
聖良「……どうしようかしらね。今までがスクールアイドル漬けだったから」
聖良「こうして落ち着いてみると、私、他に何もないのよ。ラブライブ以外なにも」
聖良「まあ自分で他のものを捨ててきたから、というのもあるのだけれど」
理亞「……姉様は姉様だよ。スクールアイドルでなくたって」
聖良「有難う」
聖良「でも、理亞も自分の好きなものをちゃんと見つけなさい? 今までは私に付き合わせてしまったけど」
理亞「そんなことない。私だってあのステージに憧れた」
理亞「私の憧れは、私だけのものだよ。姉様に付き合ったわけじゃない」
聖良「……救われるわ」
タッタッタッタッタ… - 8 : 名無しで叶える物語 2017/06/06(火) 23:48:43.11 ID:FZH1ypkL.net
- 理亞「姉様は、どうして今日も走ろうと思ったの? ラブライブはもう終わったのに」
聖良「言ったでしょう。日課だったから、癖になっているの」
理亞「じゃあ、東京でも走るの」
聖良「……どうでしょう。走ることが目的ではないから」
理亞「でも今は、目的もなく走ってるんだよね」
聖良「そうね。そういうことになってしまうかな。自分でも不思議です」
理亞「……」
理亞「姉様。もしかして」
聖良「どうかした?」
理亞「……本当に、何の目的もないの? 本当はあるんじゃない?」
聖良「何を言うの。ラブライブはもう終わってしまった。他に、走る理由なんてなかった筈だよ」
理亞「うん、そうだよ。私達には、それしかないんだよ、姉様……」
聖良「……? 変な理亞。分かり切ったことを」
タッタッタッタッタ… - 9 : 名無しで叶える物語 2017/06/06(火) 23:50:22.26 ID:FZH1ypkL.net
- ――――
――
聖良「……」
チョット、聖良先輩ドコイッタノ!?
ワカンナイ、ドッカイッター
アノ人イナインジャ始マラナイジャナイ
ラブライブ本選出場ノ偉業ダカラネ
盛大ニオ見送リシナキャ!
聖良「……ふぅ」
聖良(学校の屋上から眺める景色は、今日は少しだけ違っている)
聖良(校門に大きく立てかけられた、装飾を施した看板。力強く書き込まれた卒業式の文字)
聖良(至る所で卒業生と在校生が入り交り、最後の思い出を築き合っている)
聖良(この学び舎に、自分達の青春に、決して悔いを残さぬように)
聖良(……私の、青春は) - 10 : 名無しで叶える物語 2017/06/06(火) 23:51:46.62 ID:FZH1ypkL.net
- 聖良「――誓うよ キミを すごいーばーしょーへーとー、連れてくよー……なんてね」
聖良(叶わなかった、か……)
聖良(ラブライブ本選出場だけでも十分すごい場所、なのだろうけれど)
聖良「頂点の景色は、きっともっと、想像できないくらい凄いんでしょうね……」
聖良(私の青春を、そこへ置いてくるつもりだったのだけれども)
理亞「――見つけた。こんな所にいたんだ。風邪ひいちゃうよ、姉様」
聖良「……理亞」 - 11 : 名無しで叶える物語 2017/06/06(火) 23:53:05.70 ID:FZH1ypkL.net
- 理亞「みんな探してるよ。姉様がいないと激励会にならないって」
聖良「見送られるのは、むずがゆいわ」
理亞「一度きりなんだから我慢してよ。ほら、部室行こう?」
聖良「……ごめんなさい。もう少しだけここにいさせて」
理亞「じゃあ、私もしばらくここにいようかな」
聖良「……」
理亞「……」 - 12 : 名無しで叶える物語 2017/06/06(火) 23:57:48.98 ID:FZH1ypkL.net
- 聖良「これから頑張りなさいね、理亞」
理亞「頑張るのは姉様の方だよ。一人で東京なんだから」
聖良「……そうね。そう、なのよね」
理亞「実感、湧いてないでしょ」
聖良「……その通りよ。ずっと、何と言うのか。こう、夢を見ているような心地なの」
理亞「ラブライブからずっと?」
聖良「よく分かるね」
理亞「分かるよ。だって私達は、SaintSnowだから」
聖良「理亞も、こんな感覚だったりするの?」
理亞「……きっと違う。私のラブライブはもう、終わったもん。姉様だけが終わってない」
聖良「? 終わったでしょう。私達は優勝できなかった、その結果が、確かにある」
聖良「むしろ、あなたの方こそ終わってはいないよ、理亞。来年があるのですから」 - 13 : 名無しで叶える物語 2017/06/06(火) 23:59:32.57 ID:FZH1ypkL.net
- 理亞「そうじゃないよ。そうじゃ、ないんだよ。姉様」
聖良「……分からない」
理亞「……そろそろ行こうよ。みんな待ってる」
聖良「そう、ね。いい加減に行かないと駄目ですね」
理亞「……」
理亞「ねえ、姉様」
聖良「何かしら、理亞」
理亞「ちゃんと卒業してね。泣いても笑ってもいいから、ちゃんと」
理亞「私は、姉様をちゃんとした形で見送りたいから」
聖良「? 変な理亞。もちろん卒業はします。時間は待ってはくれないのだから」 - 14 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 00:01:43.61 ID:PU22H5iy.net
- モブX「聖良先輩! どこ行ってたんですか、探したんですよ!」
聖良「ごめんなさい。少し、気持ちの整理をしていまして」
モブY「聖良お姉様ぁっ! お願いです、私を置いていかないでください~!」
聖良「いえあの、大学も決まっていますので、さすがに留年は」
モブZ「先輩、東京でも変わらず頑張ってください」
聖良「ええ。部のことはあなたに任せましたよ」
モブY「聖良お姉様、最後におっぱい揉ませてくださいっ!」
聖良「最後に警察の厄介になりたいのでしたら、お好きに」
キャーキャー
理亞「……」 - 15 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 00:04:30.13 ID:PU22H5iy.net
- ――――
――
理亞「……」
理亞「姉様、入っていい?」コンコン
聖良「理亞? ええ、どうぞ」
理亞「お邪魔します」
理亞「……姉様の部屋、広いね」
聖良「大半の荷物は引っ越し業者に預けてしまいましたから。少し落ち着かないくらい」
理亞「ついに明日だね」
聖良「そうね。明日、新千歳から東京の便よ」 - 17 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 00:05:49.03 ID:PU22H5iy.net
- 理亞「……姉様は、ここに思い残すことはない?」
聖良「悔いはある。優勝できなかったのですから」
聖良「でも、前へ進まなくてはいけない。いつまでもラブライブを引きずってはいられない」
聖良「だから、思い残すことはない。私は東京で次の夢を見つけ、掴んでみせる」
理亞「……嘘だよ」
聖良「……理亞?」
理亞「ねえ、姉様。私達のラブライブはもう終わったんだよ」
聖良「ええ。そうね」
理亞「ねえ、姉様。私達はもう、スクールアイドルじゃないんだよ」
聖良「ええ。分かり切ったことだわ」 - 18 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 00:07:31.60 ID:PU22H5iy.net
- 理亞「――分かってない! 姉様は全然分かってない!」
聖良「り、理亞?」
理亞「姉様の馬鹿! 鈍感! おっぱいおばけ! ひとのことばっかり世話焼く癖に、何で自分が分からないんだ!?」
理亞「本当は自分で気付いて欲しかったけど、もういい、限界!」
聖良「ちょっと、理亞。何をそんなに怒って――、」
理亞「姉様は気付いてない、ラブライブが終わってから、一度だって泣いてないこと!」
理亞「気付いてない、ラブライブが終わってから、一度だって笑ってもないこと!」
理亞「怒ることだってない! 何かに集中してるところも全然見てない! 今の姉様は、何もない!」
聖良「――っ!」 - 19 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 00:08:24.92 ID:PU22H5iy.net
- 理亞「……ねえ、姉様。練習、大変だったよね。苦しいことも耐えてきたよね。でも私達、勝てなかったんだよ」
聖良「……」
理亞「ねえ、姉様。この一年、全然遊んだりしなかったよね。土日なんかなかったよ。それでも私達、勝てなかったんだよ」
聖良「……やめて」
理亞「ねえ、姉様。雪の中で練習するの辛かったよね。暖かい部屋で遊んでる人達を羨ましがって、それでも私達は練習したよ」
理亞「でもやっぱり、私達は勝てなかったんだよ」
聖良「やめなさいと言っているでしょう……!」ガシッ
理亞「……負け犬」
聖良「なっ……!」 - 20 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 00:09:51.10 ID:PU22H5iy.net
- 理亞「ううん、負け犬以下だよ。自分が負けたことすら認められないで、うじうじうじうじ、格好ばっかりつけて!」
理亞「そんなに自分が弱いって認めるのが嫌!? くだらない、情けない! そんなハリボテのプライドにしがみついて、みっともない!」
理亞「お前なんか、負け犬以下のクズ野郎だ、聖良ッ!」
聖良「っ、理亞……ッ!」グッ
理亞「……っ」
聖良「――!? ……理亞、あなた、泣いて……」
理亞「……泣いて、何が悪いんだ」
理亞「大好きな人と喧嘩しなきゃいけないんだ。辛くて泣くことの、何が悪いんだ……」
理亞「たった一年でも、青春かけて打ち込んだ夢が果たせなかったんだ。悔しくて泣くことの、いったい何が悪いんだ……!」
理亞「SaintSnowを馬鹿にしないで! 私達は本気だったんだ、負けて終わって涙も出ないなんて、そんないい加減な気持ちでやって来たんじゃない!」
聖良「……!」 - 21 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 00:11:47.92 ID:PU22H5iy.net
- 理亞「……姉様。終わらせようよ、私達のラブライブを」
理亞「でないと姉様、東京に行っても新しい夢なんて見つからないよ。いつまで経っても笑えないよ」
聖良「……」
理亞「……」
聖良「……そう。私達は、負けたのよね」
聖良「ラブライブはもう、終わってしまったのよね」
理亞「……うん。そうだよ、姉様」
聖良「理亞。抱きしめさせてもらっても、いい……?」
理亞「いいよ、姉様」
聖良「有難う」ギュッ - 22 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 00:13:13.22 ID:PU22H5iy.net
- 聖良「……」
聖良「……嫌だよ」
聖良「終わりたくないよ。このままなんて悔しいよ……。ひぐっ、うっ、ぐすっ……っく、ぅう」
聖良「私達の何が足りなかったんかなあ……? やり直せるなら、やり直したい……!」
聖良「理亞と二人で、あの場所で。勝って終わりにしたかったよ……!」
聖良「う、ぅうう、――あ、」
理亞「……」ギュッ
聖良「あ、あぁあああああああ! うああああああああ! ああぁあぁあああああ!」
理亞「ぐすっ、……うぁああああああああぁん!」
聖良(ラブライブからおよそ一か月。私の終わってしまった青春に、私はその日、ようやくピリオドを打った……) - 23 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 00:15:20.37 ID:PU22H5iy.net
- ――――
――
聖良(えっと、入学式の会場は……こっちか)
聖良(東京の建物はどこも狭いけど、さすがに大学は大きいな。だいぶ迂回してしまったみたい)
聖良(――あ。あれ、受付)
聖良「すみません。新入生の鹿角と申しますが。はい。あ、この部屋で座っていれば? はい。分かりました、はい」
聖良(早めに来たつもりだったけど、少し迷ったせいかもう一杯いるわね)
聖良(みんな同級生、ってことよね。友達、出来るといいけれど)
聖良(えぇと。――あの席が空いているわね。黒髪の女の子の隣)
聖良「――あの。こちら、よろしいですか」
「あ、ええ。どうぞ、ご自由に――って、」
聖良「有難うござい――、ううん?」
「あなた、もしかしてSaintSnowの……!」
聖良「あなたは、Aqoursの!」
ダイヤ「鹿角聖良さん!?」 聖良「黒澤ダイヤ!?」 - 24 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 00:16:52.39 ID:PU22H5iy.net
- 第一部、完
- 29 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 05:43:34.73 ID:PU22H5iy.net
- ダイヤ「ただいま戻りましたわ――、うっ、お酒臭い……」
聖良「ああ、ダイヤ。お帰りなさい。遅かったですね。一緒に飲みましょうよ」フラフラ
ダイヤ「……聖良さん。あなたまたこんなに飲んで。へべれけではないですか」
聖良「えー。いえいえ、まだまだ全然。ほら、こんなに元気です」ヘロヘロ
ダイヤ「酔っ払いはみんなそう言うんですのよ!」
ダイヤ「私もあなたも成人した訳ですから飲むなとまでは言いませんが、程度を知りなさいな」
ダイヤ「若いうちから酒浸りでは、いずれ身体に障りますわよ」
聖良「大丈夫ですよ、これくらいは」
ダイヤ「それも酔っ払いの常套句です」 - 30 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 05:44:56.54 ID:PU22H5iy.net
- ダイヤ「まったく。真面目なあなたとならと思いルームシェアの提案に乗りましたが……まさか成人して数か月で、ここまで飲んだくれるとは思いませんでしたわ」
聖良「外で飲むよりはいいでしょう? 経済的だし、他人に迷惑もかけない」
ダイヤ「私に迷惑がかかっているのですが?」
聖良「私とダイヤの仲ではないですか」
ダイヤ「何が。……と言いますか、そういう言い方はやめてください。おかげで大学でも妙な噂が立っているようですし」
聖良「ああ。私とダイヤが爛れた生活をしている、というヤツですね」
聖良「みんなの中では私がタチでダイヤがネコだとか。ふふっ、面白い」
ダイヤ「何も面白くありませんわよっ!」
ダイヤ「と言うかあなた、この噂を聞いた時、否定しなかったそうですね! 勘弁して頂けませんか!?」
聖良「元スクールアイドルとして、みんなの夢を壊すのも如何かと思って。百合営業というヤツです」クスクス
ダイヤ「頭が痛くなってきましたわ……」 - 31 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 05:46:55.10 ID:PU22H5iy.net
- 聖良「それはいけません。そういう時はお酒を飲めばすっきりしますよ、いかがです?」
ダイヤ「結構です! あなたのお酒も没収ですわ!」
聖良「ああっ、酷い!?」
ダイヤ「まったく。大学で単位を取ってバイトするだけの生活だから、お酒なんかにハマってしまうのです」
ダイヤ「何か他にこう、趣味とか、もっと打ち込めるものを見つけてはどうですか」
聖良「打ち込めるもの、ですか」
聖良「……」
聖良「どうでしょう、ね。楽しくないのよ、何をやっても。本当はお酒を飲んだって満たされない」
聖良「あるいは、噂のとおりにあなたを抱けば、あなたに溺れられるでしょうか……」
ダイヤ「……酔っ払いの妄言と、受け止めておきますわ」
聖良「……ごめんなさい。そうしてもらえると助かります」 - 32 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 05:48:44.42 ID:PU22H5iy.net
- ダイヤ「まずは水でも飲みましょう。それから、お酒はお断りしますが愚痴にくらいは付き合いますわ」
聖良「有難う」
聖良「……ダイヤ。あなたは今、楽しいですか。あの頃と比べて、今に満足していますか」
ダイヤ「……あの頃、ね」
ダイヤ「質問に質問を返すようですが。あなたは、あの頃に戻りたいのですか」
聖良「どうでしょう。……思い返せば、あまり良い思い出はないですね」
聖良「誇張でも何でもなく、汗と涙と反吐にまみれた生活でした。朝に走って、昼に歌って、夜は踊って。合間合間に嘔吐して、無理やり食事をねじ込んで、それもまた吐く」
聖良「およそ女子高生の日常とは思えません。戻りたいかと問われれば、答えに窮しますね」
ダイヤ「しかしあなたは、あの頃と比べて今に不満を感じている」
聖良「そう、みたいですね。充実した日々ではあったのかもしれません。少なくとも、退屈なんて感じる暇もありませんでしたし」
ダイヤ「……前から気にはなっていました。あなたは。あなた達SaintSnowは、どうしてそこまで厳しい練習を?」 - 33 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 05:51:06.18 ID:PU22H5iy.net
- ダイヤ「私の知る限り、歴代スクールアイドルの中でもあなた達の練習量は群を抜いています。はっきり言って異常なレベルですわ」
聖良「あなた、私の質問に答える気ないでしょう。まあ、いいですけど」
聖良「別段、特別なものはありません。ただ、頂点を目指した。そのための努力を惜しまなかった。それだけよ」
ダイヤ「それは表層的なものでしょう。私はあなたがその頂点を――いいえ。あなたがスクールアイドルであった理由を尋ねています」
聖良「……それこそ、有り触れたもの」
聖良「輝いて見えた。自分もそうなりたいと思った。どこまでも強く、あのスクールアイドルの王者のように」
ダイヤ「……」
ダイヤ「え。そ、それだけ? それだけで、それほどまでに厳しい練習に耐えたの? ただただ、目指したもののためだけに……?」
聖良「それだけよ。それだけしかなかった。それだけで十分だった」
聖良「あの輝きを追うことだけが私達のすべて。輝きの正体が、身を焼く灼熱の太陽と知っても、躊躇わなかった」
ダイヤ「……本当なのだとしたら、理解に苦しみます」
聖良「……」 - 34 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 05:53:17.42 ID:PU22H5iy.net
- ダイヤ「それではあなたは、追いかけるためだけにスクールアイドルをやっていたことになります」
ダイヤ「苦しい思い出しかない。走り抜けた記憶しかない。その最中のあなたの想いはどこにあるの? それではまるで」
ダイヤ「憧れを燃料のようにくべて消費して、ただ頂点を。その輝きを追い求める機械のような……!」
聖良「そう。それこそが私達の理想でした」
聖良「頂点しかいらない、他には何も。そのためなら幼い憧憬なんていくらでも燃やせた、灰になるまでっ!」
ダイヤ「……っ」
ダイヤ「……私の知っているスクールアイドルの輝きは、若い憧れを焼き尽くすような、灼熱の太陽などではありません」
ダイヤ「あれは青春の輝きです。短い高校3年間の、ともすればたった1年しかない仲間との絆、その想いのすべてを歌に込めるからこそ、多くを惹きつける光になる。誰もが憧れる希望になる」
ダイヤ「だって、そうでしょう。私達の憧れたスクールアイドルがそんな、あなたの言うような地獄の釜の底な訳が、ないではないですか」
聖良「……そうですね。私が勝手に太陽に憧れて手を伸ばし、勝手に堕ちただけのこと。凡人が女神になろうとした代償、と言ったところでしょうか」
聖良「ふふ。まるであなたのお仲間のような、いささか格好をつけすぎた表現ですが」 - 35 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 05:54:45.80 ID:PU22H5iy.net
- ダイヤ「……理解できません。あなたの心が分からない」
聖良「心なんて。あるいは、焼き尽くしてしまったのかもしれませんね。ラブライブが終わって、あの――、」
聖良(理亞と共に抱き合い、大声を上げて泣きじゃくったあの夜に。燃え落ち、灰になってしまったのだろう……)
聖良「ああ。そうか」
聖良「だから私は、満たされないのね。再び燃え上がらせる心が、もう、私にはないから――」
聖良「有難う、ダイヤ。すっきりしました。解決はしそうにありませんが、自分の状況を理解できたのは前進です」
聖良「自分の中でどこか、折り合いをつけられるよう努力してみることとします」
ダイヤ「……」
聖良「そろそろ眠りましょうか。明日もあることですし」 - 46 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 18:53:21.88 ID:PU22H5iy.net
- ダイヤ「……私は、認めません。自分の心を消費して歌うスクールアイドルがいたなんて」
ダイヤ「あなただって、本当は……!」
聖良「あなたは優しいのですね、ダイヤ。いいえ、それとも。元スクールアイドルとしての意地ですか」
聖良「あなたのスクールアイドル像とかつての私は、よほど相容れないもののようです」
ダイヤ「……」
聖良「ああ、そう言えば。まだ私の問いの答えを聞いていませんでしたね。もうあまり意味のない問答ですが、いちおう、聞かせてもらっても?」
聖良「あなたは、今の生活に満足している?」
ダイヤ「……一抹の退屈を抱えていることは、否定しません」
ダイヤ「しかしその退屈もまた、私の駆け抜けた青春の価値と、そう思っています。それほどまでに充実した青春だったのだと」
ダイヤ「それは惜しむのではなく誇るべき過去です。あの日々を想う退屈ですら、私の胸を熱くさせてくれる……」
聖良「いい答えね。眼が眩むほどまぶしくて、いつか見た輝きを思い出します」
聖良「私、あなたのこと、好きよ。不器用だけど真面目で真っ直ぐで。とてもいい女だなって、同性の私でもそう思います」 - 47 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 18:54:38.34 ID:PU22H5iy.net
- ダイヤ「……今さらですか。私は品行方正、超絶美少女、究極の大和撫子である黒澤ダイヤ様ですのよ」
聖良「ふふっ。成人した女が美少女、ねぇ……。まあ、いいけれど」
聖良「さあ。いい加減に、本当に眠るとしましょう。これ以上の夜更かしは毒です」
ダイヤ「……聖良さん」
聖良「なんでしょうか」
ダイヤ「あなたはどうして、スクールアイドルだったのですか」
聖良「……その質問には答えたはずですよ。おやすみなさい、ダイヤ。とても有意義な時間だったわ」
ダイヤ「……おやすみなさい。良い夜を」
ダイヤ「……」
ダイヤ「あなたには言われたくありませんわ。真面目すぎて不器用すぎて、だから真っ直ぐでいられなかった、ちょっと性格の悪い人」 - 48 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 18:58:31.74 ID:PU22H5iy.net
- ――――
――
聖良「いらっしゃいませー」
聖良「ありがとうございましたー」
聖良「いらっしゃいませー」
聖良「ありがとうございましたー」
モブ「鹿角さん、時間。交代だから、上がっていいよ」
聖良「あ、はい。では、お先に失礼します」
聖良「はーっ、なまら疲れたぁ……。景気づけにお酒でも買って帰ろうか」
聖良「って、昨日の今日で飲酒していては駄目ね。ダイヤに怒られてしまうわ」 - 49 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 19:01:21.89 ID:PU22H5iy.net
- 聖良「……自分の中で折り合いを、か」
聖良(楽しくない。満たされない。どんな想いに対する折り合いとは何なのか)
聖良(人生とはこんなもの、大人になるとはこういうこと……。そんな風に諦めろということだろうか)
聖良(それは、違う気がする。私はそんな風に生きたくはない。もっと何か、出来ることがあるはずだ)
聖良「私にも趣味が必要なんかなあ。とは言っても、趣味なんて作るものでもないと思うし」
聖良「あるいは恋でもしてみるとか。……いや、無理。まったくピンとこない」
聖良「……難しい。これじゃあ本当に、ダイヤに溺れるって選択肢が一番濃厚になってしまう」 - 50 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 19:03:36.45 ID:PU22H5iy.net
- 聖良「いっそ本当に襲ってみようか。ダイヤ綺麗だし、性的だし」
聖良「ダイヤはどんな反応するかな……。まず恨まれるか。彼女の信頼を裏切るわけだし」
聖良「あの切れ長の碧眼が、憎悪を込めて私を睨む。私はなおダイヤの身体をむさぼり、憎悪に濁った瞳に徐々に恥辱が混ざっていって――」
聖良(……おかしい。ちょっとゾクゾクしてきた。私、そんな趣味なかったと思うけど)
聖良「ちょっと、ストップ。これ以上はまずい。同性相手に何を考えてるの、私は」
聖良「もっと別の。何か楽しいと思えることを」
聖良「楽しいこと。楽しい……」
~♪
聖良「――歌、……?」 - 51 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 19:05:40.52 ID:PU22H5iy.net
- 聖良(どこかから聞こえる、綺麗な、女性の声。そこまで卓越した技術は感じないけれど、弾んだ声色がなぜか胸を打つ)
聖良「それにこの歌声、どこかで聴いた、ような……」
聖良「声がするのは、向こうから。――あ、あの人だ」
聖良(セミロングの、明るいブラウンの髪。サングラスをかけていて顔はよく見えないけれど、二十代半ばくらい、だろうか)
女性「――♪」ニコッ
聖良(! 明らかにこっちを見て笑った。サングラス越しだけれど、間違いなく)
聖良(……とても、楽しそうに歌う人だ。何がそんなに楽しいのだろう。歌うことがそんなに好き?)
聖良(歌なんて特別なものでもない。歌おうと思えばいつだって歌える。そもそも、そう楽しいものでもない。スクールアイドル時代には喉を潰すくらい歌った)
聖良(私にとっては歌なんて、……苦痛の日々の、象徴みたいなものなのに)
聖良「……」
女性「~~♪」
聖良「……」
・
・
・ - 52 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 19:09:35.99 ID:PU22H5iy.net
- 女性「ありがとうございましたー!」
聖良「っ!? ……あ、終わったの」
聖良(ずいぶんボーっとしていたみたい。終わったことにも気づかないなんて、疲れてるのかも)
聖良(帰ろう。帰って、ダイヤをからかって寝よう)
女性「いやー。ありがとうね、お姉さん!」
聖良「……」
聖良「え、私?」
女性「そうそうお姉さん。あんなに聞き入ってくれるなんて、嬉しかったなぁ」
女性「大半は通り過ぎるだけだし、三十分以上も聴いてくれる人なんて、なかなかいないからさ」
聖良「三十分? ――えっ、もうこんな時間!?」
女性「あはは。なに、時間も忘れてくれてたの? 私の歌も捨てたものじゃないね!」
聖良「そういう訳では……」 - 53 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 19:11:23.63 ID:PU22H5iy.net
- 聖良「……いえ。どうなんでしょう。圧倒的に上手い歌だったわけでも、ない筈なんですが」
女性「うぐっ!? い、言うねお姉さん。そりゃまあ、私の歌がそこまででもないって知ってるけどさあ」
聖良「あ。すみません。思ったことがつい、そのまま」
女性「それ何にもフォローになってないからね?」
聖良「……ただなぜか、あなたの歌がどこか、懐かしかったんです。それで聴き入ったのだと」
女性「懐かしい、か」
女性「お姉さん、もしかしてスクールアイドルとか好きだったりする?」 - 54 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 19:14:29.80 ID:PU22H5iy.net
- 聖良「元スクールアイドルではあります」
女性「あ、そうなんだ! 実は私も元スクールアイドルなんだよ」
聖良「高校でも歌って、大人になっても歌っている訳ですか。よほど歌がお好きなんですね」
女性「うん。そりゃあ、スクールアイドルやってて歌が嫌いな人はいないよ」
女性「あなただって、そうなんじゃないの?」
聖良「……どうでしょうか。あまり楽しく歌った思い出はないので」
女性「えぇーっ!? 嘘でしょ、スクールアイドルなのに!?」 - 55 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 19:16:17.00 ID:PU22H5iy.net
- 聖良「嘘なんてついても、ね。そもそも、スクールアイドルの活動自体、楽しいと思ったことはないので」
女性「……嫌いなのに、スクールアイドルやってたの?」
聖良「いいえ。好きでしたよ。好きで好きで仕方がなくて、だからどんな苦しい練習にも耐えられた」
聖良「ただ好きなだけでいられれば、どれだけ楽だったことか。私は狂おしいほど愛してしまったんだと思います」
聖良「スクールアイドルを。A-RISEを。そしてμ'sを」
聖良「あの、まぶしく輝く太陽を」
女性「……」
女性「歌っている時にね、あなたを見て思ったんだ」
女性「こんなに目を輝かせて歌を聴いてくれるこの人は、きっと私と同じで、歌が大好きな人なんだ、って」 - 56 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 19:19:46.11 ID:PU22H5iy.net
- 聖良「……私が? 目、を?」
女性「でも、今話をしているあなたはまるで別人みたい。なんだろうね。夢から醒めた、って感じなのかな」
聖良「自分では、普通だと思ってるんですが」
女性「――うん。気が変わった。今日は終わりのつもりだったけど、もう1曲やっていくよ」
女性「ほい。お姉さん、これ持って」
聖良「……え。マ、マイク?」
女性「さ。なに歌う? やっぱりスクールアイドルの曲がいいかな」
聖良「ま、まさか、私に歌えと!?」 - 57 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 19:21:28.11 ID:PU22H5iy.net
- 女性「大丈夫大丈夫。元スクールアイドルでしょ、人前で歌うなんて慣れっこじゃん」
聖良「そうではなくて! どうして私が……」
女性「いいからいいから。何か曲、リクエストして?」
聖良「ああ、もう、強引な人! 何なんですか、いったい!?」
女性「……大切にしたいじゃん。そんなにも真剣にスクールアイドルだった人くらい。先輩としてさ」
聖良「……」
女性「さ。何を歌おうか」
聖良「……はあ。1曲だけです。あなたくらいの年代なら、μ'sの代表曲はさすがに知っていますよね。なら――」
聖良「僕らは今のなかで」
女性「……得意だよ。その曲」ニコッ - 58 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 19:25:35.86 ID:PU22H5iy.net
- 女性「じゃあ、いくよ……」スゥ
女性「――真っ直ぐな想いが みんなを結ぶ♪」
聖良「……」
女性「♪」
聖良(やっぱり楽しそうに歌うな……。そんなに歌が好き? 歌ってそんなにいいもの?)
聖良(……よく、分からない)
女性「ここにあるよ 始まったばかり♪」
女性「」パチッ
聖良(! アイコンタクト……。そろそろ歌えってことね) - 59 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 19:28:51.17 ID:PU22H5iy.net
- 女性「わかってるー♪」
聖良(……歌うの。何年ぶりだろう。そういえばカラオケとか断ってきたし)
聖良「す、ぅ」
聖良「――楽しいだけじゃない 試されるだろう♪」
女性「わかってるー♪」
聖良「だってその苦しさも ミライ♪」
聖良(ん……っ!? 声が通らない。私、下手になってるなぁ……!)
聖良「集まったら強い 自分になっていくよ♪」
聖良(μ'sの曲なら覚えてる。ここのステップは、こう!)
女性「きっとね♪」 聖良「変わり続けて♪」
「「We'll be star♪」」
聖良(ああ、もうっ。まだ始まったばかりなのに、何でもう息が上がってるんだ、私!?) - 60 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 19:40:33.57 ID:PU22H5iy.net
- 聖良「それぞれが好きなことで 頑張れるなら♪」
女性「新しい♪」 聖良「場所が♪」
「「ゴールだね♪」」
聖良「」チラッ
女性「♪」
聖良(ああ――本当に、楽しそうに歌う人。まるでいつか見た輝き……憧れた太陽のような)
聖良(ずっとずっと、私はそんな太陽のようになりたいって、思ってた)
聖良(A-RISEやμ'sのように――……)
聖良(……)
聖良(……あれ? 私は彼女達の、何に憧れたんだっけ) - 61 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 19:54:44.90 ID:PU22H5iy.net
- 聖良(歌もダンスも、完成されたプロの歌手やダンサーにはもちろん劣る。取り立てて、熱心に入れ込む要素なんてないはずだ)
聖良(それなのに私は。私は、彼女達の、何を――)
聖良「それぞれの好きなことを 信じていれば♪」
聖良(好きな……こと?)
聖良(私の好きなことって。……何だっけ)
聖良(私は――、)
聖良『悔しい、悔しいよ! 勝てなかったなんて……、これでもう終わりだなんて……!』
聖良『うぁああああああっ……!』 - 62 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 19:55:53.51 ID:PU22H5iy.net
- 女性「ときめきを♪」 聖良「抱いて♪」
『第12回ラブライブ、優勝は――、』
「「進めるだろう♪」」
聖良『ああ……震えが止まらない。心が裂けてしまいそう』
聖良『勝ちたくて勝ちたくて。どうにかなってしまいそうなんです』
聖良『だって私達、そのためだけに練習してきたじゃないですか』
聖良『その努力が報われないかもしれないなんて、そんなこと、あまりにも惨めで』
聖良『……怖い』 - 63 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 19:56:48.05 ID:PU22H5iy.net
- 聖良「怖がる癖は捨てちゃえ♪」
女性「飛び切りの 笑顔で♪」
聖良『う、ぶっ。お、ぅぇ……、げ、かはっ……』
聖良『はっ、はぁ、は……っ! すみません、見苦しい所を。もう一回、曲を流して……!』
モブ『いや、聖良先輩……さすがに休んだ方がいいですよ、限界ですって……!』
聖良『限界……? そんなもの知らない。この程度で壊れるくらいなら、いっそ壊れた方がまだ!」
聖良『さあ、曲を流して。流しなさい!』
モブ『……おかしいですよ、先輩。どうしてそこまでするんですか……』 - 64 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 19:57:49.63 ID:PU22H5iy.net
- 聖良「跳んで 跳んで 高く♪」
女性「僕らは今のなかで♪」
『第11回ラブライブ、優勝は――、』
聖良『……理亞。次が私のラストチャンス』
聖良『勝つよ。何を犠牲にしてもいい。どんな責め苦があってもいい』
聖良『次こそ。絶対に……!』
理亞『うん。勝とう、姉様。次こそ』
千歌『勝ちたいですか……?』
理亞『姉様。この子、バカ?』
聖良『勝ちたくなければ、なぜラブライブに出るのです』
理亞『9位、だったね。姉様……』
聖良『思うところはあります。けれど、結果は受け入れるしかない』
聖良『そしてこの結果に対して私達に出来ることは、努力することだけ。ただその道を、愚直に進むことだけです』
聖良『理亞。付いて来てくれますか……?』 - 66 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 20:01:55.36 ID:PU22H5iy.net
- 聖良「夢が大きくなるほど♪」
女性「試されるだろう♪」
聖良『入学おめでとう、理亞。待っていましたよ』
理亞『うん。ようやく、二人でスクールアイドルが出来るね』
聖良『ええ。憧れのA-RISEやμ'sのようになれるよう、精一杯、頑張りましょう?』 - 67 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 20:03:05.84 ID:PU22H5iy.net
- 女性「胸の熱さで乗り切れ♪」
聖良「僕の温度は♪」 女性「熱いから♪」 聖良「熱すぎて♪」
「「止まらない♪」」
聖良『理亞、大ニュースです! A-RISEがプロデビューして初の札幌ドームライブ決定ですよ!』
理亞『ウソ!? 行かなきゃ! チケット取れる!?』
聖良『取れるとか取れないじゃなくて、取るしかねえべや!?』
聖良『ああ、今からなまら楽しみ。数日眠れそうにないよ!』
理亞『姉様。なに見てるの?』
聖良『ああ、理亞。スクールアイドルのライブ映像ですよ』
理亞『スクールアイドル?』
聖良『ほら、見て! このA-RISEって人達、格好いい!』
理亞『わあ……。ホントだ、格好いい……』
聖良『私も高校に入学したら、こんな人達みたいになりたい! 歌で、踊りで、思いのままに輝いて!』
聖良『こんな風に、格好よく歌えたら……!』 - 68 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 20:04:39.38 ID:PU22H5iy.net
- 女性「無謀な賭け?」
聖良「勝ちに――行こう!」
理亞『姉さまー』
聖良『どうしたの、理亞?』
理亞『姉さまの歌が聞きたい。歌ってー』
聖良『ふふ。理亞はそんなに私の歌が好き?』
理亞『うん。だって歌ってる時の姉さま、すっごく――、』
聖良「――あ、」
女性「……?」
理亞『――すっごく、楽しそうだから』
聖良『くす。……うん。私、歌うの好きだよ。それで理亞が喜んでくれるなら、私も嬉しい』
聖良『一緒に歌いましょうか。理亞』
理亞『うんっ!』 - 69 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 20:12:16.21 ID:PU22H5iy.net
- 聖良(――ああ。そうか。そうだったんだ。何でこんなこと、忘れてたんだ、私は)
聖良(私が憧れたものは。目指したものは。最初にあったものは、ただ……)
聖良(私はバカだ。そんなことに、今気づいたのか。青春もすべてふいにして、理亞まで巻き込んで、ようやくか)
聖良(どうしようもない。救いようがないほど、愚かな――)
女性「――大丈夫だよ」
聖良「あ、……サングラス」
聖良(サングラスを外して、真っ直ぐこちらに微笑みを向けている。スカイブルーの、とても綺麗な澄んだ瞳は)
聖良(いつの日にか映像で見た、あの憧れの――) - 70 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 20:13:50.68 ID:PU22H5iy.net
- 女性「歌おう。歌うことは怖いことじゃない。音楽は辛いものじゃない」
女性「あなたの想いを、夢を。きっともう一度教えてくれる。未来をへの道を、照らしてくれる」
女性「さあ、歌おう。あなたの歌は、まだ始まったばかりだよ」
女性「あなたの歌は、とっても楽しいものなんだから」
聖良「……ふ、あはは」
聖良(本当にバカだ。あれだけ焦がれた太陽を前にして気付かないほど、私の心は曇っていたか)
聖良(ダメだな、私。本当にダメダメで。――だから、もう)
聖良(この人に、この太陽に、これ以上みっともないところは見せられない。スクールアイドルとしての意地くらい、私にもある……!) - 71 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 20:15:00.85 ID:PU22H5iy.net
- 聖良「す、ぅ……」
聖良「――それぞれが好きなことで 頑張れるなら♪」
女性「」ニコ
女性「――新しい♪」 聖良「場所が♪」
女性「ゴールだね♪」
聖良(もっと。もっと強く、もっと大きく! もっと高らかにっ!)
聖良(まだ歌える! まだ踊れる! まだまだ私は、私の積み重ねた努力は、こんなものじゃない……!)
聖良「それぞれの好きなことを 信じていれば♪」
女性「ときめきを♪」 聖良「抱いて♪」
「「進めるだろう♪」」
聖良(全部出すんだ、スクールアイドルだった私のすべてを! 想いも、魂も全部!)
聖良(だって――) - 72 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 20:16:01.77 ID:PU22H5iy.net
- 女性「怖がる癖は捨てちゃえ♪」 聖良「飛び切りの笑顔で♪」
女性「跳んで跳んで高く♪」 聖良「僕らと今を♪」
聖良(さあ、出し切ろう。私のぜんぶを、今ここで!)
聖良(だって、だって……!)
聖良「弱気な僕にさよなら♪」 女性「消さないで笑顔で♪」
聖良「跳んで跳んで高く♪」 女性「僕らは今のなかで♪」
聖良(だってこんなにも――楽しいんだ)
聖良(全部出し切らないなんて、そんなこと、できないよ)
「「輝きを待ってた――!」」 - 73 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 20:17:09.78 ID:PU22H5iy.net
- 聖良「――はっ、はっ、はっ、はぁっ……!」
女性「あっははは。あなた、すっごい上手いね! まさかステップまでこなして来るとは思わなかったよ」
女性「ラブライブ、相当いいところまで行ったんじゃない?」
聖良「……第11回と12回で、本選出場です。どちらも優勝はなりませんでしたが」
女性「ほへぇ。ここ数年ってレベル高いんでしょ? 大したもんだ」
聖良「優勝者には叶いませんよ……」
女性「そう? 私の歌なんて、圧倒的に上手い訳でもないんでしょ?」
聖良「うっ、それは……」
女性「えへへへ、冗談」
女性「……ねえ。楽しかった?」 - 74 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 20:19:29.30 ID:PU22H5iy.net
- 聖良「……はい。私、歌は好きですから」
女性「そっか。良きかな良きかな」
女性「私も楽しかったよ。やっぱりさ、歌はいいもんだよ。学生の頃も、大人になっても、きっとこれからも」
女性「あなたにとっても、きっとそうだと思うよ。あなたがいくつになっても、音楽はあなたの道を照らしてくれる」
女性「だって。あなたが心から楽しいと思えることなんだからさ」
聖良「そうであってくれると、有り難いですね」
女性「大丈夫。私が言ったことって本当になるから。雨だって、やめって言ったらやむ! やるったらやる!」
聖良「ふふ。あのμ's伝説、本当だったんですか?」
女性「あはは。まあほとんどが大げさになっちゃってるけどね」 - 75 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 20:21:19.70 ID:PU22H5iy.net
- 女性「……じゃあね。いいセッションだった。機会があれば、また歌おう」
女性「ファイトだよ」スタスタ
聖良「ありがとう、ございました……!」ペコッ
聖良「……」
聖良「……ふぅ。まさか、あの伝説に会うなんて、ね。さらにマイク強引に渡されて一緒に歌うなんて、分からないもの――ん?」
聖良「マイク……まだ、手元にある……」
聖良「ああ――っ!? ちょ、待ってください! ちょっと……ちょっとーぉ!?」 - 77 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 20:23:00.39 ID:PU22H5iy.net
- 聖良(結局。それから彼女に追いつくことは出来なかった)
聖良(強引に渡されたマイクは、私が借りたまま長期で預かることになる)
聖良(もっとも。実家の和菓子屋はファンの間では有名だし、返すつもりならそちらへ持って行けばいい)
聖良(でも――もう少しだけ預からせてください)
聖良(私の夢を、今の私なりに輝かせられた時。胸を張って、あなたにこのマイクを返したいと思います)
聖良(憧れた姿に追いついて。追い越して。あなたに救われたんです――って。そう、お礼を言わせてください) - 78 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 20:24:26.21 ID:PU22H5iy.net
- 聖良「ただいま戻りましたー」
ダイヤ「……随分と遅かったですわね。まさか飲み歩いていたのではないでしょうね」
聖良「まさか。歩き疲れてヘトヘトですよ。歌も歌うしステップは踏むしで、衰えた身体ではもう限界です」
ダイヤ「歌? ステップ?」
聖良「ダイヤ」
ダイヤ「は、はあ。何でしょうか」
聖良「あなたの質問、間違って答えていました。改めて、返答をさせてください」
聖良「スクールアイドルは楽しかったわ。ただその想いは降り積もる雪に圧されて、いつしか凍りついてしまっていた」
聖良「私は歌が好きよ。――だからスクールアイドルだったんです。本当は」ニコ
おしまい - 79 : 名無しで叶える物語 2017/06/07(水) 20:25:49.39 ID:PU22H5iy.net
- これにておしまいです
読んで頂いた方、レス頂いた方、ありがとうございました

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