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男「鬼女」 女「ひっどーい!」
- 1 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/09/19(火) 02:41:43.97 ID:/oIkTvmPo
-
「鬼女」
私の彼は、いきなり私に向かってこう言った。
“鬼女”なんて言葉は、女にとっては最大級の侮辱といってもよい。
「ひっどーい!」
この後のことはよく覚えていない。
が、心の中が怒りと悲しみに満ち溢れたことだけはよく覚えている。
気づいた時には、私はアパートの一室を飛び出し、近所に住む友達の家に向かっていた。
- 2 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/09/19(火) 02:42:36.45 ID:/oIkTvmPo
-
インターホンを押すと、中から女友達が出てきた。
「こんな時間にどうしたの?」
「うん……彼氏と喧嘩しちゃって」
「喧嘩? あの人と? まあ、とにかく入りなさいよ」
「ありがとう……」
突然訪れた私を、友達は快く出迎えてくれた。
私は持つべき者はよき友達だ、と心から思った。
- 3 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/09/19(火) 02:44:35.63 ID:/oIkTvmPo
-
「喧嘩って……いったい何があったの?」
「うん……」
うまく説明ができない。
ついさっき沸騰したばかりの負の感情が、正常な思考を邪魔しているのだ。
「まだ落ち着いてないみたいね。だったらさ、覚えてるところから順々に話していきなさいよ」
「そうする……」
私はアドバイスに従い、きちんと覚えているところから説明することにした。
- 4 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/09/19(火) 02:47:01.02 ID:/oIkTvmPo
-
私は彼とテレビを見ていた。
見ていたのは、グルメ系のバラエティ番組。
芸能人がさまざまな店の料理を食べて「うまーい!」とか「舌がとろける~!」とかいうあれだ。
それを見ながら私たちも、
「こういうの食べてみたいね~」
「外食する時はいつもチェーン店だもんな、俺ら」
こんな他愛ない会話をしてたことを覚えている。
今のところ、喧嘩になるような要素は全くない。
- 5 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/09/19(火) 02:49:15.35 ID:/oIkTvmPo
-
この日はハンバーグの特集をしており、色んな店のおいしそうなハンバーグ料理の紹介が続いた。
二人ともハンバーグが大好きなので、会話は弾んだ。
「今度、私が作ってあげよっか?」
「お、いいね~!」
そんな時、あるシェフがハンバーグを作る様子が映し出された。
豚のひき肉に卵や玉ねぎ、パン粉などを入れて、慣れた手つきでこねている。
オーソドックスな工程であり、そのオーソドックスさがかえって私たちの唾液分泌を促した。
――そうだ。
私はこの時、彼にこう尋ねたのだ。
- 6 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/09/19(火) 02:51:34.84 ID:/oIkTvmPo
-
「玉ねぎって、英語でガーリックだっけ?」
この直後、彼から「鬼女」発言があり、私の「ひっどーい!」に繋がるわけだ。
こうして思い出してみても、なぜ自分が「鬼女」などと言われなければならないのか全く分からない。
すると、友達が苦笑しながら口を開いた。
- 7 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/09/19(火) 02:52:47.46 ID:/oIkTvmPo
-
「それってさ……もしかして、“鬼女”じゃなくて“オニオンな”って言いたかったんじゃない?」
「あっ……」
この瞬間、私はやっと自分の間違いに気づいた。
彼は私を侮辱したのではなく、玉ねぎは英語でオニオンだということを教えたかっただけなのだ。
なのに私は勘違いして、部屋を飛び出してしまったのだ。
とんでもないことをしてしまった……と私は後悔した。
- 8 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/09/19(火) 02:54:15.35 ID:/oIkTvmPo
-
すると、友達の家のインターホンが鳴った。
友達は玄関に出て、すぐ戻ってきた。
「あんたの彼が追いかけてきてくれたよ。仲直りしたいってさ。よかったね」
「うん……」
アパートを飛び出した私がどこに行ったかは、すぐ推測できたのだろう。
完全に私が悪かったのに、彼は追いかけてきてくれた。
こんな優しい男を彼氏にできた私は幸せ者だ、と私は思った。
- 9 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/09/19(火) 02:55:27.76 ID:/oIkTvmPo
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私が玄関に出ると――
「どうしたのそれ!?」
顔面のあちこちが腫れ上がっている彼が立っていた。
「なにって……激怒したお前に十発ぐらい殴られたじゃん」
「ご、ごめんなさい……」
これでようやく、私の記憶の空白が埋まった。
怒りに任せて彼に殴りかかる自分の姿を鮮明に思い出し、私はこうつぶやいた。
「私は……鬼女だわ」
―終―

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