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怜「生きるんて…辛いな…」

1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 20:45:09.71 ID:IHkAwppw0

…―ああ、ウチ、また倒れとったんか。
焦点の定まらない視界と、次第に状況を理解し始める思考の中で、ただ、自室の床の冷たさだけがひんやりと気持ちよかった。
「…」
おもむろに立ち上がって一つ溜息をし、携帯で時間を確認した。夜中の街はしんとしていて寂しいから嫌いだ。




3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 20:49:19.67 ID:IHkAwppw0
『一巡先を視る』事の『重ねがけ』…そんなことができるのかを本格的に考えだして2週間程になる。
最初、部活で試してみたときは倒れてしまって病院行き。竜華にももう二度としないでって言われたけど…
「せやけど、あとちょっとで視えそうなんやけどなぁ…」


4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 20:51:08.17 ID:IHkAwppw0
もし、一巡先の更に先…二巡先を視ることが出来たなら。
ウチはもっと強くなれる…もっと強く、千里山のエースの名に恥じないくらいに…
―ウチは元々の雀力は3軍程度なんやから。この能力が無かったらレギュラーになんてなれてない…
せやから、少しくらい無理したってこの能力を磨かんと。
せやないと、皆と一緒に麻雀をすることも…
意識を集中させてみる。手応えはもう感じなかった。
「…また明日、やな」
卓の上の牌を指でなぞってめくる。白。何も掴めてない感じがしてちょっとムッとした。


6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 20:53:04.86 ID:IHkAwppw0
次の日は長かった。
ふと気がついた時にドッと重くのしかかってくる気だるさ。時間を確認するのが嫌だった。
…―今日は3時間も倒れとったんか…あかんなぁ…


8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 20:55:17.39 ID:IHkAwppw0
無理をし過ぎなんやろか。こうも毎日のように倒れとったら、いつか病院に連れて行かれることになるかもしれへん…
そうなったら…今度は長い検査を受けないといけないかもしれへんし、しばらく皆と麻雀したりできなくなるかも…
「いややなぁ、それは…」
頼りない足取りでベッドに寝転がる。なんだか今日は嫌なイメージが頭について離れない。


10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 20:57:26.18 ID:IHkAwppw0
重たく縛られるような頭の中、ふと竜華の顔が浮かんでくる。
―もし病院に行く事になったら、きっと竜華はお見舞いに来てくれる。
その時竜華は黙って無理をしたウチを責めるだろうか。怒るだろうか。
いや、悲しむだろう。涙を浮かべて、心の底からウチの事を心配してくれるだろう。
その涙を見ると少し嬉しいんだ。こんなにも自分の事を想ってくれる人がいるから。でも、たまらなく悲しくもなる。だから見たくない。竜華にはずっと笑って過ごして欲しい。竜華の笑顔がウチの心の支えだ。
「竜華…」


11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 21:00:32.07 ID:IHkAwppw0
ウチの大切な人。たくさんいるけれど、まず真っ先に出てくるのは竜華だ。
そして、セーラ、フナQ、泉…私の居場所でいてくれる千里山の皆。


12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 21:02:37.10 ID:IHkAwppw0
嫌なことを考えてしまう。もしウチが倒れて、そのまま起きることがなかったら…皆は、竜華は…
竜華の涙を想像するだけで、キュッと胸が痛くなる。心が苦しくて、潰れそうになる。
いつも私のそばに居てくれる竜華。膝枕だってなんだってしてくれる竜華。昔から変わることなく友達でいてくれる竜華…


13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 21:04:38.30 ID:IHkAwppw0
でもウチは無理をしなくたっていつか倒れてしまうかもしれなくて、そうしたら竜華を悲しませるのはウチだ。
ウチの存在が、結果として竜華を傷つけることになったら?
ウチは耐えられない。ウチはウチの大切な人を悲しませたくない。


14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 21:06:02.60 ID:IHkAwppw0
これまでにも何回か考えたことはある。ウチが竜華のそばにいる限り、竜華がいつか悲しんでしまうって事を。
その度にウチは目をつぶって、そんな事考えないようにしてきたけど、今日は嫌な考えが頭から離れてくれなかった。
―ウチは、竜華の側にいたらアカンのやろか。


15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 21:08:00.96 ID:IHkAwppw0
そんな事、ウチにとっては死刑を宣告されるのも同然だ。私の全ては竜華なんだから、離れたいわけがない。
でも、私がいる限りいつか竜華は…
もう、眠ってしまいたかったけれど、後ろ向きな考えだけ体にまとわりついてくるようで、結局あまり眠れなかった。


19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 21:11:07.08 ID:IHkAwppw0
「おはよっ、怜」
全天晴れ渡るような空だ。小鳥達がこぞってさえずり回るこんな日には、竜華の笑顔が一層眩しく映る。
「おはよう、竜華」
ふと、昨日の夜の嫌な考えを思い出してしまった。
大好きな竜華の笑顔、曇らせたくない。でも、もしウチが今にも倒れてしまったら…


20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 21:12:37.76 ID:IHkAwppw0
「どうかしたん?怜、いつもより元気ないみたいやけど」
ほら、いつもこうしてウチを心配してくれるんだ。いつもはたまらなく嬉しい言葉なのに、今日は素直に受け止めきれなかった。
「…何でもないよ、何でもない」
わざとらしく笑ってみる。ウチは不器用だ。
「えー?嘘―?何かいつもと感じ違うわ-。何かウチに隠し事でもしとるんとちゃう?」


21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 21:14:15.76 ID:IHkAwppw0
…隠し事、になるんかな。もしウチが倒れたとき竜華を悲しませてしまうのが嫌だなんて言えるわけないし。でも、竜華と本音で喋れないなんて何だか気持ち悪かった。
「してへんしてへん。ほら、さっさといかへんと部活に遅れるで?」
もうこんな考えは早く忘れて、皆と麻雀を打っていたかった。


23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 21:15:55.86 ID:IHkAwppw0
放課後。空気が涼しく肌を包みこむ部室の中に、リズムよく打牌の音が響く。
今日はインハイへ向けてレギュラーメンバーとの練習試合だ。卓を囲むのはウチ、竜華、泉、セーラの四人で、その配牌を取りながらフナQが何か呟いている。
「ポン」
泉が鳴いて仕掛けてくる。ウチだけには視えていた未来だ。
この一局を落とせない。泉の手次第ではトップのウチが捲くられてしまうことも十分に有り得る。


24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 21:17:50.16 ID:IHkAwppw0
(もう一回、一巡先…!!)
緑色の輝きに支配されていく世界、加速していく視界がこの卓の『一巡先』を映しだしていく。
セーラの打牌、竜華の打牌…泉がツモ、その当たり牌は……
……あれ、おかしいな。視界の乱れが収まらない。
自分の視界を、能力を制御することが出来ない。
―ウチは、今何を見ている?緑色に淡く霞んでいく世界、黒く暗転して逆さまにひっくり返り、そしてそのまま…落ちて行く。


27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 21:19:46.86 ID:IHkAwppw0
―ああ、駄目やったか。椅子から落ちて床にたたきつけられるまでの間にいろんなことが頭に浮かんでくる。
…やっぱ、最近無理しすぎたんやなぁ…今日の練習は中断になってまう…皆にはまた迷惑かけるなぁ…
竜華にも…また竜華を泣かせてまうんかな…ああ、それだけは嫌やなぁ…でも、体に力、入らへん…


28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 21:21:24.82 ID:IHkAwppw0
「…―き、怜!怜!!」
竜華…竜華。あったかいなぁ、竜華の膝は。
―竜華、また、泣いてるん?ああ。泣かせたのはウチやった。
ウチは、ウチの一番大切な人を、また泣かせてもうた。
駄目やなぁ、ウチは。こんなにも愛おしい人を、泣かせることしか出来ない。
最低やな。竜華、ウチ、竜華の膝の上にいれる資格なんて、無い…


29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 21:23:20.29 ID:IHkAwppw0
「怜…?怜、泣いてるん?どうしたん!?どっか打ったん!?今先生呼ぶからなー」
「大丈夫や。大丈夫やから…もう…」
ふるえる声でそう告げて立ち上がり、皆に背を向けて俯いて涙を拭った。
「大丈夫、先生もいらへんよ。ちょっと倒れただけやし、でも今日は帰らせていただきますわ。後は4人で打っててな、ごめんな、迷惑かけて…ほな」
また涙が溢れてこないうちに全部言い切って背を向けて、昇降口に向かって歩き出した。一瞬居心地の悪い沈黙が部屋を包む。


30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 21:25:08.27 ID:IHkAwppw0
「いや、待ってや怜!一人で帰らせられへんよ!どっか打ってるかもしれへんし…」
竜華、ありがとな?いつもいつもウチを心配してくれて。
せやけど、ウチが何か竜華にしてあげられたことなんて無いよ…
ただ、いつもいたずらに竜華を悲しませて、ああ、ウチ、何考えてるんやろう。もう、わかんないや。


32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 21:27:36.23 ID:IHkAwppw0
「いや、でも…ちょっと!待ってや!怜!」
「けえへんといて!」
慌てて追いかけてくる竜華を一喝する。
…ウチ、こんな大声で誰かに物言ったことあったっけ?ほら、皆驚いて固待っとるし…
駄目やこれ、もう、ここにいれないや。
夢中で走りだした。後ろで竜華の声が響く。


33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 21:28:56.18 ID:IHkAwppw0
全力で走るのなんて何時ぶりだろう。
ほら、ウチ、病弱やし。
病弱やから、皆と居たら迷惑かけてまうし。
ウチなんて、居ないほうがええんや。
病弱で、能力がなきゃ麻雀もできなくて、いつも誰かを心配させて泣かせて…


34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 21:31:02.38 ID:IHkAwppw0
心臓がはきちれそうなほどにその鼓動を荒ぶらせる。
呼吸が乱れてすぐ立ち止まってしまい、止まると涙が溢れだしてきた。
またすぐに、不恰好なまま走りだす。
止まっていると、思いが溢れだして壊れてしまいそうで。


36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 21:33:04.92 ID:IHkAwppw0
そのまま通学路を走っては歩いて走っては歩いて、
無我夢中のまま家までたどり着いて自分の部屋まで駆け上がって鍵を閉めて、
そして何も考えないように親の声も無視してベッドの上で涙を流して、そしていつの間にか眠り込んでしまった。



38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 21:34:25.77 ID:IHkAwppw0
「怜…?」
怜がいなくなった部室の中、竜華が震える声で呟いた。自分の見た怜の姿が、聞いた怜の声が、受け入れられない、信じられない。
「アイツ…どうしたんやろ」
「…明らかに、いつもの先輩と違いましたね…」
セーラも泉も何が起こったのか戸惑っているようで、状況を理解できていない。
「…今日の練習は終いにしましょ。この状況じゃ集中して打てへんでしょ」
真っ先に片付けを始める浩子の手つきもどこか上の空だった。


39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 21:36:05.65 ID:IHkAwppw0
―怜は一緒にインハイを戦うチームメイトで、それ以上に大切な友人、先輩で。
たまに倒れるときもあるから、その時は皆で助けあおうって約束したし、
でも、いつの間にかどこかで負担をかけてしまっていた?わからない。
信頼関係を結べていると思っていたのに、怜の真意がわからなかった。


42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 21:41:01.92 ID:IHkAwppw0
「オレ、あいつ追ってくる!」
駆け出そうとするセーラの袖を竜華が掴んだ。うつむいた目線から涙が伝っている。
「『けえへんといって』って…怜が…」
「けど…!」
セーラの袖を掴む力が一層強くなる。
「セーラ…ウチ…怜に嫌われたんかな…?」
重たい沈黙の中、そんな事無いとセーラが呟いたけれど、それは慰めにはならなかった。


46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 21:45:15.64 ID:IHkAwppw0
最悪の寝覚めだ。ぐしゃぐしゃの髪によれよれの制服。
どんなに重い発作の後でだって、こんな気持ちで目が覚めることは無かった。ウチは…
携帯をチェックする。時間は深夜…メールが入っている。
誰からかは大体わかってしまったけれど、内容を見たくなかった。
もう皆と向き合いたくなかった。

部屋のドアの隙間から小さい紙が差し込まれている。
『大丈夫?何があったの?ご飯はー』お母さんだ。ああ、また誰かを心配させちゃったな。

乾いた笑いが出た。そしてそのままベッドに倒れこんで、ひとしきり泣いた。


50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 21:50:01.46 ID:IHkAwppw0
いつの間にかまた眠ってしまっていたみたいだ。
誰かが部屋をノックする音で目が覚めたー
「…ごめん、お母さん。心配したやろ。大丈夫やから、今開けるわ。」

お風呂に入って、ご飯を食べて。
学校には行きたくないと言ったらまた心配そうな顔をされたけど、許してもらえた。
あんまりウチに無理をさせないようにして育ててきたお母さんだ。

部屋に戻ると、またベッドに横になって眠ろうとしたけど、さすがにもう寝付けなかった。
寝付けないとまた今の状況がウチを駆り立ててくるようで、気が重かった。

これから、どうしよう…


53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 21:56:25.87 ID:IHkAwppw0
「…おはよ、セーラ」
朝のレギュラーメンバー用の部室には、既にセーラと浩子と泉がいた。
「ん…おはよう竜華…その…」

全部言わなくてもわかるよ、怜は一緒じゃないのかって聞きたいのは…ウチは俯いて首を横に振った。
「そっか…竜華もそうやと思うけど、オレらもメールしたんやけどな…」

怜…まさか自殺とかそんなことはしてないと思うけど…
こんなに怜と離れたのはいつぶりだろう。
いつだって一緒にいてくれたのに、どうして?私、何かしちゃったんかな…?


54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 22:01:05.80 ID:IHkAwppw0
ずっと怜の事が頭から離れなくて、授業にも全く集中できなかった。

怜、ウチの昔っからの友達。
ちっちゃくて、病弱で、でも笑顔が本当に似合う子で。

何で神様はあんないい子に病気を与えたんやろって何度だって思った。
怜じゃなくて、ウチが病気になってたら良かったのに。

そしたら怜は元気に麻雀が打てるし、もう倒れる心配だってしなくていい。
誰かに面倒を見てもらうこともなくなるし。

あ、せやけど、怜を膝枕してあげられなくなることだけは嫌やな…
あの温もりを、私だけが感じていられる。怜と同じ時間を過ごすことができる幸せ。

でも、やっぱり病気はなくなったほうがええよな。
私も少しおせっかいが過ぎるのかな、だから嫌わちゃったんかな…


ハッと、何かに気づいたような気がした。怜の存在、ウチの存在。いなくなったほうがいいなんて、そんな事…
いかにも怜の考えそうなことだ。何で気付いてあげられなかったんやろうか。
授業中なのに涙が溢れてきそうで、必死にこらえた。


55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 22:05:06.62 ID:IHkAwppw0
パジャマ姿で、依然として心が重かった。

部屋の天井を見つめて何時間になる?知らん、そんな事はちゃうねん。
反動をつけて起き上がった。ふと目に飛び込んでくる無愛想な雀卓。

寂しいなぁ。ふと心によぎった。
皆、ウチのことを心配してくれてるんやろうか。
胸が痛い。あんな酷い態度で皆の前から去ったのに…


56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 22:08:58.65 ID:IHkAwppw0
じっと雀卓を見つめていると、楽しい記憶が頭の中に広がってきた。

ルールを覚えようと頑張った頃、初めて竜華やセーラと打った時のドキドキ。
麻雀が好きで麻雀部に入ろうと決意したあの日も、
少し上に行っちゃった竜華とセーラを見て寂しがってたあの日々も。

―初めて一巡先が見えたときはえらく驚いたなあ。
インハイのレギュラーメンバーに決まった時も…驚いてばっかやな。

フナQと泉ともすっかり打ち解けることが出来たなぁ。

楽しいな、麻雀は、皆でやる麻雀は楽しいな…


57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 22:13:11.70 ID:IHkAwppw0
でもな、アカンねん…
ウチが皆と仲良くなればなるだけ、いつか皆を悲しませることになってまう。
ウチにはそれが耐えられへん。耐えられへんよ、そんな事…でも…

こぼれた大粒の涙が牌に当たってはじけた。
声を上げて泣く。もう、止まらない。

でもな、皆を傷つけることになってもな、ウチ、いたいみたいなんや。
皆の側にいて、麻雀を打っていたいらしいんや。わがままやろ…最低やろ?
でもな、やっぱり、皆と距離を置くなんて無理や…ウチは、大切な人と一緒にいたいのに、
それが結局は大切な人を傷つける事になってまうなんて…

なぁ、竜華…生きるんて…辛いな…


58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 22:17:41.87 ID:IHkAwppw0
「―怜!怜!!」
不意に窓の外から聞こえてくる声で現実に引き戻された。

誰かが…誰かがウチの名前を呼んどる。
いや、誰かやない。こんなにも聞き慣れた声、聞き間違えるはず無い。

「竜華…?」
『何で?』よりも先に『来てくれた』安心感が全身を駆け抜けていく

。ああ、一番大切な人が心配してきてくれた。
酷いことを言ったのに、メールだって無視したのに。
来てくれたんだ、嬉しくて、本当に嬉しくて、また涙が溢れてきた。


60 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 22:22:10.43 ID:IHkAwppw0
「怜!いるんやろ!怜!…入るで!」
「え、え?、え!?」
―お母さん、おじゃまします!と、竜華がドアを開けて家に入って来る。
―あら、竜華ちゃん?怜のことかい?怜なら部屋にいるから、見てやってー
嬉しいよ、竜華。ウチ、たまらなく嬉しい。でも、でもちょっとだけ待って、まだ、心の準備がー

「怜!怜!大丈夫やった?怜!」
勢い良くドアを開けて来た竜華と目が合う。ああ、見られてもうた。
涙で真っ赤な目に、ボッサボサの髪。
そしてピンク色の子供っぽいパジャマ…きっと笑われるだろうから、竜華にも見せたことなかったのに。

「ひゃっ!ご、ごめん…ちがくて!怜!」
「竜華…」
お互い顔を赤らめて見つめ合う。あれ、竜華、泣いてる…何で…?


61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 22:26:39.78 ID:IHkAwppw0
呆気にとられていると、不意に抱きしめられた。
強く。
今までだって竜華に抱きしめられたことはあったけど、こんなに強くされたのは初めてだ。

「怜!怜?お願いやから、もうどこにも行かないで…ウチな、怜が何考えてるのか、必死に考えたよ?
多分な、怜が考えてること、わかった気がする、
せやけどな、ウチな、もう怜がいないの、耐えられへん…!」

止めどなく涙が流れ落ちていく。
ウチ、昨日と今日でどんだけ泣いてんやろ…


63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 22:31:03.24 ID:IHkAwppw0
ああ、竜華の髪の匂いだ。
竜華の体の柔らかさだ。
竜華だ…。

落ち着くなぁ、ホンマに…でも…
「竜華…痛いよ…」
「あっ!ゴメンな!大丈夫?怜!」

ちょっと天然さんで、まっすぐにウチのことを心配してくれて…
ウチの一番大切な人が、ここにいる。

「竜華、少し落ち着いたらどうや…」
やっと笑えた。笑ったら、また涙が出てきた。


65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 22:35:44.93 ID:IHkAwppw0
それからお互いに涙を拭いて、ウチは恥ずかしいから制服に着替えて…
そして向かい合って、もう言いたいこと全部言ってしまおう。

「あのな、竜華…」
竜華は黙って聞いてくれとるのに、何だか視線を合わせられなくて、俯いてしまった。


「ほら、ウチ、病弱やろ?
そんでな、やっぱりいつか倒れてしまうかも知れへんねん。そしたら、竜華絶対悲しむやろ?
それを考えたらな、ウチ、耐えられなくなって…悲しくなって、
ウチが側に居たらいつか竜華を悲しませてまう、
だったらウチは最初っから居ないほうがええって思って…!それでな…?」

何度目の涙だ?自分が不甲斐なくなってくる。
心配して来てくれた竜華に涙を見せてどうする。
こらえろ、涙を拭って顔をあげろ。

でも、顔を上げると、視線の先にいる竜華も一緒に泣いていた。


67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 22:40:12.02 ID:IHkAwppw0
「あほ!怜のあほ!ウチはな、そんなこと、全然、これっぽちだって思っとらんよ!
思っとらん…怜がいつか倒れてしまうなら!ウチは一秒だって長く怜といっしょにいたい!
一秒でも長く同じ時間を過ごしていたい!
いつまでだって怜の支えでいたいし、いつだって一緒に笑い合っていたい!」

近所に響き渡るくらいの大きさで、恥ずかしい事を堂々と言ってくれる。

嬉しい。
やっと、やっと救われた気がした。
ああ、ウチは言って欲しかったんだな。
自分の存在が不安だから、竜華に言って欲しかったんだ。


68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 22:45:05.81 ID:IHkAwppw0
「なぁ、竜華…」
涙で声にならない声で問いかける

「ウチ、皆と、竜華と一緒におってもええのかな…?」
「何言うてんの怜…そんなの、そんなの当たり前やんか!」

また抱きしめられた。
もう、体の力も抜いてしまって、全部竜華に預けよう。

「怜はここにおってええ。いつだって抱きしめたるし膝枕もしたる。だから怜…?もうどこにも行かないで…」


72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 22:50:11.10 ID:IHkAwppw0
どこにも行かないよ。

竜華のふとももの上に寝っ転がる。
どこにもいかないよ。ここはウチだけの特等席やしな。
やっぱ気持ちええわ。竜華。
ウチの一番大切な人。
いつもウチを支えてくれる最高のパートナー。もう、離れたりしない…


「なぁ、竜華」
竜華のふとももの上、表情を見られないようにしながら…

「ありがとな…いつもホンマにありがとな…大好きやで、竜華」


74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 22:54:55.84 ID:IHkAwppw0
「ウチも大好きだ」とか照れくさいことを散々言われたのは恥ずかしかったけど、
でも、心の底から嬉しかった。

ウチはここにいてええんや、
竜華と一緒にいてええんや。

ウチがいつか倒れてしまうなら、それまでに数えきれない程の思い出を作ろう。
数えきれないほど竜華を笑わせてやろう。
いつまでも皆で麻雀をやろう。

そんな事を話しているうちに、いつの間にか眠ってしまった。


75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 22:59:00.85 ID:IHkAwppw0
「この度は、ホンマに迷惑かけてしもうて…マジすいませんです」

次の日、皆の前で頭を下げる。
この2日間の練習を台無しにしてもうたし、心配もかけた。

「気にすんなって!怜!もう大丈夫なんか?」
「また体調が悪なったりしたら、すぐに言うて下さい」
「私達が出来る限りサポートするっすから!」

知ってたよ。
皆が優しい言葉を返してくれること。

何ムキになってたんやろなぁ、ウチ。


76 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 23:02:06.77 ID:IHkAwppw0

「さっ、怜!打と!座って座って!」
竜華に席につかされる。
「えぇー?いきなり?ちょっと休ませてーな」

「何言うてんの!インハイまであんまり時間ないんやで!」
「そやそや怜!オレも相手したるからな!」
「ほな、ウチも入らせてもらいましょか」
「あー!先輩たちだけずるい!次は私入りますからね!」


78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 23:06:18.91 ID:IHkAwppw0

―ああ、無理して未来を視ることなんてしないでええんや。

最高の仲間たちと一緒に、今この瞬間を生きていけることが幸せなんや…

これからウチ達が作っていく未来、真っ白で、希望に満ちた未来。

なぁ、竜華。生きるんて確かに辛いこともあるけど、

でも、生きるんて、楽しいな…


怜「生きるんて…辛いな…」 おわり


79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 23:07:39.90 ID:MgsqMoEa0
超乙!!!


80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 23:09:24.45 ID:5kFmyJXH0
おつ


81 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/07(土) 23:09:25.70 ID:jYcmQqLC0
乙乙





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