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結衣「いい風だな」あかり「……」
- 1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/06(月) 17:11:04.39 ID:kU9QYZgo0
-
結衣「あかり…?」
あかり「…………」
結衣「……ふふ」
結衣「寝ちゃった…か…」
眼下の街いっぱいに溶けた夕日のオレンジ
七森の街を望む小高い岡
寂しく据え付けられた古木のベンチ
こんな時期でも涼しい風が吹くところがあったんだ―
結衣「いい寄り道したかな……」
- 4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/06(月) 17:19:11.11 ID:kU9QYZgo0
- 何にひきよせられるでもなくふとベンチを立って、柵に歩みを進める
一足一足砂利が乾いた音で散った
風が撫でた髪をかきあげて眺める七森の街
学校の広いグラウンドが目についた
ということはこっちにわたしの家が……
あった
京子の家があった…
あれがちなつちゃんの家…
それから…
- 5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/06(月) 17:23:02.00 ID:kU9QYZgo0
-
それから…
あかりの家…
あかりの家…
……
あれ、だな
わたしがすぐ見つけられなかったことを知ったら、またあかりは怒りそう
お団子をぴょこぴょこさせて地団駄を踏む姿が目に浮かんで、ふと頬が緩んだ
まったく……
ずるいよなぁ
- 7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/06(月) 17:28:06.25 ID:kU9QYZgo0
-
ベンチを振り返ると、きれいにひざに手を添えて眠るあかりが、何かの拍子にはたと倒れてしまいそうなあかりがいる
その様は、何かあまりにも頼りなく、夕日の彩りに溶けてふといなくなってしまいそうな気がして、側に戻った
結衣「……」
あかり「……」
結衣「あれ……」スッ
あかり「……す………ぅ…」
結衣「ん……」スッ
あかり「……すぅ……すぅ……」
耳をそばだてて聞いたあかりの寝息に、胸の下が満たされる - 8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/06(月) 17:28:38.13 ID:kU9QYZgo0
- かよわい小さな身体
そよいだ前髪
夕刻に散ったオレンジの光のかけらに、やわらかく染まる頬
そのすべてがはかなげだけれど
あかりは、確かにわたしの隣にいるんだ
結衣「あかり……」
あかり「……すぅ……」
あかり「……ぷぅ……」
結衣「……」クスッ
近くの立木がさわさわと揺れた - 11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/06(月) 17:33:42.12 ID:kU9QYZgo0
-
もうひと月ちょっとかな?
あの日、幕を垂れるように降りつづく梅雨の雨
いつもどおりの四人の部室
京子は、ちなつちゃんは、いつものようにわたしに抱きついて
いつものようにはしゃいで、笑って
でもその日は、いつもどおりじゃない一瞬に、気付いちゃったんだ
困ったふうに笑い二人を諌めるあかりの顔の、つかの間の陰り
何かを自分に言い聞かせるように、中途半端に伸ばした手を引いたあかり
目の裏にありありと浮かぶその画は
今思い出してもちょっと息がつまる - 14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/06(月) 17:41:37.46 ID:kU9QYZgo0
-
あの日はちなつちゃんが用事で先に帰ったんだ
京子は……そう
京子は、ちなつちゃんと相合い傘したいがために、無理矢理くっついていっしょに帰っちゃったんだっけ
二人だけの部室は、突然声を失って
畳をじっと見つめる後ろで
屋根を打つ雨音だけが耳朶を打って
それで
それで……
あかり「あのね、結衣ちゃん…」
うつむいたあかりの肩が、いつもの何倍も小さく見えた - 18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/06(月) 17:52:51.06 ID:kU9QYZgo0
-
結衣「あ、あかり……?」
あかり「……ッ」
あかりの頬にぽろぽろと光がつたった
ぽたっ、と畳が音を立てた気がした
あかり「あかり……ね」
あかり「もう……」
あかり「わからないの…自分が、どうすればいいのか」
結衣「え……」
あかり「京子ちゃんはっ、結衣ちゃんに、素直に甘えられて…っ」ケホッ
途切れ途切れ、あかりは嗚咽に競り合うように言葉を絞った
あかり「ちなつちゃんはっ、結衣ちゃんにいつも積極的で…っ」ヒック
あかり「あかり、だけがっ……」ケホッ
あかり「結衣ちゃんに遠くてっ…!」 - 21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/06(月) 18:02:35.78 ID:kU9QYZgo0
-
結衣「そ、そんなこと…っ」
あかり「だからって!」
あかり「今さら勇気を出すことも、できないよ…!」ケホッ
あかり「ちなつちゃんもっ、京子ちゃんも、大切な友達だから…っ」
あかり「抜け駆けなんて、裏切りなんて…出来ないからっ」ヒック
結衣「あかー
あかり「それでも!」
あかり「それでもあかりは、結衣ちゃんのことが好きなんだよぉ…っ!」ポロポロ
- 23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/06(月) 18:08:09.93 ID:kU9QYZgo0
-
結衣「わたし、は……」
心臓が跳ね上がった
声が、出ない
あかり「……」グスッ
あかり「ごめんね…」
言い終わるより早く立ち上がったあかりは
ぶつけるように鞄を肩にかけて部屋を出ていく
畳がにぶく震えた
去っていくあかりの背中がコマ送りで眼に映った - 26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/06(月) 18:17:29.24 ID:kU9QYZgo0
-
かんっ、と打ち付けられた戸の音が
くぐもった頭の中を一掃する
結衣「……ッ」
部室の戸も玄関の戸も開け放って
傘だけを無造作に引っ掴んで
親指の付け根を地面に叩きつけて走った
雨が強い
- 29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/06(月) 18:24:48.31 ID:kU9QYZgo0
-
考えもしなかった
あかりが……
腕は夢中で中空を斬った
濡れた袖が重かった
傘をさす意味のないことを知って投げ捨てた
結衣「でも……」
躊躇無く水たまりを突っ切った
花の頭まで泥水が跳ねた
まぶたに垂れるしずくで視界がぼやける
- 31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/06(月) 18:33:13.15 ID:kU9QYZgo0
- 足早に揺れる赤い傘
結衣「あかっ…!あかりっ!」ケホッ
一瞬止まった傘は、また駆けてゆく
結衣「はぁ…っ…あかりっ!!」
すぐそこまで迫った傘は、躊躇いがちに振り返って、あかりがこちらを見やる
小さな目が見開いた
あかり「結衣ちゃん……!」
あかり「ずぶ濡ー
結衣「いいんだ!」
あかり「え……」ビクッ
結衣「いいんだ…こんなの…」
濡れた袖で顔を拭ってあかりを見据える
ぼやけた視界でも分かるーまだ途切れていない、涙の筋が
降り疲れた重い腕に、ある限りの力を込めて、あかりを抱き寄せた - 34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/06(月) 18:41:22.62 ID:kU9QYZgo0
- 傘が翻ってゆっくりと落ちた
路傍の紫陽花がゆれた
あかり「結衣…ちゃん…」
走りながら気付いたんだ
こんなのあまりにも「理不尽」だって
誰かのために、心から泣いたり笑ったりできるあかりが
どうしてひとりで悲しみを胸に秘めなきゃならないんだ
どうしてあかりが、わたしのせいで悲しまなきゃいけないんだよ
わたしにとってのあかりは、誰よりも優しく、近く寄り添ってくれるのに
あかりにとってのわたしが、誰よりも遠いだなんて、あっちゃいけない
わたしの大切なあかりが、わたしのせいで傷つくなんて
わたしは船見結衣を絶対にゆるさない
だからー - 36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/06(月) 18:50:14.37 ID:kU9QYZgo0
- 結衣「わたしはずっとあかりの側にいる!」
結衣「あかりがわたしから遠いのなら!」
結衣「わたしがあかりの側に行く!」
喉の奥が熱かった
温かいものが頬を流れた
泣いていた
あかり「結衣ちゃん……あり…がとう…」
あかりのふり絞ったかすれた声が、胸がつぶれるほどに切なかった
あかりの鼓動を胸に感じた
あかりー
- 40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/06(月) 18:59:32.38 ID:kU9QYZgo0
-
夕日は遠くの峰に身をひそめ
空と雲に散った残り香で、七森の街は紅く染まった
結衣「……」
あかり「…すぅ…」
結衣「……あっかりーん」ポソ
あかり「……」
あかり「…は…ぁい……」
結衣「ふふ…」
そっとあかりの左肩を抱き寄せた
もう片方の手で、かわいらしく重ねられたあかりの手を包んで
訳もなく涙腺が熱を帯びた
しあわせ、だ
- 43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/06(月) 19:06:37.95 ID:kU9QYZgo0
-
あかり「ん……」
あかり「ん……?」
結衣「おはよ」
あかり「あ、寝ちゃってたんだ……」
寝ぼけまなこがうつらうつら宙を泳いでいる
あかり「ほぁ、ごめんね結衣ちゃん…せっかく一緒に…」
結衣「いいよ、良い時間がすごせたから」ニコッ
あかり「…?」
あかり「ふふ、じゃああかりも嬉しい」ニコ
あかり「……!?」
あかり「はわわわっ///」
結衣「?」
- 47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/06(月) 19:17:02.91 ID:kU9QYZgo0
-
あかり「結衣ちゃん…こっ、これ…」
あかり「手とか…肩とか…///」
結衣「ああ、あかりを見てたらさ、抱きつきたくなっちゃった」
あかり「う、嬉しいけど……こんなの…」
あかり「今までしたこと、ないし…」
あかり「はっ、恥ず…」
あかり「か…しい…し」
- 49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/06(月) 19:19:43.26 ID:kU9QYZgo0
-
潤んだ瞳が、行き先を決めあぐねて地面だけを見つめている
横顔に咲いた紅葉色のほほが、悪戯ごころをそそった
結衣「いーのっ」
あかりの頬に指を沈めて、ぷにぷにとあかりを感じた
あかり「ゆ、ゆいひゃん!?」
結衣「だってあかりは」
結衣「誰よりもわたしの側に、いてほしいんだ」
あかり「……うんっ!」
空はうっすらと紺を帯びるころ
\オッワリーン/
- 51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/06(月) 19:22:29.15 ID:wqcUv9Y+O
- 乙
結あかの優しい雰囲気たまらん - 53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/06(月) 19:23:22.32 ID:nvgllZTs0
- おつ!
短かったがいい結あかでした - 54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/06(月) 19:25:24.06 ID:kU9QYZgo0
-
保守してくれた方読んでくれた方、ありがとうございました。
初投稿で改行制限のあることも知らなかった情弱です。半年ROMってきます。
それでは\アッカリーン/ - 55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/06(月) 19:26:34.82 ID:oXUgUYG/0
- おっつりーん

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