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摩耶花「折木と二人で肝試しなんて冗談じゃないわよ。」

1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 07:49:06.80 ID:JPkNrTbH0
える「肝試しなんて初めてです。楽しみですね摩耶花さんっ!」

摩耶花「ちーちゃんは怖いものなさそうよね。

  昨日の首吊りの影も怖がってなかったし。」

える「そんなことありません。わたしにだって怖いものはあります。

  映画のスクリームやアナコンダは幼い時に見てとても怖かったんですよ。」

摩耶花「また、懐かしい洋物ホラーね。」アハハ




3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 07:51:22.97 ID:JPkNrTbH0
奉太郎「クマとかイノシシは出ないんだろうな。」

里志「もちろん、この辺りでは出ないから大丈夫だよ。タヌキはいるらしいけど。」

奉太郎「道はちゃんと整備されてるのか。」

里志「舗装はされてないけど、ちゃんと整備されてるから安心して。

  険しい道はない普通の散歩コースだから。」

奉太郎(さすが、データベースを自称しているだけあって下調べは完璧…か。

  なんとかして中止に持ち込みたいが…。)チラ

えるはハイキングコース案内板と銘打った地図の描かれた看板を興味深そうに眺め、

目を輝かせている。肝試しを楽しみにしているのは傍目からでもわかる。

奉太郎(千反田があの様子じゃあ、難しそうだ。)


5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 07:56:55.86 ID:JPkNrTbH0
里志「奉太郎が諦めたところでコースの説明をするよ。

  この林道をまっすぐ500メートルほど行った先に神社がある。

  その神社のわきの階段を上って、そこにある小さな祠にお参りをしてから折り返す。

  どうだい単純だろ。」

奉太郎(まあ、大した距離はないか。さっさと行って帰ってこよう。)


6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 07:58:42.48 ID:JPkNrTbH0
里志「よし、それじゃあペアを組もう。男女2組に分かれるよ。」

奉太郎「ってことは、里志と伊原。おれと千反田ってことか。」

里志「ホータローが自分から言い出すなんて珍しいね。そんなに千反田さんと行きた――」

奉太郎「違う。伊原は里志と行くだろ。そうなれば、自然とそうなるだろうが。」

里志「そんなムキにならなくてもいいじゃないか。」ニヤニヤ

える「でも、わたしも折木さんと同じように考えていました。」ニコ

奉太郎(うっ////)

摩耶花「・・・・。」


7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 08:03:42.57 ID:JPkNrTbH0
摩耶花「ふんっ。折木なんて一人で行かせればいいのよ。

  ちーちゃん、私たちと一緒に3人で行こ!」

里志「まあまあ、ホータローの言う通りでもいいんだけど、

  今日はあえて趣向を変えてみようと思うんだ。」

奉太郎(嫌な予感しかせん。)

里志「今回は僕と千反田さん。摩耶花とホータロー。これで行くよ。」


13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 08:06:35.47 ID:JPkNrTbH0
える・奉太郎・摩耶花「・・・・・・。」

える「確かにあるようでなかった組み合わせですね。」コクコク

摩耶花「折木とふたりで肝試しなんて冗談じゃないわよ。」

奉太郎「そー言ってるぞ。」

里志「摩耶花、わがまま言ってせっかくのイベントに水を差したらだめだよ。」

摩耶花「で、でもふくちゃん!」


14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 08:10:17.94 ID:JPkNrTbH0
里志「摩耶花はホータローのことが嫌いなのかい?」

奉太郎「ブッ」

奉太郎(さ、里志のやつ。また、急に意味のわからん質問をしおって。

  それじゃあ伊原に反対する材料をやるようなもんだぞ。いや、それが目的か?)

摩耶花「べ、別に嫌いなわけじゃないけど…。」

奉太郎「は!?」

里志「なら、もう文句はなし。さっき言った通り、

  僕と千反田さん。摩耶花とホータロー。それでいいね?」


16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 08:15:43.10 ID:JPkNrTbH0
摩耶花「……。」

奉太郎「待て、伊原。本当にそれでいいのか?」

摩耶花「うるさいわね!仕方ないでしょ!」

奉太郎(仕方ないって…。いつもならもっと反論してるだろうが。)

える「決まり…でいいんでしょうか?」

里志「もちろん。たまにはこういうのもいいよ。千反田さんよろしくね。」


17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 08:20:06.78 ID:JPkNrTbH0
える「ここから見ると、林の中は真っ暗に見えますね。」

里志「月が雲で隠れてるからね。まさに絶好の肝試し日和ってやつさ。」

摩耶花「むりむり!やっぱりこんなのぜったいむり!

  やっぱやめよ。ほ、ほら、折木だってさ、めんどくさいでしょ?」

奉太郎「まぁ、おれもやらないで済むならそうしたいが。」

摩耶花「折木もそう言ってるし、ちーちゃんと、ふくちゃんで行ってきたら?ね?ね?

  私たちはここで待ってるから。ふくちゃん、それでもいいんじゃないの?」


18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 08:22:23.50 ID:JPkNrTbH0
里志「ここまできて往生際が悪いよ摩耶花。」

える「摩耶花さん。折木さんがついていますから、大丈夫です。」

摩耶花「折木じゃ頼りにならないわよぉ。」

里志「それじゃあ、ホータロー摩耶花チームスタート!」

摩耶花「ちょっ、まだ心の準備が…。」

奉太郎「というわけだ、さっさと行って終わらすぞ。」

摩耶花「まっ、待ちなさいよ!バカ折木!」


21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 08:28:28.60 ID:JPkNrTbH0
―肝試し道中―

奉太郎「伊原。」

摩耶花「……な、なによ。」

奉太郎「おれの服を持つのをやめてほしいんだが。」

摩耶花「持ちたくて持ってるんじゃないわよ。怖いから仕方なしよ。」

奉太郎(昨日に引き続き、こんなうろたえる伊原が見れるとは…。)

摩耶花「言っとくけど、変な誤解しないでよね。」


23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 08:31:49.38 ID:JPkNrTbH0
奉太郎「心配するな。仮に伊原に抱きつかれたとしても、何とも思わん。」

摩耶花「なに気持ち悪い想像してるのよ。」ジト

奉太郎「別に想像はしてない。」

摩耶花「仮にも何もそんなことありえないから。」

奉太郎「へーへー。さいで。」


25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 08:36:19.33 ID:JPkNrTbH0
摩耶花「折木は…さ、怖くないの?」

奉太郎「気味が悪いとは思うが、そこまで怖がるほどじゃあない。伊原は怖がりすぎだ。」

摩耶花「そんなことないわよ。折木の感受性が乏しいだけじゃないの?」

奉太郎(一言多いやつだ。)

奉太郎「もしそうだとしても、ここでおれが怯えてたら伊原も嫌だろうが。」

摩耶花「まあ、それもそうね。」


27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 08:43:43.37 ID:JPkNrTbH0
摩耶花(こういうときって、折木なんかでも頼もしく見えるから不思議よね。

  なんだかんだで、歩幅も合わせてくれてるし……。)

奉太郎(伊原と一緒だと全然進まんな。

  まあ千反田と一緒だといろいろと興味を持たれてもっと進まないか。

  今回は伊原で良かったかもしれん。)


28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 08:50:28.23 ID:JPkNrTbH0
―肝試し折返し地点―

奉太郎(里志のやつ。これだけ暗いのにこの階段はないだろう。)

折り返し地点の祠に、人生の安寧を祈願したばかりの奉太郎は、

それをさっそく妨げんと言わんばかりの急階段に狼狽していた。

奉太郎(手すりはあるが、急すぎるな。上ってきた時はそれほどとは思わなかったが。

  あとで里志に抗議しておくか…。いや適当にごまかされそうだな。)


30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 08:55:50.16 ID:JPkNrTbH0
摩耶花「何か話しなさいよ。」

奉太郎が黙って階段を降りていると、前を歩く摩耶花が振り返ることもなく言った。

先ほどまで奉太郎の後ろをぴったりとついていたのだが、

不気味すぎた祠を直に背にしたくないらしく、前を歩かせてほしいと言いだしたのだ。

摩耶花「黙らないでよ…。」

奉太郎(このまま黙っていたらどうなるんだろうな。)


32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 08:59:36.34 ID:JPkNrTbH0
奉太郎(まあ、さすがにそれじゃあ伊原がかわいそうだ。

  と言っても、伊原とは最近まともな会話をしてないからな。

  何を話せばいいかわからん。えー、伊原の趣味は…。漫画か。)

奉太郎「そうだな。最近面白い漫画はなんかあるのか?」

摩耶花「あんた、それ本当に知りたいの?」

奉太郎(正直ことさら興味があるわけではないが…。そう言うと怒るだろうからな。)

奉太郎「ああ。知りたいね。」

摩耶花「わかった。ちょっと考えさせて。」

奉太郎(……真剣に考えてるな。相変わらず真面目なやつだ。

  申し訳ない気もするが、少しは緊張も解けたみたいだし、いいだろう。)


33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 09:07:52.29 ID:JPkNrTbH0
前を歩く摩耶花に見えないように奉太郎は欠伸をした。

奉太郎(帰ったらすぐ寝よう。)

そう奉太郎が考えた時、階段沿いの草むらから小さな影が飛び出してきた。

その影は一瞬で摩耶花と奉太郎の間を器用に駆け抜けていく。



35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 09:09:20.52 ID:JPkNrTbH0
摩耶花「きゃっ」

奉太郎は手すりを持って体を支えたが、考え込んでいた摩耶花はバランスを崩して足を滑らしてしまった。

そのまま滑るように残りの数段を転げ落ちた。

奉太郎「伊原!大丈夫か!?」

摩耶花「っ……。」

奉太郎「そうだ、救急車っ。伊原、携帯!」

摩耶花「…だい…じょうぶ。そこまではいい…から。」

奉太郎「じゃあ、里志を呼ぶからとりあえず貸してくれ。」


36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 09:12:55.53 ID:JPkNrTbH0
奉太郎(と、貸してもらったが……壊れてるな…。落ちた時にぶつけたのか。)

奉太郎「伊原。悪いが携帯がさっきの衝撃か何かで電源が入らん。

  すぐに里志たちを呼んでくるから。」

摩耶花「・・・・・・。」

奉太郎「伊原、なぜ服をつかむ。」

摩耶花「・・・・・・。」

奉太郎「離してくれ。」

摩耶花「・・・・・・。」


37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 09:14:41.41 ID:JPkNrTbH0
奉太郎(結局、伊原が落ち着くまで掴まれたままだった…。)

摩耶花「最悪よ。携帯、この前買ったばっかりなのに。」

奉太郎「ま、まあ、事情を話せば親も新しいものを買ってくれるんじゃあないか。

  データだっていまは移せるんだろ?」

摩耶花「服もやぶけちゃったし。これお気に入りだったのよ。」

奉太郎「まあ、伊原に似合う服ならいくらでもある。気にするな。」


38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 09:16:26.04 ID:JPkNrTbH0
摩耶花「足すりむいたし。」

奉太郎「それぐらいじゃあ痕は残らないだろ。手当をすればすぐ治る。」

摩耶花「……。」

奉太郎(そう泣きそうな顔をしないでくれ。こういうとき里志ならきっと伊原を慰める

  気のきいた言葉のひとつやふたつ出てくるんだろうが…。すまんな伊原。)

摩耶花「ごめん折木。泣き言言っても仕方ないよね。

  もう少し座ってたら、立てるぐらいになりそうだから。ちょっと待って。」


39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 09:18:08.10 ID:JPkNrTbH0
摩耶花「いたっ……。」

奉太郎「やっぱり、無理するな。じっとしてれば耐えられるかも知れんが、

  負担がかかればそうもいかないだろ。里志たちを呼んでくるから待ってろ。」

摩耶花「そっ、それはだめっ!」

奉太郎「は?」


40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 09:20:18.70 ID:JPkNrTbH0
摩耶花「あ、歩けるから…。」

奉太郎「骨折してるかもしれないだろ。おとなしくしてろ。」

摩耶花「もうちょっとしたら歩けるようになるわよ。」

奉太郎「さっきから言ってるが、なってないだろ。それ以上悪くなったら―――――」

摩耶花「一人は怖いから嫌なの!わかりなさいよバカ折木!」

奉太郎(いや、まあそんなところだとは思ったが、それどころじゃあないだろう。)


42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 09:22:42.79 ID:JPkNrTbH0
奉太郎(と、言い返したいところだが、今回は我慢だ。)

奉太郎「じゃあ、おぶってやるから。」

摩耶花「へっ?」

奉太郎「おんぶだよ。ここでじっとしていたくないからな。

  おかげですでに蚊に3か所刺された。」

摩耶花「なっ、何言ってんのよ!」

奉太郎「なら、素直にここで里志たちを待て。来るまで10分もかからんだろう。」

奉太郎(そしておれが楽だ。)


46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 09:28:00.11 ID:JPkNrTbH0
摩耶花「かっ肩を貸しなさいよ!」

奉太郎「おれと伊原じゃあ身長差がありすぎる。逆に足に負担がかかるだろ。」

摩耶花「それはあんたがかがめばいいでしょ。」

奉太郎「俺はお前に恭順した覚えは一切ない。それにかがんで歩くなんて俺の脚が持たん。」

摩耶花「なによ使えないわね。」

奉太郎「お前の言いたいことはわかった、里志呼んでくる。」

奉太郎が立ち上がった瞬間、摩耶花がすぐさま奉太郎の腕をつかむ。

振り返ると、若干うるんだじと目で摩耶花が見つめていた。


51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 09:32:06.68 ID:JPkNrTbH0
摩耶花「わかったわよ。おんぶされればいいんでしょ。」

奉太郎(どこまでも口が減らんやつだ。)

奉太郎「ほら。座るから手を首にまわせ。まあ言わんでもわかるか。」

摩耶花「こ…こう?」

奉太郎「よし、背中に体重掛けていいぞ。じゃあ立ち上がるからな。」


54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 09:36:21.92 ID:JPkNrTbH0
摩耶花(いま考えたら、この体勢折木に後ろから抱きついてるみたいじゃない。

  さっき、絶対に抱きつかないって言った手前…悔しい上に恥ずかしい。)

奉太郎(あいかわらず華奢で助かった。これなら、最後までおぶっていけそうだな。)

奉太郎「歩くぞ。」

摩耶花「……うん。」


56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 09:42:03.16 ID:JPkNrTbH0
往路と同じように特にこれといった会話はない。

蝉と鈴虫の鳴き声の中に、奉太郎の足音が混ざっている。

摩耶花・奉太郎「」シーン

摩耶花「折木?」

奉太郎「ん?」

摩耶花「…………ごめん。」

奉太郎「……気にするな。あれは仕方ない。」

摩耶花・奉太郎「……。」


57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 09:45:36.95 ID:JPkNrTbH0
奉太郎(いつもこれぐらいしおらしくしてくれていれば、可愛げもあるのにな。)

摩耶花(どうしよう。ドキドキしてるの折木に伝わってないわよね……。)

摩耶花「ねっねえ!」

奉太郎「うっ。急に大声出すなよ。びっくりするだろうが。」

摩耶花「あっ、ご、ごめん。」

奉太郎「」

摩耶花「」

奉太郎「なんだ、言わないのか?」


58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 09:47:25.93 ID:JPkNrTbH0
摩耶花「……ちょっとだけ見直した。」ボソ

奉太郎「は?」

摩耶花「折木のこと、ほんの少し見直したって言ってんの!

  あんた、今日に限っては頼りになる奴だったわ。むかつくけど。」

奉太郎「さいで。そんなお言葉がもらえるなんて光栄だ。」


59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 09:49:08.98 ID:JPkNrTbH0
奉太郎「そうだな、おれも今更ながらに気がついたことがある。」

摩耶花「なによ。」

奉太郎「口さえ開かなければ、伊原は案外可愛らしい。」

奉太郎(まあ、それじゃあ伊原らしくはないが。)

摩耶花「懐中電灯で思いっきりぶん殴ってもいいかしら?」


60 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 09:52:47.20 ID:JPkNrTbH0
奉太郎「褒めて殴られるならどうすりゃあいいんだ。」

摩耶花「それ褒めてないわよ。

  それに、あんたの言い方じゃ私がみんなに嫌味言ってるみたいじゃない。

  言うのはあんたに対してだけだし。」

奉太郎「それなんだが、伊原に恨まれるようなことをした覚えはないぞ。」

摩耶花「胸に手を当てて考えてみたら。」

奉太郎「いや、考えてもわからんだろう。やめておく。」

摩耶花「あんたね、ちょっとは、考えなさいよ。」


64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 10:00:03.16 ID:JPkNrTbH0
奉太郎「いまは体を使うだけでエネルギーを使ってるからな。

  頭にまわす可処分エネルギーはどこにもない。

  おれのエネルギーが尽きたら、その場に置いていくかもしれん。」

摩耶花「ちょっ、あんたさっきからそれずるいのよ!

  お、置いていったら、ほんと一生恨んでやるんだから。」

奉太郎(一生か…。そりゃあ、かなわんな。)


65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 10:13:58.99 ID:JPkNrTbH0
―青山荘―

奉太郎(疲れた。)

500mの片道は意外にも往路より早く過ぎてしまった。

摩耶花はすぐさま青山荘に運ばれて、応急措置を受けたが大事にはならずに済みそうだ。

奉太郎(里志に見られたくないから降ろせとでも言われるかと思ったが、

  伊原のやつ、最後までおとなしかったな。

  それにしても、貴重な夏休みの数日間を怪我の治療で費やすなど伊原もかわいそうだ。)

と、奉太郎が考えながら部屋の畳の上に寝転んでいると、

摩耶花の見舞いに行っていた里志が部屋に戻ってきた。


66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 10:15:45.81 ID:JPkNrTbH0
里志「危険なコースを設定したことは謝っておいたよ。」

奉太郎「当然だ。」

奉太郎(とはいえ、あそこでタヌキが飛び出してくるなんて里志も知るわけがないか…。

  しかし、里志のやつなんでまたあの祠をコースに入れたんだ?)

奉太郎「ひとつだけ聞いていいか?」

里志「いいよ。」

奉太郎「どうして神社で折り返すようにしなかったんだ?」


67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 10:16:38.45 ID:JPkNrTbH0
里志「気になるかい?いま聞いたら若干癪に障るかもしれないよ?」

奉太郎「一応聞いておく。」

里志「仕掛けも何もない肝試しだからね。

  神社までだと変哲もない田舎道と、通り一遍の社殿しかない。」

奉太郎「確かに神社までの道は意外に広かったしな。

  肝試しと銘打ってなければ単なる夜道の散歩だ。」


68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 10:20:18.43 ID:JPkNrTbH0
里志「でも、祠を入れると若干雰囲気が出る。

  祠の寂れ具合とか、根元から折れた灯篭とか、

  正直なところ、急な階段があるっていうのも一因だった。
 
  まるで俗世から隔離されているような気がしたんだ。」

奉太郎「なるほど里志の気持ちもわからんではない。」

里志「仮に一人で、あの階段を上って祠へ行けと言われたら、

  僕なら間違いなく躊躇する。僕の中ではあの祠あっての肝試しだったんだ。」

奉太郎(筋は通ってるな…。)ウーン


71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 10:22:00.82 ID:JPkNrTbH0
言いながら里志は浴衣とタオルを用意し始めた。

奉太郎「おいおい、こんな時に風呂に行くのか?」

里志「こんな時だからだよ。すこし落ち着きたいしね。

  ところで、ホータローは摩耶花のお見舞いにはいかないのかい。」

奉太郎「ここまでおぶってきたんだ。別に見舞う事もないさ。

  それに、今日は伊原も俺の顔なんて見飽きただろうしな。」


72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 10:23:25.33 ID:JPkNrTbH0
里志「そんなこと言わずに、少し声掛けに行ってあげなよ。軽くでいいからさ。」

奉太郎「……まあ、考えとく。」

里志「じゃあ、行ってくる。」

奉太郎「ああ、あまり考え込みすぎて湯あたりするなよ。」ニヤリ

里志「ははっ。肝に銘じておくよ。」

奉太郎(見舞いねえ…。まあ、少しぐらい様子を見ておくか。)


75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 10:28:04.18 ID:JPkNrTbH0
奉太郎が摩耶花の部屋をノックする。「はい」と摩耶花の声で返ってきた。

奉太郎「入っていいか?」

一瞬その場が静まりかえる。えるが出てこないので、おそらく部屋を空けているのだろう。

摩耶花「いいわよ。」

奉太郎が入ると、布団を口もとまでかぶった摩耶花がいた。

奉太郎は摩耶花の枕もとに胡坐をかいて座る。


76 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 10:29:25.16 ID:JPkNrTbH0
摩耶花「何しに来たのよ。」

奉太郎「様子を見に来ただけだ。」

摩耶花「ふーん。そうなんだ…。」

奉太郎「足のけが、ひどくなさそうで良かったな。」

摩耶花「まだわかんないけどね。」


77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 10:30:44.63 ID:JPkNrTbH0
奉太郎「まあ、しばらくは不自由するだろうが、その…なんだ。がんばれ。」

摩耶花「なによ、気持ち悪いわね。折木らしくない。」

奉太郎「失礼なやつだな。俺だって心配ぐらいはする。」

摩耶花「心配ねえ。折木にも人並みの感情が備わっているってことね。」

奉太郎「お前は俺を何だと思ってるんだ。」


80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 10:34:30.43 ID:JPkNrTbH0
摩耶花の手が伸びて奉太郎の服の端をつかんだ。指で生地を確かめるように触る。

摩耶花「そうだ、折木の服さ、私おぶったときに汚しちゃったでしょ。ごめん。」

奉太郎「なんだよ急に、お前も十分気持ち悪い。」

摩耶花「らしくない返しよ。」

静寂が訪れて、二人の目がしばらく合った。気づけばどちらともなく笑いだしていた。


82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 10:37:39.57 ID:JPkNrTbH0
奉太郎「じゃあ、おれは行くぞ。」

奉太郎はすっと立ち上がる。

摩耶花「あっ。」

奉太郎「ん?」

摩耶花「ううん。なんでもないわ。折木……ありがとね。」

奉太郎は振り返ることなく、手を挙げて答えた。


83 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 10:39:02.37 ID:JPkNrTbH0
奉太郎が去った後、摩耶花はさりげなく奉太郎の座っていたあたりに手を伸ばした。

まだ畳にはわずかに温かみが残っている。

摩耶花(もう少し話がしたいなんて、言ったら折木どんな顔したんだろう。)

摩耶花は目を閉じてそれ以上の思考をストップする。

それより先は考えてはいけないことだと思ったからだ。

鈴虫の音を聞きながら摩耶花は眠りについた。その顔には笑顔がうかんでいた。


84 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 10:39:38.77 ID:JPkNrTbH0
お仕舞い。


91 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 10:47:41.74 ID:JPkNrTbH0
読んでくれた、書き込んでくれた方々ありがとうございました。

間にちょいちょい、えると里志の会話が20レス分ぐらいあったんですが、がっつり削りましたw

それでところどころ、つぎはぎみたいになってるかも……。さーせん!

それでは、それでは、みなさまありがとうございました!


94 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 11:00:45.06 ID:m9lrxDSlO


100 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 11:39:40.67 ID:kkj3S4Yt0
おつつ
摩耶花可愛いよ摩耶花


101 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/15(水) 11:43:03.04 ID:5bIJc4mc0
乙乙


まどろみの約束
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