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さやか「あなたが志筑さん?」

5:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 15:58:02.41 ID:AM9ba86A0
昔から、「お嬢様」「お嬢様」
そう言われることにうんざりしていた。

志筑という名前は、この見滝原ではお金持ちとよく知られていて。
そこに生まれた私は、だから自然と「お嬢様」そう呼ばれるようになっていた。
幼稚舎も小学校も、私はエスカレーター式の私立学校に通っていた。
どこに行っても名前で呼ばれない。

「あぁ、志筑さんとこの」
「お嬢さん、大きくなったねえ」
「いいなあ、お嬢様は」

そんな生活から、私は抜け出したかった。
お父様に無理を言って「お嬢様校」と言われる学校ではなく、「普通の」学校として
認知されている見滝原中に入学したのは、だからそのため。

生徒「お早う、志筑さん!」

仁美「お早う御座いますわ」

けれど。




10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 16:18:59.26 ID:AM9ba86A0
生徒「今日も可愛いね、その髪留め、いくらだったの?」
生徒「あ、その鞄いいなあ!」
生徒「ねえ志筑さん、今度家に遊びに来ない?」

中学校に入学して少し経つ。
でも名前で呼んでくれること以外、以前と何も変わらなくて。

生徒「お嬢様だもんね、志筑さんは」

そしていつも聞こえる最後のその一言が。
私に、この場所に来たことを繰り返し後悔させる。

皆、私に話しかけてくれるのは私の家柄のためなのだと。
いくら箱入り娘だとは言われていても、それくらい勘付いてしまう。
だから私は、月日が経つにつれてだんだんと周囲から距離を置くようになっていた。


12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 16:24:01.47 ID:AM9ba86A0
そんなつまらない一学期が過ぎ、新学期が始まった。
文化祭の季節だった。

「何やる?」
「お化け屋敷とかやりたくない?」

皆浮き足立つように騒いでいた。
私は、その中に入れない。「お嬢様」がそんなものに参加してしまったら、きっと
みんなの中の「志筑仁美」を壊してしまうんじゃないかと思ったから。
それを壊してしまったら、もう誰にも話してもらえないような、そんな気がしたから。

そんな頃だった。
急に、その人に話しかけられたのは。

「あなたが志筑さん?」


13:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 16:29:29.24 ID:AM9ba86A0
その声を聞いて、私はすぐに、よく授業中隣のクラスで騒いでいる人だと気付いた。
一度も話したことのない人だった。

仁美「……えぇ」

またか、と思った。
また、家を目当てに“友達ごっこ”を始めないかと言われるのだ、きっと。
二学期に入って、それはもう殆ど無くなっていたというのに。

「ふーん」

仁美「……あなたは?」

「美樹さやか。はい、これ」

仁美「え?」

突然、美樹さやかさんと名乗ったその人は、私に何かを手渡して。
私が困惑している隙に、もういなくなってしまっていた。


14:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 16:34:29.78 ID:AM9ba86A0
美樹さんに手渡されたのは、真っ白な封筒。
そこには見知らぬ名前が書かれていて。たぶん、隣のクラス。

仁美「……」

きっと、美樹さんはこの人に頼まれてこの手紙を私に渡しにきたのだろう。
それだけクラスの中では男子女子問わずに目立つ存在なんだということもよくわかる。
「ごめんね、急に」
と、また突然。そんな小さな声が聞こえて。

仁美「……はい?」

まどか「私、隣のクラスの鹿目まどか。えっと……志筑さん、だったよね?さやかちゃん、
    何も言わずにそれ、渡しちゃって。うちのクラスの男子からなんだけど、よかったら
    読んであげて欲しいな」

ピンクの髪をした、可愛らしい女の子だった。
鹿目まどかさん。きっと、美樹さんの付き添いでこのクラスに着いてきたのだろう。
その美樹さんは他の子のもとへ行ってしまっていたのだけれど。

仁美「……わかりましたわ」


15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 16:38:00.14 ID:AM9ba86A0
まどか「ラブレター、いいなあ。もしかして、よく貰っちゃったりするの?」

仁美「いえ……」

まどか「でも、こなれてる感じだよね」

仁美「そんなこと、ありませんわ」

確かに小学校の頃から、この手のものはよく貰ったけれど。
全て、お断りしていた。
あまりそういうことに興味はなかった。それよりも、この名前が嫌で嫌で仕方がなくって。

まどか「へへっ、謙遜しなくていいよー」

仁美「鹿目さんこそ、沢山ありそうですわ」

まどか「私!?私なんて全然!」

何だか、話しやすい子だった。
他のクラスメートたちに比べて、話していてもほっとするような。
もしこの子が同じクラスだったら……そんなことを考える私自身に驚く。


18:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 16:42:40.97 ID:AM9ba86A0
まどか「あと、鹿目さんじゃなくってまどかでいいよ」

仁美「まどか、さん?」

まどか「うん!」

にっこりと嬉しそうに。
まどかさんは笑って。

この子とお友達になれたら――そんなことを、初めて思った。
チャイムが鳴ってしまう。

さやか「うおっ、早く戻んないと!まどか、行くよ!次体育!」

まどか「あ、うん!」

「それじゃあまた!」まどかさんが手を振って、教室を出て行く。
また……。私も、つい小さく手を振り返していた。
一番最初に話しかけてきた美樹さんは、結局何も言わずにばたばたと足早に廊下を
駆けていくのが見えた。


21:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 16:50:44.89 ID:AM9ba86A0

あの日から、まどかさんと私は違うクラスだけれど、よく話すようになっていた。
中学校に入ってから、初めて楽しいと。そう思える毎日。

やがて文化祭が終わって三学期になり、三学期も終わって――
二年生に、進級した。

春休みが終わった校舎の前はがやがやと騒がしい。
新しいクラスに仲のいい子がいれば「きゃーきゃー」と騒ぎ、誰もいないと
泣き出してしまう子までいる。

私は――
『志筑仁美』その名前を見つけて。
そっと視線を上に向けると、『鹿目まどか』の文字もあった。

仁美「……あ」

まどか「仁美ちゃーん!」

と。気付いてすぐに、まどかさんが私の名前を呼んで駆けて来た。
私も大きく手を振って。「一緒ですわ、まどかさん!」とつい弾んだ声で。

まどか「うん、一緒!」

あまりに嬉しくて、二人で笑い合っていると、けれど「あれ」とすぐ近くで声がした。
「良かった、まどかとまた一緒!」

美樹さんが、いた。


24:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 17:02:20.23 ID:AM9ba86A0
まどか「さやかちゃん!」

さやか「いやあ、名簿見てたけど全然知らない名前ばっかで焦っちゃったよ」

まどか「私もー。でも良かった、さやかちゃんも仁美ちゃんもいて!」

仁美「あ、はい……」

どうも苦手だ、と思うようになったのはいつからだっただろう。
私は頷きながら、そんなことを考えた。

たぶん、美樹さんと初めて話したあの日から。
私はこの人に、どうしてだか苦手意識を持っていた。

もともと、この人のように騒げるタイプではなかったし、まどかさんのような
大人しい子のほうが好きだった。
だから、まどかさんとは仲良く出来たし、逆にまどかさんがなぜこの人と仲がいいのか、
私には理解できなかった。

さやか「あ、ラブレターもらった子も一緒か」

仁美「え?」

さやか「ごめん、名前忘れちゃった!えっと、なにひとみさん?」

まどか「もう、さやかちゃん!志筑仁美ちゃん!」

さやか「あぁ、そうそう」


25:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 17:06:02.13 ID:AM9ba86A0
ぽんっと手を叩いて、「ごめんね」とへらりとした笑顔を見せる美樹さんに。
やっぱり私は、「あ、苦手」と感じてしまう。

家のことなんて何も気にしない、きっとそんな人なんだろう。
媚を売ってくるような人よりはよっぽどマシだと思う。
だけど私はどうしても、この人が好きになれそうになかった。

さやか「さ、んじゃあ教室行くか!」

まどか「うん、仁美ちゃんもほら!」

仁美「はい……」

折角まどかさんとクラスが一緒で、楽しい一年になると思っていたのに。
これから美樹さんも一緒だと、そう思うと気が重くなって仕方がなかった。


28:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 17:26:31.16 ID:AM9ba86A0
―――――
 ―――――

先生「えー、担任の早乙女和子です、みんな、一年間宜しくね!」

担任の先生が、教壇に立って挨拶していた。
私はそっと周囲を見渡す。あまり、知っている顔はなく、だからこそよけいに
複雑な気分になってしまって。

不意に、隣から突かれる。

仁美「!?」

そういうことに慣れていない私は、ついおかしな声を漏らしそうになった。
慌てて口許を押さえ、隣を見る。
笑いを堪える美樹さんの姿があった。


29:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 17:29:13.10 ID:AM9ba86A0
さやか「何もそこまで驚くことないじゃん……」

先生の自己紹介が続く中、美樹さんや押し殺した声で笑いながら言った。
私は「授業中ですわよ」と前に向き直る。
あまりこの人とは話したくなかった。

さやか「授業中って言ったってあんまり聞くことないじゃん」

仁美「先生がかわいそうですわ」

さやか「いや、あの人去年のあたしらの担任だったけど、聞くに値しないって」

仁美「……何か用があるんですか?」

仕方なく、美樹さんのほうに顔を向けた。ずっと腕をツンツンと突かれたままだったから。
漸く美樹さんが手を止めてくれた。

さやか「用?」

仁美「はい」

さやか「別にないけど」

仁美「……」


31:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 17:33:17.29 ID:AM9ba86A0
さやか「どしたの?」

仁美「……ないなら、話しかけないでいただけます?あくまで授業は授業ですわ」

さやか「かったいなあ」

本当に、呆れてしまう。
用がないのに話しかけてきて。まどかさんのほうを見ると、真剣に先生の話に
耳を傾けているようなのに。

――きっと、こっくりこっくりと船を漕いでいるのは気のせい。

仁美「あなたが柔らかいだけなんです」

さやか「柔らかいなんて言わないって」

仁美「……もう、そんなことどうでもいいですから」

さやか「冷たっ」

いちいち、美樹さんの言動が気に障る。
私はもう何も言わずに、今度こそ美樹さんから視線を外し、何も聞こえない振りをした。


33:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 17:42:38.42 ID:AM9ba86A0
――――― ――
放課後になった。新しいクラスメートの方たちが、私を取り囲む。
昼休みも同じような感じだったけれど、放課後は外野も増えてがやがやとうるさい。
あと数ヶ月我慢すればまた静かになる。そうとはわかっていても、気分が悪い。

仁美「あの、申し訳ありませんけれど……」

そう言って席を立とうとしたときだった。

さやか「しーづきさんっ」

元気な声がして。
美樹さんが人垣を割って私の前に立っていた。

まどか「ちょっと、さやかちゃん」

まどかさんもその後ろに続いてきて。
「美樹さん、まどかさん?」首を傾げると、「一緒に帰ろー」と、さやかさんが。

仁美「……え」

まどか「みんなごめんね、私、今日早めに帰らなきゃいけないから」

「あ、そうなんだ」
「じゃあまた明日ね、志筑さん」
「あさってこそ家に来てよね、志筑さん!」

周囲の人たちが、次々と散っていく。


34:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 17:45:20.58 ID:AM9ba86A0
ほっとしつつも、すぐに後ろから聞こえた声にどうしても美樹さんに素直にお礼を
言えなくなってしまった。

「志筑さんって、まどかちゃんはわかるけどさやかみたいなタイプと一緒にいるの意外だよねー」
「うん、超意外!ていうかさやかもさやかだしー。お嬢様とか知らねーって笑ってたくせに」

仁美「……」

さやか「志筑さん?」

まどか「仁美ちゃん、早く帰ろっ」

仁美「あ、はい……」

慌てて鞄を持つ。
結局何もお礼を言わないまま、私たち三人は教室を出た。


37:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 17:49:13.14 ID:AM9ba86A0
まどかさんとも、美樹さんとも一緒に帰るのは初めてだった。
二人の後ろを歩きながらそういえば、と思う。
入学したての頃はよく、「車で迎えに来ないの?」と聞かれていた。

そんなことが嫌でこの学校に来たというのに。

まどか「へへっ、やっぱりさやかちゃんもそう思うよね!」

さやか「ほんっとありえないもんね!笑っちゃうし!」

美樹さんがいると、私はどうしても話に入れなかった。
自然と後ろで、ただ話を聞いているしかない。今日の昼休みもそうだった。

まどか「あ、じゃあ私そろそろここで」

さやか「お、わかった」

仁美「まどかさんのお家、こっちですの?」

まどか「ううん、違うんだけどね、パパに学校帰り来て欲しいって言われてる場所あって」


44:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 17:56:16.23 ID:AM9ba86A0
「それじゃあ」と手を振って、まどかさんが通りを駆けていく。
「おう、また明日ー」ぶんぶんと美樹さんが大きく手を振る。
それを見て、私は何だか手を振る機会を逃した気がして小さく「さよなら」と言うことしか
出来なかった。

さやか「さて」

まどかさんの姿が見えなくなると、さやかさんは突然私のほうを向いて言った。
「志筑さん、今時間ある?」

仁美「時間?……えぇ、ありますけど。お華のお稽古は明日ですし」

さやか「えっ、お稽古!?すっごいねえ!」

仁美「あ、いえ……」

この人は、そのことも知らなかったらしい。
確かに人のことはあまり関心なさそうな人には見えるけれど。私がいくつもお稽古事を
掛け持ちしているのは、周知の事実だった。

仁美「それで、どうして?」

何も聞かれないように慌てて話題を元に戻す。
「あ、うん」と美樹さんはなぜか照れ臭そうに笑った。

さやか「着いて来てほしいとこあるんだけど」


46:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 18:01:20.13 ID:AM9ba86A0
そう行って連れて行かれたのは、市内では一番大きなショッピングセンターだった。
確か、ここも何かのお店で携わっていて、ここが完成した頃、一度だけ来たことがあった。

仁美「学校帰りにいいんですの?」

さやか「平気平気。いつもまどかと一緒に来てるからさ」

仁美「……そう」

さやか「で、えーっと……」

美樹さんはずんずんと前へ進んでいく。
そしてやがて辿り着いたのはCDショップだった。

仁美「……何か買うんですか?」

さやか「うん、まあね」

美樹さんのことだから、何かのアイドルのCDでも購入するのだと思っていた私は、
だから迷わずに美樹さんが歩いていったコーナーがクラシックだったことに気付いて驚いた。

さやか「ん、なに?」

仁美「……いえ、クラシック、聞くんですのね」


47:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 18:07:27.06 ID:AM9ba86A0
さやか「まあね。意外ってみんなに言われるけど。志筑さんも思ったでしょ?」

仁美「……少し」

さやか「だよねえ、皆あたしをどんな目で見てるんだっつーの」

美樹さんは大袈裟な溜息を吐きながらそう言って、だけどCDを物色する手だけは
止めずに。

仁美「何を探してらっしゃるんですの?」


48: 忍法帖【Lv=9,xxxP】 :2011/05/21(土) 18:07:44.86 ID:AM9ba86A0
さやか「ちょっと待って」

仁美「あ、はい」

つい、頷いて美樹さんが動きを止めるのを待つ。
数秒後、美樹さんは物凄い速さで何かのCDを引き出した。

さやか「よっしゃ、発見!」

仁美「……何を、ですか?」

さやか「これ、恭介が欲しがってたからさ」

美樹さんが私に見せてくれたのは、だいぶ古そうなCDだった。
よく見れば、美樹さんが探っていたところは「掘り出し物」と書かれていた。
けれど、それよりも私は美樹さんの口から出た聞きなれない名前が気になって首を傾げる。

仁美「恭介?」

さやか「……あ」


50:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 18:11:44.46 ID:AM9ba86A0
さりげなさを装って、美樹さんが私から目を逸らした。

さやか「いや……友達っていうか、幼馴染で、さ」

仁美「……その人が」

さやか「うん、あいつ、怪我で入院してるから」

仁美「だからさやかさんが?」

さやか「ってわけでもないんだけどさ!あ、あたしが勝手にやってるだけだしあたしだって聞きたいから!」

そう言いながら、美樹さんは逃げるようにしてレジへとそれを持っていった。
けれど、ラッピングされているところを見れば、美樹さんが自分で聞くために買っているようには
到底思えなかった。

正直、意外だと思ってしまう。
美樹さんは、誰かのためじゃなく自分のためだけに動くような人だと思っていたから。


51:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 18:16:13.57 ID:AM9ba86A0
店を出て、私たちは並んで歩く。
駅前の喧騒が、だんだんと静かになっていく。

さやか「んじゃ、あたしこっちだからさ」

仁美「あ、はい」

さやか「気をつけて帰りなよ、もう暗いし」

仁美「わかってますわ」

さやか「可愛い子はあたしみたいなのに襲われちゃうんだからね!」

仁美「ならよけに早く帰らなきゃ」

さやか「えぇ!?そこはもっと違う突っ込み方あるでしょ!」

美樹さんのうるさいくらいの明るい声が、暗い空へと響いていく。
けれどなんとなく、きっとこの一日で慣れてしまったのだろう、あまり耳障りには
聞こえなくなっていた。

意外な美樹さんの表情が、優しさが、少しだけ、私の心を和らげていた。


52:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 18:18:22.32 ID:AM9ba86A0
さやか「じゃーね、志筑さん」

仁美「えぇ」

また明日と。
そう言ってみる。美樹さんんは「おう!」と元気よく頷いて、やっぱり駆け足で。
遠ざかっていった。

仁美「……」

不思議な人だと思う。
まどかさんもそうだけれど、美樹さんも。
たった一日で、人の気持ちを少しだけ変えてしまうのだから。


59:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 18:35:27.73 ID:AM9ba86A0
―――――
 ―――――

「おーい」

翌日。
ふと顔をあげると、まどかさんと美樹さんが二人並んで渡しに手を振っているのが
見えた。

まどか「おはよう、仁美ちゃん」

仁美「おはようございます。……どうして?」

さやか「ここで待ってたら一緒に学校行けるかなって思ってさ」

まどか「さやかちゃんがね、待ってようって」

仁美「……ありがとうございます」

素直にお礼の言葉が出た。
「そこお礼言うとこじゃないし」と、美樹さんが照れたように歩き出した。
やっぱり色々な表情を持っている人だと思う。
私たちも、歩き出す。

まどか「ねえ、さやかちゃん。今日は上条くんのとこ?」

さやか「ん、まあね」


62:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 18:39:10.95 ID:AM9ba86A0
仁美「上条くん……?」

さやか「あぁ、昨日言ってた恭介のこと」

仁美「お見舞いに行かれるんですか?」

さやか「まあそういうとこかな。昨日買ったCD、持って行かなきゃいけないし」

まどか「またまたー。ほんとは持って行かなきゃじゃなくって持って行きたいんでしょ!」

さやか「う、うるさいっ」

まどか「照れちゃって可愛いなあ、さやかちゃん」

さやか「言ったなこのー!」

何となく、置いてけぼり。
美樹さんがまどかさんの首に手を回して締め上げる振り。
だけどまどかさんは凄く楽しそうで、だから私は何も言わずに見ているしか出来なくて。


64:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 18:51:17.77 ID:AM9ba86A0
さやか「お?志筑さんもやって欲しい?」

仁美「えっ」

まどか「やめといたほうがいいよ、仁美ちゃん!痛いから!」

さやか「なんだとっ」

仁美「い、いえ……そういうわけじゃないですわ」

さやか「なんだ、残念」

まどか「残念って、さやかちゃん……」

さやか「志筑さんの髪ふわふわそうで触ってみたかったんだけどなあ」

仁美「そんな……」

スキンシップというものには元々慣れていない。
というより、そんな体験など殆どなくて。
だから私は、見ている分にはいいけれど、誰かに触れられるのは好きではなかった。


67:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 19:10:55.93 ID:AM9ba86A0
さやか「おっと、けどそろそろ時間やばいって!」

ふと時計を見ると、確かにあと少しでチャイムが鳴るところだった。
私たちは慌てて走り出す。
そういえば、体育の時間以外でこうやって走ったのはひどく久しぶりな気がした。

―――――

まどか「はあ、やっと終わった」

仁美「……ですわね」

さやか「なんか今日は疲れた……」

放課後、私たち三人は並んで歩きながら口々に呟いた。
最近は暗くなるのが遅くなってきて、だから夕日が少し眩しかった。

まどか「居残りなんて聞いてないよ……」

さやか「誰だ授業中喋り倒したの!」

仁美「美樹さんですわ」

まどか「さやかちゃんだね」


69:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 19:13:11.04 ID:AM9ba86A0
さやか「うっ……」

まどか「それより、いいの?今日上条くんのお見舞い行くんだよね?」

さやか「あ、うん……」

仁美「どうかしたんですか?」

さやか「この時間帯ならちょうどあいつ、検査かなって」

その口調から、検査したって意味ないのに、という諦めのようなものを感じたのは
気のせいだったのだろうか。
まどかさんと、顔を見合わせる。

まどか「でも、とりあえず行ってみたら?」

さやか「けど……」

まどか「行ってみるだけ行ってみようよ!会いたいんでしょ?」


72:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 19:43:41.45 ID:kBpYZVqX0
病院

まどか「……さやかちゃん、出てこないね」

仁美「話し込んでるんじゃありませんか」

まどか「どうだろう」

「上条恭介」というプレートのかかった病室。
そこからは話し声一つ、笑い声一つ漏れて来なかった。

仁美「……」

まどか「……帰る?」

仁美「そうですわね。このまま待ってても仕方ないですもの」

まどか「さやかちゃんには病院出てからメールして……」

「だからもう聞きたくないんだ!」

突然。
そんな大声が病院に響いた。


73:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 19:45:42.82 ID:kBpYZVqX0
何かが割れる音も、呻くような声も。

まどか「さやかちゃん!?」

偶然通りかかった看護師さんが「まただわ」と青ざめた顔で言って、
どこかへ走っていった。

仁美「……どうなさったんでしょう」

まどか「わかんない。けど……」

ガッ
勢いよくドアが開いた。

まどか「……さやかちゃん」

さやか「ごめん、やっぱ今あいつ、機嫌悪いみたいだから」


76:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 19:49:20.04 ID:kBpYZVqX0
まどか「機嫌悪いって……さやかちゃん、手に血!」

さやか「これも別に何でもないって。ちょっとトイレ行って洗ってくるわ」

まどか「え、さやかちゃん……!」

バタン
ドアが閉まり、美樹さんがどこかへと駆けて行った。
私たちは――私は、何も言うことが出来なかった。
ドアが閉まってしまう前、少し見えた病室は。

真っ赤な血と、髪の色素が薄い男の子と、白いベッドのシーツだけだった。


77:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 19:54:03.74 ID:kBpYZVqX0
病院中、どこを探しても美樹さんの姿はなかった。
上条くんの病室にはいつのまにか面会謝絶の札がかかっていて、お医者様や看護師さんが
大勢いて、入るに入れない状態で。

まどか「……また、さやかちゃんには後でメールしてみる」

仁美「……えぇ」

まどか「……さやかちゃん、だからあんなに行くの渋ってたのかな」

仁美「……」

私は何も言わなかった。
ただ、思う。あまりに青ざめた美樹さんの表情が。頭に浮かぶ。
探さなきゃ。


78:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 19:57:47.67 ID:kBpYZVqX0
まどかさんと別れても、私は街を歩き続けた。
知らない場所に来ても、それでも歩き続ける。
美樹さんがどこにいるかなんて知らないし、わからない。
行く宛てだって、どこにもない。

けれど。
歩くしかなかった。

罪悪感のようなものが私を突き動かして。
罪悪感?いいえ、きっと違う。
同情でも何でもなくって、たぶん、心配。

美樹さんが、心配だった。
昨日までならこの気持ちは同情だったのかも知れない。でも今は。

もう、日は暮れかかっていた。
そろそろ帰らなければまずい時間帯。
だけど、私はある場所で立ち止まった。見滝原を流れる川の、河原に見慣れた姿。

さやか「……あ」

足音に気付いたのか、美樹さんが振り向いた。


80:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 20:06:23.93 ID:kBpYZVqX0
思わず目を逸らして。
私は、美樹さんの側に座り込む。

さやか「……あんた、いいの?」

仁美「……何がですか」

さやか「お嬢様がこんな時間にうろうろしてこんなとこで座り込んじゃって」

嫌味たっぷりの声だった。
だけど今はあまり気にならなかった。

さやか「……」

仁美「……ごめんなさい」

さやか「どうして謝るのさ、急に」

仁美「何となくですわ」

さやか「意味わかんないし」

仁美「……上条くん、でした?」

さやか「ん……そう。……あいつ、さ」

仁美「はい」

さやか「検査の後、いつもあんなふうになっちゃうからさ」


81:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 20:10:12.23 ID:kBpYZVqX0
バッカみたい、と美樹さんが自分の膝に顔を埋めた。

さやか「わかってんのに行っちゃうあたしもそうだけど、あいつだってバカだよね、ほんと」

さやか「治んないって知ってるくせに、何度も何度も医者に聞いては落ち込んでさ」

さやか「……ほんとバカだよ」

私は頷きもせずに、ただその声を聞いていた。
いつもよりも暗く暗く沈んだ声。

ここにまどかさんがいるなら、なんと答えているのだろう。
ふとそんなことを考える。

もしこの人の友達なら――なんと言うだろう。

さやか「……なんかごめん、あたし愚痴ったって意味ないのにね」

仁美「……授業中に話されるのはやめてほしいですけれど」

さやか「ん?」

仁美「……そのほかでなら、付き合ってあげてもいいですわ、あなたの愚痴」

さやか「……」

これくらいしか、まだ私は言えない。
きっとまだ、友達には程遠い。


83:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 20:13:36.04 ID:kBpYZVqX0
だけど。

さやか「……ならあたし、すっごい愚痴っちゃうけど、いいの?」

仁美「構いませんわ、たぶん」

さやか「た、たぶん?」

仁美「あまりにはしたないことだったりしたら……聞く気なくしちゃいますもの」

さやか「むう、そりゃあ難しいな」


84:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 20:14:00.03 ID:kBpYZVqX0
仁美「……どんな愚痴を言うつもりなんですの」

さやか「ははっ」

久しぶりに、美樹さんの笑顔を見たような気がした。
今日ずっと見ていたはずなのに、ひどく久しぶりなような。

さやか「……帰ろっか、暗いし」

仁美「そうですわね」

立ち上がる。

さやか「……ありがとね」

小さく、そんな声が聞こえた。
私はやっぱり、何も答えずに、歩き出す。私にはまだ、その言葉に答える権利なんてないのだから。
いつかもっと、あなたと私が近くなった時に。

終わり


85:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 20:15:04.35 ID:kBpYZVqX0
なぜこうなったし
上条くんを絡めるんじゃなかったと後悔
仁美とさやかの仲良くなったきっかけを書きたかったのに意味がわからなくなった
代理してくれた人ごめんね、ありがとう


88:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 20:18:26.84 ID:8MgP6+l00
上条絡めない版書けばいいじゃない!
さやかと仁美のくっつくまで見たいのに!!
友達的なのでも百合的なのでもどっちでもいいから!!!


89:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 20:20:53.54 ID:kBpYZVqX0
>>88
このネタで書き切る勇気がなくなってしまった、もうちょっと練ってから
また書いてみるよ、ごめんなさい

たださや仁の甘いのが書きたかった
スレがあまりに勿体ないので細々と思いつきのまま投下します


94:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 20:27:31.25 ID:kBpYZVqX0
さやか「……あー、暑」

仁美「……はしたないですわよ、さやかさん」

さやか「仁美はいいよねえ、まったく汗かいてないじゃん」

仁美「そんなことありませんわ」

さやか「顔に汗かかないってどこの舞台女優だよー」

仁美「……もう」ハア

さやか「……機嫌悪いなあ、仁美」

仁美「うるさいですわ」

さやか「いてっ」

わざといつもより明るく振舞って。
私が気付かないとでも思っているの?

歩きながらそんなことを考える。
家までの帰り道、真夏の夕方。隣でさやかさんは、大声ではしゃいで。


96:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 20:31:37.17 ID:kBpYZVqX0
さやか「なんなのよー」

仁美「何でもありません」

少し、早歩き。
さやかさんが負けじと後ろを着いてくる。

昨日の電話を思い出す。
電話に出るなり「仁美ぃ」とあまりに頼りない声で。

何があったかは言ってくれない。
けれど、何かあったことは確かで。
それを私に何も言ってくれないのが歯痒くて、辛くて。

さやか「何怒ってんの」

後ろから間延びした声が聞こえる。
「ほっといて」
そんなことを、言ってみる。むっとしたようなさやかさんの顔が容易に想像できた。


97:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 20:35:55.15 ID:kBpYZVqX0
たぶん、まどかさんには伝えているのだ。
私にだけは何も――

最近、さやかさんとまどかさんが何かを私に隠していることは気付いていた。
学校に来ても、まどかさんはあまり元気が無いし、さやかさんはさやかさんで空元気ばかり。
今だってそうで。

仁美「……」

何があったの、とは聞きたくなかった。
私の、おかしな意地。私の、おかしなプライドが。どうしてもそれを許さなかった。

さやか「仁美」

少し真剣な、さやかさんの声。
けれど私は振り向かずに、そのまま前へ進んでいく。
さやかさんがもう一度、さっきよりも大きな声で私の名前を呼んで。
それでも振り向かずにいたら、「仁美!」と肩を掴まれて。

仁美「……さやかさん」

また、少しだけ胸の奥がおかしな感覚に襲われて。


99:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 20:54:16.46 ID:kBpYZVqX0
さやか「ほんと、どうしたの?」

振り向いて少し、驚く。
さやかさんは怒ってるわけじゃなくって、心配そうな顔をして私を見ていて。

仁美「……だから、何でもないですわ」

さやか「……仁美」

さやかさんの手を、振り払う。
戸惑ったようにさやかさんは私を見る。

さやか「……」

自分でもどうしてここまで苛立ってしまうのか、わからなかった。
けれどその苛立ちはどうやったっておさまらなくて。

さやか「……」

諦めたように、さやかさんが後ろを歩き出す。
けれど。
不意に、「……家に来る?」

仁美「……え?」

それには反応せざるを得なくて。
思わず振り向くと、さやかさんの「してやったり」な笑顔を拝んでしまった。


100:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 21:01:15.86 ID:kBpYZVqX0
さやか「そうか、仁美は寂しいわけだ」

仁美「なっ!?」

さやか「そういやこうして一緒に帰ることも最近なかったもんね」

仁美「それは、そうですけど……」

さやか「なるほどね、可愛いなあ、仁美ぃ!」

仁美「!」

不覚にも赤くなってしまう。
さやかさんのこういうところに、私は弱かった。
すぐに、この人のペースに飲み込まれてしまうのだ。

仁美「……変なこと、言わないで下さいます?」

さやか「本当のことだって」

仁美「褒めても何も出ませんわ」

さやか「認めたか」

仁美「そのつもりはありません」


102:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 21:14:56.78 ID:kBpYZVqX0
いつのまにかまた隣で並んで。
肩を並べて歩く。あと少しでお互いぶつかりそうな距離で。

仁美「……」

さやか「本当に来ちゃっても構わないけど」

仁美「……えぇ、でも、いいです」

さやか「そっか」

仁美「……また、まどかさんと三人で」

さやか「……ん、そうだね」


103:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 21:15:41.65 ID:kBpYZVqX0
頷いて。
胸の奥が、また痛くなって。

さやか「……いつかね」

仁美「えぇ、いつか」

さやか「……いつかきっとさ」

その言葉の続きはいらない。
わざとまた、早歩き。

さやか「……あ」

慌てて追いかけてくる音が聞こえる。
ただ今は、まださやかさんの中に私の姿があることに安堵して。
まださやかさんの中で、私がいることにほっとして。

終わり


104:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 21:16:32.50 ID:kBpYZVqX0
全然甘くなかった、仁美視点難しい
さや仁はメインで書くべきじゃないと思った、お目汚し失礼しました


106:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 21:17:45.63 ID:qMeDAIvV0
仁美は描写めっちゃ少ないもんなぁ…
ともかく乙


105:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 21:17:03.96 ID:SMHBjQWG0



このジャンルにはまだまだ可能性があると思う


107:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 21:20:20.50 ID:kBpYZVqX0
>>105
自分もそう思います
この二人の出会ったきっかけとかがよくわからないしネタには尽きないと思う
それを上手くまとめられない自分が悔しい

自分で書いててまったく面白くなかった、こんなに反省点の多いssになるとは
本当に代理してくれた人に申し訳ない


108:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 21:21:05.48 ID:Ur7NtMTY0
公式で恋敵な二人だしかなり難しいものが


110:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 21:23:04.44 ID:kBpYZVqX0
>>108
だからこそこの二人は百合的に美味しいと個人的に思ってます
二人とも上条に振られて傷の舐めあいで付き合ってみたり、とか


109:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/21(土) 21:23:00.38 ID:9Hm1hGrX0
このssのさや仁はいいと思うよ
また考えまとまったら書いてみてよ
楽しみにしてるから





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