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尭深「ここが宮永城……」

1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/18(火) 22:17:26.05 ID:QRy73B5z0
昼休み

お昼ごはんを食べ終えて、まだ次の授業まで余裕があるこの時間

調べ物をするには丁度良いと、私、尭深誠子は図書館の扉を開けた




2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/18(火) 22:22:15.64 ID:QRy73B5z0
あ……

早速目的の本を探そうと思っていたが、ふと閲覧席の方に目をやると同じ麻雀部の宮永照先輩の姿があった

一人なのかな……ハードカバーの本を広げて熱心に読んでいる

麻雀を打っている姿の方が見慣れているはずなのに、何故だか今の先輩はイメージにぴったりはまる

画になるなぁ……と、携帯のカメラを向けたい衝動に駆られたが、さすがにマナーが悪いので思いとどまった


4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/18(火) 22:28:13.07 ID:QRy73B5z0
ぱたん

と、本を閉じた

どうやら今のが最後のページだったみたい

「あれ、尭深」

「あ……」

見つかってしまった

どうしよう、随分と長いこと眺めていた気がする、変に思われちゃったかな……

と、とりあえず何か話さないと……

「きょ、今日は弘世先輩と一緒じゃないんですね」

「?
 べつに、菫とはクラス違うしいつも一緒に居るわけじゃ……」

「そ、そうですよね」

自分で言っておきながらだけど、そりゃ部活で一緒に居ることが多いからって常に一緒に行動しているわけじゃないよね

それに宮永先輩は一人が好きそうなイメージがあるし


6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/18(火) 22:33:36.32 ID:QRy73B5z0
なんて思っていると、宮永先輩が何か考え込み始めた……?

「……わ、私ってそんなに頼りなさそうに見えるかな?
 もう学校で迷うことはないし、一人だって普通に過ごせるんだけど……」

そういう意味で言ったんじゃないんだけどなぁ

「……って、少し前までは迷っていたような言い方ですね」

「はうっ」

緊張するけど、実際に話してみると人見知りの私でも普通に会話ができて、なんというか



かわいい、というか……


7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/18(火) 22:39:11.71 ID:QRy73B5z0
「……よし!」

うん?何がよしなんだろう?

「尭深、何か探してる本でもあるの?案内するよ」

「いや、そんな大丈夫ですっ」

なんて、反射的に言ってしまったら、何故だか先輩は少し残念そうに見えた


そういえば、こんなにも先輩の近くにいるのは珍しい気がする

同じ一軍メンバーだから一緒に居ることは多いけど、学年の壁があるうえに、インターハイチャンピオンなんて言う肩書が更にその距離を遠ざける

麻雀をしている先輩を前にすると、その圧倒的な強さに私とは違う世界の人なんじゃないかなんて

弘世先輩や淡ちゃんと接している時は、普通の、私と同じ女子高生の顔が見えるから安心できるけど……

私は人見知りの性格も手伝って、あまり先輩と会話らしい会話をしたことがなかった


「……と思ったけど、やっぱりお願いします」

この昼休みの間だけでも、宮永先輩に近づけるのは嬉しいことかもしれない

先輩も、私の返答にテンションが上がったみたいだけど、何でだろう?


9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/18(火) 22:46:48.52 ID:QRy73B5z0
「先輩は図書委員なんですか?」

「いや、去年まではそうだったんだけど、今年はじゃんけんに負けて……
 でも図書館にはいつも来てるから、大体のことはわかる」

じゃんけんって……先輩らしいと言えばらしいのかなぁ

「園芸は620番だからこっち!」

620……本の背表紙に書いてあるあの番号のこと?


図書館を歩く先輩は、なんだか生き生きしているように見える

基本的に感情を表には出さないけれど、その内には喜怒哀楽がはっきりしているので何となくならわかるようになってきた

そんなに本が好きなのかなぁ、部室でも時々読んでいるのを見るけどそこまでの文学少女だったとは

将来は麻雀のプロで活躍するのかと思っていると、図書館で司書をしている所にぱったり会うなんていう事もあるかもしれない


11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/18(火) 22:52:39.36 ID:QRy73B5z0
目的の棚に向かう間、ほんの少しの距離だけど、今までで一番宮永先輩と話をした時間かもしれない

お薦めの本を教えてもらったり、私の家庭菜園のことを話したり、他愛のないことだけど新鮮で楽しいひと時

先輩は口数の少ない方だと思っていたから、嬉しそうに喋っている姿はちょっと意外だった

私でも、先輩とこんな風に話すことができるんだ

部活では、宮永先輩はいつも弘世先輩と一緒にいてそこに淡ちゃんが加わるという図があるから、私は必然的に誠子ちゃんと一緒に居ることになる

それに不満があるわけではないけれど……というか、誠子ちゃんとすら、同学年なので緊張はしないものの互いに喋らなくても平気な性質のせいか会話が弾む事もない


先輩と話してみたいとは、以前から思っていた

試合をしている時の先輩、控室に居る時の先輩、弘世先輩と歩いている時の先輩と、それぞれあまり動かない表情の中にも違う色を浮かべている

そしてまた、本が好きな先輩という新しい一面をみることができた

もっと先輩を知ることができれば、他にも色々な表情を見ることができるのかな、なんて興味をひかれてみたり

私さえ歩み寄ることができれば、いつだってこんな風に近くに居させてくれるのだろう

私が勝手に恐れや畏れを抱いているだけで、先輩はこんなにも優しいのだから


12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/18(火) 22:59:31.38 ID:QRy73B5z0
「ここ」

「ありがとうございます
 ……あれ、先輩も園芸に興味が?」

案内が終わり、行ってしまうのかと思ったら、私の横で同じコーナーの本を手に取った

「いや……尭深はこういうのが好きなんだなーと思って
 ……あ、これおいしそう」

なんて、先輩が見ているページには苺の写真

やっぱり食べ物の方に興味が行くんですね

「なにか育ててみたらどうですか?楽しいしおいしいし、一石二鳥ですよ」

なんて言ってみたら、面白そうだけど私がやっても枯らしちゃうかもしれないから、としゅんとしていた


14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/18(火) 23:06:52.73 ID:QRy73B5z0
だったら……

「うちの苺がもう少しで採れそうなんですけど、ジャムでも作っておすそ分けしましょうか?」

「尭深ジャム作れるの!?」

うわぁ、すごくきらきらした目で見られている

作れるけど得意というわけではないし、弘世先輩がよく作ってくるお菓子みたいな、そんな美味しいのと比べられちゃうと恥ずかしい……


「そんなことない……料理には詳しくないけど、多分こういうのって作った人の心が反映されるものだと思う

 菫には菫のお菓子しか作れないし、尭深には尭深にしか作れない味がある

 きっと、植物の事をよく想っている尭深の作るジャムだからすごくおいしい、と、思う」


プレッシャーをかけられてしまった……それに何だか照れくさいことを言われた気がする

……仕方ない、うっかり言ってしまったのが悪いんだし、頑張ってみよう


15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/18(火) 23:11:56.76 ID:QRy73B5z0
「探したぞ!」

なんて、突然声がした方を振り向くと弘世先輩が

「あれ、菫、何でここに?」

「何でじゃないよ!部の事で話があると言っておいただろう!」

「……あ」

どうやら約束があったらしい

結局、弘世先輩と一緒に居るんだなぁこの人は

二人は付き合ってるなんて噂もあるけれど、実のところはどうなんだろう?

私も、少し抜けてる宮永先輩には弘世先輩がお似合いだと思うんだけど、弘世先輩に聞いてみたら恥ずかしがって否定しそう


17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/18(火) 23:18:00.53 ID:QRy73B5z0
「あ、尭深も一緒だったか……悪いが照借りて行くぞ」

「じゃあ、また部活で」

と言って、宮永先輩は引きずられるように行ってしまった

距離が離れた頃、せっかく先輩らしい所を見せようと思ってたのに、なんて宮永先輩が愚痴った声が聞こえた気がする

なるほど、やけに張り切ってたのはそのせいだったんだ



少しの時間だったけど、宮永先輩との距離をちょっとだけ縮められた……かもしれない

今日の部活では、私から先輩に対局をお願いしてみようかな


25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/18(火) 23:39:37.19 ID:QRy73B5z0
放課後になって部活の時間

「テルー!この前ねー……」

「おまえいつも照にくっつきすぎだって」

「えーいいじゃんうっさいなー」

「このお菓子どこのメーカー?私も買いに行きたい……」

宮永先輩はいつものように弘世先輩と淡ちゃんに囲まれている

もう少し宮永先輩と近づきたいと思ってたのに、やっぱり難しいなぁ

私も淡ちゃんみたいな性格だったら、あの中に入れたのに


27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/18(火) 23:47:14.85 ID:QRy73B5z0
「お茶、おいしいなぁ……」

……いやいやいや、お茶に浸ってる場合じゃないよ、このままじゃいつもどおり口をきかずに終わっちゃうよ!

どうにかしたい、うーん……

「どうしたんだ、そんなに難しい顔して」

「ひゃっ!?」

と、突然声を掛けられてびっくりしちゃった

「せ、誠子ちゃん……」

「先輩たちがどうしたのか?」

「いや、なんでも……」

……いや、違うよ私!このままじゃ駄目だって思ったばかりじゃない!

とりあえず、一番話しやすい誠子ちゃんに相談してみようかな


29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/18(火) 23:58:39.27 ID:QRy73B5z0
「なるほど……よし、私がその恋のお悩みに一役買ってやろう!」

まかせろ☆なんて、自信たっぷりな言葉を貰ったけど不安が……

ていうか恋じゃないし

「淡に、先輩たちも、私たちにもお菓子分けてくださいよー!
 尭深もさっきから食べたくてうずうずしてるんですよ!」

「ふぇっ?」

なんて、私の手を引っ張って先輩たちの方に

うわ、なんか恥ずかしいお菓子なんていらないから帰りたいっ

「えー、たかみ先輩、それならそうと早く言ってくださいよ!ほとんど私とテルで食べちゃった」

「い、いや、それならそうでいいの……」


32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 00:12:40.55 ID:aCpfDNkI0
「…………はい、尭深、あーん」

「ほひゃっ!?」

何を思ったか、宮永先輩がその手に持っていたお菓子を私に向けてきた

え、えっと……これはどうするべきなの、食べても良いの?むしろ食べない方が失礼にあたるのかな

「……あれ、いらなかった?」

「あ……」

残念そうに手を引く先輩に、やっぱり食べれば良かったと後悔した

「えっと、ごめんなさい……」

「え、いや、こっちこそ」

うわ、謝ったせいで更に気まずい空気になってしまったとあたふたしていると、後輩を困らすな、という弘世先輩の突込みに救われた

図書館ではまだ話題があったからよかったけど、もしここで二人きりになんかなったら間を持たせる自信が無い


35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 00:25:31.95 ID:aCpfDNkI0
「じゃあ、これは?」

なんてとりだしたのは新しいお菓子の箱

さすが先輩、予備のお菓子もばっちりなんだなぁ……なんて思っていたらまだまだ出てくる!?

どこにそんなに入れてるんだろう、鞄の中を見てみたい……

それにしても、いつもお菓子を食べてる所を見るけど、太らないのは羨ましいなぁ

「どれが良い?」

「えっと、じゃあそれを頂けますか」

と、クッキーを1枚貰った

うん、おいしい


38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 00:41:09.31 ID:aCpfDNkI0
「弘世先輩」

と、誠子ちゃんが弘世先輩を部屋の外に連れて行った

あれ、何だか言いようのない不安が……

二人で何か話していると思ったら、淡もこっちに来いと弘世先輩が淡ちゃんまで連れて行って……

……あれ、もしかしてこの部屋に宮永先輩と二人きり?

ちょっと待って無理無理無理!!

と思っていたら、携帯にメールが……

『頑張れよ! 誠子
 お前が照の事をそんな風に思っていたとはな、がんばれ 弘世
 もっと早く言ってくれれば協力したのにー!応援してるからね! 淡』

何を言ってるんですか三人とも!?

誤解してる!確かに私は宮永先輩と近づきたいと思ったけどそういうのじゃなくって……!

っていうか弘世先輩って宮永先輩と付き合ってたんじゃ……?


41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 00:50:56.52 ID:aCpfDNkI0
「こっちも食べる?」

いつの間にか先輩は2箱目のお菓子も開けていた

とりあえず頂いておこう……

「……」

「……」

「……」

「……」

どうしよう、やっぱり間がもたない!

互いに無言でお菓子をほおばって、ポリポリというお菓子の音だけが部屋に響く

宮永先輩の方を盗み見ると、先輩も所在なさそう

ごめんなさい、私のせいでこんなことに


43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 01:05:48.25 ID:aCpfDNkI0
「……ん」

先輩の携帯が短く鳴った

ポケットから取り出し、画面を見て首をかしげている

メールが届いたようだけど、何が書いてあったのだろう

数秒、困ったような顔をした後に名前を呼ばれた

何ですか、と返事をすると

「ちょっと失礼」

と、聞こえたと思うや否や先輩が視界から消えた

「え……」

どこに行った……と思うまでも無くすぐに見つかった、いや、全身で先輩を感じていた


先輩は……わたしを抱きしめている


46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 01:16:08.59 ID:aCpfDNkI0
え、なんで、こんな……

と、頭を巡らせるとすぐに答えにたどり着いた

さっきのメールだ、恐らく淡ちゃん辺りが面白がってそんな指示をしたのだと思う

どうしよう、淡ちゃんがなんて書いたのかはわからないけど、もしかしたら私が宮永先輩を好きだと伝えたかもしれない

違う、好きだけど、そうじゃない

「え、と、尭深……?」

その声に我に返った

どうしよう、なんていえば良いんだろう、言葉が出てこない

でも何か言わないと、本当に宮永先輩に恋心を持っていると誤解させてしまう

「その……ご、ごめんなさい!」

「はぇっ?」

あれ、この言葉で合ってる?


49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 01:30:05.19 ID:aCpfDNkI0
頭にはてなを浮かべる先輩をあとにして、部屋から飛び出した

廊下にはびっくりした顔の三人の姿が

そこからずっと覗いていたんですね、恥ずかしいよぅ……

そんな三人の制止する声も聞かずにそのまま走って帰った

どうしよう、部活、初めてさぼっちゃった


51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 01:36:21.29 ID:aCpfDNkI0
次の日も、何となく顔を出しにくくて授業が終わるとそのまま家に

今日は無断欠席しちゃった……私ってこんなに悪い子だったっけ

図書館にすら先輩と会うかもしれないのが怖くて行けないし、休み時間なんかに見かけてもつい隠れてしまう

部活のメンバーからメールが来ても返せていない

これじゃあ本当に宮永先輩を意識してるみたいじゃない……

「みや、な、がせん、ぱ……」

なんとなく、名前をつぶやいてみると、あれ?

どこかに違和感が……?


53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 01:43:19.31 ID:aCpfDNkI0
頬に手を当ててみると熱くなっている

あれ?あれ?

何でこんなにどきどきして……

名前を呟いたのにつられてか、先輩の顔が次々と脳裏に浮かんできた

図書館で話をした先輩、お菓子を差し出してきた先輩、抱きついてきた先輩……

それとともに胸の鼓動も加速して行く

だめ……違う……先輩とはそういうのじゃないんだから……


55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 01:53:54.99 ID:aCpfDNkI0
数日間、勉強にも何も身が入らなかった

部活も一週間近く行っていない

さすがにまずいなぁ、レギュラー外されちゃうかも……


ふらふらっと、部室……の、近くに行ってみた

まだ中に入っていく勇気はない

今日は大部屋を使っているようで、窓の向こうには私以外のレギュラーメンバーと、二軍以下の子たちも大勢いる

宮永先輩が卓に着いているのが見えた

こんなことをしている私と違って、先輩はいつも通り麻雀を打って、いつも通り勝っているようだった


56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 02:03:22.56 ID:aCpfDNkI0
そして、いつも通り淡ちゃんが先輩に抱きついて行って弘世先輩がそれをたしなめる

もし、仮に……かりにだよ?

先輩と付き合ったとしたら、私はどこに行く?

宮永先輩と一緒になって淡ちゃんと弘世先輩に囲まれるの?

それとも、二人とも遠慮して宮永先輩と二人きりにされるの?

わからないし、想像もできない

それに、宮永先輩なんて学年も学校も問わず人気があって、雑誌やテレビにも沢山出てて

私がそんな人の横に立てる?


58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 02:17:30.32 ID:aCpfDNkI0
いや……そうじゃない

怖いとか引け目を感じるから付き合えないとかじゃなくって、そもそもが違う

先輩に抱きつかれて混乱してたけど、数日経って頭が冷えて少しわかってきた



わたしは先輩が好き

だけど、恋人になりたいとかじゃない

麻雀をしていると少し怖くて近づきにくいけど、それが終わると淡ちゃんや弘世先輩と楽しそうにしている、そんな姿を見るのが好きなんだ

最初からわかっていたことなのに、何でこんなに遠回りをしてたんだろう


60 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 02:23:20.00 ID:aCpfDNkI0
家の庭で、育てていた苺に目をやった

うん、食べごろ

約束していた苺のジャム、それを作って明日持って行こう

長いこと休んじゃったお詫びに他の人の分も、せめて虎姫の人たちの分くらい作りたいけど苺足りるかなぁ……


先輩に、料理は作った人の心が反映されると言われた

ならば私の心を一緒に煮込もう

ごめんなさいと、これからも宜しくお願いしますと

大好きです、と……


62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 02:36:35.74 ID:aCpfDNkI0
「尭深!?」

「たかみ先輩!?」

部室に行ったらすごく驚かれてしまった

当然か、一週間顔を出していない上にメールも全部無視してしまっていた

「えっと、その……すみませんでした」

うぅ、一週間も顔を出さないと気まずい……どうしよう、まだ私はこの虎姫に居られるのかな

「たかみいぃぃぃぃぃいいいぃぃぃぃぃ」

はうっ、突然抱きつかれたと思ってびっくりしたら、今回は誠子ちゃんだった

「ごめん、ごめんな、あんなことになって、もっと尭深の気持ちを考えていればっ……ぐすっ」

「な、泣かないで
 私のために頑張ってくれたんだもん……私の方がせっかくの好意を無駄にしちゃってごめんなさい」

ちょっと誠子ちゃんのあれはやりすぎだと引いたりした気もするけど、でも好意が嬉しかったのは本当だ


64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 02:47:49.57 ID:aCpfDNkI0
「私も、ごめんな」

「ごめんなさーい」

と、弘世先輩と淡ちゃん

「あの、ごめん……」

宮永先輩まで

皆に謝らせてしまって、こっちの方が申し訳なく感じるのと同時に、まだここに居て良いんだという安堵があった

「私こそ、ごめんなさい
 一週間も無断欠席して、すみませんでした」

と、もう一度頭を下げるが、相変わらず全員が困り顔でこちらを見ている

この勢いで、言ってしまおう、この居心地の悪い空気を終わらせてしまおう

私の大好きな空間を取り戻すために


65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 02:55:29.35 ID:aCpfDNkI0
「私は、宮永先輩が好きです」

普段は無口な私がはっきりとそんなことを口走るものだから、みんなの困った顔が一気に驚いた表情に変わった

「え……っと、ありがとう、でも、私……」

もう少し呆気にとられていてくれるかと思ったら意外と早い反応

その先を言われる前にこっちが話さないと

「でも、それと同じくらいに弘世先輩や淡ちゃん、誠子ちゃんが好きなんです

 だから、これからもいつもどおりに、仲良くしていただけますか?」


69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 03:11:17.03 ID:aCpfDNkI0
「お前は、それで良いのか?」

なんて弘世先輩に言われたけど、私がこれ以上に望んでいるものはない

「はい

 ……あの、うちで育ててる苺でジャムを作ったので、よかったら皆さんに」

「あ、この前言ってた……」

先輩、約束覚えててくれたんだ

「それから、あの……慣れてないので美味しいかわからないんですけど、ビスケットも焼いたのでよかったら……」

この場で食べてもらいたくて、慣れないお菓子作りにも挑戦してみた

一応味見はしたから食べられないことはないはずだけど、皆さんの口に合うかはわからないし見た目も……うぅ

先輩たちが用意したお菓子の横にちょこんと並べるとそこからお菓子パーティが始まった

あ、お茶淹れてこよう


70 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 03:23:21.00 ID:aCpfDNkI0
お茶を飲みながら周囲の反応をうかがってみる

とりあえず、まずそうな顔をしている人はいなさそうかな

淡ちゃんは、美味しいよー!と次から次へビスケットに手を伸ばしてる……え、ちょっと、そう言ってくれるのは嬉しいけどそんなに枚数作ってないんだけど!?

弘世先輩や誠子ちゃんも、美味しいと言ってくれている

宮永先輩は……

なんてじーっと見ていたら、あ、目があった

「うん、おいしいよ、尭深

 尭深の気持ち、ちゃんと受け取った」

と、にこっと笑って見せてくれた

相変わらず表情はあまり動いてないけど、弘世先輩とも淡ちゃんに向ける顔とも違う、優しい笑顔

そんな顔に、少しだけドキッとした


72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 03:40:02.06 ID:aCpfDNkI0
そんなこんなで、しばらく空気がぎこちなくなるかな……

と思ったら意外とそんな事も無く、以前と同じ日々が戻ってきた

お菓子をほおばる宮永先輩に抱きつく淡ちゃん、そしてそれをたしなめる弘世先輩

そしてそれを少し離れた所で眺めている誠子ちゃんと私

……いや、少しだけその距離も近くなったかもしれない

以前だったらただその場に流されるままに座っていたこの席も、今ではしっかりと自分で選んだ私の居場所という感じがする

先輩たちに話しかけることも以前より抵抗が無くなった

今でも宮永先輩を見るたびにドキドキしてしまう事があるけれど、でも、これでいいのだ

この感情が恋と言えるのか、それともただの先輩に対する尊敬から来ているのかはわからないけど

私はいま幸せなのだから


73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 03:40:56.21 ID:aCpfDNkI0
か、カン!
……で、いいよね?
眠くてちゃんとまとまってなかったら済まんす


75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 03:43:06.55 ID:xCW7fMvy0


76 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 03:55:30.21 ID:dssx19kE0
乙!!


77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/19(水) 03:57:48.00 ID:Wq61PgS50
乙乙





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