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紬「梓ちゃん、私の事をえっちな目で見るのはやめて!」

19:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 16:30:51.22 ID:Gy38hoiZ0
梓「ムギ先輩は異常ですよ」

紬「そ、そんなこと言っても無駄よ」

梓「私はレズビアンじゃありません。歴とした異性愛者です」

紬「く、口ではなんとでも言えるわ」

梓「はぁ、どうして私がムギ先輩を性的な目で見なきゃいけなんですか?」

紬「あ、梓ちゃんが私とエッチなことをしたいからよ……」

梓「……付き合っていられませんね。帰らせていただきます」

ガチャ

紬「あの冷やかな眼差しだって、本当は愛情の裏返しなのよ……きっとそうだわ」




22:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 16:44:38.88 ID:Gy38hoiZ0
憂「梓ちゃん」

梓「……また?」

憂「うん」

純「あはは、モテる女はツライねぇ。しかも上級生に」

梓「純、冗談はやめてくれる? 全然嬉しくないから」

純「初夜は報告してよね」

梓「純、いい加減にしないと怒るよ?」

純「あはははははははははは!」

ガチャ

紬「梓ちゃん!」

梓「またですか、ムギ先輩……」

紬「今日もお弁当を作ってきたわ!」

梓「私は自分のがありますので」

紬「またまたぁ、本当は嬉しいくせにぃ! 素直になれないだけよねっ!」

梓「……平和な人ですね、ムギ先輩は」


25:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 16:55:08.97 ID:Gy38hoiZ0
―――
――


憂「……すごいお弁当だねぇ」

純「……作り手の偏執的な愛情を感じるってかさぁ」

梓「あの、二人とも? すごく食べ辛いんだけど?」

憂「あの黒いプチプチってキャビアだよね?」

純「松葉ガニも入ってるね。弁当のオカズとしてはやりすぎだわ」

梓「ムギ先輩の家はお金持ちだから……」

純「よかったじゃん、梓。これっていわゆる玉の輿?」

梓「全然嬉しくないから……」


26:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 17:03:59.76 ID:Gy38hoiZ0
~部室~

紬「!!」

律「お、おい。どうしたんだよムギ?」

澪「またか……」

紬「こ、これを見てっ!! 私のキーボードの上に置かれていたのっ!!」

唯「手紙?」

紬「き、きっと梓ちゃんからのラブレターよ……絶対にそうだわ」ブツブツ

唯「開けるね、ムギちゃん」

澪「唯、人の手紙を勝手に開封するものじゃ――」

律「――止めなくていいと思うぞ。どうせ自作自演だし」


29:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 17:20:50.05 ID:Gy38hoiZ0
―――
――


~愛しのムギ先輩へ~

ムギ先輩のお腹に手を這わせたいです。
ムギ先輩のお尻を揉みほぐしたいです。

ムギ先輩の内腿を舌で舐め回したいです。
ムギ先輩の首筋もペロペロしたいです。

でも、それらは叶わない願望です。
なぜなら、ムギ先輩は私を愛を頑なに拒否するからです。

しかし、私はムギ先輩を諦めません。
いつかきっと、私のモノにして見せます。

必ず――

~哀れな後輩より~


――
―――


32:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 17:27:12.16 ID:Gy38hoiZ0
律「全部ムギの願望じゃねぇかよ」

澪「……」

唯「どういうことなの?」

律「ムギは梓に内腿や首筋をペロペロされたいってことだ」

唯「そんなの汚いよ」

律「まったくだ」

澪「……ムギ、哀れなヤツ」

ガチャ

梓「すいません、遅れました――」

紬「!?」

梓「な、なんですかムギ先輩? ハトが豆鉄砲を食らったような顔して」

紬「――梓ちゃん、何度も言うようだけど私は無理だから」

梓「?」

紬「梓ちゃんの倒錯した愛に、応えられそうにないから――」

梓「倒錯してるのはどっちですか……」


34:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 17:38:33.32 ID:Gy38hoiZ0
紬「御免なさい……ううっ」

梓「ム、ムギ先輩?」

紬「しくしく」

唯「ああ、あずにゃんがムギちゃんを泣かせた~」

律「はは、いけねーんだぁ」

律「……お二人は少し黙って下さいよ」

紬「本当に御免なさい、梓ちゃん――」

ガチャ

梓「ああ、ムギ先輩っ! 待って下さいよっ!」

澪「行ってしまったな」

律「梓、部室は舞台じゃないんだぜ? 下手な愁嘆場は他所でやれよなぁ」

梓「人ごとだと思って……」


35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 17:48:04.21 ID:Gy38hoiZ0
律「梓、お前もうムギと付き合っちゃえよ」

梓「無理です」

澪「私からもお願いしたい」

梓「……どうしてですか?」

澪「ムギがあの調子じゃ部活動がままならないじゃないか」

律「近頃、練習も全然できてねぇし」

唯「りっちゃんはその前からもやる気ないでしょ」

律「うるせーよ、唯」

澪「これは放課後ティータイムの危機なんだよ。存続が危ぶまれている」

梓「……澪先輩が私の立場ならどうします?」

澪「ん?」

梓「ムギ先輩から異様に執着されたらです。お尻を撫でて欲しいなんて頼まれたら」

澪「冗談きついな」

律「はは、勘弁してくれよ。レズでもあるまいし、考えただけで気色悪いわ」

梓「……律先輩には聞いていません」


37:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 17:56:58.08 ID:Gy38hoiZ0
梓「とにかく、私はムギ先輩を探して来ます」

唯「あずにゃん、どこいるのかわかるの?」

梓「大体見当がつきますので」

律「さすがだねぇ。赤い糸で結ばれた二人はよぉ」

梓「……」

澪「梓、前向きに検討してみてくれ。全てはお前の双肩にかかっている」

梓「変なプレッシャーをかけないで下さい」

唯「あずにゃん、ファイト一発だよ!」

梓「……唯先輩、全然聞いていませんね。失礼しました」

ガチャ

澪「元を辿れば全部律のせいだぞ」

律「ん?」

澪「お前がムギを振ったから、こんな面倒なことになったんだ」

律「ああ、そんなこともあったような……」


38:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 18:04:16.79 ID:Of+gvch80
あ?


40:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 18:09:54.88 ID:Gy38hoiZ0
澪「とぼけるな」

律「おいおい……」

澪「お前に振られてからのムギは酷いものだったぞ。なぁ唯?」

唯「うんうん、メールが一日に何十通も来てねぇ。正直返信するのが億劫だったよ」

澪「ああ、私たちにはどうすることもできないのにな」

律「人を完全に悪人扱いしやがって……」

澪「――その点、梓は実に献身的だったよ。ムギへの励ましも人一倍だった」

唯「だよねぇ、二人で遊びに行ったりもしたって言ってた」

澪「梓は根が真面目だからな。バンドの調和を保とうと努力したんだろう」

唯「でも、それが――」

澪「――仇になったんだな」

律「……」

澪「結果として、ムギは律から梓に入れ替えたというわけだ」


42:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 18:23:51.77 ID:Gy38hoiZ0
律「で、でもさぁ。お前らだってムギから『好き!』なんて言われたら気色悪いだろ」

澪「論点のすり替えだな。見苦しいぞ」

唯「反省しなきゃだよ、りっちゃん」

律「ちっ!」

澪「私としては部が円滑に機能してくれさえすればそれでいい」

唯「ムギちゃんがいないとお菓子が食べられないし! お茶もだよ!」

澪「……いつの間にやらティータイムも必要不可欠な要素になったからな」

律「ったく! 私だって自分なりに色々考えてだなぁ!」

澪「……ふん、部長のくせに部員のメンタルケアすらできないくせに」

律「お前は部長に求めるものが多すぎるぞ。無理難題を課せられても困る」

唯「はぁ、どうでもいいけど早くケーキ食べたいなぁ」

澪「ケーキならそこにあるぞ」

唯「わぁ! お先に食べちゃおっと!」

律「そーいや腹減ったな。私も食おっかな」

澪「……ムギが帰って来るまで置いておけよ」


45:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 18:39:21.98 ID:Gy38hoiZ0
―――
――


梓「ムギ先輩」

紬「……うふふ、やっぱり梓ちゃんは全てをお見通しなのね」

梓「早く帰りましょう。こんな場所にいても仕方ありません」

紬「こんな場所って?」

梓「校舎裏です。校内でも有数の辺鄙な場所じゃないですか」

紬「……本当は帰りたくないのよね?」

梓「?」

紬「……わ、私と二人きりになりたいのよね?」

梓「ムギ先輩……」

紬「い、今だったらキ、キスくらいならさせてあげてもいいわよ? 思ってもない幸運でしょ?」

梓「遠慮します」

紬「ど、どうして?」

梓「私にとってのムギ先輩はバンドの仲間に過ぎません。それ以上でも以下でもなく」


47:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 18:48:26.76 ID:Gy38hoiZ0
紬「梓ちゃん……」

梓「邪な幻想を抱くなんて、万が一にもあり得ません」

紬「で、でも……。手紙にはいつも……」

梓「あの手紙はムギ先輩の自作自演です」

紬「……」

梓「ムギ先輩、疲れませんか? いつまでもこんなことを続けるのは?」

紬「そ、そんな……」

梓「律先輩とのことは同情します。あれが切欠でムギ先輩は変になってしまったのですから」

紬「――っ!!」

梓「私で力になれるなら協力しますよ。でも、ムギ先輩の好意に応えるのは不可能です」

紬「りっちゃんなんてどうでもいいわっ!!」

梓「!?」

紬「私が好きなのは梓ちゃんだけよっ!! 以前から変わりなくっ!!」

梓「ムギ先輩……」

紬「ねぇ、梓ちゃん覚えてる? 私たち、一緒に遊園地に行ったわよね?」


48:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 18:58:51.46 ID:Gy38hoiZ0
梓「ええ、覚えていますよ。私から誘ったのですから」

紬「本当に嬉しかったわ……」

梓「小さな遊園地ですけどね。アトラクションの数も知れています」

紬「でも、私、ああいう遊園地に行くの初めてだったから……」

梓「……そうですか。それはよかったです」

紬「梓ちゃん、本当は私だって気付いているわ。こんなことは自己満足に過ぎないって」

梓「……」

紬「みんなにだって迷惑をかけているし……」

梓「それなら……」

紬「――だから、はっきりと言わせてもらうわ」

梓「?」

紬「梓ちゃん、私の恋人になって」

梓「……」

紬「今なら全てを受け入れるわ。嘘偽りのない本心で答えて?」


51:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 19:08:26.25 ID:Gy38hoiZ0
梓「――ごめんなさい」

紬「……」

梓「私はムギ先輩とは付き合えません」

紬「……」

梓「ムギ先輩の気持ちは嬉しいです。人から好意を寄せられるのは、誰だって嬉しいはずです」

紬「……そう」

梓「でも、私は――」

スタスタ

紬「……うふふ、ごめんなさいね、梓ちゃん」

梓「ムギ先輩、どこに行くつもりですか?」

紬「……私、なんだか具合が悪くなっちゃった。先に帰るわね」

梓「ええ!?」

紬「――さよなら」

梓「ムギ先輩っ! 部室に荷物を置いたままですよっ!?」

紬「……さよなら」


54:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 19:17:47.79 ID:Gy38hoiZ0
それから一ヶ月が経過した。
つまり、紬が学校を欠席するようになって、一ヶ月の時が流れたのだ。

学校側には体調不良との連絡がされており、疑問を挟む人間は少なかった。
良家育ちで成績優秀な紬の非行を疑う教師は皆無と言える。

ことの真相は、軽音部のメンバーのみが知っている。
とりわけ当事者の梓は、紬の突然の長期欠席に心を痛めていた。

他のメンバーも、この時ばかりは紬の心体を心から案じていた――


56:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 19:22:17.90 ID:D2VZBbsk0
どこへ向かうんだこの話…


58:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 19:26:25.16 ID:Gy38hoiZ0
律「ふぅ……」

澪「あれから一ヶ月か」

唯「……ムギちゃん」

梓「……」

律「そろそろ、どうにかしないといけないよな?」

澪「ああ、もちろんだ」

唯「私、ムギちゃんのお家にお見舞いに行こうかな?」

律「わ、私も――」

澪「逆効果だ」

律「どーしてだよ?」

澪「……ムギにもプライドがある。律、お前が今さら慰めたところで惨めな気持ちになるだけだよ」

律「それじゃどうしろって言うんだよ!!」

ガタン

唯「ひぃ!!」

律「私は確かにムギを振ったさ!! ああ、振ったとも!! でもな、人を振るってそんなに罪なことかよ!!」


60:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 19:41:35.11 ID:Gy38hoiZ0
澪「……いいや、無理して付き合っても相手の気分を害するだけだろう」

律「だったら!!」

澪「一度、私と梓の二人でムギの家を訪問してみようと思うんだ」

梓「!?」

唯「わ、私も!」

澪「唯はいい。あまり人数を増やすのもよくない」

唯「そ、そっか」

律「……結局、私は手を拱いて見てるだけってことかよ」

澪「梓は今回の件の重要人物だ。梓がいないことには何も始まらない」

律「で、お前は?」

澪「私は第三者だ。一応、なんらかの役には立つつもりでいるよ」

律「……私よりは適任だって言いたいのか?」

澪「そう、律はとりあえず裏方に徹してくれ。今回ばかりはな」


62:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 19:53:31.79 ID:Gy38hoiZ0
澪「それでいいか、梓?」

梓「……はい」

澪「よし、そうと決まれば話は早い。明日は土曜、早速訪ねることにしよう」

律「……澪、頼むよ」

梓「皆さん本当にすいません。全て私のせいです……」

律「お、お前が気に病む必要はねぇよ。私にだって非はあるし」

梓「私がムギ先輩を蔑ろにしたから……」

律「私だってそうだよ……。元はと言えば全部私が……」

澪「おいおい、責任の被り合いは止せ。そんなことは何ら生産性がない。無意味だ」

唯「澪ちゃん」

澪「責任は私にだってあるよ。私は部活動のことばかりを考えて、ムギの気持ちを汲むことを失念していた」

律「……」

澪「梓、明日は大丈夫だよな?」

梓「は、はい! もちろんです!」

澪「――これで全てが丸く収まればいいがな」


63:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 20:03:54.89 ID:Gy38hoiZ0
―――
――


ピンポーン

斎藤『はい?』

澪「すいません、ムギ――紬さんの友人なのですが」

斎藤『お名前を伺ってもよろしいでしょうか?』

澪「私は秋山澪です」

梓「……中野梓です」

斎藤『少々お待ち下さい――』

澪「やはり豪邸だな。執事さんも丁寧で柔和な印象を受けたよ」

梓「ええ」

澪「ムギは在宅のようだな。特に入院などをしている様子は感じられなかった」

梓「……何よりですね」

ガチャ

斎藤「お待たせ致しました。どうぞお上がり下さい」


66:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 20:16:19.99 ID:Gy38hoiZ0
カチャ

斎藤「こちらの紅茶をお召し上がり下さい」

梓「あ、ありがとうございます」

澪「……紬さんは?」

斎藤「……紬お嬢様は、あなたたちにお会いしたくないと仰せです」

澪「え?」

斎藤「……この一ヶ月、紬お嬢様は喪に付したように元気をなくされております」

梓「そ、そんな……」

斎藤「学校で何があったかは存じませんが、あれほど気の沈んだ紬お嬢様を見るのは初めてのことです」

澪「……」

斎藤「ご学友にすら会いたくないと仰るのです。やはり余程のことがあったのでしょう」

梓「……っ」

斎藤「私は執事の身の上、僭越なことはできません。しかし、紬お嬢様を敬う気持ちは誇れるものだと自負しています」

澪「そ、そうですか……」

斎藤「……忸怩たる思いですが、紬お嬢様から御心を開いてくれないことには、何ら打開策が見い出せません」


67:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 20:23:11.36 ID:f0qwXQk20
むぎゅう・・・


69:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 20:26:29.55 ID:Gy38hoiZ0
―――
――


澪「ごちそうさまでした」

梓「紅茶、とても美味しかったです」

斎藤「……誠に申し訳ありませんが、今日のところはお引き取り願います」

澪「……はい」

斎藤「後日、改めて訪問された際には、紬お嬢様のお気持ちに変化があるかもしれません」

澪「そう願います」

斎藤「誠に申し訳ありません……」

スッ

澪「これは授業ノートの写しです。よかったら紬さんに――」

斎藤「……紬お嬢様は本当にいいご学友をお持ちのようです」

澪「いいえ、私にはこれくらいのことしかできませんから」

斎藤「……」


71:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 20:34:07.23 ID:Gy38hoiZ0
―――
――


コンコンコン

紬「……入っていいわよ」

ガチャ

斎藤「失礼します。紅茶をお持ちしました」

紬「……良い香りね」

斎藤「紬お嬢様、夕飯の支度が整いました。これから――」

紬「……今はいいわ。ごめんね」

斎藤「で、でしたらこちらにお持ちしましょうか?その旨、家政婦に伝えておきますので」

紬「……食欲がないの」

斎藤「紬お嬢様……」

紬「……斎藤、今は一人になりたいの」

斎藤「こ、こちらのノートを御覧ください。先程、紬お嬢様のご学友がお持ちになったものです」

紬「!?」


72:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 20:42:07.01 ID:Gy38hoiZ0
斎藤「秋山澪さまからです。同じクラスと仰っていましたが」

紬「……そこのテーブルの上に置いといてくれる?」

斎藤「かしこまりました」

スッ

斎藤「それでは失礼しました。私はこれにて――」

紬「ごめんね、斎藤……」

斎藤「……失礼します」

ガチャ

紬「……」

ペラッ

紬「澪ちゃんの字だわ。すごく丁寧ね」

紬「授業、結構進んでいるみたい。このままじゃ置いてけぼりだわ……」

紬「私、何やってるんだろう……」

パタン

紬「私、どうすればいいのかな? ねぇ、梓ちゃん――」


74:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 20:51:46.08 ID:Gy38hoiZ0
―――
――


澪「しかし残念だな。ムギの顔すら確認できなかった」

梓「はい……」

澪「後日、改めて訪問しよう。時間が解決してくれることを祈るしかない」

梓「……私、何やってるんですかね?」

澪「梓?」

梓「あれから色々考えたんです。ない頭を絞って――」

澪「……」

梓「私、こんなに人のことで頭をいっぱいにするのは初めてです」

澪「お前のせいじゃない」

梓「近頃の私、ムギ先輩のことばかり考えています。四六時中ずっと――」

澪「梓?」

梓「澪先輩、そろそろ電車が来ますよ? 早くプラットホームに向かった方がいいです」

澪「お前、まさか――」


77:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 21:01:11.01 ID:Gy38hoiZ0
梓「ええ、そのまさかです」

澪「こ、この時間帯はまだ……」

梓「陽が沈むまで待ちます」

澪「ほ、本気か?」

梓「今帰ったら絶対に後悔しますから」

澪「……お前がその気なら私は止めないよ」

梓「ええ、そうしてください」

澪「梓、頼りにならない先輩でごめんな……」

梓「いいえ、澪先輩からはたくさんのものを受け取っていますから」

澪「……」

梓「放課後ティータイムは終わらせませんよ、絶対に」

澪「……梓」

梓「さぁ、早く行って下さい。電車に乗り遅れちゃいますから」

澪「ああ」

ガタンゴトン


80:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 21:12:55.31 ID:Gy38hoiZ0
―――
――


梓(玄関から入っても元の黙阿弥だよね)

梓「よし、それならこの塀から――よっと!」

ガシ

梓「いたたっ! お腹挟んだ!」

ガシガシ

梓「……ふぅ」

梓(さて、なんとか登れた。それにしても高いなぁ)

梓(頭から落ちたら死んじゃう高さだ。これは気を付けないと)

梓(……これってよく考えたら不法侵入? 見つかったら即補導?)

梓(いや、この際気にしていられないよ。猪突猛進、律先輩の精神でいこう)

梓(あの木に飛び移ったら降りられそうかな――よしっ!)

梓「やぁ!」

スタッ


82:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 21:21:05.40 ID:Gy38hoiZ0
スルスル

梓(よし、侵入成功!)

梓(……ムギ先輩の部屋はどこだろう?)

梓(ああ、ダメだ。あまりに無鉄砲すぎたかなぁ――)

犬「ワンワンワンワン!!」

梓「ひゃああああ!!」

ガサッ

犬「ガルルルルルル!!」

梓(……お、驚いたぁ。ムギ先輩の家、あんなに大きな犬を飼ってたんだ……)

梓(とりあえず隠れたのはいいけど、このままじゃ動けないよ……)

梓「どうしよう――」

斎藤「これこれ、ジョン。一体どうした?」

梓(斎藤さん!?)

犬「ガルルルルルル!!」


84:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 21:30:58.95 ID:Gy38hoiZ0
斎藤「……何かいるのか?」

犬「ワンワンワンワン!!」

梓(ああ、不味いよ――このままじゃ絶対にバレちゃう!)

梓(な、何とかしないと! 今までの苦労が台無し!)

梓(よ、よし――)

斎藤「あそこの植木の陰か?」

犬「ガルルルルルル!!」

梓「に、にゃ~ご」

斎藤「……なんだ猫か。ジョン、野良猫なんぞに吠えるものじゃないぞ」

犬「クーン……」

斎藤「お前はイギリス王家の愛犬の血を引く、とても高貴な犬なんだからな。それじゃ私は戻るぞ――」

スタスタ

梓(セーフ!!)

梓(さて、早く行こう。このままじゃ命がいくつあっても足りないなぁ……)

スタスタ


92:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 21:44:12.44 ID:Gy38hoiZ0
―――
――


スタスタ

少女「あ」

梓「あ」

ササッ

梓(うわー!! 絶対見つかったよぉ!!)

梓(今さら隠れても遅いって!! 何やってんの私!!)

梓(絶対通報される!! ああ、私の高校生活終わった……)

ヒョイ

少女「あの、失礼ですか――」

梓「!?」

少女「――紬お嬢様のお知り合いの方ですか?」

梓「……え?」

梓(中学生かな? 金髪碧眼――すごく綺麗な子)


96:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 21:54:18.29 ID:Gy38hoiZ0
梓「あ、あの……私が変質者に見えないの?」

少女「ええ、とてもじゃありませんけど」

梓「そ、そっか……。よかった……」

少女「?」

梓「わ、私はムギ――紬さんの部の後輩です。今日は夜分遅くに失礼してます……」

少女「お嬢様ならお部屋にいますよ。お呼びしましょうか?」

梓「え、いいんですか!」

少女「……紬お嬢様、最近すっかり元気をなくされていて」

梓「そ、そのために来たんです!」

少女「ふふ、中にどうぞ」

梓「こ、ここでいいです。私からも聞きたんですけど、あなたは――」

少女「琴吹家で使用人をしております」

梓(使用人――つまりメイドさんかな?)


97:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 22:02:24.68 ID:Gy38hoiZ0
―――
――


コンコンコン

紬「……菫、入っていいわよ」

ガチャ

菫「ど、どうしてわかったのですか?」

紬「菫なら気配でわかるわ」

菫「そ、そうですか。光栄です」

紬「……こんな時間にどうしたの?」

菫「えっと、紬お嬢様のお友達がお見えになっています」

紬「こんな時間にお友達? お名前は?」

菫「――ああっ!! 聞くの忘れてましたっ!!」

紬「……どんな子かしら?」

菫「え、えっと……背が小さくて猫っぽいというか何と言うか……」

紬「!?」


99:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 22:09:28.66 ID:Gy38hoiZ0
―――
――


梓「……ムギ先輩」

紬「……梓ちゃん」

梓「夜分遅くに失礼しています。こんなみっともない形になってしまいましたが」

紬「――菫、しばらく向こうに行ってくれないかしら?」

菫「は、はいっ!」

紬「私が庭にいること、絶対に誰にも話しちゃダメよ?」

菫「は、はい……」

紬「――行って?」

菫「し、失礼しました……」

スタスタ

梓「一ヶ月ぶりの再開ですね」

紬「……ええ」


101:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 22:26:22.84 ID:Gy38hoiZ0
梓「ムギ先輩、私は――」

紬「――どうして来たの?」

梓「え……」

紬「斎藤には絶対に会いたくないって伝えたのに」

梓「だから、こうやって不法侵入を承知で参じたわけですよ」

紬「……梓ちゃんはバカだわ」

梓「この時ばかりはバカだってなりますよ」

紬「……私が絶対に喜ぶことを知っていて」

梓「嬉しいんですか? 私はてっきり怒っているものだと思っていました」

紬「――梓ちゃんの顔を見たら嬉しいに決まっているじゃない」

梓「……」

紬「本当に嬉しすぎて、悲しくなっちゃうくらい――」

梓「――ムギ先輩、学校に行きましょう」

紬「……」

梓「皆さん、本当に心配しています。澪先輩も唯先輩も、律先輩だって……」


103:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 22:35:42.18 ID:Gy38hoiZ0
紬「……そう」

梓「?」

紬「梓ちゃんはどうなの?」

梓「わ、私だって心配ですよ! 当たり前じゃないですか!」

紬「自責の念に駆られて?」

梓「……」

紬「私、メールすら返さなかったものね……」

梓「私、何十通も出しましたから。いや、百通を超えていたと思います」

紬「……りっちゃんに振られた時の私みたいに?」

梓「そうです」

紬「私が梓ちゃんに振られたのに?」

梓「……そうです」

紬「うふふ……」

ゴソゴソ

梓「――ムギ先輩、この手紙を覚えていますか?」


106:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 22:46:31.42 ID:Gy38hoiZ0
紬「……忘れるわけがないじゃない」

梓「ムギ先輩が自分から自分に宛てた手紙ですよ」

紬「ええ、私の妄想の産物ね」

梓「どれもこれも、私の自我が入り込む余地はありません」

紬「だからこそ妄想の産物――梓ちゃんへの愛情が産み出したものよ」

梓「――今も、これらの言葉に偽りはありませんか?」

紬「正直に答えていいの?」

梓「ええ、もちろん。そのために持って来たんです」

紬「ないわ」

梓「……そうですか」

紬「梓ちゃんに触れられたい、梓ちゃんとキスしたい、梓ちゃんと抱き合いたい――」

紬「――全部、私の本心よ」

梓「……しかと心得ました」

紬「うふふ、今日の用事はそれだけかしら?」

梓「いいえ、今日は改めて私の返事を聞いてもらいに来ました」


110:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 23:02:45.92 ID:Gy38hoiZ0
紬「……え?」

梓「――私、やっぱりムギ先輩のことを恋人とは思えません」

紬「……」

梓「私にとってのムギ先輩は――そう、慈愛の人なんです」

紬「……」

梓「憧れの対象でもあります。もちろん律先輩や澪先輩、唯先輩とは違う意味で」

紬「……」

梓「でも、憧れは憧れです。年上の同性に抱くものです。そこに恋愛感情は存在しません」

紬「そう」

梓「……今さらこんなことを言うのもなんですが、ムギ先輩を落胆させるために来たわけじゃありません」

梓「自分なりに本気で考えて出した答えです。本当に偏頭痛に悩まされるほど。実際に頭痛で寝込んだこともあります」

梓「……ムギ先輩を欺くような真似はしたくありません。嘘偽りのない本心を聞いて欲しかったんです」

梓「放課後ティータイムを欺瞞に満ちたバンドにしたくありませんから……」


113:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 23:16:00.38 ID:Gy38hoiZ0
紬「うふふ」

梓「ムギ先輩……」

紬「わかったわ」

梓「す、すいません。生意気なことを言っちゃって……」

紬「いいのよ」

梓「ムギ先輩……」

紬「結局、妄想は妄想のままってことね……」

梓「……」

紬「でも、いつまでも妄想の世界に浸っていられないわ」

梓「……」

紬「私にだって、これから先の未来があるんだもの――」

梓「……はい」

パチン

紬「――菫、ちょっといいかしら?」


117:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 23:26:22.31 ID:Gy38hoiZ0
ササッ

菫「は、はいっ!」

紬「お客様を見送ってあげて?」

菫「か、かしこまりましたっ!」

紬「梓ちゃん、手紙を全て返してもらってもいいかしら?」

梓「わかりました」

スッ

紬「――私の妄想には私自身が決着をつけないとね?」

梓「……どうするつもりですか?」

紬「うふふ、聞かなくてもわかるくせに」

梓「――ムギ先輩、今日は空気が乾燥しています。火の取り扱いには十分注意してくださいね」

紬「ご忠告感謝するわ、梓ちゃん」

菫「それではお客さま出口はこちらになっています。お暗いので足元にお気をつけください」

スタスタ

紬「さよなら、梓ちゃん……」


119:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 23:34:00.23 ID:Gy38hoiZ0
次の週から紬は学校に顔を出すようになった。
長期の休みを感じさせない、柔和で快活な物腰であったという。

もちろん通学する以上、部への参加も当然のように確認できた。
まるで何事も無かったかのように振る舞う紬――余計な気遣いなどかえって野暮に思える。

部員たちは特別扱いすること無く、至って普段通りに接した。
それが紬の望みであることは、誰しもが承知していたのだ。

そして、紬が登校を再開して、一週間の時が経過した――


120:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 23:39:41.13 ID:Gy38hoiZ0
澪「ムギは異常だよ」

紬「そ、そんなこと言っても無駄よ」

澪「私はレズビアンじゃない。歴とした異性愛者だ」

紬「く、口ではなんとでも言えるわ」

澪「はぁ、どうして私がムギを性的な目で見なきゃいけないんだ?」

紬「澪、澪ちゃんが私とエッチなことをしたいからよ……」

澪「……付き合っていられないな。帰らせてもらうぞ」

ガチャ

紬「あの冷やかな眼差しだって、本当は愛情の裏返しなのよ……きっとそうだわ」


121:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 23:40:47.15 ID:t3laHBW9i
ワロタ


122:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 23:41:08.21 ID:feVWzXgS0
ダメだこりゃ


123:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 23:41:25.86 ID:89yxYtwg0
結局そうなるのかよ!


124:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 23:44:18.76 ID:f0qwXQk20
やっぱりムギはムギかwwwwwwww


125:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 23:46:21.55 ID:Gy38hoiZ0
―――
――


紬「ねぇ、澪ちゃん。私とケーキのどちらが食べたい?」

澪「……」

紬「い、今だったら特別に――」

澪「なぁ、お前らも黙って見ていないで何とかしてくれ……」

唯「……はぁ、結局こうなっちゃうの?」

梓「……妄想から抜け出すとか言ってたのに」

律「わ、私は知らねーぞ。絶対に知らねーかんな」

梓「……澪先輩、受難ですね」

唯「り、りっちゃんは幼なじみなんだから何とかしてあげなきゃだよ!」

律「……勘弁してくれよ。私には対処しかねるぜ」

梓「次は唯先輩ですかね? 順番的に考えて」

律「アーメン、唯。お前はいいヤツだった」

唯「そんなぁ!?」


127:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 23:52:34.49 ID:Gy38hoiZ0
澪「なぁムギ、私なんかよりよっぽどいい人が――」

紬「あら、澪ちゃんが私を好きなんでしょ?」

澪「……」

紬「私が休んでる時のノート、あれってつまり愛でしょ?」

澪「……意味がわからないぞ」

紬「またまた、澪ちゃんって素直になれないわねぇ」

澪「はぁ、もうどうにでもしてくれ……」

紬「――あら、なんなのこの手紙!?」

澪「おい……」

紬「『愛しのムギへ』――ですって!! これってラブレターよね」

澪「お前が用意したんじゃないか……」

紬「ああ、なんてことなの!! 私って本当に罪な女!!」

澪「気が狂っとる」

梓「チャンチャンです」

~おしまい~


128:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 23:53:25.74 ID:xokmKnvE0
乙・・・?
笑えねぇ


132:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 23:54:22.35 ID:feVWzXgS0

最後は更生してほしかったなぁ


133:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/30(土) 23:55:37.55 ID:dH7xkSM1O

結局なにも変わらなかった・・・





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